開催まであと少し!オリンピック開催で懸念される交通事情とは

開催まであと少し!オリンピック開催で懸念される交通事情とは

世界的スポーツの祭典、オリンピック・パラリンピック東京大会2020の開催まで一年を切りました。少しずつオリンピックに関する話題やニュースも増え、気持ちとしては盛り上がってきたものの、現状は来場者数が3,000万人とも3,500万人ともいわれている訪日外国人を受け入れる体制が完全に整っているとはいえないようです。

民泊を含めた宿泊施設の整備や治安維持、インバウンド消費に伴う決済方法の拡充など問題が山積している中、最大の懸念材料と考えられるのが東京における交通事情。オリンピック開催時、東京の交通インフラは一体どうなるのでしょうか…?

開催期間中の交通インフラ!どうなる東京?

 

首都圏における交通インフラと言えば、JRを始めとする鉄道やタクシー・バスなどを挙げることができますが、普段でも朝から晩まで混雑している東京の交通インフラが、オリンピックという一大イベントの開催でどのような影響を受けるのでしょうか。

利用を控えたほうが得策? 鉄道インフラへの影響

中央大学情報工学科教授であり、鉄道を含む都市交通に関する研究で数多くの成果を挙げている田口東教授は、「人気競技が集中する『ある日の朝』、首都圏の鉄道網はかつてない混乱が起きる」と警鐘を鳴らしています。田口教授が、国土省の大都市交通センサスをもとに試算・設定した、一日辺りの首都圏における鉄道利用者(通勤・通学)は790万人です。その「ある朝」とは、7月31日。

首都圏の通勤・通学の鉄道利用者は1日約800万人ですが、この日は多くの会場で人気競技が行われるため乗客が1割増加し、この日の観客数は約66万人と計算されています。数字だけ見ると増加するとはいえ普段の1割弱程度ですので、それほど目立った混雑は発生しないように感じるかもしれません。しかし、毎日のように利用している方ならご存知の通り、東京の鉄道網が一番混雑するのは午前8時~9時であり、全体の33%となる約260万ユーザーがこの時間帯に集中しています。ここからさらに混雑となると…。この電車に乗る勇気が出ません。

教授が問題視しているのは、オリンピックスタジアムや有明アリーナ、代々木体育館や東京ビックサイトなどといった動員数が多い会場の競技開始時間がいずれも午前9時~午前10時頃であること。仮に、『ある日の朝』の通勤通学客が250万人で、オリンピック観客が50万人鉄道を利用したとすると、軒並み200%に近い乗車率である朝のラッシュが激しさを増し、いつもの電車のいつもの時間帯に乗れないケースも予想されます。

もう一つ、忘れてはいけないのが、増加するのは首都圏の複雑な鉄道網に慣れていないユーザーが大多数を占めること。この中には日本語を喋れない・読めない訪日外国人も含まれます。そうなると、乗・降車駅には立ち往生するユーザーが溢れかえり、対応しきれず現場は大混乱し安全な運航ができない状態に陥るかもしれないのです。また、首都圏全体の鉄道網がマヒする可能性まであります。

東京オリンピックはコンパクト開催をコンセプトに誘致が進められ、結果として各会場は電車移動できる範囲に収まり、うまくスケジュールを組めば複数競技をはしご観戦することも可能です。これは裏を返すと、普段はそれほど混雑しないはずの午前11時~午後4時であっても、ハブとなる乗換駅は混雑する可能性が高く、夜間に入っても混雑状況が続いてしまった場合、終電を逃した帰宅難民が街に溢れることも考えられるでしょう。

教授は対策の一つに、会場最寄り駅より1つ2つ手前の駅で観客が降りるようにして、徒歩移動でも快適な環境づくりや、インバウンドにつながる魅力的な催しなどを展開し、せっかくの機会を活かすべきだと提言しています。また、通勤・通学客に関しては「休んでもらうしかない」と述べているほか、混雑が予想される駅を使う会社・学校・役所に対し、「〇日は電車を使わないでください」と具体的に指示・指導すべきだと述べています。

鉄道が混雑するならタクシーとバスは?

鉄道を利用する絶対数が減ればスムーズな運行も可能かもしれませんが、大会が開催される真夏に徒歩移動という選択肢は少々酷ですし、ビジネスにしても学業にしても17日間にわたって開催される大会期間中、休み続けるのは非現実的かもしれません。必然的に混雑を避けるなら、通勤・通学およびオリンピックの観戦客は、鉄道以外の公共交通機関、つまりタクシーやバスでの移動も視野に入れることになってきます。

タクシーは空港から都内へ向かう海外観光客の利用も多いですが、大会期間中に大量のタクシーが首都高や各地へ流れ込めば、各所で大渋滞が同時多発的に発生することが容易に想像できてしまいます。また、後述する政府・関係機関が実施予定の交通マネジメントが功を奏し、仮に渋滞緩和が実現できたとしても、多言語対応が進んでいない日本の現状を考慮すると、ドライバーと訪日外国人とのトラブルが頻発するという懸念を払しょくできません。

そんな中、期待が集まっているのが、空港と各会場を結ぶ大型シャトルバスの整備です。車両台数の減少によって渋滞緩和が図れるだけでなく、スタートとゴールが決まっていて料金体系も明確である性質上、訪日外国人とのトラブル発生リスクはかなり低いと考えられます。さらに、規制を伴う大規模な交通マネジメントを展開するにあたり、約5万台と言われる都内のタクシーを完全に管理するのは困難ですが、大型バスであれば専用レーンの設置や信号調整(TSM)によって、運行状況を管理しやすいという利点もあります。

もちろん、関係機関の協力と一般ユーザーの理解、それに多言語対応の徹底などソフト面の充実が必要となりますが、オリンピック観戦客をさばけるキャパの大型シャトルバス網が完備されれば、前述した鉄道の大混乱も防ぐことができるかもしれません。

オリンピックに向けて実施予定の交通マネジメントとは

2019年6月に発表された東京都と大会組織委員会がまとめた大会期間中の「輸送運営計画案」によると、新国立競技場周辺や有明地区に関係車両以外の通行を禁止する、「専用レーン」を設置するほか、7ヶ所に優先レーンを設置するとされています。そのうえで、競技会場周辺は一般車両に迂回を要請する区域を設置するとともに、進入禁止や通行制限などの規制も行うのだとか。

今夏には、本番さながらの実証試験が行われる予定で、交通規制と信号調整により、通常時と比較して首都圏広域の一般交通では10%減、専用レーンを設置する重点地区では30%減を目指すとしています。ただしこの施策は基本的に選手や大会関係者、各国から訪れるVIPやメディアが各会場をスムーズに移動できるように打ち出されたものであり、専用レーンでは一般車の通行が認められていません。

優先レーンに関しては、大会関係車両が走行していない場合に限り一般車も通行可能ですが、会場周辺に設置予定である他の通行規制エリアや迂回エリアを加味すると、地域住民やその道を日常的に走行するドライバーからは、強い反発が出ることも予想されます。規制だけではかえって渋滞発生や混乱が深まることを危惧し、東京都は「2020TDM推進プロジェクト」と銘打ち、企業や団体に対し交通量削減への取り組みを呼び掛け、現在1,636社が参加を表明しています。

しかし、交通需要マネジメントを意味する「TDM」を実現するには、

1. 時差出勤・在宅勤務
2. 休暇の取得(企業による積極的な付与)
3. 会議・商談時期の変更
4. 納品時期の変更・まとめ発注の実施

などが必要となりますが、いずれも企業や事業主の理解と協力が不可欠です。

人員と資金力が潤沢な大企業や非営利団体・官公庁であれば、「大会期間中だけの話だから…。」と協力体制を取ることも可能ですが、スピード感のある商談や正確な出荷・納品などを求められる業種の場合、非常に困難かもしれません。金融・保険・不動産業などであれば、会議や商談への遅延はビジネスチャンスを失う要因になりかねませんし、運送業は遅延によって大切な商品が傷んでしまったり、約束の時間に間に合わなかったりしてしまうと、受け取り側との信頼関係が保てなくなるかもしれません。

その点はオリンピックの開催と交通事情を互いに理解し合い、順調な交通が行えない場合の代替手段を考えるべきだと言えるでしょう。

オリンピックに向けて活用を!IT導入と企業独自の取り組み

オリンピック期間中に首都交通が混乱することと、その緩和を目指した交通マネジメントが実施されることを理解したうえで、今のうちから企業は独自の取り組みを実施していくべきかもしれません。

お手本にすべき!?リコーの取り組み「全社一斉リモートワーク」

首都圏公共交通網の混乱に対する取り組みの一つとして、もっとも混在が予想される朝の通勤・通学タイムを、スマホやパソコンでのIT会議・授業に変更するだけで、混雑緩和を避けることができます。

事実、2020TDM推進プロジェクト参加した(株)リコーは、大会期間中約2,000名の社員が働く大田区の本社オフィスを完全にクローズし、在宅やサテライトオフィスでの勤務を発表しました。これほど大規模なTDM対策は大企業だからこそ成し得ることかもしれませんが、働き方改革として場所や時間を選ばないリモートワークは中小企業でもこれを機に取り入れるのもいいのではないでしょうか。

天災などの不測の事態が発生しても事業を継続する対応策を「BCP」と呼びますが、リコーのリモートワーク実施はその一環でもあり、当然オリンピック閉幕後の自然災害発生時にもこの取り組みを実践することができます。

GPSを超える精度!準天頂衛星システムの存在

今では誰もが知っているGPS(全地球測位システム)は、米国が打ち上げた衛星を使った測位システムです。しかし、高層ビルが乱立する首都圏では、屋内を中心に多少の誤差が出てしまうという問題が発生しており、土地勘がない訪日外国人からは使いにくいと思われているようです。

この問題を解決すべく生み出された新しい測位システムが「準天頂衛星」であり、東京オリンピックの行われる2020年までに、初号機「みちびき」を始めとする4機の測位衛星が日本独自で打ち上げられ、高精度な位置測位システムが構築される予定です。

「準天頂」という言葉が示す通り、この衛星は日本のほぼ真上に存在し、Wi-FiやBluetoothなどの屋内向けIT機器と連携することで、誤差1cm~10cmと言われる正確無比な位置情報の測定と音声ナビゲーションが可能になるとされています。

このシステムが確立すれば、対応車載機による多言語での正確なナビゲーションはもちろん、駅構内で利用する鉄道アプリの中で、「乗換え口はそこではなく〇番乗り場です」「予約された座席は3つ前です」などといった細かい案内も可能になるでしょう。

さらに、法整備と並行して進むことになりますが、準天頂衛星の制度の高い位置情報は、国内自動車メーカーが進める自動運転化へも大きく寄与します。2020年夏の時点で無人加することはなくとも、半自動で適切なルートを選びハンドル操作や車速の調整、車線維持や会場での駐・停車などをアシストしてくれる、「プロパイロット・シャトルバス」が登場する可能性は十分にあり得るかもしれません。

まとめ

交通コンサルティングを専門とするトラフィックブレイン代表の太田恒平氏は、交通インフラの混乱により、少なからず地元企業・市民生活に影響を与える東京オリンピック・パラリンピックを、「計画的災害」という言葉で表現しています。

ただ、同氏がそれに対応する交通システムは、後世に残すべきレガシー(遺産)になると発言している通り、官民一体となって「ITオリンピック」を実現すれば、日本の交通インフラはMaaSに適合する1つ上のステージへ、進化することができるのではないでしょうか。

TOP