コネクテッドカー強化狙うサムスン、ハーマン買収で台風の目に?

コネクテッドカー強化狙うサムスン、ハーマン買収で台風の目に?

突然ですが、「サムスン」と聞いて何をイメージしますか?
Galaxyシリーズが有名な同社ですから、スマートフォンやタブレットなどを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの会社、自動車産業にも大きく関わっているんです。

近年自動車メーカー、そして自動車に関連した周辺技術メーカーの買収やグループ傘下入りなどが相次いでいますが、そこに新たな動きが加わりました。2016年11月14日に発表された韓国サムスン電子による米ハーマンインターナショナルの買収のニュースです。

今回はサムスンとコネクテッドカー(自動車×テクノロジーの分野)について考えていきます。

これまでコネクテッドカー分野で出遅れていたサムスン電子

Photo credit: Jamie McCall

韓国を代表する電子機器メーカーのひとつ、サムスン。同じく韓国を代表する自動車メーカーである現代自動車(以下、ヒュンダイ)。

どちらも世界的メーカーとして国際シェア上位を伺うブランドでありながら、これからの自動車を考える上では欠かせないコネクテッドカーの分野で、両社が積極的に提携することはありませんでした。

全くやってこなかったわけではないのですが、サムスンの技術力をこれまでアピールしてきたのは主にハードウェア分野です。ソフトウェアはサードパーティに頼るところが大きく、スマートフォンやタブレットなどに搭載されるTizen(タイゼン) OSに未だに力を注いでいますが、GoogleのAndroidやAppleのiOS、あるいはその発展型に対し、分がいい勝負をしているとは言えません。

そのような状況もあって、ソフトウェア分野ではヒュンダイや傘下の起亜(キア)、あるいはGM大宇(デーウ)といった韓国自動車メーカーからは距離を置かれていたのです。

特に最大手のヒュンダイはGoogleやAppleと手を組んだ先進的な自動車開発を行っており、サムスンは少しずつ時代の波から取り残されていく状態でした。

遅ればせながら発表されたSamsung Connect Auto

それでも2016年2月、サムスンは独自のコネクテッドカーソリューション「Samsung Connect Auto」を発表しました。

車の情報を出力するOBDIIコネクタに接続することで車の動きを監視できる機器ですが、それを車内のスマートフォンやタブレットにBluetooth出力せず、一端4G LTE回線でクラウドサーバーにアップロード。そこからIPhoneやAndroid機器のアプリを通して情報を提供するという、回りくどい方法を取っており、OSにTizenを使っているあたりがサムスン製機器であることを表しています。

また、同時にドイツのソフトウェア企業SAP、スペインのSEAT(セアト。フォルクスワーゲン系の自動車メーカー)と、コネクテッドカー開発のための提携を行うことも明らかにしました。

サムスングループの自動車メーカーであり、ルノーとの関係を通して日産との関係も深いルノーサムスンも2016年3月には「将来的にEV(電気自動車)やコネクテッドカーを開発する時、韓国企業の部品を使わないわけにはいかない」と表明しています。

こうした追い風が吹いたことで、遅ればせながらサムスンもコネクテッドカーに注力する流れになってきたと言えるでしょう。

サムスンが買収したハーマンインターナショナルとは、あの音響メーカー

Photo credit: sam tao

しかし、前述のようにサムスンのソフトウェア分野は先進技術の開発が得意とは言えない状況です。

自らの技術が不足しているとあらば、技術を持っている企業を買収、あるいは傘下に収めるのが当然ですから、サムスンも当然そのようなメーカーを探し当てました。

それが米国のハーマンインターナショナル(以下、ハーマン)です。

企業名だけ見ると何のメーカーなのか判然としない人が多いでしょうが、ブランドを見れば、ちょっとでも音響に詳しい人ならアッ!と驚くはず。オーディオ機器のマークレビンソン、スピーカーのJBLやEWVEL、ヘッドホンのAKGといった高品質音響機器のビッグネームをズラリと傘下に収めているのが、このハーマンなんです。

今後はルノーサムスンやルノー、日産の車にマークレビンソンなどのオーディオシステムを採用することが増えるのでは無いでしょうか?その意味で、日産車やルノー車のユーザーにはこれから楽しみが増えるかもしれません。

しかし、大方の予想としてサムスンの真意は別なところにあり、本当に欲しいのはハーマンのコネクテッドカー技術だと言われています。

音響メーカーの持つ意外なIT技術

Photo credit: Christopher Schirner

音響メーカーがコネクテッドカー?と不思議に思う人もいるかもしれませんが、素晴らしいオーディオシステムを作っているからと言って、他には何も作っていないとは限りません。

特に音響メーカーはカーオーディオを通して自動車分野との繋がりも深いですから、さまざまな車載機器を開発している可能性があります。例えば高性能スピーカーをはじめとする優れたオーディオメーカーであるBOSEは、磁気駆動による自動車用リニアサスペンションの第一人者としても知られています。

ハーマンもIT分野、それも先進運転支援システムに関してはちょっとした技術を持っており、それは2015年にハーマン自身が行った買収劇で補強されました。

それがズバリ、コネクテッドカーの技術であって、車のコンピュータープラットフォームをハーマンのクラウドに統合し、ヒヤリハット的なアクシデント情報から通常の走行情報までを常時アップロードして最適化する技術です。

その核になるのが「スマートデルタ技術」。本質的な変更点のみを選別する差分アップロードを行うことで、効率的なシステムアップデートを行います。それを可能にするOTA(無線通信)アーキテクチャーとサーバーサキュリティ技術を持つ米シンフォニーテレカ社と、レッドベンド社を、ハーマンは2015年に買収していたのです。

さらに2016年6月にはサイバーセキュリティ関連技術の開発会社、イスラエルのタワーセックも買収しており、コネクテッドカーに欠かせないハッキング対策技術も手に入れています。

80億ドルの買い物は高いか安いか

サムスンが欲しがったのはこのスマートデルタ技術をはじめとする、ハーマンのコネクテッドカー技術だと言われています。

買収にかかった80億ドル(約9,063億円)は、マークレビンソンなどブランド力の高いオーディオメーカーまでついてくることを考えれば安いものだ、という見方もありますが、本当の勝負はこれからでしょう。

サムスンは最新のタブレット、GALAXY NOTEのリチウムイオン電池が連続爆発事故を起こし、これまで頼みの綱であったハードウェア技術の分野で、そのブランド力が大きく揺らいでいます。そこでまだ余力のあるうちに資金力を使って、ハーマンの優れたスマートデルタ技術、ハッキング対策技術を売り込もうというのがサムスンの意図なようです。

それだけではなく、サムスンだけではなく、ハーマンの持っている販路も活用してサムスンの自動車関連の部品を売り込んでいくこともできますから、これはサムスン・ハーマン両社にとって大きなメリットと言えるでしょう。

ハーマンを通したGoogleとの協業の噂も?

Photo credit: smoothgroover22

ハーマンのコネクテッドカー技術の顧客には既にFCA(フィアット・クライスラー)が含まれており、そのFCAはGoogleの自動運転車開発パートナーでもあります。

つまりFCAがGoogleと共同で開発する自動運転車には、データアップロードの面でハーマンの部品やシステムが部分的に用いられているのです。

そうした関係を通して、Googleとサムスンが自動運転やコネクテッドカー、さらに自動運転の分野で協業する可能性も指摘されています。サムスンはiPhone向けCPU供給などでAppleと深い関係にある反面、スマートフォンやタブレットの完成品ではライバルです。

Googleもライバルではありますが、OSなどソフトウェア分野まで含めればサムスンとGoogleの関係はより深いので、単なる部品供給先であるAppleよりは親和性が高いと言えるでしょう。

ハードウェア分野はともかく、ソフトウェア分野でもハーマンを傘下に収めた今、サムスンはようやくコネクテッドカーや自動運転車の開発で、他のIT企業と同じ土俵に上がったと言えるかもしれません。

サムスン、大規模再編の台風の目になるか

Photo credit: NASA Goddard Space Flight Center

これまでサムスンは海外企業の大規模M&A(合併・買収)には消極的だと見られていましたが、今回のハーマン買収が戦略転換の大きな節目になると見られています。

豊富な資金力をバックに、ハーマンだけでなくAIプラットフォーム開発企業のViv(ヴィヴ。Siriを開発したことで知られる)や、次世代メッセンジャーサービス技術を持つカナダのニューネット・カナダも買収しました。

GoogleやNVIDIAなど先行するIT企業を猛追する形になっていますが、単なるライバル関係になるだけではなく、将来的に提携を行う際の立場を作ろうとする意図もあるかもしれません。

このような動きから、ハーマンと同様に「裏ですごい技術を持っているメーカーの大規模買収劇」が加速するという見方もあり、ある日突然あのメーカーが!というニュースは今後増えるかもしれませんね。

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