【対談:前編】ヒトもモノもつながることが新たな価値を生む– IoTが描く未来図

【対談:前編】ヒトもモノもつながることが新たな価値を生む– IoTが描く未来図

人の価値観、多様化、そしてテクノロジーの急激な進歩により変わってきたビジネスの環境。社会がめまぐるしく変化しつつある時代において、企業も短期間で変化を求められるようになっています。
そこに変革をもたらす要素が、IoTやAI、ビッグデータの活用です。今回、ゲストとしてお招きしたのは、数々のプロジェクトにコミットされてきた、株式会社ローランド・ベルガーで代表取締役社長を務める長島 聡樣。ローランド・ベルガーは、1967年にドイツのミュンヘンで設立された製造業に強みをもつ経営戦略のコンサルティングファームです。国内外、さまざまな企業の変曲点に立ち会い、共に歩み、戦略を実行してきた長島様から見た、IoTの可能性とは?

大事なのはコンセプトの先を描くこと

北川:「長島さん、本日はお時間ありがとうございます。早速ですが、まずは長島さんのご経歴をお聞かせ頂けますか。」

長島:「こちらこそ宜しくお願い致します。私は、大学院修了後に早稲田大学理工学部助手を経てローランド・ベルガーに入社をしました。そこで流通業、物流、人流といったサービス業から自動車や機械、化学、医薬品、ハイテクなどの製造業に至るまで、幅広いクライアント様とお仕事をしてきましたが、2010年ごろからだったしょうか。研究開発なども含め、機械や電気など製造業の工場に関する案件がぐっと多くなってきました。さらにデジタル化の波とともに、最近ではものづくり企業の変革の仕事が増え、メーカーが新しい事業に踏み出してそれを事業の柱にするまでを並走させていただいております。私たちのお仕事は、具体的な新規事業の中身からマインドセット、新しい事業を興す際の総合的な支援です。」

北川:「提供しているサービスは違いますが、お話を伺っているとカバー領域やお客様の業種がスマートドライブと近いですよね。中には『IoTは、つながればなんとかなる』とお客様から思われている場合もありますが、IoTはただつながるだけでは意味がありません。重要なのはお客様と一緒につながった後の未来図を描き、インプリメンテーションしたり、会社のカルチャー自体も変えていくなど、長島さんがお話されたような、その先の実装フェーズが非常に大事であると感じています。」

長島:「大企業のクライアントでプロジェクトを進める際に注意しているのが、単発の事業アイデアやコンセプトづくりは既存の事業に埋もれてしまう危険性があることです。それを回避するには、細かく分かれたコンセプトを5〜10ほど集めて、ポートフォリオとして束ねた形でプロジェクトを推進していかねばなりません。そうしなければ、砂漠に水を撒いたら一瞬で乾くように、できあがってもすぐに埋もれて、消えてしまうんです。
ですので、どのプロジェクトでもそれなりにインパクトのある事業性に仕立て、目指すべきお客様価値にフォーカスして進めるようにしていますね。」

IoTの有効性を”見える化”するために

北川:「最近は世の中の潮流が変わり、全体的にIoTやインダストリー4.0への興味が高まっています。少し前と比べてそうした会話や情報も増えてきた印象ですがいかがですか。」

長島:「非常に増えましたよね。当初はとにかく繋ぐことに注力されていましたが、時間とともにさまざまなケーススタディが出てきたことで、目的を持って望むことを実現するには何と何を繋ぐべきかということに焦点があてられるようになりました。データをたくさん取得すればいいという当初の考え方から一転、このデータをこう取得すればこのような価値が生み出せると、一歩先へ踏み出す方が相当数増えています。
昔はIoTの費用対効果がマイナスだったのですが、今はしっかり効果を生み出せるようになっているのです。これは大きな進歩ですよね。」

北川:「IoTはものすごく雑に言うと、まずは可視化して、その可視化した情報を活用して、それができたらプロセスを自動化して、その後将来を予測し、最後にそれに基づいて制御する、という5つのフェーズがあると思っています。しかしながら、まだ何もできていないところから、初めから4つ目の予測する、もしくは最後の制御するフェーズを目指される方が多く、導入したけど意外と成果が出ないと言われることがあると思います。
ほとんどの企業では最初の3つのフェーズで事足りることが多いですし、本当の意味で有効活用していただくためには、技術のレベル感やフェーズ感を意識してお客様のゴール設定を作らなくてはなりませんが、意外とその設計が難しい。その重要な設計部分、世界観をローランド・ベルガー社に作っていただくことによって、スマートドライブとうまくかみ合うのではないかと思っています。」

長島:「そうですね。最近、私たちが新しい事業やポートフォリオの考え方も含めて大事にしているのが、“あり物(現時点で持っているサービスや技術)”を組み合わせて発進し、すでにある“1”の状態から少しずつステップアップさせるという手法です。
0から突然大きなものを作るのではなく、今あるものを組み合わせて小さくてもなるべく早く立ち上げる。そして半年後、一年後までに、新しいあり物を加えて最初に出した物を少しずつバージョンアップさせていく。スピード感をもって行動に移す理由は、競争優位性の確立です。いいものを作ることは大事ですが、完璧なものを目指せば目指すほど、あれもこれもと時間だけが無駄に過ぎ去ってしまい、他の誰かが先に行動を起こしてしまうからです。
メーカーは完璧主義な方が多く、それはもちろん素晴らしいことですが、『ここまでやらないと製品としてリリースはできない』だと、一向にコマは進みません。その殻を打ち破り、とにかくはじめることこそが大事な一歩になるんです。そこから短期間でPDCAをまわし、ニーズと照らし合わせて何が足りないのかを足し算や引き算し進化させれば、自ずと良いものができあがります。そうした流れの中で私たちがやるべきは、ストーリーを設計しつつ、並走すること。並走しながら徐々にマインドセットを変えていき、お客様が少しずつ前に進んでいることを実感できるような演出できたら最高ですね。」

埋もれた出会いをプロデュースした先で生まれたもの

北川:「ドイツ企業をはじめ、外資系の企業はそうした演出がとても上手ですが、日系の企業は割と不得手なんじゃないでしょうか。IRに記載されているような、ビシッと揃ってカチっとしたものを作って、いざリリースしたらニーズがないということも少なくはないはずです。長島さんが携わっている案件の中でそのようなギャップを経験されたことはありますか?」

長島:「ヨーロッパの場合は、決裁権を持っているのがトップの人だけなんですね。トップがスパッと決断し、そのままトップの考えたことが実装されていく。日本は取締役会もそうですが、現場の人たちが考えて決めることが多い気がしますね。ただ、時間を必要以上に長くかけすぎる傾向があって、期限を決めないと時間ばかりが経っていく。もちろん、考える時間が長ければ良いものになる可能性はありますが、考えれば考えるほど完璧すぎるほどの絵柄ができてしまって、いつまで経っても世に出ないということが起きます。どちらも一長一短はあるんです。ドイツは決裁からリリースまでスピード感はあるけど、それに反して現場の人たちが育っている感じがしません。そう考えると、時間を区切って議論をしつくし、収束させるように進めていけば、日本の方がいいものができるんじゃないかと思いますね。」

北川:「日本人の気質かもしれませんが、車ひとつをとっても細部に至るまでクオリティは高いですよね。日本はまだまだポテンシャルを秘めているので、進め方やマインドを変えるだけで、もっと世界が驚くような素晴らしいものができる気がするんです。」

長島:「私はドイツも日本もどちらも見てきましたが、ものの突き詰め方や視点はやはり日本の方が高度です。
たとえ誰もが使えるものでなくとも、価値がわかる人に届けば非常に大きな威力を発揮するものが多い。ただ、そうした要素技術を持っていても、現状では価値の見える化ができていません。こだわりのある人が自分の言葉で話すので、話が難しく聞こえてしまうのです。そういう状態だから流通もせず、長らく使われないままなのに、その裏ではまだ磨いている人がいる…という状態。そういうケースが意外とありますね。
ニーズがマッチして出会うことができれば、絶対前向きな方向へ変わります。ローランド・ベルガーでは埋もれた出会いをプロデュースすべく、中小企業庁とも一緒にお仕事しています。」

北川:「スマートドライブでもそのマインドの部分が非常に重要だと認識してはいますが、極めて困難なところでもあります。たとえば、セミナーやイベントでお話しすると、みなさんうっすらと意味は理解していただきつつも、実感値として理解していただけるには結局3年ぐらいかかってしまうんです。
とはいえ、真の価値を理解してもらうためにも、マインドを変えていくことは一番大事にしなくてはならない部分です。インダストリー4.0のようなコンセプトを作り、いろんな人を巻き込みながらマインドを少しずつ変え、プロジェクトを推進していく。マインドセットの醸成はローランド・ベルガー社の強みでもあり他社にない価値ですよね。」

長島:「ありがとうございます。私たちも様々な価値の種を提供していきたいと思います。各プロジェクトを進行する中で、最近一番必要な機能になっているのが翻訳機能かも知れません。そもそも、会話ができなければ、それぞれが持っているものが流通しません。たとえば、大学・ベンチャー起業・大企業がいるとしましょう。接点も繋がる場所もなければ、お互いに会話することができませんよね。各々のニーズを理解し、そこを私たちがどうつないでいくか。お互いの置かれた立場を捉え、最初の理解の出発点をどう高めていくかを大事に翻訳しています。」

北川:「それが社内ベンチャーの発足の背景ということですね。」

>>後編へ続く

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