5Gで大きく変わる「クルマの未来」

5Gで大きく変わる「クルマの未来」

2019年9月からプレサービスが始まり、東京オリンピック・パラリンピックまでには本格導入が予定されている、次世代移動通信システム「5G」。4G・LTEでは2時間映画のダウンロードに約5分かかっていましたが、5Gはわずか3秒でダウンロード可能になるというスピード感に注目が集まっています。導入によって、今よりもっとネット環境が快適になることを期待している方も多いと思いますが、実はこの5Gこそ「クルマの未来」を大きく変える存在でもあるのです。

今回は5Gとは何か解説したのち、その普及によって自動車を含めたモビリティ業界がどう変化するのか、国内外で進行中の事例を交えて考察します。

5Gは何がすごい?

 

5Gとは「5th Generation」の略称で、IoT機器やデバイスの普及と進化、送受信データの大型化により通信トラフィックが年々急増している現在において、通信速度の低下や遅延を防ぐべく、韓国・米国ではすでに一部運用がスタートしている次世代通信システムです。日本が理事国として運営・管理に携わり、国連加盟国のほぼすべてが参加している「国際電気通信連合(ITU)」によれば、以下の3要素を満たすことが5Gであると定義されており、それぞれ4Gからの進化に対する「目標値」も示されています。

 

  • eMBB(高速大容量)・・・1Gbps→20Gbps(20倍)
  • URLLC(高信頼低遅延)・・・:10ms→1ms(1/10)
  • mMTC(同時多接続)・・・10万→100万(1㎢辺り・10倍)

 

また、5Gでは従来使われてきた6GHz以下(サブシックス)の周波数帯に加え、28GHz帯といった周波数リソースに余裕がある高周波帯(ミリ波)の使用が予定され、現在基地局の整備や対応デバイスの低価格など、普及に向けた動きが急ピッチで進んでいます。

モビリティー業界における5Gは何を意味するのか

 

通信には下り・上りの2方向が存在します。現在移動モバイルに採用されている「4GLTE」では、サイト閲覧や動画・音楽試聴といった「下り通信」の速度が満足できても、YouTubeへの動画アップロードなど「上り通信」の速度に、不満を持っている方も多いはずです。

上りにしろ、下りにしろ、インターネット利用の場合はカクカク動画や、なかなかアップされない時間ロスにイライラする程度で済みますが、レベル4以上の自律運転車の場合はそんな悠長なことを言っていられません。

人が一切の運転タスクを行わない自律運転車は、搭載されたセンサーが周囲の状況を検知し、アクセル・ブレーキ・ハンドルなどをAIの判断で制御することで、安全かつスムーズに走行します。しかし、イレギュラーな事態発生時への安全性を高めるためには、周囲を走行する他の交通や信号、さまざまな情報が蓄積されたサーバーなどと常時通信し、相互にデータをやり取りしなければならないのです。

この時、サーバーがパンクして通信が途絶えたり遅延したりしたら…?交通事故を減らすため生み出された自律運転車が、制御不能の「走る凶器」となることは想像に難くありませんし、レベル4以上の自動運転に対する法整備が困難なのも、ここに大きな理由があります。

米インテルの試算によると、高レベルの自動運転車が1日に取り扱うデータ量はなんと4TB。搭載ユニット内で処理されるデータもあるため、すべてが通信されるわけではありませんが、秒単位で変化する交通状況を鑑みると、相当量の情報を素早く送受信できる環境が必要です。加えて、渋滞時は5Gの低遅延性や同時多接続能力が重要になりますし、2018年4月にはNTTドコモが時速305kmで走行する車に搭載した5G移動局と、コースに設置した基地局間でのデータ伝送に成功しているため、高速道路での運用も十分可能と言えるでしょう。

ただし、増加しているとはいえ従来の移動通信モバイル数はすでに飽和状態で、よほどのヘビーユーザーでない限り現行の4G・LTEで、十分快適なネット環境を得られているでしょうが、ここに「走るスマホ」へ進化した未来のクルマが加われば話は別です。もしかすると、5Gという次世代通信は、不便ささえ我慢すれば事足りるスマホやタブレットではなく、自動運転技術のレベルアップと普及、安全性の向上に熱心なモビリティ業界にこそ必要不可欠なシステムなのかもしれません。

5Gが普及したらモビリティはどうなる?~実証実験から見えること~

 

5Gは高精細な4K・8K映像のデータ伝送や、製造プロセス全体を最適化するスマートファクトリー、ロボットアームを使った遠隔手術など、少し前なら夢物語とも思えた世界を実現する新たな社会インフラとしても期待されています。予定通りに導入が進めば、私たちの生活にさまざまな影響を与えると考えられますが、企業や行政は5Gをどのようにモビリティへ組み込もうとしているのでしょうか。国内外で実施されている取り組みをリサーチしてみました。

KDDI:公道での5G自動運転車実験走行に成功

2019年2月9日、KDDIはソフトウェア開発会社・アイサンテクノロジーなど5つの企業と名古屋大学とともに、愛知県一宮市で「ある自動運転」の実証実験を行い、公道での安全なテスト走行に成功し話題を集めました。

片道一車線の対面通行の道路で、場所によってはギリギリすれ違いが可能といった比較的難易度が高い環境の下を、ドライバー不在の自動運転車が実用にほど近い「時速30km」で走行するのは国内初のことです。

そして、本来は時速20kmまでしか認められていない、公道での自動運転実験が許可され、成功に終わったのは、5Gの特徴である「高速性&低遅延性」が発揮されたからに他なりません。実は、公道を使って無人の自動運転車で走行実験を行う場合、不測の事態に備えて遠隔操作できる管制室を設け、最低1人遠隔操作オペレーターを常駐させること、そして有人運転時ドライバーが見ている映像を超高画質でオペレーターも見ることができるようにしなくてはならないのです。

つまり、無人自動運転車にシステムエラーが発生した際、管制室のオペレーターが送信されてきた映像をもとに、危険を「手動」で回避できる遠隔監視・操作システムが実装されていなければ、現行法では実験許可すら下りないように定められています。そして、最も重要視される必要がある危険察知から停止するまでの「距離」に関し、警視庁は下表で示すガイドラインを定め、厳しく規制しているのです。

人が運転している場合、危険を感じて急ブレーキが必要と判断しペダルを踏み込んでブレーキが効き始めるまでの「空走距離」に、車が完全停止するまでの滑走距離である「制動距離」を足したものが「停止距離」です。一方、無人自動運転車の場合は、次の流れで停止します。

1. 搭載されたカメラから映像が管制室に送信
2.オペレーターがブレーキを踏みこむ
3.「止まれ」という司令が実験車両に到達

2は有人車両と同じですが、1と3は遠隔操作だからこそのタイムロスとなり、必然的に停止距離が伸びてしまいます。

性別や年齢、運転歴などで異なりますが、一般ドライバーの反応速度は約0,75秒で、時速20kmを秒速換算して空走距離をはじき出すと約4,125m進む計算になります。さらに、同車速で道路とタイヤコンディションが良好な場合、制動距離は約2mになりますから、ガイドラインに記載された停止距離の6,42mをクリアするには1と3に要する時間をコンマ単位に縮める必要があるのです。

KDDIは昨年5月、福岡で今回と同じような自動運転の実証実験を行いましたが、この時は現行の4G・LTEが採用されていたため通信速度に制限があり、結果として時速15kmまでしか許可されていませんでした。しかし、今回の実験では4Gから5Gに変えることで、数値上で10倍もの大容量・高精度映像をより短時間で送ることができ、前述した1に要する時間が大幅に短縮されたほか、低遅延性が功を奏し3についても、ほぼリアルタイムと言える操作反応性を実現しました。

今実験に先駆けて実施された「テスト前テスト」では、時速40kmでの走行に成功していたものの、今回は安全面を考慮してひとまず時速30kmでの認可となったのだとか。時速15kmと言えばちょっと早めの自転車程度、オリンピッククラスのランナーならフルマラソンを時速20kmで駆け抜けていきますが、時速30・40kmになれば人の力だけで到達することがほぼ不可能なレベルです。

無人自律走行車が現在の車同様の速さを有し、便利で安全なモビリティであり続けるため、ひいてはMaaS社会の中心的存在として「コネクティッドカー」へ進化するためには、5Gの活用が必要不可欠であることを如実に示す実証実験となりました。

国も民間も一挙両得?全国の信号機か5G基地局化!

5Gが切り開く未来の社会の可能性に国も着目しており、政府は全国にある信号機を5Gの基地局向けに開放する方針を「IT戦略(世界最先端デジタル国家創造宣言)」へ盛り込み、2019年6月14日に閣議決定しました。

全国に約21万基ある信号機の空きスペースを有効活用し、安価かつ迅速にインフラを整備することで、5Gを巡る国際競争力の向上を目指すことが主たる目的です。5G電波を割り当てられた携帯4社は、4G基地局を設置する場所に5G基地局を併設していく計画ですが、都市部ではビルの屋上など設置に適した場所は飽和状態であるため、信号機を活用できるのは願ったり叶ったりのはず。

また、通信機能のある信号機は現在30%程度に留まっていますが、5G基地局はそのまま信頼できる通信網として活用できるため、この施策が全国に広がれば災害時の被害・避難・安否情報などの広範囲にわたる伝達がスムーズで確実なものになります。そして、すべての信号機が通信機能を有するようになれば、周辺の交通情報を収集・送信することで自動運転の早期実現にも弾みをつけられるため、政府・自治体・通信業界・自動車業界のみならず、私たち国民にも恩恵をもたらす有益な施策と評価できるでしょう。

今後は総務省や警察庁が中心となり、携帯キャリアや自治体などと具体策について協議を進め、サービス提供が始まる来年度春から順次実証実験を開始、2025年度には全国展開を完了させるとしています。

可能性は無限大!「5G×自動運転」で創造される未来とは

 

運転免許を持っていない。免許を返納して運転ができない。自動車を保有していない。そうした方でも、スマホを操作すればすぐに自律運転モビリティが自宅までやってきて、離れた場所にある病院やスーパーへ送り届けてくれる。また、災害時に交通手段を失った被災者の方々を、5G通信で得た道路・被害状況をもとに、安全かつ迅速に無人シャトルバスが避難場所へ導いてくれる。高速大容量・低遅延・多接続が持ち味である5G通信をフル活用することで、自動運転の安全性と公益性は向上し、このような未来が実現します。

法整備や事故発生時の責任の所在など、クリアすべき課題はまだ多く、自動運転車が公道を走り回るのはまだ先の話になりそうですが、KDDIの実証実験成功でもわかる通り、技術的に路線を限定したレベル4相当の自律運転導入はかなりの現実味を帯びてきました。そして、車にモビリティとしてだけではなく通信モバイルとしてのスピードを与え、無限の可能性を秘めるシームレスな「サービス」に進化させる、絶大なパワーを持つのが「5G」なのです。

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