【対談】MaaSをバズワードで終わらせない。都市モデルをベースに考える国内MaaSのあり方 前編

【対談】MaaSをバズワードで終わらせない。都市モデルをベースに考える国内MaaSのあり方 前編

サブスクリプションに5G、自動運転にコネクテッドカー、デジタルトランスフォーメーションにIoT…。この数年で数々のバズワードがビジネスの世界で生み出されてきましたが、変革期の最中にあるモビリティ業界でも多くのバズワードが飛び出し、話題をさらっています。その中で、今もっとも注目されているのがMaaS(Mobility as a Service)です。MaaSはモビリティ業界だけでなく、地方や都市全体、観光にまで広がり、人々の生活と利便性を変えようとしています。

そこで今回は、国内で率先してMaaSに取り組まれている、MaaS Tech Japanの日高洋祐(ひだかようすけ)様をゲストに迎え、国内におけるMaaSをいかにして広げていくか、MaaSを浸透させるために大事なことは何かをお話いただきました。MaaSをバズワードで終わらせないために必要な考え方とは−?

MaaSへの認知や取り組みを加速したい

北川:「スマートドライブでは、今まで車両に取り付けるデバイスを開発し提供していましたが、現在、目指しているのはドライブレコーダーや温度センサー、タイヤの空気圧計など、センサーデータのプラットフォーム化です。そして、このプラットフォームを起点に今後、MaaSに関していろんな関わり方ができると思っています。

まずは、日高さんがMaaSに取り組むようになったきっかけをお伺いできますか。」

日高:「鉄道会社に入社後、主にICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略の策定などを行ってきました。たとえば、運行管理システム等から電車の位置情報を取得してユーザーに届けたり、混雑情報等をどのように利用者に提供するかを検討したり、スマートドライブ様が提供しているサービスの“鉄道版”とお考えいただければイメージしやすいかもしれません。

入社以降輸送業務の現場にいて、2010年からは企業内の研究所で新規サービスの研究開発業務に従事し、2018年6月に立ち上がったMaaSを推進する部門に参画しました。その後独立してMaaS Tech Japanを設立しました。また、2018年にはMaaSやモビリティサービスに関する産官学での知を共有し、技術革新につなげることを目的とした一般社団法人JCoMaaS(ジェイコマース)の設立を行い、MaaSの協調領域を生み出すエコシステムの創出に取り組んでいます。

MaaS に積極的に取り組むきっかけとなったのは、ITS会議など交通系の海外のカンファレンスでは2016年ごろからMaaS一色といってもよいほどホットなキーワードになっているのに、日本国内ではほとんど話題とならず世界からの遅れに危機感を覚えたからです。そのため、海外で起こっている動きを日本語にして、かつそれは海外の話しだよねとならないよう、交通や都市を良く知った日本人が分析して伝える必要があろうと考えました。その一つとして著書『MaaS  モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』を執筆するなど、日本でMaaSへの認知や取り組みを広げていく活動を始めました。

MaaSは単純にモビリティに閉じた改善ではなく、都市全体という大きな枠で捉えながら推進していかなくてはなりません。とくに、データの融合が核となってきますので、個別事業者の利益最大化よりも、新しい連携による産業のKPIのほうがMaaSは伸びていくはずです。そういった点でも、『MaaS  モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』の出版は、モビリティ関連の企業の方は外を見るようになり、モビリティの外側にいる方たちもモビリティに目を向けていただくきっかけになりました。」

MaaSのその先へ

北川:「前職でMaaS専門の部門が立ち上がったとおっしゃられていましたが、ご自身で起業されたきっかけは何だったのでしょうか。」

日高:「もっとMaaSを突き詰めたいと思ったこと、『Beyond MaaS』と言っていますが、MaaSが実装された先の社会を創りたいと思い、2018年の11月に会社を立ち上げました。前職の会社もとてもよい会社で、起業への理解もあり今の自分があるのもJR東日本のおかげであるととても感謝しています。けれども、逆にその大きな会社が背景にあると、どこかで安心感が出てしまうため、自分を追い込むためにも一回その大きな看板を外してMaaSの世界に飛び込んでチャレンジしたいと考えました。それを認めてくれた会社にはとても感謝しています。

MaaS Tech Japanでは、事業者向けと生活者向けに鉄道やバス、タクシーなどあらゆるモビリティサービスを統合したプラットフォームを構築しています。これを基盤に、公共交通やライドシェアなど単体のサービスでなく、ユーザと事業者、事業者と事業者の連携を促進したいと考えています。

たとえば、オリンピックのときなどあるスタジアムで試合が終了し、何千人、何万人もの人が一斉に移動するとしましょう。移動の際にまず考えるのが、鉄道やバスの運行形態、スタジアム近辺を走るタクシーの台数といったリアルタイムの情報ですが、これだけ多くの人がいっぺんに移動すると大混雑することが予想できます。それぞれの事業者は個別に情報発信をしていますが、ユーザーがすべてを把握したうえで最適な移動手段を考えるには時間も手間もかかってしまう。この場合、スタジアムにいた人数をベースにして帰宅ルートを把握することができれば鉄道やバスの輸送量の割合や、タクシーの状況などコントロールして、人の流れを分散して効率化が可能となります。そのためには、データを一つの場所に集めてモビリティ間の連携を促進すること必要です。壮大な話しのように思えますが、だからこそチャレンジすべき領域です。」

北川:「現在、日本国内でそうした取り組みはなされているのでしょうか。」

日高:「同様のアプローチは様々な企業や研究者が取り組まれてきましたが、実際にそれがスケールするところまでは至っていません。技術やコンセプトは出来ているのですが、実装されていない理由として考えられるのが、ユーザーと事業者の関係性の中で実施に至るような共通概念やベネフィットが生まれていないことです。また、そこを弊社では新しいスキームでチャレンジし社会実装まで到達することに貢献したいと考えています。

MaaSは交通事業者のデータをAPIなどで統合して1つに集め、それをユーザーや都市に提供するというのが基本の概念です。フィンランドのWhimの場合、交通にまつわる情報を集約し、ユーザーにアプリを提供しています。今まで個別で予約・購入していた新幹線のチケットやタクシーの配車がアプリの操作だけで完結するため、ユーザーは移動をシームレスに行うことができるのです。それが、海外で広がっているMaaSですが、国内ではそれだけだと価値が感じられにくいようですので、これらの交通に関する情報を都市に還流させたり交通機関にフィードバックを行ったりすることで、海外とは異なる価値を見出していく必要があります。

弊社としては、MaaSプラットフォームの考えを拡張させたより利便性の高いサービスを提供したい。そうすれば今後、混雑緩和をしたいプレイヤー(事業者が)が他の交通機関や周辺施設に協力を依頼するなど、事業者連携によってよりスムーズな交通サービスを提供できるようになるし、ユーザーの流れも変わっていくでしょう。」

MaaSでビジネスモデルも進化する…?

北川:「MaaSと一言で言っても、さまざまな観点から移動を考えることができますね。」

日高:「2018年にDeNAさんの『どん兵衛の広告モデルであった0円タクシー』が都内でトライアルされ話題になりましたが、MaaSの中で参考になるビジネスモデルの1つです。広告宣伝費で別のサービスの原資とする−−つまり、第三者の原資をモビリティサービス等に活かして何かをするというというビジネスモデルができれば、より幅広い観点で業界横断のMaaSのビジネスモデルが広がっていくのではないかと考えます。

現在は、弊社では大都市・中規模の観光エリア・大幅に人口が減っている地域をターゲットにいくつかの実証実験ができるようにプロジェクトを進めています。単体で動くのではなく、多くの企業や人と関係を構築して、そのうえでMaaSを推進していくことが大事です。そのため、先進的な取り組みをされているスマートドライブさんとも連携させていただきたいと思っています。」

北川:「もちろんです。描いている世界観は近いですが、日高さんの会社はおもに公共交通機関ですし、被るようで被らない領域でもあります。ですので、お互い補いあえる部分は大きいのではないでしょうか。」

日高:「そうですね、自動車から上がってくる詳細なデータや予測はスマートドライブのお得意な領域であると思います。先ほどからデータプラットフォームと言っていますが、弊社のシステムにすべてを集約するのではなく、外部から入ってきた結果を連携させる疎結合のイメージです。私たちのソリューションもそこに近いですね。」

都市×MaaSの可能性

日高:「海外のスタートアップでmiles(マイルズ)というスマートフォンのサービスがあり、そのサービスでは都度ユーザーの交通チケット情報を取らなくても、緯度経度に応じてGPSと速度センサーを使用して、電車を利用している、バスの停留所の地点に三回ほど停まったからなど、あらゆる情報を学習しながらデータを蓄積し、その乗り物にのったかを判定するロジックとなっています。そしてその行動データをベースに、環境に優しい乗り物に乗ると●ポイント、混雑している箇所を避けてくれたら●ポイントなど、ユーザーにポイントとして還元しつつ、交通をうまく分散することができるようになるのです。

ここで、『じゃあ運賃を安くしたり高くしたりできるようにすればいいんじゃないか』という声も上がってきますが、運賃を変更すると交通機関側でシステムを改変しなくてはならないため、簡単に着手できるものではありません。そのため、運賃とは別軸―ポイントや現金化―で還元できると、ユーザーにもメリットが分かりやすく、他社間とも合意形成がしやすくなります。モビリティサービスが外の世界とつながるうえで一つ有効な手段と考えます。」

>>後編へ続く

 

TOP