移動による地方創生と活性化

移動による地方創生と活性化

 インタビュイー:

  • 谷本敦彦さま (以下:谷本)
    ダイハツ工業株式会社 コーポレート本部副本部長
  • 高橋啓介さま (以下:高橋)
    株式会社ローランド・ベルガー パートナー  みんなでうごこう!総括責任者

地方が持つアセットにモビリティを掛け合わせる

高橋ローランド・ベルガーは、地方-地域、地域内での2次交通を含めた移動のしやすさを追求し、移動が増えることが人の健康や幸せにつながり、地方-地域と経済を元気にするという考えのもと、2018年10月から初の社内ベンチャー組織として「みんなでうごこう!」プロジェクトを発足しました。

このプロジェクトでは、一つの都市だけでなく、さまざまな地域でそこに暮らす方々との対話を通じながら、生活スタイルに基づいた形でモビリティサービスの社会実験や都市交通機能の強化を進め、街そのものを魅力的に変えていこうと取り組んでいます。私たちとしては、このプロジェクトでただ単純に移動の課題を解決するだけではなく、みなさんが“移動したくなる”きっかけも一緒に作りたいなと思っていまして。「用事がないから車に乗らない」から、「今日は車で出かけてみようかな」というように意識が変われば、人やモノとの出会いが増えて視野が広がり、心も豊かになるでしょうし、それによって経済もまわる。手段としてではない移動の価値を、「みんなでうごこう!」を通じて伝えていきたいですね。

わたしたちは同じ志を持つ「和ノベーションチーム」10社と共同で、遠隔操縦付きの小型EVミニマムモビリティ「バトラー(執事)カー」を「2019 東京モーターショー」に出展します。慶應義塾大学SFC大前研究室よりもアドバイスを得ました。

この車は、特に地方でのちょっとした移動に使う新しい車で、対話や出会いを活性化する触媒やプラットフォームだと位置づけています。地方自治体や企業と提携し、地域における移動総量を増やすことで、地域経済を活性化させることを目指しています。

「バトラーカー」の最大の特徴はゆっくり走ること。昨今、高齢者による交通事故が増えていますが、あえて時速10キロしか出せないように設計したことにより、運転が容易となり、街の景色をゆったり眺めながら、新しい発見をできたり、同乗者との会話も弾んだりするはずです。また、遠隔操縦ができるので、乗り捨てと回収が可能で、次の利用者のところに配車できる機能も装備しています。スタイリッシュな外観にもこだわりました。軽自動車を手放した高齢者の中には、代替の移動手段として電動カートを検討するものの、見栄えが悪い、老人というレッテルを貼られているようで嫌だと敬遠する方もいらっしゃいます。こうした声を踏まえて、高齢者だけでなく、乳幼児を抱えるファミリー層も含めた移動困難者が、誇りを持って楽しく乗れるものを目指しました。

また、開発にあたっては、最先端の技術を駆使することではなく、今ある技術を組み合わせて、安価にすぐに実現できることにフォーカスしました。2019年の東京モーターショーに出展し、最先端の自動運転車の隣にこの‟いつでも、だれでも、何でも運ぶ”ミニマムモビリティを並べて、ありものの組み合わせというイノベーションのアプローチを提案したいと思っています。

谷本:私のミッションは、地方や都市部の生活を豊かにすること、暮らしを支えていくこと。そのために、地域の経済を私たちのようなモビリティで活性化させたいと考えています。
人口が減るとサービスの数も減少していきますが、モビリティ側が協力することで、どこに住んでいても同等の、あるいはより高いサービスを受けることができる環境を提供していきたいのです。地方が持っているアセットと直面している課題をモビリティで解決し、地方の良さを引き立てるというように。

さまざまな観点でフォローをしていきたいと思っていますが、中でも今、注力しているのが福祉介護と農業です。地方には非常に多くの高齢者が住んでいますが、それとともに介護や福祉に関する需要も右肩上がりに増えています。私たちに何ができるだろうかと、5年ほど前から福祉介護の事業者を回り、全国の約2万5,000件の施設を訪問しました。これは自動車メーカー本来の仕事ではないかもしれませんが、そこでは介護や福祉関係で稼働する車が増えたことで、どの事業所も車両の管理が煩雑になっているという問題に気づいたのです。そこで車両管理のサポートをするために、運行管理の仕組みを作り1年前から提供を始めました。

介護の現場では移動や送迎など車での移動が欠かせませんが、車を所有することと運行管理すること自体が大きな負担になっています。それを改善するにはまず、必要以上に車を持たず、車を“使い切る”こと。ただ、送迎計画の作成は簡単ではありませんし、適切な配車をすべて人で対応するには限界がありますので、私たちが仕組みを提供することで福祉介護業界に貢献したいと思っています。

個別介護事業者に対して、送迎計画をはじめとした運行管理を提案してきましたが、個別の事業者だけでは解決できない大きな課題にも目を向けたいと思っています。地域の送迎を共同で実現することにより、個別事業者だけでは解決できない効率的な送迎が出来ないかということです。共同での送迎はハードルが高いですが、実現すれば様々なメリットも見えてきます。

月曜から土曜日まで、日によって利用者数の増減はあるでしょうが、一番大きな需要に合わせて車の台数とスタッフを揃えていては非常に不経済です。だから全体で連携し、カバーをする。そうすればコストも大幅に下げることができます。

現場の最大の困り事は人材不足です。今、大きな問題になっているのが、採用が困難なことや介護離職への対応です。地方ではギリギリの事業者、施設で福祉介護サービスを提供していることもあり、撤退する事業者がでると行政も大きな痛手を受けます。

門外漢ですが、我々自動車メーカーが果たせる役割があるのではと考えています。これまで2万5千の事業者の皆様の声を聞いてきましたが、事業者の皆様の困りごとをまとめ、行政とつなぎ、クルマに関わる仕組みと併せて貢献できればと思っています。

将来の夢

谷本:法律の問題も含めて課題は大きいですが、福祉介護サービスを受けている高齢者を介護サービス終了後にスーパー等へ立ち寄ってもらえるサービスも、粘り強く関係の皆様で調整して将来は実現に貢献できればと思っています。 

弊社の運行管理の仕組みを使ってダイヤを調整し、いろんな施設から出発した車の時間を合わせれば、同じ時間に同じスーパーの一角に集まることができるようになる。そうするだけで、普段、会えない人に会えたり、人と触れ合ったりする機会ができますよね。それって、病院の待合室で会うよりよっぽど健康的じゃないですか?

高齢の単身世帯が増えていますし、人に会って楽しくお話しして、買い物をする。その楽しい時間が脳の活性化につながります。このように、移動の目的そのものを作っていきたいですね。その次のステップが、施設に通わない人が参加できる仕組みを作ること。 

農業の輸出大国を目指す 

谷本:農業は、地方で大事な産業ですが、その担い手が非常に高齢化しています。新たに企業や若い人も参入するようになりましたが、作業効率の良い田畑だけを選んでいる人がおられるのも現状です。私達としては、効率の良し悪しに関係なく、日本の田んぼや畑をこれ以上減らしたくないという思いがあります。農業とダイハツは運命共同体だと思っていますし、農家さんを元気にするためには、農業を支援するのが私たちの使命なんじゃないかって。 

解決のカギとしてドローンの活用を考えています。現在、ドローンを開発しているナイルワークス様と協力して車を作っています。航空母艦のように車が大きなドローンを積んで移動し、どこへ行っても車からドローンが出てくるようにして、そのドローンが自動飛行をして農薬や肥料の散布を行うのです。

農業は労働集約型で一人あたりの負担が大きいですが、技術を取り入れ、モビリティと掛け合わせることで、将来的に一人でも農業ができるような状態にしていきたいと思っています。

肥料や農薬を減らし、生育監視を行うことで品質を向上させること。そして、生育した農作物にエビデンスをつけていけば、農作物一つひとつの品質を証明できますし、消費者に結びつけることでより大きな価値が見えてくる。ある飲食店で定食を食べるときに、口に運んだお米の産地はどこで、どのような育ち方をしたか、誰が作ったのか、全ての情報が可視化される。食べる人も安心ですし、より美味しさが伝わることでしょう。そんな世界を実現できればいいなと思っています。 

今ある資産を掛け合わせて価値の種類を増やす 

高橋:地方創生と言うと、地方自治体や地方の組長さんは「自動運転車を導入したい」など、先進技術への希望を出されがちですが、今そこにあるもので解決すべきなんじゃないかと思うんです。

 

谷本:私も同じ意見です。「自動運転ができるようになったら嬉しいよね」というようなことを議論しても、導入にはコストもかかりますし法整備なども含めて考えると実現できるのはまだまだ先。だからこそ、今そこにある資産で、今できることをやるべきです。アセットというカードは全部そろっていますので、それらを組み合わせるだけで新しい価値が生み出せるはず。

そこで何よりも大事なのは“人”です。つまり、人の気持ちを引き出す仕組みが必要になりますので、そこが最重要ポイントになってくる。 

どこかでスイッチが変わると、ゴールドラッシュのように地方が優位になるでしょう。地方には蓄積してきたアセットがあります。今ある資産をどう組み合わせるか。増やすのではなく、効率的に使い切ることを考えるべきです。

総量を変えず、アセットを掛け合わせて効用の種類を増やしていけば、自ずと価値の種類も増えてくるじゃないですか。 

たとえば、地方の大規模な夏祭りや花火大会は県外からも大勢の人が訪れますが、宿泊場所も少ないですし、みなさん一斉に帰り出すのでいつも大渋滞になってしまうでしょう。私達が貢献できる部分も大きいと考えています。車を地域のアセットのエクステンションにするだけで世界は変わります。どの地方もピークに合わせてホールや施設を作るわけにはいきませんから、需要のピークに合わせてモビリティを活用するべきです。

アイデアを生むには先入観を捨てること

車に限らず、「これは、こう使うべきだ」という固定観念に囚われる必要はありませんよね。

谷本:「車=移動するための手段」と思い込んでしまうと、新しいアイデアが出なくなります。都内のカーシェアでは、終電を逃した人が朝まで仮眠するために車内で寝たり、都心のカーシェアでは大きなコインロッカー代わりとして物の受け渡しに使ったりしている。要は、アイデア次第で車は動かなくても価値があると示すことができるのです。

高橋:実際に、タイムズで借りられた車の1~2割は動いていないそうです。その中で何をしているかと言うと、電話会議したりとか、お弁当を食べたり、仮眠したり。

谷本: それに地方には風土や地方の特性、文化を大事にした催しがいくつかありますが、それらを年間のイベントカレンダーの中で分散させて、メリハリをつけ、人が集まりやすいようにしてもいいわけですよね。収穫を感謝する秋祭りは神輿や山車で賑わい、ダイナミックかつ本当に素晴らしいのですが、全国的にはあまり知られていないものも少なくありません。

高橋:残念ながら、国内の祭りや花火の数はどんどん減っていますよね。警備や高齢化など、多くの問題があるからでしょうか。

谷本:ガードマンを雇うとお金がかかりますしね。ならば、みんなでやればいいんです。そうした気持ちに対して、ちょっとした知恵とちょっとした外からの支援があれば、地方も変わるのではないでしょうか。地方にはまだまだ多くの宝が眠っています。なのに、地方に住む方たちは、もったいないことに自分たちが住んでいる場所の素晴らしさに気付いていないようですから、うまく伝えてあげるべきでしょう。

地方と都市との違いは、人と人との距離感。見ず知らずの人が多いのが都市で、見ず知らずの人が少ないのが地方。ご近所さんと会うと必ず声をかけてくれるとか、気を使ってくれるとか、人の温かさを感じることができる。目に見えるアセットではありませんが、地方が持っている独自のカルチャーってあると思うんですよ。人間関係があまりにも濃密すぎると時に鬱陶しく感じることもあるでしょうが、適度な距離の知り合い感っていいですよね。そういう温かさや魅力をもっと引き出し伝えていければと思います。

未来の移動を変えるのは「共存」 

スマートドライブは「移動の進化を後押しする」という会社のビジョンを持っています。移動の進化が起きて、新しい世の中が訪れるのは30年後かもしれない。どんな世界になっているかはまだ想像もつきませんが…。何かの技術を開発するのではなく、そうした世界を5年でも短縮できたらいいねというのが私たちの考え方です。

先ほど、資産をカードに例えた話が出ましたが、それぞれが持つカードを有効に使っていけるような場所を提供したいと思っています。

谷本:その世界を実現するには、共存が重要になってきます。リソースが足りないならば、工夫をすればいいだけです。ただ、共同送迎の話と一緒で、一番問題になるのはコスト面。「その果実をどう分配するか」で喧々囂々となるでしょう。しかし、カードをプラスしていけばネガティブではなくポジティブな方向に進んでいくのだから、その中でルール決めをするだけの話なのです。

小さくなる果実をわけるのではなく、果実を大きくし分配する。そう考えればみんなが納得して回っていくはず。もちろん、お金以外の面も価値として評価しながら回していくことが必要です。わかりやすい評価はやはりお金になりますが、現物で提供するもの、市民にサービスとして提供するものなど、有形無形の複数の通貨がその場所で回っていく仕組みを作らなければ、理想とする絵柄を描くことはできないでしょう。

そこで大事になるのがタウンミーティング。つまり、一緒に食を共にすることです。気を許せる時間の中でそれぞれに本音を語り合う、それが心を一つにしていくことになるのではないでしょうか。今までは敵対して、シェア競争をやっていたかもしれませんが、シェア競争をするとデフレになります。今はみんなで拡大していく方向へ向かうよう、足並みを揃えるべき。その中で、ダイハツとしては、どうやって嬉しさを最大化して維持するのかを追求していきたいですね。

 

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