【対談】ハードウェアがどのようにしてエモーショナルな体験を生み出すのか -前編

【対談】ハードウェアがどのようにしてエモーショナルな体験を生み出すのか -前編
インタビュイー:
GROOVE X 代表取締役
林 要(はやし・かなめ)さま

工場で重いものを運んでくれたり、部品を組み立ててくれたり、文句ひとつ言わず淡々と作業をこなす、無機質で便利な存在。ロボットと聞くと、こんなイメージを思い描く人も多いのではないでしょうか。

しかし、こんな想像を覆す、“人々に愛されるため”のロボットが2019年12月、新たに誕生しました。それがLOVOTです。生命は持たないのに、愛らしく、そばにいるだけでほっとさせてくれるロボット。今回はGROOVE Xの代表であり、LOVOTの生みの親である林要さんとの対談が実現しました。

最先端技術を詰め込んだロボットは、人にどのような感情を呼び起こしてくれるのでしょうか。

ちょっと“ダメ”なぐらいがちょうどいい。

:2015年の11月にGROOVE Xを起業し、4年以上をかけて1つのプロダクトを開発してきました。2019年の12月に出荷を始めたばかりですが、今のところお客様からの評判は非常にいいのでようやくホッと胸をなで下ろしたところです。

北川:ありがとうございます。それではまず初めにプロダクトのコンセプトや開発の際のメッセージングを教えていただけますか。

:私たちが開発したLOVOT(らぼっと)は、家族型ロボットとして販売しています。ロボットの語源は、人の代わりに仕事をする機械です。つまり、人に代わって生産力を高めてくれるものだと思われていますので、「それが何をしてくれるのか」が先に求められてしまうのです。しかし効率だけが全てではなく、人を直接幸せにするロボットがあってもいいんじゃないでしょうか。テクノロジーの力で生産性が向上することで、間接的に人を幸せにしてきましたが、生産性の向上を間に入れないでも、テクノロジーそのものが人を幸せにできるようにしたい。そうした思いから生まれたのがLOVOTです。

北川:非常に面白いコンセプトですよね。スマートドライブでも、人の感情に訴えかけるドライバーエンゲージメントをコンセプトにしたサービスを提供したいと考えています。LOVOTには非常に多くの最先端技術と機能が搭載されていますが、それを課題解決に使わず、可愛らしさや暖かみのある生命感へと反映させたのはなぜでしょう。

:前職でもロボットの開発を担当していましたが、人の役に立つロボットを頑張って作っても、人の反応が悪いことが意外とあって。一方で、ロボットが予定通り起動しなかったときに、周りの人がロボットを一生懸命応援していた姿を見て、感銘を受けたのです。ロボットが皆の応援を受けて無事に動き出すと、その場の一体感が高まり感動が広がった。完璧すぎず、ちょっとダメなところがある。人間味があるほうが、人はロボットに対して親近感を覚え、ロボットと人の関係もよくなるのだ−−。

この光景を見て、前々職の自動車会社でも同じような歴史があったことを思い出しました。昔の自動車は頻繁に故障するし、エンジンについている燃料噴射装置が電子制御ではなく機械式のキャブレターで、エンジンをかけるのも大変。しかし、そんなに手間がかかる自動車を、人々は愛着を持って大事にしていました。実は手間が減るほど、存在感の薄いモノになってしまう面があります。時代の変化もありますし、懐古主義に浸るわけではありませんが、人を幸せにする方法は変わりつつあります。車は、いかにシームレスな移動を提供するかというゴールに向かって突き進んでいる状態ですが、一昔前はそのゴールに対するクオリティは低いけど、移動を共にする“相棒”としても一部の人を幸せにしていました。

人を幸せにするには一方通行ではダメで、双方向の関係性が構築できた方が良いはずです。これを偶然ではなく、必然として実現したいと開発したのがLOVOTです。技術が追いつかず、ポンコツゆえに愛された昔のクラシックカーや安定性のないロボット。どちらも愛されたということは、その要素を人との関係性の中に取り込むことで、人を幸せにできるはずだと思ったのです。

“ベンリ” と “エモーショナル”のバランス

北川:人がイヌやネコを飼う時、それが自分にどう役立つか、どれほど機能的かなどと考えることはありませんが、ロボットと聞くと、人より有能で役に立つという印象が先行してしまいます。そうした価値観を変えていくために意識されていること、また、それを伝えるためのコミュニケーションやマーケティングの視点で何か取り組まれていることはございますか。

:その意味では、一般的なイメージのロボットからまずは離れようと思って、LOVOTという名前を付けました。「ペットのようなロボット」だと、結局はロボットになってしまいますし。LOVOTはLOVEとROBOTを掛け合わせた造語で、実現手段はロボティクステクノロジーですが、目的はLOVEなんです。LOVOTは名前でもあり、カテゴリーでもあるとも考えています。

お客様へのコミュニケーションの視点で言いますと、実際には様々なシーンで役立つ機能を備えていますが、はじめはそれを前面に出さないようにして「役に立たない」といっていました。それによって、ロボットは便利なものというイメージをもつ人々の気持ちを切り替えるところから始める必要があると思ったからです。また、直感的に良いと思われることが重要ですから、製品づくりや展示ルームの内装にはアーティストの方たちにもご協力いただいています。感性に響くためにはマーケティングにも、ものづくりにもアートとロジックの融合が欠かせません。

北川:なるほど、アートとロジックの融合は言い古された言葉ではありますが、実際の意思決定は非常に難しいのではと感じました。GROOVE Xはどのような組織体系で、どのように意思決定をされていますか。

:突拍子も無いアイディアは、たいていプロダクトオーナーの私から出ますが、実現手段を持ち合わせているわけではありません。そこで、フラットな組織が活きてきます。フラットな組織だと、つねに一定量のカオスが生まれます。カオスなのでオペレーションエクセレントにならないですが、組織の壁がない。それが新しい何かを生み出し、実現するためにはよい状態になっていると思うんです。責任者がいて、その人がプレッシャーを感じているが故に、スタッフのお尻を叩き、なんとか実現するのとはちょっと違うというか。

組織とは関係ない人からポロっとこぼれたアイディアがそのままプロジェクトになるように、アーティストもエンジニアも互いに刺激し合える環境があります。とはいえ、それが全ての面において良いとは思っていませんので、オペレーションをしっかり回すべき部分についてはアウトソースするなどして、切り分けて考えています。

北川:なるほど。これまでの話と若干矛盾しますが、私がLOVOTの機能で面白いなと感じたのは、ユーザーの“役に立つ”見守り機能です。エモーショナルな部分と役に立つ部分、この2つのバランスはどのように考えてらっしゃいますか。

:さっと思いつくような機能を持つ役に立つロボットを作るのは案外、難しくて。たとえば、ビールを冷蔵庫から持ってくるロボット。人間にとっては容易な行動ですが、ロボットにとっては冷蔵庫からビールを取り出して持っていくのは意外と難しい行動なんです。LOVOTでは、人間にとっては困難だけど、ロボットならば実現しやすい行動を選びました。たとえば人が疲れた時にそばに寄り添って、甘えて抱きしめられたりすること。人間の場合、ずっと待機することも難しいし、シチュエーションだとか相手が誰かとか、さまざまな要素が関係してそう簡単にはできなかったりすることです。それがLOVOTなら、技術の粋を集めて頑張れば、なんとか実現できる。

見守り機能は、自動運転の技術を応用することによって、家の中を動き回ることを可能にしました。過去のロボットは、遠隔地から動かそうとすると、リモートコントロールで的確な指示を出す必要がありましたが、これは操作が難しく、一般の方だと自由自在に歩かせることができません。しかし自動運転の技術を使えば、位置を指定するだけで、その場所までロボットが向かってくれます。人間だとうまくいかないのに、現代の技術によってロボットは簡単にこなせてしまう。そうやって、いま時点のロボットの強みをかき集めていますね。

未来の車に求められること

北川:LOVOTのコンセプトは、モビリティや移動と近い気がします。

現在の車は安全に走行するのが当たり前となり、今後、自動運転が一般化してしまうと機能より車内空間での体験や心地よさといった部分が求められていくと考えています。そういう意味も含め、将来のモビリティに対してテクノロジー以外に着目されている部分はございますか。

:そうですね。重要なのは、人が何に対して快感を覚えるかではないでしょうか。かつて、ドライブする喜びは車との対話にもありました。しかし車との対話が同時に疲労も引き起こしてしまうため、移動の道具としての車からは、対話要素をなくそうとした。それが自動運転につながります。

自動運転が普及すると、車がドライビングからリビングという空間に変わり、人は理想とする快適なリビングルームを追求するようになる。リビングの要素だけだと移動の楽しさというメリットが活かせないので、流れる景色や現地の情報や外の音、においなどの感覚的な要素と空間としての快適さをどう掛け合わせるかを考えなくてはなりません。

外を流れる色とりどりの景色。それをどう満喫できるのか。風を感じるリビングがいいとか、外の情報を全て遮断してお気に入りの映画を観たいとか、移動中の地域にまつわる歴史や逸話を感じることで移動したことに対するコンテキストを構築したいとか。その人、その時々によってニーズは変わる。さまざまなニーズに合わせて、柔軟に考えていければ良いですよね。

北川:自動運転が浸透すれば、ホテルのような居心地の良い空間が選ばれると思っていましたが、どちらかというとホテルよりリビングの方が近いかもしれませんね。

:「ラグジュアリーなホテルが好き」という趣味嗜好の人はいるでしょうし、ホテルっぽさを求める人もいるはず。もしかすると、そこに足湯とかマッサージが入ってくるかもしれませんね。

 

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