【対談】クルマの進化でマーケティングはどう変わる? -後編

【対談】クルマの進化でマーケティングはどう変わる? -後編

未来のマーケティングはどうなるのか

北川:「今後、それこそ何十年後とかの話になりますが、車が自動運転になって、車自身が故障や点検を予測できて、修理にいくらかかるかわかるような世界になった時、どのようなマーケティングが考えられると思いますか?」

中澤:「私個人としては、MaaSが想定よりも早く普及していくのではないかと予測しています。何十年も先の話ではなくて、自動運転とほぼセットでMaaSの世界が展開されるだろうと。

ヘルシンキは、MaaS Globalの Whimが普及したことで都市自体も変わり、乗用車の数が3割~4割減っていると言います。この事実からわかることは、車を所有しない時代がそのうちくるかもしれないということです。

車を持たない世界には、車を持たなくなっていく段階と、車の数が半分ぐらいになってしまう世界の二段階がありますが、それがいつ・どのタイミングになるかは私どももまだわかりません。ただ、少なくとも、急速に持たなくなっていくという段階は何年間か続く。私たちはそこの部分にアタッチできないかと考えています。

IDOMが現在、持っている資産は車の売買です。カーシェアをはじめ、いくつか事業を立ち上げていますが、MaaSが浸透すると急速に人の意識が変わっていきます。そこへ都市の交通機能が急速に整備を進めていくと、いわゆる地殻変動が起きる。そうすれば人々は、車をこのまま保有するべきか、それとも手放すべきかを今まで以上に真剣に考えるようになるはずです。ですので、その意思決定にしっかりと絡んでいけるようなマーケティングをしていきたいとは思っています。」

北川:「自動運転になって車の数が減ったとしても、IDOMさんで買った車は、IDOMのアドネットワークから、ユーザーの行動にもとづいてさまざまなレコメンドを送ったり、サービスを提供できたり、そういうビジネスモデルになっていく可能性もありえますか?自動運転になっても、車の形態が電気自動車になろうとも、データは使えますよね。」

中澤:「ユーザーが、MaaSへと意思を切り替えていくタイミングで、最初に判断するのは車を手放すかどうかだと思うんですね。つまり、査定のタイミング。その接点を日本最大級で抑えているのは、非常に大きいと感じています。

査定を起点に、ユーザーは車のことを真剣に考えはじめます。普段は走行中のガソリンのことぐらいしか考えないじゃないですか。でもある日、今後、保険をどうするか、車を手放すべきか、真剣に車のことを考える瞬間がやってくる。そのタイミングが査定です。

広告をどんなに打っても普段は景色の一部程度にしか思われません。しかし、意識が顕在化した瞬間、風景だったものが意味のある形で浮かび上がるのです。ですので、査定という瞬間が、車にまつわる様々なサービスのマーケティングポイントになります。つまり、モーメントなんですよね。その起点をIDOMが押さえているというのは非常に大きなことで、さまざまなサービスを提供するための、マーケティングの入口になれるのではないかなと考えています。

ただ、そのときに査定額だけお伝えするのは、マーケティング的なレコメンデーションとしては弱いので、そこに走行データや今後、予測される生涯コストを加味できると、マーケティングのアプローチが大きく変わってきます。そういった意味でも、センサーに着目しているのです。」

SmartDriveとのコラボレーションと可能性

北川:「スマートドライブと『こんな世界が実現できるかもしれない』というようなコラボレーションの案をお話しできればと思います。」

中澤:「一番、期待を寄せているのは車両ごとの情報の解析です。また、センサーのコストが下がることにも期待しています。

IDOMが単体でスマートドライブのデータを使ったビジネスを考えるのは難しいかもしれませんが、たとえば『SmartDrive Fleet』がすべての新古車に、コモディティに近い状態で普及していけば、私たちは査定というモーメントに立ちあうことができるのではないかと。『SmartDrive Fleet』で蓄積されたデータをマーケティングに活用できれば大きく進化できるのではと前向きに思っています。」

北川:「走行データではありませんが、アメリカでは車の整備履歴情報を国がしっかり整備して、インフラとして様々な事業者が活用できるようになっています。集めたデータをビジネスで活用できるようなオープンプラットフォームを構築して提供するとか、そこにブロックチェーンの考え方を組み込むとか…とにかく色んな方法があると思います。私たちスマートドライブも、本当のインフラにならなければ今提供しているサービスの意味がないと思いながら取り組んでいます。」

中澤:「単体企業だけではなかなか思うように動くことができませんし、国というよりは、団体がそれらのデータを整備するような風潮ができないと難しいでしょう。」

北川:「ただ、メーカーが各自に動いてしまうと縦割りという別の問題が起きることも考えられます。」

中澤:「そうなんですよね。標準化されていないまま、センサーで取得したデータを集約するプラットフォームをA社も、Bも自社で独自に作ってしまうと…。結局、一部でしか使えないので問題の解決にはなりません。」

北川:「第三者からすると、逆に使いづらくなってしまいますね。」

中澤:「それらを考慮すると、共通の基盤を作る企業が第三者的な立ち位置で入るべきなんです。Webデータのタグってあるじゃないですか。そのタグマネージャーのような感覚で第3者の企業が入ってくると、マーケット自体の可能性が凄く広がっていくのではないでしょうか。」

北川:「このままでもおそらくコネクテッドな世界は進んでいくとは思いますが、縦割りの結果、活用しづらいデータになってしまうと意味がなくなってしまいます。ですので、スマートドライブにいろんなデータが集まって、使いやすくて加工もできるプラットフォームになり、IDOM社に活用のご相談ができるようになる日が来るといいのですが。」

中澤:「そうなれば最高ですね。その集めたデータをもとに、高付加価値サービスを一緒に作ることができればもっと良い。

IDOMはマーケティングに強みを持っていますし、スマートドライブは技術力に強みを持っている。お互いに持っている強みを引き立てながらコラボレーションができれば、より良いサービスが生み出せると思います。さらに数社のプレイヤーが加われば、よりビジネスとして成立しやすくなるかもしれませんね。」

北川:「各社が持つ強みのバランス感が重要ですね。」

IDOM×スマートドライブ×保険会社=・・

中澤:「スマートドライブでは、一般ユーザー向けに高齢者みまもりサービスを展開していますよね?」

北川:「これは、会話の中で出た、SmartDriveプラットフォームの事例で、スマートドライブの中で持っている技術やデータをベースに、社内で1週間で作ったサービスです。

私たちは、IDOMさんや他社さんが似たようなサービスを作りたいと思われたときに、スマートドライブのAPIやプラットフォームを活用していただければ、簡単に実現できるという世界を目指しています。」

中澤:「実はまさに、保険会社と一緒にこのような高齢者の運転支援サービスを作りたいと考えていたんです。

高齢の親が事故を起こしてしまった時に、その息子や娘まで、その家族全員もフォローができるような。ただ、IDOMでは技術的にプロダクトを作ることが難しい。であれば、強みを活かしてサービスに流入させることに注力すべきかもしれません。私たちはユーザーが一番車のことを真剣に考える査定の場面に立ち会いますが、そのタイミングって保険の見直しや別の提案もしやすかったりするんです。」

北川:「スマートドライブもバリュー・チェーンの全部をカバーしきれませんし、そこはぜひ、協力し合うことでお互いの強みをさらに活かすことができればと思います。」

北川:「スマートドライブがはじめにやっていたのは、テレマティクス保険のデータ分析です。ですので、保険会社さんとのサービス展開においてIDOMさんと三社で新たな取り組みができるかもしれませんね。」

中澤:「IDOMには保険代理店業務もございますので、一緒に新たなサービスを考えて販売するところで活躍できるかと思います。」

北川:「車にデータが取得できるデバイスを装着することで、ドライバーの意識も変わりますし、管理者も運転状況が見えるようになるので、事故率も大幅に下がるんです。その分、保険会社が導入コストを負担して、気軽に使えるようになると、事故を減らしながら情報も集められるようになるかもしれません。」

中澤:「車の損害保険は、一度加入されると切り替えさせるのが非常に困難なものです。

そのため、30代や40代の若いユーザーではなく、彼らのお父さんやお母さん世代、つまり高齢の両親や祖父母の“もしも”を考えて、家族の負担もカバーできる保険を考えてみませんかという提案をしていこうと思っています。そのための条件が『SmartDrive Fleet』の装着です。北川さんがおっしゃるように、事故を未然に防ぎながらも運転データが取得できる。これはユーザーにとっても良い効果を提供できるはずです。」

北川:「実際に提携をしているあいおいニッセイ同和損保では、法人のトラックで『SmartDrive Fleet』を装着した場合、保険料を8%の割引が適用されています。それが個人向け展開できれば、保険料がおトクになるうえ安全意識の向上にもつながりますよね。そこはぜひ、協力しながら実現していきたいと思っています。」

これからの自動車業界は

北川:「先述したMaaSもこれから広がっていくでしょうし、今、消費者の価値観が変わり、車業界全体でパラダイムシフトが起きています。そのあたりについてはどのようにお考えでしょうか? 」

中澤:「車業界に携わっている方々は、今、非常に大きな危機感を抱いています。自動運転、MaaS、シェアリングサービスの台頭…。自動車メーカーはビジネスモデルがガラリと変わっていく姿をまざまざと感じています。それでも挑戦は続けていきたいですね。」

北川:「変革期にある現代において新たなビジネスモデルを構築するためにも、スマートドライブのデータをうまく活用いただければと思っていますし、一緒に手を組みながら、世の中をよくする、消費者にとって意味のあるサービスを提供していきたいです。本日はありがとうございました!」

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