中国での自動運転車プロジェクト。鍵を握るバイドゥの現状と戦略

今や世界屈指の自動車市場となっている中国。後発市場だけあって先端技術に対する先入観も無く、ハイブリッド車程度は飛び越してEV(電気自動車)や自動運転車にも興味津々です。

米国でGoogleが自動運転車の開発に力を入れているように、中国版Googleとも言われる検索エンジン企業のバイドゥ(百度)が海外の企業と組み、自動運転車のテストを始めています。

そこで今回は、バイドゥに焦点をあてながら中国の自動運転車の普及について考えていきましょう。

今や引く手あまたの中国市場

中国の自動運転

Photo credit: Stan Wiechers

現在の中国自動車市場は大変なバブルです。

特にEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)は購入に際して補助金が出るためかなりの成長分野で、BYDなどEVやPHVを販売しているメーカーが急成長しました。

それとは別に好景気にも支えられて販売好調、高級車なども世界有数の伸びを示しており、欧州の自動車メーカーはそこにうまく参入して販売台数を伸ばしています。

日本のメーカーでも日産やマツダ、ホンダなどはうまく参入できた一方で、精彩を欠いてしまったトヨタなどはようやく最近EVを市販する方針に切り替えるなど、中国市場が世界の自動車メーカーに与える影響は大きいのです。

しかも2015年で終了する予定だった新エネルギー車(EV、PHV)への補助金はまだ続くことに。(2016年以降は2020年にかけて段階的に削減される見込み)

今後は単純に補助金頼りのビジネスではなく、本当に品質の認められた自動車メーカーが中国産・輸入問わず生き残るという時代に入りますから、各自動車メーカーは一層力を入れています。

多少不景気になっても規模の大きい中国市場で生き残れるかどうかが、世界の自動車メーカーにとっても鍵を握ると言っても過言ではないでしょう。

 

2018年の自動運転車実現を目指すバイドゥ(百度)

バイドゥ(百度)

Photo credit: simone.brunozzi

そのような中、自動運転車の開発に積極的なのが中国のインターネット検索エンジン最大手、バイドゥです。

バイドゥは一時期日本でもサービスを行っていましたが、全くシェアを獲得できないまま2015年3月に日本から撤退してしまいましたので、あまり日本では馴染みがありません。

しかし、中国共産党による検閲が激しい中国ではGoogleなどの活動が制限されているためバイドゥが最大手検索エンジンとして君臨しており、非常に力を持っている「中国版Google」と言える企業です。そのような大手IT企業ですから自動運転技術にも早くから熱心で、2012年には自動運転用AI開発で最先端を行くアメリカのNVIDIAと協力を開始。

さらに2014年にはドイツのBMWと提携して3シリーズをベースにした自動運転車を開発、北京や上海で走行実験を開始したのです。

バイドゥは中国らしい人海戦術であらゆる街路のデータを収集し、GoogleMapよりはるかに精密な地図を作り上げていましたから、実験そのものは順調に進んでいると言われました。

それを加速するようにアメリカでもシリコンバレーに進出して自動運転関連の研究拠点を設立。そして2018年から自動運転を実用化すると宣言したのです。

 

バイドゥの自動運転車、まずは手堅く商用バスなどから

Baidu Map Car

Photo credit: Kentaro IEMOTO

ただし中国共産党の権力が大きく、他の国に比べれば法的ハードルなどの問題をクリアしやすい中国でも自動運転車の実現はそう簡単ではありません。

実際、安徽省蕪湖市(上海の西にある内陸の都市)に自動運転車の公道走行を行わせる運営特区を設け、バイドゥの自動運転車を30台ほど走らせる予定でしたが、実際には街で見かけることは無いと言われています。

今すぐにでも自動運転車が実用できそうなイメージは主に宣伝のためで、バイドゥの真の狙いとしては、決まった路線を走る自動運転バスなど公共交通機関にあるようです。確かにこれならば、決まった道路を走ることで得られるデータは一定のものになりますし、変化があってもその違いだけを抜き出した「差分データ」の送信だけで良くなります。

日本でも2016年11月に田沢湖畔周回道路で初の自動運転車により公道走行実験を行いましたが、その時もバスを使いました。

誇大宣伝への批判はともかく、バイドゥの自動運転車プロジェクトの実際は、案外手堅く進行していると考えて良いでしょう。

 

NVIDIAとの関係は新プラットフォーム開発の提携に発展

NVidia-Audi_SelfDrivingCar

Photo credit: ETC-USC

2012年からバイドゥがNVIDIAと協力関係にあることは上述した通りですが、2016年9月にはさらに一歩踏み込んで提携関係となり、世界初の自動運転車向け「Map-to-Car」プラットフォームの共同開発で合意しました。

これはバイドゥが持つクラウド・プラットフォームによるマッピング技術を、NVIDIAの自動運転車用コンピューティング・プラットフォーム(AI)と組み合わせるシステムです。

これにより高精度3Dマップデータのリアルタイム収集と送信を行い、レベル3自動運転や自動駐車のためAIによる自律制御を行います。

高精度センサーで収集したデータを高速通信で高性能サーバーを使い処理するディープラーニングはNVIDIAも持っている技術ですが、おそらくバイドゥとしては中国にサーバーを置きたいということなのかもしれません。NVIDIAにとっては能力をフルに使える環境では無いものの、結果的にAIを売り込めれば良しとしたのでは無いでしょうか。

中国では国策により海外企業が単独で進出・利益を上げることが認められてはいませんので、NVIDIAの選択は実利を求める企業としては最適で、かつバイドゥとしても面倒なAI開発をスキップできるのですから、お互いにとって利益のある取引になりそうです。

逆に中国にサーバーを置く分には世界中のどのメーカーがこのプラットフォームを使おうとも(少なくとも中国とバイドゥにとっては)問題が無いので、他国にとっては価格面で脅威になってくるかもしれません。

 

センサー企業への共同投資からフォードとの提携も?

 

2016年8月にはLidar(レーザーセンサー)メーカーであるアメリカのベロダイン・ライダー社に対し、バイドゥはフォードと共同で7,500万ドルずつの共同出資を行いました。

Lidarは高精度3Dマップを作成するためには不可欠な精密センサーで、バイドゥも同社版のストリートビュー作成にはこのベロダイン・ライダーのセンサーを使用。

この地図データは中国で自動運転車を走らせるには必須になると見られていることから、フォードとの共同投資は、将来的にフォードが中国で自動運転車を販売するための布石であり、近い将来両社は自動運転分野で提携する可能性があると考えられます。

 

BMWの電撃提携解消、しかしマップデータのため関係は継続

 

その一方で、2016年11月には自動運転車の開発で提携していたBMWと、わずか2年ばかりで提携解消することになりました。

バイドゥの地図データと位置情報サービスを使った高速道路走行試験を行い、2015年12月には一般道路で普通の車に混ざっての走行試験すら行っていたBMWですが、今後の研究方針に関する意見の隔たりが大きく、突然提携を解消したのです。

いわば両社の当初の目論見が外れたという形になりますが、バイドゥにとってもBMWがどうしても必要な自動車メーカーでは無くなったのでしょう。そのBMWは2016年7月、新たにインテルを自動運転技術を研究する提携相手として選択しており、BMWとしてもバイドゥと提携する意義が薄れていたと言えます。

ただし、NVIDIAやフォードの項でも説明したようにバイドゥが持つ地図データだけはどうしても必要です。

中国で自動運転車を販売する時に備えるためか、BMWはこれからも主に地図データの面でバイドゥとの関係を続けることになりました。

 

地図データがある限り、中国でバイドゥは避けて通れない

地図データ

Photo credit: trecca

バイドゥは2018年には限定的な路線での自動運転バス事業を、そして2021年にはバイドゥの、おそらくはNVIDIAと共同開発した自動運転プラットフォームを搭載した自動運転車を発売する見通しを立てています。

バイドゥは自力で車を生産しないので、そのパートナー候補としては複数の海外自動車メーカーと合弁している長安汽車グループが有力です。スズキやマツダ、PSA(プジョーシトロエン)などの合弁企業があるものの、先に書いたフォードとの合弁会社があるため、長安フォード汽車が有力なのかもしれません。

もっとも、現状でもっとも有力な候補がフォードというだけで、中国の精密な地図データを持ち、更新し続ける能力のあるバイドゥは中国で自動運転車を販売したければ避けて通れない道です。

バイドゥのクラウドサーバーに接続しない限り中国で自動運転ができないとなれば、今後はフォードやBMWだけではなく、より多くのメーカーがバイドゥと提携することになるのではないでしょうか。

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