【対談】地方こそITの力が必要だ―社会問題解決のカギは“掛け合わせ”にあり 後編

【対談】地方こそITの力が必要だ―社会問題解決のカギは“掛け合わせ”にあり 後編

前編ではAIとIoT、そして地方とテクノロジーの掛け合わせによる効果や可能性について、株式会社Cogent Labs(以下、コージェントラボ)の保科実(ほしな・みのる)さまにお話いただきました。後編では、さまざまな掛け合わせによってスタートアップが提供できる価値や社会的な意義についての話題に対談がさらに加熱。二人の熱い思いが詰まった後編をお届けします。

より良い社会を描くために〜技術同士の掛け合わせ〜

北川:「最近ではMaaSが話題になっていますし、色々な企業が取り組んでいますが、そもそもそこで暮らしている人たちが普段からどのように生活や移動をしているのかを理解しなくては、空振りで終わってしまいます。ですので、スタート地点に立つには、まず多くのデータを取得し、現状と問題点を理解することから始めなくてはなりません。」

保科:「現在、車両に関する情報はOBD2で取得していますが、ゆくゆくは個人のスマホからすべての移動にまつわる情報が取得できるようになると思っています。その方が、車から電車・バスなどの公共機関、自転車などあらゆる情報を集めることができますし、動画や画像、もっといえば音声から入ってくるテキストの情報も活用できるようになります。そしてそれらのデータを統合することで、地域の見守りや買い物弱者を手助けする訪問販売、高齢者の安全運転支援など、今、生活するうえで問題となっていることが解決できるのではないでしょうか。

今後、スマートドライブとコージェントラボで開発されていく技術を掛け合わせることができたら、より面白いことができるでしょうね。」

北川:「現在、個人向けのサービスとして、高齢者の運転見守りサービス『SmartDrive Families』を提供しています。ここ何年も高齢者による交通事故のニュースが絶えませんし、そうした流れによって高齢者が危険運転をしていたら即時、免許を返納すべきだという風潮になってしまった。しかし、地方で暮らす高齢者にとって、車は買い物や病院へ行くために必要不可欠な移動手段であるほか、友達や仲間との集まりなど、行動範囲を広げて毎日を豊かに過ごすための重要なツールでもあるのです。

そのため、急に運転をやめたことで引きこもりがちになり、認知症が加速してしまったというケースも少なくはありません。原因は、運転を辞めた事によって、見る・聞く・判断する・操作する、集中力と頭を使う作業が減ってしまうからです。いつかは返納すべき時がくるかもしれませんが、それでも生活の一つとして組み込まれたものをすぐに取り上げるのは酷なこと。普段の運転状態を見て、異変がないか、今どこにいるのか、急操作がどれだけ発生していたか、家族が総合的に見守り、運転を客観的に判断できるサービスが必要だと思い、開発をしました。

今後は、車以外でのさまざまなデータを総合的に取得・分析して、一般のユーザーにベネフィットを提供していきたいと思っています。」

保科:「最近はスマート家電が一般化され、ヒトとIoTとの接点がますます増えてきましたよね。デバイスはさらに多様化していくでしょうし、そうすることでより多くの情報を集めることができるようになります。それを元に、今複雑で解決できない問題があっても、近い将来、解決できるようになるのではないかと思っています。そういう所に私たちのテクノロジーを活かすことができればありがたいですよね。」

パートナーエコシステムが社会的な価値を増大させる

 

北川:「コージェントラボの事業でTSF (Time Series Forecasting)という予測エンジンがございますが、潜在的なリスクを発見することも可能なのでしょうか。」

保科:「今のTSFのアルゴリズムだけでは難しいかもしれませんが、そのアルゴリズムに様々データをうまく掛け合わせ、最適化していけば、IoTから入ってくる情報で人の行動予測も行えるようになります。」

北川:「スマートドライブでは、日常の運転データから行動分析を行っていますが、他社との連携によってさらに枠を広げていきたいと思っています。たとえば、家電の利用状況から『毎日この時間に出かけていたのに、最近出かけなくなった』とか『テレビを●時につけたままだ』といった情報がわかるようになると、異変や健康の変化にすぐ気付くことができる。それが、地方で暮らすひとりの高齢を守るための術になるのではないかと。」

保科:「地方では、企業や自治体が防犯や安全確認を目的とした見守り事業やネットワークを拡大していますし、超高齢化社会に突入しているため、今後も需要は増え続けるでしょう。現在の一般的な見守りサービスは、買い物や宅配荷物を届けるためにお宅へ訪問した際、『体調はどうですか』と声をかけるというものがほとんど。そのほか、異変に気づいたら区や市町村へ連絡するなどありますが、あくまでそれは目の届く範囲でできることに限られます。

今までは可視化できなかったような情報をビックデータとして分析し、誰にでもわかりやすい形で可視化されるようになれば、老若男女、地方で暮らす、すべての人にとって生活しやすい環境が整備されていくかもしれません。

少子高齢化、人口減少など多くの問題を抱えながらも、地方の企業が、私たちが提供するようなテクノロジーを活用して効率的に仕事をこなし、継続的に経済活動を行えるような基盤を作る。そうあるべきだ、そうでなくてはいけないと奮闘している地方の企業様も多くいらっしゃいます。彼らを支えるためにも、私たちが持つ最先端のテクノロジーやサービスが地域や社会に貢献できることはまだまだあるはずです。

ただ、これらの社会問題は根が深く非常に複雑です。地方の一社のみだけで解決できるものではありませんので、パートナーエコシステムという形で互いに協力とフォローができる仕組みを築いていきたいですね。そうすれば、私たちコージェントラボが提供できる価値がより社会的に意味のある価値へ変わっていくと思います。」

北川:「“組み合わせる”ことが重要ですよね。私たちが解決できることと、地方の企業や人ができることを掛け合わせれば、必ずどこかで100になりますから。スタートアップのいいところは、特化している分野を持ちつつ、柔軟性や機動性があるのですぐに動き出せることですし。」

保科:「ゴールは地方にカッティングエッジなテクノロジーであるIoTやAIを浸透させ、根付かせることです。

こうした新たなテクノロジーは、資本のある大企業が活用して磨かれていくことが多いのですが、ある程度磨かれたら、そこから先は中小企業や地方の企業・人が普段の生活や仕事の中で当たり前のように使えるようにならなくては意味がありません。私たちもまだ道半ばですが、10年後には当たり前だよねと言えるようにしたいですし、そこを目指しています。」

スタートアップとスタートアップの協業はポジティブ効果を生む

北川:「競合する部分もあるからか、実はスタートアップ同士でもコラボレーションを避ける企業は少なくありませんよね。しかし、たとえ被るところがあっても、コラボレーションによって提供できる価値が3倍になれば、仮に取り分が半分になっても1社で提供するよりも、結果はポジティブになるんです。それぞれが強みやできることを持ちより、コラボレーションしていけば、みんなの力でもっと地方の課題を解決できるはず。そういう風潮がもっと広がっていってほしい。」

保科:「私たちがまず一番に考えるべきは、お客様にどんな価値を提供できるか、この先、何を提供できるかということ。それを念頭に置いたうえで、スピード感とスケーラブルを維持するためには、競合云々ではなくエコシステムが重要なのだと気づかなくてはなりませんしね。」

北川:「スマートドライブが提供しているサービスは、まだ市場が開拓しきれていませんので、競合ではなく協業していくべきだと思っています。」

保科:「最近は大手企業でも、争う競争ではなく、共に創る”共創”という考え方へとシフトしつつあります。今までと違い、自社だけですべてを完結するAll in Oneのパッケージではなく、テクノロジーの進化や可能性に追いつくためにも、尖ったソリューションと連携しながらバリューを出す方へと意識が傾いているんです。スタートアップではできないことを大手企業とも手を組みながら広げていく方がリアリティがありますし、課題を解決する最短ルートになると思うんです。」

北川:「保科さんのように、既存のパッケージソフトをクラウド化することを推し進めてきた方が、現在、スタートアップ企業でそうした流れを作ってくださると、本当の意味での産業が立ち上がっていくのではないでしょうか。」

保科:「ありがとうございます。日本国内のスタートアップは、欧米や他の先進国と比べてポテンシャルを発揮できていないというのが一番の課題。本来であれば、そこで成功をしてどんどん海外に出て活躍してほしい。私個人としては、そのサポートが少しでもできればと思っていますし、それがやりがいだと感じるところです。」

北川:「そういう点でも、今まで数々の企業で実績を残されてきた保科さんが、スタートアップ側の立場に来て頂けるというのは、非常に意味があることだと思っています。」

スタートアップの成功者が次の成功を導く。成功の連鎖を作ろう

北川:「最後に、スマートドライブに対して期待することやご要望はございますか?」

保科:「先ほども触れましたが、国内のスタートアップを活性化させるには、もっと多くの成功事例が立ち上がっていかなければなりません。そして、その成功体験をもとに、成功者が次の世代のスタートアップをサポートするという循環を作り、日本でスタートアップが創出しやすい環境を作っていただきたいですね。

たとえば、経験はないけど、強い思いを抱いて起業しようと奮起している経営者の卵がいるとしましょう。そうした方がいたなら、資本だけで支援するのではなく、彼らの意志や思いが確実に成功を掴めるまでサポートできるような体制を作ることの方が大事なんです。それは人的なサポートかもしれませんし、経営に関するアドバイスかもしれませんが、そういったサポートができる人がスタートアップの成功者から出てくればいいなと思っていますし、その一人になってほしいと思っています。」

北川:「そこを目指して、まずはスマートドライブががんばります。また、その話を聞いてパッと思い浮かんだのですが、海外の経営者を見ていると、ビジネスで成功したお金を社会に還元するなど、単純なベンチャー投資だけでなく多方面にアクションを起こしている印象があります。」

保科:「セールスフォース・ドットコム(以下、SFDC)には、スタートアップに投資するSalesforce Venturesがありますが、ベンチャーが成功していくための経営のノウハウや社内システム、アライアンス等のサポートをしています。アメリカで言うエンジェル的なサポートをしていくことで、成功の循環を作っているのです。SFDCもオラクルも、会社の立ち上げ時にはそういうサポーターがいたからこそ成功しました。だから今、サポートの立場にいる。日本でも同じように、資金だけでなく、成功者が経験も含めてサポートしていけるような環境を作りあげたいですし、そういう志を持った人を支援していきたいですね。

これからデバイスはもっと多様化していきますし、IoTやAIに特化した企業や新しいビジネスモデルを考えている企業をサポートしていく。スマートドライブと北川さんにはその先駆者になってもらいたい。期待していますよ!」

北川:「まだまだ成功には程遠いですが、まずは私自身がしっかり努力をして、次のスタートアップや世の中に還元できるように頑張ります!本日はありがとうございました。」

 

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