バイクが売れないのはなぜ? 今後の二輪市場はどうなるのか

バイクが売れないのはなぜ? 今後の二輪市場はどうなるのか

自動車運転免許を持っていれば、誰もが50ccの原動機付自転車(以下原付と表記)に乗ることができますが、今まで一度も購入または利用したことがないという方は少なくないかもしれません。

そんな中、別名・スクーターとも呼ばれる原付を筆頭に、小型・普通・大型バイクの国内販売数は年々減少しているというニュースが耳に入ります。シェアサイクルやライドシェア、カーシェアなどサービスが次々と広がっているいま、バイク市場はどうなっていくのでしょうか?

この記事では、バイクの国内販売数動向や販売台数減少の原因を探り、バイク業界の現状と反して右肩上がりに成長している二輪ビジネスについて解説します。

国内のバイク販売台数は約35年で9割減!

日本自動車工業会(以下自工会)の調査によると、2016年のバイク国内販売台数は33万8,000台に止まっていました。つまり、販売総台数がピークだった1982年の328万5,000台と比べて、市場規模が約1割にまで縮小したことになります。少子高齢化による生産人口減少や軽自動車の品質向上など、今後もバイクのニーズが低下していくであろうことは織り込み済みであり、各メーカーはアジアを中心とした輸出販売に力をシフトしているようです。

アジア有数のバイク大国、ベトナムのバイクメーカー協会「VAMM」の発表によると、2018年における同協会加盟5社の国内バイク販売打台数は、338万6,097台に達していますが、このうち約75%がホンダベトナム製です。ベトナムだけではなく、世界シェア率を見てもホンダが1位を譲ることなく、販売総台数は1,700万台以上に達していますし、他の3社もトップ5にしっかり食い込んでいます。

メーカーの技術力や販売力が衰えたわけではなく、国内ユーザーが「バイクはもう必要ない」と感じていることこそ、ここまで販売が冷え込んでしまった最たる原因と言えるのかもしれません。

なぜ国内でバイクが売れなくなったのか

国内でバイクが売れなくなった要因を解説する前に、まずはどんなバイクが売れなくなったのかを整理しておく必要があります。一言でバイクといっても、50cc以下の原付、125cc以下の「小型バイク」、400cc以下の「普通バイク」、400㏄以上の「大型バイク」といった排気量ごとの分類、ビックスクーター・ネイキッド・スポーツ・ツアラー・アメリカンなどのオンロード、デュアルパーパス・アドベンチャー・モトクロス・トライアルなどのオフロードなど、用途や構造の異なる多様なタイプが販売されているからです。

そして、全盛期の1割近くまで国内販売数が落ち込んだと述べましたが、数ある二輪車のうち劇的といえるまで販売台数が減少しているのは、最も手軽で安価な原付です。バイク人気の全盛期だった80年代初頭、足をつけて運転できるスクーターは、通勤・通学・買い物の足替わりとして大流行しました。新聞配達や宅配などの業務用バイクとして普及したホンダのスーパーカブ50と併せて、当時、原付は200万台を軽く超える売上を誇っていたのです。しかし、制限速度が30km/hまでということに加え、以下のような理由や影響によって売り上げが徐々に低迷していきました。

  • 3ない運動・・・高校生による原付免許取得・購入・運転を禁止するため、「免許を取らせない・かわせない・運転させない」をスローガンに、90年代まで展開された運動
  • 排ガス規制・・・1998年の排ガス規制により、低価格製造できる2ストエンジンから、重量や機構が増え製造コストのかさむ4ストエンジンへ、変更せざるを得なくなった
  • 駐車違反取り締まり強化・・・自動車より格段にスペースを取らない原付だが、駐車インフラ整備が遅れているにもかかわらず、駐車違反の対象となっていることに、疑問の声が上がっている

日本自動車工業会が発表している原付自動二輪車販売台数では、2015年が19万3,842台だったのに対し、2016年は前年比16%減となる16万2,130台でした。全盛期から、わずか8%にまで販売台数が激減しています。一方、法的に原付2種と区分されている、50cc超~125cc以下のバイクの売れ行きは好調で、同年の調査で前年比6.9%増の10万1,424台(2015年販売台数9万4,851台)でした。

中型・大型バイクも原付ほどの激減は呈していません。バイクの日である2017年の8月19日、ホンダ・ヤマハ・川崎・スズキのバイク大手4社が、毎年恒例で開いている合同記者会見において、ヤマハ・柳社長が「特に原付の売れ行きが厳しい…。」とこぼしたように、原付の販売不振が業界全体の課題になっているようです。

自転車関連のサービスがバイクを追い上げる

販売実績が低迷しているバイク業界を尻目に、年々活気を見せているのが自転車市場です。性能が格段とアップし価格もリーズナブルになってきた電動自転車は、街中でもよく見かけるようになりました。また、政府も自転車を安全で安心かつ環境にやさしいモビリティと位置づけ、シェアサイクルと公共交通機関との接続強化や、サイクルポート設置など普及を促進する「自転車活用推進計画」を2018年6月閣議決定し、現在も推し進めています。政府方針に素早く反応した企業は次々にシェアサイクルサービスを展開し、オリンピックを間近に控える東京では、すでに激しいシェア争いが勃発しています。

ドコモVSソフトバンク東京を手中にするのはどっち?

現在、都内で激しい争いを繰り広げているのは、携帯キャリア大手ドコモが運営する「ドコモバイクシェア」と、ソフトバンクの社内ベンチャーとして誕生したオープンストリート(株)の「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」です。

シェアサイクルの普及には、駐輪ポートの設置数と対象エリアの拡大が必要不可欠です。企業間での争いはよく「陣取り合戦」と称されますが、現時点ではポート数で勝り、区をまたいでの返却も可能なドコモが圧勝のよう。HELLOCYCLING側も、セブンイレブンを返却ポートとして設定したり、使いやすいアプリをリリースしたりするなど、ドコモへの対抗策を打ち出してはいますが、都内に張り巡らされたドコモの陣地を切り崩すのは容易なことではなく、埼玉など近郊での進出に今のところ留まっています。

万博開催に向けての布石?大阪が進めているシェアサイクル事業

55年ぶりとなる2度目の万博開催が決まった大阪でも、シェアサイクル普及の動きが高まっています。ベイサイドエリアの港区では、官民共同のシェアサイクル事業「ベイクル」の実証実験が今年の3月よりスタートしました。

今回の実証実験では、築港・天保山エリアに4カ所、大阪メトロ・朝潮橋駅周辺に1カ所の計5カ所に、電動アシスト自転車のシェアサイクルステーションを設置してスタート。しかし実はHELLOCYCLINGとの提携でこの事業は進められているのです。東京では、ドコモに後れを取ったHELLOCYCLINGですが、府内ではすでに約110箇所のステーションを設置済み。自治体との連動がなされたことも手伝って、大阪における陣取り合戦では、ソフトバンク陣営が一歩リードしているようです。

メルカリ運営のメルチャリは福岡から東京へ逆進出開始

フリマアプリで有名なメルカリの完全子会社(株)ソウゾウが、2018年2月に福岡で生まれたシェアサイクル「メルチャリ」。今年からは東京都国立市でもそのサービスをスタートさせ話題を集めています。

他のシェアサイクルサービスと違うメルチャリ最大の特徴は、個人が自宅やお店の軒先をレンタルポートとして提供できることです。都内におけるインフラ整備コストを考えると、もしかしたら爆発的に進出が進む可能性も考えられます。ただし、現在メルチャリで利用できるのは、電動アシスト機能が付いていない自転車のみ。

実証実験に国立市が選ばれたのも、坂が少なくフラットな地形だからです。港区・文京区・新宿区・千代田区など、経済や文化の中心でもある地区は、急な坂道も少なくありません。ですので、エリアを拡大するなら電動自転車の導入が必須になってくるでしょう。

二輪市場・業界の未来予想図

都市部でシェアサイクルが順調に整備されていった場合、いよいよバイクの置かれる立場は危うくなり、販売台数はさらに減少することが予想されます。モビリティにおける、「ラストワンマイル」とも言うべきリーチが、バイクから自転車へそして保有からシェアサイクルへチェンジしていくことを考えると、原付が都市部で活躍する姿を見る機会は大幅に減っていくのかもしれません。

しかし、AT限定普通二輪免許の技能教習を短縮する道交法施行規則改正案が可決されたことにより、2018年の7月から、普通自動車免許保持者が小型限定普通二輪免許を取得しやすくなりました。125ccはいわゆる「原付2種」と呼ばれるもので、最高速度30km/h規制や第一通行帯の通行義務、二段階右折の規制がないため、通勤や業務などでの都心部の移動手段には非常に便利です。一般的な中型バイクや車と比較してもガソリン代やバイクの駐車場の確保などの負担は軽く、経済性と利便性のバランスが取れ、快適性が高いのが魅力。

このような成果に便乗し、EVバイクや雨をしのげる屋根付きバイクなど、魅力あふれる新型モデルをメーカーが提供し続ければ、再び売り上げ向上の兆しが見えてくるかもしれません。

また、コンビニチェーンの宅配サービスやウーバーイーツのようなサービスだけでなく、バイクは物流のラストワンマイルをサポートするという役割も担っています。現在の物流業界では運送会社の人員不足や燃料代の高騰などに加え、再配達に関するコストや手間が負担を大きくしています。そこを解消する手段として、業種を問わず互いに手を組むことができれば、配達の遅延や人材不足、業務の効率化など多くの課題を解決していくことができるのではないでしょうか。

便利な移動手段、そして運送業界のサポーター、小回りのきく二輪車は、私たちのさまざまなラストワンマイルをカバーしてくれるサービスとして、今後も幅広く活躍してくれることでしょう。

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