自動車メーカーがカーシェアサービスに注目する理由とは? 〜トヨタと Getaround の提携から考える〜

自動車メーカーがカーシェアサービスに注目する理由とは? 〜トヨタと Getaround の提携から考える〜

今、世界中で「自家用車」のあり方が問われています。

必ずしも「自家用車=常に所有しているもの」とは限らず、新しい車の所有の形が生まれる中で、注目を集めているのがカーシェアリングです。ユーザーだけでなく大手自動車メーカーにとっても今後の生き残りをかけた重要なサービスと考えられており、その結果矢継ぎ早にユニークなサービスが登場しています。

今回紹介するトヨタと米Getaroundの提携もそんなサービスのひとつです。

「自動車が動いていない時間」の有効活用

近年注目されている、1台の車を不特定多数の人が利用するサービス「カーシェアリング」。

日本でもコインパーキングで成長したタイムズが「タイムズカープラス」を日本各地で始めたために急成長している分野です。

カーシェアリングサービスの中には事業者が設定した専用車両だけではなく「登録された個人の車を貸し出す」ものもあります。今年に入ってシェアリングエコノミーというキーワードの注目度が上がっていますが、UBERやAirbnbと同じモデルで「車を貸したい人と借りたい人」をつなげるタイプのサービスがでてきているのです。

個人の車、特に休日や夜間以外は動かすことも無いような車であれば、動いていない時間は単なる「置き物」に過ぎません。

しかし、その「置き物」を貸し出すことでオーナーは収益が受けられ、利用者は自ら車を持つ必要が無くなりますから、自動車を今まで以上に効率よく動かせるサービスと言えます。

世界各国でこうした個人の車のシェアや、「有料で相乗り」させる配車サービスが増えていますが、日本ではまだ東京など首都圏、大都市圏で見られる程度と、少し遅れ気味です。

しかし、世界的には今後こうしたサービス、あるいはサービスに登録する自動車オーナーへ車を供給していかないと販売台数を増やせません。

そう見込んだ自動車メーカーにより、連日新たな提携、新たなサービスが登場しています。

シェアリングエコノミーサービス「Getaround」とは?

出典 : Getaround

シェアリングエコノミーについては既に触れましたが、その1つとして個人が所有している車を貸し出すサービスが「Getaround(ゲットアラウンド)」です。

Getaroundは2009年にカリフォルニア州で創業、2011年より本格的にサービスを開始しました。

当初サンフランシスコやその対岸のオークランド、バークレーで展開しましたが、その後サービスエリアをワシントンDCなど東海岸にも広げています。

基本的にはオーナーが設定したシェア料金の40%を仲介手数料として取得する代わりに、Getaroundがそのプラットフォームと専用デバイスを提供するというもの。

サービスの利用者は自分が今いる場所の近くに止めてある登録車両から好みや金額で車両を選択することができます。

もちろんオーナーは貸出時間以外はその車をマイカーとして利用することができます。

Photo credit: Timo Newton-Syms

トヨタがGetaroundとの提携で目指す「囲い込み」

そのGetaroundとトヨタが、2016年11月1日に提携を発表しました。

既存のレンタカー事業やカーシェアリング事業とは別に、「シェアリングエコノミーへの参入が販売台数に直結する」という見込みを持った投資と言えるでしょう。

これまでGetaroundはコンパクトカーから高級車まで、さらにテスラのEV(電気自動車)などさまざまなメーカーの多彩なクルマを登録してきました。

そこにトヨタが参入することは何を意味するかと言うと、トヨタの金融サービス部門と連携することで、オーナーはGetaroundで得た収益からトヨタ車の購入代金を引き落とすことができるようになります。

トヨタとしては純粋にカーシェアリングビジネスに可能性を見出している部分もあるかもしれませんが、オーナーの「囲い込み」ができるようになるわけですから、自身の市場におけるシェア拡大に大きく貢献すると考えたのでしょう。

具体的にプランが公開されたわけではありませんが、車を購入する時の金利などを有利にして他メーカー車を購入するより有利になる条件をつけるのではないでしょうか。

オーナーにとっても、好条件でトヨタの高ランクモデルを購入できるのであれば大きなメリットとなるはず。

こうした「新時代のマイカーにおける顧客の囲い込み」はどこの自動車メーカーも行いたいところで、実際にトヨタ以外でもGMやテスラが始めています。

GMは「Maven」でワンウェイカーシェアを開始

Photo credit: William Oliver

シェアリングエコノミーでは2016年1月にLyftと提携、新型EV「Bolt」(ボルト。同じGMのボルトでも「Volt」とは別なので注意!)の無人タクシー版を走らせようとしているのが米GMです。

同年1月にはGM独自でGetaroundと同種のサービス「Maven(メイブン)」を開始しており、既にトヨタより何ヶ月も、あるいは年単位で先行していると言えるでしょう。

「近所で利用可能な車を探し、予約・開錠・セキュリティ解除・給油・返却までの全てがスマホで可能」というサービスの要点はGetaroundと同じです。

さらにユーザーのニーズをいち早く掴んだGMのMavenは、2016年9月から「ワンウェイカーシェアリング」を開始しました。つまり、目的地までの乗り捨てカーシェアです。

カーシェアリングサービスを利用したいユーザーから「元の場所に帰ってこなければならない」「目的地について以降の車を使わない時間が無駄で、合理的ではない」という意見があったようで、その改善に乗り出したというわけです。

もちろん、オーナーがマイカーとしても使うシェアリングエコノミーでは乗り捨てられると困るので、カーシェアリング専用車両を使うことになります。

日本では難しいワンウェイカーシェア

こうした「目的地への乗り捨て」は日本ではレンタカー会社が既に行っていますからハードルは低そうなもの。実際に2014年の車庫法改正で可能になりました。

しかし、オリックスレンタカーやタイムズカープラスが参入したワンウェイカーシェアは、「乗り捨てたい場所ほど乗り捨てのためのスペース(駐車場)確保が困難」という壁にぶち当たります。

そのためオリックスは撤退、カーシェアプラスも実証実験に留まっています。

少しでもスペースが少なくて済む超小型モビリティならばいくらか問題が解決されるため、トヨタは自社の「i-ROAD」を使って都心などで実験しました。しかし、肝心の超小型モビリティがいつ規格策定できるかわからないため、本格的に実現できるかわかりません。

日本でカーシェアリングが発展するとすれば、当面は現在の事業者によるカーシェア専用車両か、トヨタが進めるGetaround方式になるのではないでしょうか。

テスラは自社の「Tesla Network」以外で自動運転を禁止の方向

Photo credit: Jeff Cooper

さらにトヨタやGMと同様、ユーザーの囲い込みに熱心なものの、さらに過激な方針を打ち出しているのがテスラです。

それは「Tesla Network以外の貸出サービスで、テスラが今後提供する自動運転システムを使用してはならない」という内容でした。

ユーザーを自社サービスの中で囲い込み、そこで上げるユーザー自身の収益をテスラ車の支払いに充ててもらう、という意図がテスラにはあります。

つまりトヨタがGetaroundに出資して行おうとしているモデルと似ていると言えるでしょう。

ただし、そのために他社サービスで無人配車を行うことをできなくする、という決定が合理的かどうか、その判断は難しいです。

実際、LyftはGMと、Uberはボルボなどと提携して、独自の自動運転車による無人配車サービス開発を決めてしまいました。

その結果、テスラとしては将来の大口顧客をみすみす逃した結果に終わる可能性もあり、逆に言えば自らのTesla Networkを何としても成功させないといけない立場に追い込んでしまっています。

カーシェアリング提携の与える影響

こうしたカーシェアリングサービスを行うスタートアップ企業との提携は、大メーカーでこそ盛んですが、中小メーカーではテスラを除けばそれほど盛んとは言えません。

提携するには当然双方にとってメリットがなければならないので、多額の出資やブランド、もしくはナレッジや販売網などの資産が必要。そうなると大メーカーか、あるいは大規模資本がバックについていないと難しいと思われます。

最近の自動車メーカー同士のグループ化や提携が相次いでいることは、カーシェアリングなど「次世代の自動車のあり方」へ大規模な投資を行える企業が限られることも、大きな影響を与えているかもしれませんね。

それを考えると、新進気鋭のスタートアップはもちろん、大手自動車メーカーの動向からも今後目が離せそうにありません。

DOWNLOAD

セッション資料イメージ