【車載ソフトウェアと地図の未来】ゼンリンがAbaltaを買収した狙いとは

2016年9月、地図データ・コンテンツの大手ゼンリンが、車載ソフトウェアの開発・販売を行う米国のAbalta Technologiesの株式75%を取得し子会社化すると発表しました。

中長期計画で海外事業を中心に強化しようというゼンリンは、この買収で得ようとしているものは何なのでしょうか?地図制作会社が車載ソフトウェア会社を買収する意味について考えていきたいと思います。

 

地図制作会社が、車載ソフトウェア会社を買収?

車載ソフトウェア

Photo credit: Yutaka Tsutano

今回ゼンリンが買収した米国のAbalta Technologies社は、車載インフォメーション用プラットフォームとモバイル端末を同期する技術を持っています。

ここでいう車載インフォメーションとは、近年のクルマで増えているセンターコンソールなどに備えられた大きなインフォメーションパネルに、クルマの情報やカーナビなどさまざまな情報を一括表示し、タッチパネルで入力可能なシステムの事です。

膨大な地図データとその制作技術を持っているゼンリンが、その技術を手にするもので制しようとしているものは何でしょうか?

それを考えるためにはまず、ゼンリンの地図データづくり、その足跡を理解する必要がありそうです。

日本最大手の地図制作会社、ゼンリン

 

Photo credit: monoprixgourmet

Photo credit: monoprixgourmet

地図といえばその制作日本最大手と言えるのがゼンリン(本社・福岡県北九州市)です。

戦後、創業者である故 大迫正冨氏が出版した別府市内の観光案内。その巻末市街地図への予想を超える反響が、ゼンリン誕生のキッカケになりました。

掲載を求める公共施設や企業、商業施設が殺到した事から地図の充実が成功につながると判断するや、善隣出版社を設立します。

当初は地図といってもかなりアバウトで、「この角を曲がってまっすぐ行けば、〇〇に行ける」という程度のものでした。

そこから本格地図として道路や曲がり角の方角まで把握、建物1件1件の情報、住居の場合は住民の名称まで網羅された「住宅地図」に発展。

発行地域も全国に広がり、ゼンリンは日本一の住宅地図出版社にのし上がっていったのです。

 

転機となった「電子地図」

 

やがて手書きの地図原稿はキーボードでの打ち込みとなり、道路や建物の形状、敷地の境界線もコンピューターで製図していくようになります。

制作過程で電子化された地図は、いつしか「電子地図データ」として非常に重要な意味を持ち、電子地図データそのものに注文が来るようになりました。

「地図出版社」から、「地図データ供給メーカー」への転身です。

以後、人工衛星の電波を利用した測位技術(GPS)、カーナビゲーション(カーナビ)技術の発達とともに、カーナビ用、そしてコンピューター用の電子地図データを精力的に開発していきました。

 

地図制作技術の変貌

 

それまで出版用に現地調査・制作していた地図も、作り方が一変します。

以前は前回出版した地図を元にして修正点を記載しており、データ上の座標と、その場所や建物の情報はある程度ひも付けされていました。

しかし完全なものではなかったので、電子地図データの原図から、道路や建物、敷地の現地調査を徹底的に行い、「電子地図データを元に出版物を作る」という作業に切り替わったのです。

紙で出力された「住宅地図」だけではなく、さまざまなコンテンツに応用可能なデータの基礎を、ゼンリンは全国で構築していきました。

それまで作ってきた地図を1から作り直すほどの大作業でしたが、その甲斐あって、Googleマップなど大手のインターネットマップには、地図データ提供者名として「ZENRIN」の名が記されています。

Googleマップとゼンリン

Photo credit: Stuart Frisby

世界進出と提携による質的転換

 

同時に、ゼンリンは海外にも拠点を設立し、積極的な海外展開を進めてきました。

現在はGoogleマップをはじめ、世界中の多くの国で道路や主要施設を中心に地図が見られるようになっています。

また、NTTドコモなど通信インフラ事業者とも提携。

GPSで測位した情報を元に、携帯端末にインストールされた、あるいはインターネット回線で提供された地図上で現在位置の把握が容易になりました。

現在位置から周辺情報の提供も可能になると、ゼンリンの詳細な地図座標と施設情報をひも付けしたデータが、不可欠になったのです。

これまでIT事業者が蓄積してきた膨大な施設や店舗、企業のコンテンツと、地図データが結びついた瞬間でした。

 

車載コンピュータとソフトウェアの質的転換

車載ソフトウェア

Photo credit: Stephen Pace

しかし、こうしたデータの蓄積スピードは、今や飛躍的に高まっています。

GPS搭載端末やSNSの普及により、情報とは「起きたものを後から見る」ものではなく、「今まさに起こっているものを見る」ものへと、変化しました。

さらには、カメラなどセンサーを搭載した端末での、リアルタイムな情報収集も加わります。

ゼンリンが主に関わる地図データだけでも、AI(人工知能)と各種センサーを搭載した自動車が、「知っている」道だけではなく「知らない」道を自ら確かめ、学習する時代が来たのです。

それを超高速通信で発信する事によって構築されていくデータは、昔ながらの足で稼ぐ調査のスピードを大きく上回るでしょう。

少なくとも道路情報に関しては、地図データ会社より「そこに初めて足を踏み入れたもの」によるデータが先んじる時代の到来です。

 

「情報を地図化する世界一の企業」へ必要なものは?

 

2015年、ゼンリンはその中長期経営計画「ZENRIN GROWTH PLAN 2020」の中で、「情報を地図化する世界一の企業」という経営ビジョンを掲げました。

「地図情報を提供してきた企業」と「情報を地図化する企業」の違いとは、まさに先に書いたような、モバイル端末やAIから収集した情報の地図化でしょう。

そのために必要なものは何でしょうか?

これまでもゼンリンはGoogleやNTTドコモなど、さまざまなIT企業や通信企業と提携してきました。

それにより、「得られた情報と地図データをリンクさせて、発信」してきたわけですが、今後はより積極的に「地図化が可能なデータを収集し、地図として反映させる」事を目指していくと考えられます。

そのためには、「優れた情報収集端末」と「それを可能な限り収集するための通信手段」、「収集したデータの分析技術」が必要です。

そこまで考えれば、今回の米国Abalta Technologies社買収劇の必要性が見えてくるのではないでしょうか。

 

米国Abalta Technologies社の得意分野

 

Abalta Technologies社とは、車載インフォメーションとスマートフォンなどモバイル端末を接続させる、「WEBLINK」というアプリケーションを開発・販売している会社。

特定の機種に依存しないモバイル端末と接続可能で、車載インフォメーションパネルにスマートフォンのアプリやブラウザを表示することで、カーナビを事実上「モバイル端末」として機能させられます。

これによりユーザーは同じクルマに乗り続けていても、モバイル端末を買い換えるだけで最新の機能をインフォメーションパネルから使用可能。いわばスマホやタブレットがコンピューター、クルマが表示/入力端末となり、クルマそのものが常に最新のモバイル端末になることを意味しています。

実際、WEBLINKを採用する企業は海外で増加しており、車載端末用アプリとしては現在かなり熱い存在と言えるでしょう。

 

ゼンリンの情報収集能力を大きく向上するか

 

Abalta Technologies社を買収することで、ゼンリンには以下のようなメリットが考えられます。

  • 車載インフォメーションと接続されているであろう、クルマ側の各種センサーの利用
  • WEBLINKに接続されたモバイル端末からの通信による、情報の収集

そうして収集されたデータの地図化が、ゼンリン最大の狙いではないでしょうか。

その効果は、現在詳細な地図データ化されている地域では新しい道路が建設されたり、既存道路の改良情報の収集に大いに役立ちますし、まだ詳細なデータが無い新興国ではなおさらです。

Abalta Technologies社の「WEBLINK」を組み込んだ世界中のクルマ1台1台を、ゼンリンの地図を作るための情報収集プラットフォームとすることで、地図情報データ開発のリーダーとなる

そうして作られた地図データは、世界中で自動運転や安全運転支援システムを使用するため、膨大な需要が存在します。

それはゼンリンの中長期経営計画 「ZENRIN GROWTH PLAN 2020」での目標、「情報を地図化する世界一の企業」を達成するための、重要な一手ではないでしょうか?

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