天才ハッカー率いる「Comma.ai」が開発した、普通の車を自動運転車にするキット

iPhoneやPlayStationのハッカーとして海外では有名な”ジョージ・ホッツ(英語:George Francis Hotz)”氏。

ホッツは発売されているデバイスの権限を解除(ジェイルブレイク)することを得意とし、iPhoneであればApple社に認可されていないアプリを使用できたり、PlayStationであればゲームをコピーしたDVDやBlue-rayを起動することを可能にしてきました。

そんな天才ハッカーが立ち上げたのが「Comma.ai」という企業です。Comma.aiは他の企業が開発した自動運転AI(人工知能)システムをハッキングし、より精度を高めるといった活動を実施。自動運転はアメリカで最も期待されている技術なので、ホッツの今後の動向が業界でも注目されています。

今回は自動運転を可能にする「自動運転化キット」開発の取り組みが、海外ではどれだけ話題となっているかをご紹介したいと思います。

 

天才ハッカー  ジョージ・ホッツ

Photo credit: SHAREconference

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ホッツが有名になったきっかけは2007年にiPhoneのジェイルブレイクを達成したこと。

ご存じの通りAppleが開発しているiPhoneのセキュリティは業界でもトップクラスの強度を誇ります。もしデバイスの権限が解除されれば、SIMロックの解除や違法ソフトをインストールできるようになるため、Appleに不利益になるどころか他の企業にまで被害が及んでしまうからです。

しかも当時高校生だったホッツがジェイルブレイクに成功。その若さから「天才ハッカー」としての地位を確立し、Appleの元CEOであるスティーブ・ジョブズ氏と考えが似ていることから熱烈な支持を集め出します。

デバイスのハッキングは重大な犯罪行為ですが、ホッツのプログラマーとしての手腕が一部の大手IT企業やハッカーに認められ、アメリカの国内ではカリスマ扱いされるまでの人物として注目を集めました。一歩間違えば刑務所に入れられていてもおかしくない人ですが、才能を素直に称賛するアメリカらしい傾向でもあります。

ホッツはその後、SonyやGoogleとも攻防戦を繰り広げますが、2011年にはFacebookに入社し社会人としての道を歩み出します。しかし、1年後にはFacebookを休職(本人のコメントでは「仕事に飽きた」とのこと)。冒頭で紹介した「Comma.ai」という企業を立ち上げました。

 

ホッツが興味を示す自動運転AIシステム

 

自動運転とは文字通り、公道を走るクルマがアクセル・ブレーキ・ハンドリングなどを自動的に判断する技術のことです。アメリカでは電気自動車の開発会社であるテスラモーターズ社が最も開発に力を入れており、同社が販売している「モデルS」はすでに自動運転技術(オートパイロット)を搭載しているため、一般の方でも自動運転を楽しめる状況にあります。

ホッツは、そのモデルSに搭載している自動運転システムをハッキングして、より精度の高いものへと進化させることに成功しています。

「クルマは走るコンピューターのようなもの」と考える彼は、iPhoneやPlayStationと同じくハックできるものだと豪語しており、既存のクルマを自動運転化することも可能であるとコメント。もしその理論が正しければ、すべてのクルマに低価格で自動運転システムが搭載される未来が待っているということになります。

Comma.aiを立ち上げたばかりの頃のホッツは、自動運転AIの学習システムの強化を目的としていたため自動運転そのものには興味がなかったとのことです。内部プログラムを調べる内に自動運転技術の面白さを知り、現在は独自に開発したアプリを配布することで、走行データを集める作業に注力しています。

しかし走行学習AIの強化システムは、需要の面から考えて同業他社が喉から手が出るほど欲しい技術。テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏は、早速ホッツの引き抜きを画策したそうですが、彼はこの提案を一蹴し「テスラ社を上回る技術を開発してみせる」と世に宣言しています。

AIの学習強化の試みを行っていたホッツは、やがて自作する自動運転車の開発に着手します。潤沢な予算が用意されている訳でもない彼の会社から、専用のAIソフトウェアとオリジナルの商品が誕生すれば一大事件となるはずです。まだまだ越えなければならない壁が無数に存在しますが、もし他の自動車部品会社と提携して開発が行われれば、決して夢物語ではないかもしれません。

既存のクルマを自動運転化するには「センサー」や「カメラ」を搭載する必要があり、他にも「アクセル・ブレーキ・ハンドリング」に使用する部品も調整しなければならないため、装置や機器によるハードウェア面での開発は難航を極めるはずです。しかし、ソフトウェア面の調整であれば現段階から更に進化させることは可能なため、プログラム開発を得意とするホッツが手掛ければ、そう遠くない未来にテスラ社を上回る「自動運転AIシステム」が誕生するかもしれません。

既存のクルマを自動運転車にする技術とは?

Photo credit: TechCrunch

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既存のクルマに自動運転システムを搭載するには、先にも述べた通りアクセル・ブレーキ・ハンドリングを自動的に判断する機能を盛り込まなければなりません。

これは駆動部分に直接働きかける装置・機器を用意しなければならないため、ホッツが言うような「10万円前後で既存のクルマを自動運転化する」には価格の面から考慮しても現状では難しいという結論に達します。

テスラ社も断言していますが、個人レベルで自動運転システムが搭載しているクルマを開発することは不可能です。厳しい言い方をすれば、彼が考えている構想は絵空事と揶揄されてもおかしくないでしょう…という考え方が業界では一般的でした。

しかし彼はアキュラの「ILX」をおよそ1ヵ月で自動運転カーに改造したため、業界の度肝を抜きます。

アキュラは日本の本田技研工業が立ち上げた高級車ブランドですが、当然自動運転システムが搭載しているアキュラブランドのクルマは現在のところ販売されていません。しかもILXは電気自動車ではなくガソリン車です。

実際にホッツが開発した自動運転システムで走行している取材動画もあるため、ホッツが目標とする「10万円前後で自動システムを可能にする」という構想は決して絵空事ではないのかもしれません。

自動運転化キットは日本で売れるのか?

 

アメリカでは自分のクルマをメンテナンスすることは当たり前と考える人と、まったく無頓着な人とに大きく分かれます。特に前者の人は、州から州へ移動する時に300~500kmと長距離のドライブとなるため、途中でクルマが故障したりガス欠を起こせばすべて自己責任と考えているからです。

日本でも時々ボンネットを開けてバッテリー液を補充したり、オイル漏れ、タイミングベルトに緩みがないかなどを確認したりしますが、アメリカではエンジンを自分で改造できる腕前を持つ人が一部存在します。

もしホッツが自動運転化キットを将来販売した場合、多少構造が複雑でもアメリカでは売り上げを伸ばすかもしれません。しかし日本ではクルマの改造に抵抗がある人が多く、法律面でも交通安全を常に重視しているため、本格的に浸透するにはかなりの時間を要すると考えられます。

では、日本ではホッツの思い描く「10万円で既存のクルマを自動運転化する」構想は受け入れられないのでしょうか?

日本の大手メーカーがホッツに期待する部分は、アクセルやブレーキ、カメラ、センサーなどの駆動系・制御系における技術開発ではなく、システムプログラム面でのソフトウェア開発なのかもしれません。実際に今の日本はITエンジニアの人材不足に悩んでおり、優秀なプログラマーを渇望している状態です。これはどの国でも事情は同じだと考えられます。

もしホッツがテスラ社を上回る画期的な自動運転システムを開発すれば、アメリカ国内だけでなく業界全体から注目され、需要が一気に高まるはずです。おそらく「自動運転化キット」よりも莫大な富を生むかもしれません。

既存のクルマを自動運転化するという構想は一見華々しく、驚きを持って迎えられるかもしれませんが、安全の点から考えても制約があり過ぎるため市場を獲得するには難しいかもしれません。現にホッツは自動運転カーの走行を認めていないカリフォルニア州から、試験走行を行わないよう厳重注意を受けています。

ホッツが本当に力を入れたいと望んでいる分野は、やはり自分の得意とするソフトウェアの開発だと考えられます。その活動の一環として、走行データを無料配布するなどの試みを行っており、一般の方にも協力を仰いでいます。

走行データの蓄積が真の財産となる日

自動運転システムは今後のクルマ社会を左右する革新的な技術であることは間違いありません。しかし、ホッツが立ち上げたComma.aiのような小さい会社で本格的な自動車の開発を行うには、設備や資金面から考えても不可能に近いと考えられます。

おそらくホッツは自動運転を表向きのアピールポイントとして扱い、今後はソフトウェアの開発と走行データ収集に力を注ぐはずです。その傾向は”Google Play”や”App Store”で配布しているオリジナルのアプリ開発からも読み取れます。

Comma.aiでは現在、Android専用の「chffr」とiOS専用の「dash」というアプリを無料で配布しています。このアプリをダウンロードし、スマホをダッシュボードに置いてクルマを運転することで、自動的に走行データがComma.aiのサーバーへと送られる仕組みです。一般の方にも自動運転技術の向上に協力して欲しいという、ホッツの願いが込められたアプリでもあります。

テスラ社などの大手メーカーでは膨大な走行データをストックしていますが、Comma.aiでは圧倒的に足りない状態です。人間でもクルマの運転が上手くなるには経験を積む必要があるため、走行データの収集はソフトウェアの開発に欠かせない材料となります。

実際ホッツも自動運転化したアキュラのILXでテスト走行を繰り返したり、自分が所持するクルマにも情報収集用のカメラを取り付けています。地味な作業かもしれませんが、自動運転AIを開発・強化するためには必要不可欠なものです。ホッツの企業活動が本格的に認められるのは、既存のクルマを自動運転化する技術よりも、むしろ地域の走行データを集めてより高度な走行学習AIを開発した時だと考えられます。

テスラ社の自動運転システムをハッキングするのも一つの手だとは考えられますが、それではただのコピー品を生み出すことになり、ホッツがコメントしている「テスラ社を上回る技術を開発する」という目的から外れてしまいます。

しかしオリジナルの自動運転AIを開発すれば、ホッツの名は世に知れ渡るでしょう。今まではハッカーの肩書が目立っていたホッツですが、将来は実業家としての目覚ましい活躍が期待されるはずです。

自動運転のこれから

 

自動運転の技術は今後も更に進化を続けるはずです。現在は公道を走るクルマが販売されていますが、価格の面から考えて一般の方には手が届かないのが現状です。まだ始まったばかりの技術ということもあり、低価格化・システム技術の向上が望まれていますが、おそらく世間に浸透するには数年要すると考えられます。

とはいえ、無事故の運転、渋滞の解消、時刻通りに到着するなどを達成する夢の技術でもあるため、今後もその動向は業界からも注目され続けるでしょう。

同時に、ホッツが構想する「既存のクルマを自動運転化する」という技術も進化し、大手メーカーや小さな会社から様々なハードウェア、ソフトウェアが生み出されるかもしれません。

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