水素で動くクルマ、燃料電池自動車(FCV)とは?

水素で動くクルマ、燃料電池自動車(FCV)とは?

ハイブリッドカー(以下:HV)や電気自動車(以下:EV)と並び「究極のエコカー」と呼ばれている燃料電池自動車(以下:FCV)。

登場したばかりの頃はおよそ1億円と言われていたその価格も、今では市販化に至り1000万円を切るまでの値段に落ち着きました。このFCVの開発分野は、国内で「トヨタ」と「ホンダ」の二社が本格的な研究に乗り出し、その激しい競争を一歩リードして販売の一番乗りを果たしたのはトヨタでした。

水素で走るFCVは、ガソリン車並みの走りが期待できるメリットもありながら、地球温暖化に影響がある二酸化炭素を一切排出せず、出すものは”水”だけという驚くべき環境性能を誇っています。航続距離や加速力に難点のある現在のEVとは対照的に、FCVは走行時の加速力も申し分なく「走る楽しさ」を体験できるため、トヨタやホンダの思想を叶えるエコカーを生み出すことが可能です。

今回はすでに市販化されているFCVの機能性や仕様を取り上げ、世に言う「水素で走るクルマ」とは一体どういうものなのか、今回はご紹介したいと思います。

燃料電池自動車の仕組み

FCVには「燃料電池」という装置が搭載されています。

燃料電池とは「水素」と「酸素」を反応させて電気を取り出す発電装置のことで、一般の乾電池などとは異なり自ら発電する性能を備えています。発電する原理は「水の電気分解」に関係するユニークなシステム。水に電極を接触させて電気を流せば、先にも述べた水素と酸素に分かれるため、この化学反応による性質を「逆」利用して燃料電池は電気を取り出すのです。そのため、生成されるものは温水または水蒸気のみなので、他のエコカーよりも遥かに上をゆく環境性能を実現しています。

燃料電池自動車の特徴

Photo credit: California Air Resources Board

また、EVはかなり充電された状態でも航続距離が200km前後と物足りない値に対し、トヨタが販売している「MIRAI」では、およそ3分の水素充填で約650km、ホンダが販売してる「CLARITY FUEL CELL」では約750kmの走行を可能とし、かなりの距離をドライブすることができます。たとえば東京から長野県の白馬村までおよそ280kmほどなので、どちらのFCVも一回の充填で往復が十分可能です。

他にも、FCVはEVに勝るとも劣らない静かな走行を実現しています。内燃機関であるエンジンを積んでいないため、燃焼による騒音が車内に響くことはありません。時折、パワーコントロールユニットが発する高周波音を耳にすることもありますが、ほぼ無音状態で振動も皆無なため、アクセルを踏めば滑らかな走りを体験できます。

メリットだらけのように感じるFCVですが、当然デメリットもあります。大きなネックとなっているのは、燃料を充填するための水素ステーションの少なさです。都内では10店舗ほど運営はしておりますが、それでもかなり少ないため計画的なドライブを考慮する必要があります。

トレーラーに水素燃料を積んで移動するステーションも存在しますが、こちらはデリバリー形式ではないため、決められた場所にこちらが向かわなければなりません。今後はステーションの数も増やす意向とのことですが、その数の少なさにより、まだまだ安心できる状況には至っていない現状にあります。

また、FCVは価格が高価なため、富裕層向けのクルマというイメージが強いです。HVやEVであれば価格も250万円以下で購入することが可能ですが、FCVは補助金の制度を利用しても500万円以上するため、一般の方にはなかなか手を出し難いハイグレードなクルマとなります。

このことから、FCVは高級車に近い扱いのため、トヨタの「MIRAI」もホンダの「CLARITY FUEL CELL」も内装はかなり豪華で外観も大きいです。また、各社独自の様々な運転アシスト機能が搭載されているため、快適で安全なドライブを実現しており、こちらもアピールの一つとなっています。

他のクルマを凌駕する最新の技術が詰まっているクルマのため、お値段に見合う「未来への価値」を得たい方は購入する意味があるかもしれません。

Photo credit: pestoverde

ガソリン車、ハイブリッドカー(HV)、電気自動車(EV)の三車種を比較してみる

ここからはそれぞれのクルマの特性を比較し、メリットとデメリットを考察してきましょう。これらの比較により、FCVとの特徴の違いを知ることができるはずです。

最も一般的なクルマであるガソリン車

ガソリン車とは文字通りガソリンで走るクルマのことですが、資源である石油を消費し、燃焼時には二酸化炭素などを排出するため、環境性能はEV、FCVと比べれば遥かに劣ります。

また、内縁機関であるエンジンを搭載して常に働いているため、騒音や振動が車内に伝わりやすいのも不利なポイントです。しかし、最も一般的なクルマであり、一度の燃料補給による航続距離がとても長いため、制限を気にすることなく走り続けることができます。その燃料の補給地点である「ガソリンスタンド」が全国各地で設置されていることも、EVやFCVと比較し、大きなメリットの一つとなっています。

また、ガソリン車の他に軽油を燃料とするディーゼル車もありますが、こちらは排ガスの処理を行うためのフィルター部品を搭載する必要があるため、車両本体価格は必然と高額になる傾向にあります。少し前までは「ディーゼル車の出す排ガスは臭いし環境に悪い」というイメージがありましたが、このディーゼル微粒子捕集フィルター(略称DPF)の技術進化により「クリーンディーゼル」という新たなエコカーが登場しました。

軽油は安価なため、ガソリン車と比べて燃料費を抑えられるというメリットが幸いし、特に欧州では積極的に開発が進められています。しかし、日本やアメリカではガソリン車ほど普及には至っていない状況です。

エンジンとバッテリーを組み合わせたハイブリッドカー(HV)

HVは動力機関となるエンジンとモーターの特性を活かして走行しています。いわゆるガソリン車とEVの中間にあるような性能を持つクルマです。

運転の状況によってエンジンのみの走行、モーターのみの走行、エンジンとモーターを同時併用して走行するなどのパターンがあります。HVで最も有名なクルマはトヨタの「プリウス」ですが、その複雑な構造から、販売された当時は他社のエンジニアが解体して中身を調査しても「何故これで動いているのか分からない」と言われたほどの技術でした。その後、各大手自動車メーカーがHVを次々と発売し、開発力や販売の面で競争が起こりましたが、現在でもHVにおけるプリウスの知名度は圧倒的な地位を確立しています。

HVはガソリンを使用して走るクルマのため、EVやFCVと比較して燃料を補給しやすいというメリットがあります。また、モーターのみで走行するモードもありますので、この間は静かなドライブを楽しむことができるのも大きな特徴です。環境性能に関してはEVに近い性質を持つクルマのため、ガソリン車と比べれば二酸化炭素などの排出量が大幅に減少。エコカーの先駆けとなったクルマなので、その名に恥じず優れた技術力で「地球に優しい」性能を世にアピールしています。

しかし、内部構造がとても複雑なので、部品点数が他のクルマと比較して圧倒的に多いのがデメリットでもあります。自然と重量も増加し車内スペースが狭くなってしまうため、スペアタイヤを搭載できない車種まで存在するのです。

また、HVというジャンルで限定して考えれば、ガソリン車よりもデザインのバリエーションが極端に少なくなるため、自分が好む外観や内装のクルマを選び難いのも問題の一つ。どうしても「エコカーに乗りたい!」という目的を持つ人以外は、無難にガソリン車を選ぶ傾向にあるようです。

電動モーターのみで走る電気自動車(EV)

ガソリンを使用せず、二酸化炭素も一切排出しないという環境性能を考慮すれば、FCVの強力なライバルとなるのがこのEVです。

搭載されているバッテリーは家庭でも充電が可能なため、水素ステーションの数が少ないFCVと比べれば圧倒的に有利となります。急速充電機の設置を行うガソリンスタンドも増えている傾向にあり、この点もEVの普及を後押しする要因の一つとなっています。

また、価格もFCVと比べればかなり安くなるため、ファーストカーだけでなくセカンドカーとして活用する方も増えているようです。

しかし満充電における航続距離が他車と比べて圧倒的に少ないのが最大のデメリットとなるEV。また充電に時間が掛かるのも問題となっており、家庭用の充電器でも約8時間ほどの時間を要するため、快適なドライブができるとは言い難い状況にあります。

まだまだユーザーが満足する状況には至っていないクルマですが、「自動運転」の機能が搭載されている車種などもあるため、革新的な技術であることは間違いありません。

国内を代表する燃料電池者「トヨタ・MIRAI」「ホンダ・CLARITY FUEL CELL」

Photo credit: BBQ Junkie

先にも述べた通り、国内でFCVの市販化をリードしたのはトヨタの「MIRAI」です。実用前の頃は1億円以上していた価格も今では723万円に下がり、一般の方が購入できる範囲にまで抑えられました。

後続の「CLARITY FUEL CELL」も766万円となり、どちらの車両も国からの補助金を利用できるため、実際に支払うお金は520万円前後と良心的な値段で買うことが可能です。MIRAIの全長×全幅×全高は4890×1815×1535(mm)とかなり大きく、CLARITY FUEL CELLも4915×1875×1480(mm)と同様のサイズとなるため、その価格から二つのFCVは高級セダンの扱いとなっています。

この二つの車両ですが、内部の構造はかなり異なるレイアウトを選択しています。MIRAIの場合は燃料電池を車体中央のフロア下に配置しているのに対し、CLARITY FUEL CELLは燃料電池や駆動モーターをすべてエンジンルーム内に納めています。

MIRAIの場合は「燃料電池」、CLARITY FUEL CELLの場合は「リチウムイオンバッテリー」が座る位置を高くする原因となっており、特に二つの車両とも水素タンクが後部座席の下に位置しているため、これらが車内スペースを阻害する要因となっています。今後はこれらの装置の小型化を目指すことで、更に車内スペースが広くなることが期待できるはずです。

先行したトヨタに対してホンダが強みとしているのは航続距離です。上述したようにMIRAIは3分の水素充填で約650kmの走行が可能に対し、CLARITY FUEL CELLは約750km走り続けることができます(JC08モード走行パターンによる各社の測定値です)。どちらの車両も市販化されたとはいえ開発の初期段階なので、今後は航続距離も更に増加する可能性を秘めています。

そして、トヨタとホンダが目指している「走る楽しさ」を追求しているのもFCVの興味深いポイント。加速力の弱いEVに対してFCVはガソリン車並みのパワフルな性能を得ることができます。また、どちらの車両も最先端の運転アシスト機能が搭載。MIRAIであれば衝突を事前に回避する「プリクラッシュセーフティシステム」、CLARITY FUEL CELLであれば「Honda SENSING」などが標準装備なので、快適で安全なドライブを体感することができます。

他にも、EVと同様に動力源が電気のため、IT関連のデバイスと相性が良いのもメリットの一つ。エンジンのように制御が難しい装置ではなく、FCVはモーターで駆動するシンプルな構造のため、将来は自動運転システムが搭載されるかもしれません。

今まではガソリン車とディーゼル車の二択しかないイメージでしたが「エコカー」という分野が参戦したことにより、クリーンディーゼル、HV、PHV(プラグインハイブリッド)、EV、FCVと様々な形式のクルマが発売される傾向にあります。購入する側も目的に合わせたクルマ選びをするため、販売店での説明をよく聞いて快適なドライブを楽しんでください。

FCVのこれからに期待

FCVは市販化さえたとはいえ、まだまだ山を登り始めたばかりの新しい技術です。今後は水素ステーションなどのインフラ整備などが大きな課題となり、一般の普及を目指すには低価格化も実現しなければなりません。

他のエコカーと比べてもFCVは環境性能の点で群を抜いているため、開発が進めば「プリウス」よりも話題となる可能性を持っています。今後の技術革新に期待したいところです!

DOWNLOAD

セッション資料イメージ