移動の進化を振り返るその6 ~MaaSとその先へ~

移動の進化を振り返るその6 ~MaaSとその先へ~

有史以前より、人類は速く・遠くへ移動する手段を求め続け、産業革命によるモータリゼーションの全盛を経て大空を翔る力まで手に入れましたが、現代においては、地方と都心との交通格差や大気汚染、物流業界における人材不足などモビリティが抱える問題が深刻化しています。

モビリティが進化・発展により発生した問題を、AIやIoTなどの最新テクノロジーで一気に解決し、単なる移動手段ではなく次世代型交通サービスに昇華させようという動きが、世界的に拡大しつつある「MaaS」です。今回は、移動の進化を「振り返る」のではなく、MaaSによって巻き起こるモビリティ革命の未来について、現在進行中の動向はもちろんその先の未来も見据えて考察します。

移動はさらに進化する〜「MaaS」の始まり

国交省によれば、MaaSとはICTを活用して交通をクラウド化、公共交通か否かまたその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つサービスと捉え統合し、シームレスにつなぐ新たな概念と定義されています。

MaaSは北欧・フィンランドで始まり、現在では世界中にその流れが波及して日本にも導入されつつありますが、国交省の定義通り、国内ではマイカーではなく、公共交通機関から進展しています。世界有数の自動車大国である日本の場合、カー・バイクシェアリングやカープール(相乗り)などといったサービスを提供する企業を育て、IoT技術を活用し誰しもがシームレスかつ気軽にいつでも利用できる環境を整えることこそ、MaaSを推進する本質と言えるでしょう。

しかし、他人と狭い空間に長くいることが苦手な国民性や法の壁などによって、「Uber」を始めとする海外資本はもちろん、国産カーシェア・カープールサービスも苦戦を強いられ、全国的な普及にまで至っていません。そこで国や地方自治体、各交通インフラ運営・IT関連企業は、まず公共性の高いモビリティからMaaSを導入し、シームレスな移動サービスの利便性を国内ユーザーに植え付けることで障壁を打破する、「日本版MaaS」の展開にまず着手したのです。

MaaSによって日本における移動はどのように進化していくのか

前述したとおり、現在国内で盛んなのは公共交通インフラや物流分野でのMaaSですが、実際にはどんな取り組みがなされ実現により我々の移動はどう進化するのか、この項では代表的な事例を紹介していきましょう。

NTTドコモ 「AI運行バス」の実証実験第2弾を横浜で実施

NTTドコモは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)および横浜市と共同で、横浜MaaS「AI運行バス」実証実験を2019年10月10日~20日まで、横浜都心臨海部にて実施すると発表しました。AI運行バスは、路線と運行ダイヤが存在する路線バスと異なり、直径5km程度の運行区域内を縦横無尽に走る小型車両で、アプリやWebサービスを操作して乗車を予約すると、AIによって最適な配車が決定され、時刻表に縛られず乗車・移動ができるというもの。

同実験は2018年度にも行われており、10月5日から12月10日の期間中、定員4~6人の車両が最大15台も走行し、国内外からの来街者・居住者・通勤者など、約3万4,000人を輸送したという実績をあげています。いわゆる、オンデマンド乗合交通であるこのサービスは、高性能AIによる最適配車・最短ルート選定での待ち時間短縮や、都市部における観光スポットやオフィスなどへの回遊性を高める、新たな都市移動サービスになると期待されています。

ジョルダン 大分市で観光MaaSサービスを展開

全国の電車・飛行機・バス・フェリーの時刻表や運賃・路線情報とともに、チケット予約やお得クーポンも入手できる乗換案内サービスを提供しているジョルダンは、大分バスが紙のチケットで運用してきた「1日バス乗車券ワイド」をモバイルチケット化しました。

2019年10月1日から、同社スマホアプリ上で販売を開始したほか、地元の飲食店や観光施設を優待で利用できる「おおいた1DAYパス」も同時に提供し、ラグビーW杯の開催で沸く大分市のインバウンド消費をバックアップする、「観光型MaaS」に取り組んでいます。同サービスには、Masabi社のモバイルチケッティングサービス、「Justride」(ジャストライド)が採用されており、利用者はキャッシュレス決済でチケットを購入したり、下車時に乗務員にアプリのチケット画面を提示したりして利用する仕組みになっています。

ジョルダン・アプリでの検索から、大分市内での移動を一括サポートするこのサービスは、10月末までの期間限定ながら利用ユーザーからの要望が高まれば、期間延長も予定されているとのことです。

JR西日本 MaaS推進部を新設し本格始動

JR西日本は今年9月20日、総合企画本部に「MaaS推進部」を設置したと発表し、同時に今秋「せとうちエリア」での実証実験が予定されている、観光型MaaS「setowa」を後押ししていく姿勢を示しました。関東圏の鉄道インフラを管理するJR東日本は、約半年前にMaaS推進部を設置しましたが、JR西日本は「大阪万博の開催」や「広島駅南口広場の再整備」が予定されている、2025年を同エリアにおける大変換期と予想したのか、やや遅れて本格始動に踏み切った形です。

今後の同社は、推進部を中心に「狭義の交通MaaS」に留まらず、交通インフラ以外の事業者と連携しながら、観光型・都市型・地方型など顧客ニーズを捉えたMaaSを構築するとのこと。都市間輸送手段でこれらを結ぶことにより、西日本エリアをシームレスに繋ぐことを目指しています。

東京海上HD 次世代パーソナル・モビリティ企業「WHILL」と提携

国内三大損保の一角を担う東京海上HDは、MaaSの進展を見据えた保険商品・サービス開発や、超高齢化社会での移動手段の確保・普及を目的に、次世代型電動車いす・カート開発・販売を手掛ける、WHILL(株)と資本業務提携したことを発表しました。

WHILLは、障害の有無に関係なく既存の交通手段を降りた後のわずかな距離「ラストワンマイル」をつなぎ、だれもが安全に乗れるインフラの提供を目指す企業で、東京海上HDの「空飛ぶクルマ」開発企業への保険提供や、ドローン専用保険を展開するといった、MaaSを推進する方針が一致したことでパートナーシップを結ぶことに。

WHILLは自動運転技術開発にも積極的であるため、同社が現在提供している電動モビィティ用保険のリリースや、自動運転実験データ共有による次世代型自動車保険の開発を、今後東京海上HDは進めていくものとみられています。

「エリアごとの課題」に考慮した取り組みを進めないと意味をなさない

ここまで紹介したように、関連企業と地方自治体は提携を深め、各所でMaaS導入への取り組みを始めていますが、どれも「推進していく方針」の発表や都市部を中心とした「実証試験」の域を出ておらず、運用範囲も限定的で国内すべてを巻き込んだ動きはまだ見られません。

欧州版MaaSは、行政主導で公共交通の利便性を向上させ、いかに利用率を高めるかという視点で取り組まれ一定の効果を上げていますが、一方の「日本版MaaS」は次のような「エリアごとの課題」に配慮した取り組みを進めなければ、スムーズに普及・機能しないかもしれません。

  • 郊外&山間部・・・自動車に代わる交通手段の確保や、利用者数低下に伴う地方公共交通の採算性・利便性向上が課題。
  • 地方都市・・・欧州版MaaSのように利便性と収益性のバランスを取りつつ、消費行動の拡大に伴う地域創生や、スマートシティなど次世代のまちづくりを含め、取り組みを進めることが必要。
  • 大都市圏・・・移動先アクティビティ(ショッピング・食事・レジャー)との連動など、「+α」の付加価値を付与したMaaS実装が求められるが、決済情報などといった個人情報の提供に対する、ユーザーの抵抗感をどう払拭していくかが課題。

MaaSの先にあるものとは~無限の可能性を秘めるMaaS×自動運転~

MaaSの実現においては、各交通インフラのサービス統合が注目されがちですが、並行して進められている「自動運転」を始めとするモビリティの進化により、これまで想像すらできなかった未来型交通の姿が少ずつ見え始めてきました。

都市と地方の交通格差を打破!「自動運転バス」

移動距離に限らず、現在都市・地方共に住民の重要な足として活躍しているバスは、基本的に定められた運行ダイヤに則って一定の路線を走行するため、自動運転技術との相性が非常に良いモビリティです。

鉄道を始めとする他の交通インフラとの連絡システムも、かなりの高水準で備わっているため、大型商業施設や空港内を低速走行する「シャトルバス」など、安全を確保しやすい分野から自動運転バスは普及が進み、徐々に公道へと拡大していくとみられます。

9月30日には、埼玉工業大学が交通量もあり店舗の駐車場への車両出入りも多い本庄早稲田駅前の公道で、最高40kmの試験走行に成功するなど、官・学・民がこぞって実績を上げており、技術的には「実現前夜」に差し掛かっていると言えるかもしれません。また商業的には、ソフトバンク傘下で自動運転開発を行うSBドライブが2019年6月、仏・Navya「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」使用したバス車両のナンバーを取得、公道実証をスタートさせることを発表しています。

ドライバー不足を一気に解消!「ロボットタクシー」

アーノルド・シュワルツェネッガーが主演したSF映画「トータル・リコール」の中で、人間ではなくロボットが運転する自動運転タクシーが登場した姿を覚えている方もいると思いますが、そんなロボットタクシーがすでに実用化されています。

米グーグル系の自動運転開発企業であるウェイモは、2018年12月5日からロボットタクシーの有料商用サービス「ウェイモワン」を開始しており、無人運転ではないもののAIを活用した次世代型交通イノベーションの開発・実用化競争が、米国では激化しています。

国内でも、自動運転ベンチャーのZMPが日の丸交通と実証実験を行うなど、空想上の乗り物に過ぎなかったロボットタクシーがリアルなモビリティとして利用できる日は間近に迫っていると言えるでしょう。

クルマを所有する時代は終焉へ?「自動運転ライドシェア」

無人での自動運転技術が実現すれば、現在ライドシェア普及を妨げる大きな要因となっている、「ドライバーの質」を気にする必要がなくなります。

2019年4月、投資家を対象にした技術説明会の中でテスラ社のイーロン・マスクCEOは、「2020年の半ばまでに完全な自動運転車を100万台以上生産する」と豪語し、これまでにない新ビジネス「TESLA NETWORK」を展開する考えを示しました。

同ビジネスは、テスラ社製の自律運転車両を一般ユーザーにリースし、マイカー利用していない時間をタクシー配車サービスに充てることで、オーナー自ら運賃を稼ぐことができ、テスラにも手数料が支払われるという仕組み。マスク氏お得意の「ビッグマウス」という指摘もありますが、完全自動運転車の活路を個人所有に広げるアイデアは画期的で、実現すれば完成度の高いMaaS社会の主役として、自動車が存在感を大きく高めると考えられています。

ラストワンマイルでの大活躍に期待!「超小型自動運転モビリティ」

車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能にも優れた超小型モビリティの自動運転化も開発が着々と進んでおり、ZNPはトヨタの超小型EV「コムス」をベースに、自動運転機能を搭載した「RoboCar MV2」を次世代モビリティ用プラットフォームとして提供。また、ヤマハは燃料電池を搭載した「YG-M FC」の走行実証試験を、石川県輪島市の公道上で2019年4月18日から実施しており、同社はこのゴルフカートを改造した電動カートを自動運転化し、ラストワンマイルを補完するMaaSサービスに活用したいと考えています。

これからの移動はどのように進化していくのか?

「MaaS」や「CASE」など、モビリティの未来を表す新たなワードが次々と生まれ、生活における移動は新たな進化を遂げようとしています。自動運転、ライドシェア、ドローン、VR、AIなどのテクノロジーは、モビリティとどのように関わっていくのでしょうか?移動はどのような体験へと変化していくのでしょうか?

来たる2019年11月15日、移動の進化を後押しするスマートドライブが、移動の進化を体感できる共創型カンファレンス「Mobility Transformation   移動の進化への挑戦」を開催しました。

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