AECの現状と自動車産業の最前線

AECの現状と自動車産業の最前線

ASEAN(東南アジア諸国連合)が、2003年頃から構築を進め2015年12月31日に創設された「AEC」は、アジア各国のみならず世界経済に多大な影響を及ぼす組織ですが、何を目指しどんな取り組みをしているのか、詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。本記事では、AECの基本情報と現時点での進捗状況、浮き彫りになってきた課題を整理したのち、参加国および関係が深い日本の自動車産業の動きや今後の変化について考察します。

AECが注目されている理由

 

AECとは「ASEAN Economic Community」の略称で、日本では「アセアン経済共同体」と呼ばれますが、2002 年に関税を「5%以下」へ削減するという当初目標を実現した、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)の次段階にあたる「経済統合組織」です。

マスタープランである「AEC2015ブループリント(工程表)」では、

  1. 単一の市場と生産基地・・・物品・サービス・投資・熟練労働者の移動自由化など
  2. 競争力のある経済地域・・・インフラ開発・関税撤廃・競争政策・消費者保護など
  3. 公平な経済発展・・・格差是正・新規加盟国支援など
  4. グローバルな経済統合・・・ASEAN域外とのFTA(自由貿易協定)など

という4つの戦略目標が掲げられており、モノ・ヒト・サービス・資本の移動が自由にすることで国際競争力を高める点はEUと共通しますが、通貨統合や関税同盟などは想定されていません。

AECが注目されている理由その1「市場規模の大きさ」

AECを組織したASEANは東南アジア10ヵ国が参加する、巨大な地域協力機構であり総人口は約6.2億人と、域内マーケット規模で言えばNAFTAやEUを上回り、先進国より比較的高齢化が緩やかであるため、将来的な消費市場の伸びしろも大きいとされています。

また、ASEAN全体のGDPは2014年時点で約2.5兆ドルと、インドを凌ぐ水準にあるものの、1人当たりのGDPは約4,000ドルで中国の4分の1程度。つまり、モノ・サービスを消費・生産していく余力が、先進諸国よりたっぷり残っているということです。すでに、国内市場が飽和状態に近い日・米・EU各国が、そんなASEANに目をつけるのは当たり前の流れであり、AECと密に連携すれば新たな需要を獲得しつつ、労働力の確保や生産・流通プロセスの効率化を図ることも可能です。

AECが注目されている理由その2「中国の経済成長が頭打ち状態」

かつて、日本を始めとする先進国が積極的に進出していたのは中国でした。しかし、消費の冷え込みや人件費高騰に伴い撤退する企業も多く、さらには世界的流行が危惧されている「新型コロナウィルス」の影響で、今後より拍車がかかると考えられます。一方、AEC2015が達成した一定の成果によって、インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイといったASEAN主要5ヵ国はもちろん、ブルネイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジアの後発組も、近年では順調な経済成長を見せています。

その結果、国内・欧米企業はASEAN各国にビジネスチャンスを見出し、続々と中国から海外拠点のシフトを始めているのですが、同地方ならではと言えるいくつかの問題がネックとなり、なかなかうまく進んでいないようです。

AECの現状・達成した成果と今後の課題

 

ASEAN事務局の発表によれば、AEC2015の目標実施率は優先分野を対象にすると「93.9%」と高く、分野別にみると最大の成果は「関税撤廃」であり、 2018年1月にCLMV(※)でも完了したことで、現在の関税撤廃率は「98.6%」と世界的も高レベルに達しています。

※CIMV・・・カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの4ヵ国を指す略称。

また、日・中・韓・印・豪・ニュージーランドと、5つの「ASEAN+1FTA」が締結されるなどグローバル経済との統合は進んでいるほか、ASEAN国籍を保有していれば短期滞在・ビジネスビザが必要ないため、ヒトの域内移動自由化も制度としては完了済です。

さらに、ASEANの一部企業はAECを好機と捉え越境や域内最適化を進めており、例えば域内での直接投資額は2009年時点で100億ドルに過ぎませんでしたが、5年後の2014年には200億ドルを超える規模までに成長しています。しかし、一方で円滑化が遅れている分野もあり、非関税障壁の撤廃は進んでいませんし、サービス貿易や域外資本による投資も自由化されておらず、ヒト・モノの移動を担う交通インフラの整備不足など、AECの成長を阻害する課題も山積しています。

とはいえASEANも問題点を十分理解しており、AEC2015はあくまでも通過点にすぎず立ちふさがる課題をクリアするため、新たな目標・行動指針を盛り込んだ「AEC2025」を掲げ、日本ではあまり報道されていないものの着実に成果を上げつつあります。

【AECブループリント2025】

  • 統合され高度に結束した経済
  • 競争力があり革新的でダイナミックなASEAN
  • 連結性強化とセクター別協力体制の構築
  • 強靭で包摂的かつ人が中心にあるASEAN
  • グローバルなASEAN

AEC2025はAEC2015のマイナーチェンジ版と言え、未達成分野に加え革新・研究開発・規制改革など成長戦略が盛り込まれたほか、中小企業育成など「包摂」が重視され、既にASEAN 電子商取引協定が調印や、新サービス貿易協定(ATISA)交渉も進んでいます。

また、関税撤廃がほぼ完了したため、AEC2025では域内におけるヒト・モノの移動自由化より域外貿易の円滑化に重点が置かれ、例えば商品国籍を判定する国際貿易上のルールである「原産地規則」は、TPPで採用された完全累積の採用を検討しています。

一方、③が追加され戦略目標は5本柱となっていますが、統合範囲やレベルについてはAEC2015と大きく変わっておらず、何より「非熟練労働者」の移動自由化が目標に組み込まれていないのが欠点。なぜなら、熟練労働者の移動自由化が進行した結果、最低月給が周辺諸国の約2~3倍であるタイ・バンコクへの出稼ぎ労働者が殺到するなど、ヒト・モノ・カネが給与水準の高い国・都市に集中してしまう可能性があるからです。

そもそもAECは、加盟諸国の「公平な経済成長」が大命題1つですが、このままでは域内格差が広がりかねず、一刻も早く非熟練労働者の移動自由化にも着手すべきかもしれません。

AECの自動車産業最前線

 

熟練労働者の移動自由化による弊害が出始め、前述したバンコクのほかジャカルタ・ハノイ・クアラルンプールなどといった大都市圏では、激しい交通渋滞や排気ガスによる大気汚染が社会問題となっています。さらに、一部では交通インフラが麻痺する事態にまで陥っているようです。一方、ひとたび郊外に出ると道路はスカスカな状態…。移動手段の確保に苦労しているASEAN・AECにおいて、日本の自動車産業メーカーがなすべきことは何でしょうか。

AEC発足後のASEAN自動車市場の推移

ASEAN5(インドネシア・タイ・フィリピ ン・ベトナム・マレーシア)における、自動車市場の推移状況を整理すると、2010年代前半までは政府による新車購入優遇措置がなされたタイと、都市部でのモータリゼーション後押しされたインドネシアが爆発的に成長。欧米企業に先駆け、ASEAN自動車市場の開拓を進めてきたかいもありタイでは80%超、インドネシアにおいても90%超のシェアを誇るなど、両国は日系新車メーカーにとって重要な海外市場の1つになりました。

しかし、AECが設立された2015年における両国の新車販売台数は大幅減少へ転じ、タイは優遇制度の終了と適用車の5年間転売禁止や政情の混乱、インドネシアはルピア安による経済成長鈍化が影響したのですが、近年は横ばい、あるいは回復傾向を示しています。

一方、経済発展に伴い購買力のある中間所得層が形成されてきた、ベトナム・フィリピンの新車販売台数は堅調に増加しており、政権交代による大きな政策転換や極端な景気悪化がない限り、今後も市場拡大が進んでいくとみられます。

また、マレーシアに関しては爆発的な拡大とはいかないまでも、安定して成長すると考えられるほか、トラック・バス・ミニバンなどといった、業務利用向け国産中古車に対する輸入ニーズも高いため、大手国内中古車チェーンが販路を拡大中です。みずほ銀行の調査によれば、世界自動車販売台数のうちASEAN5が占める割合はわずか3.2%にすぎず、ピークに比べるとスピードが緩やかになったものの、2021 年までの年平均成長率も4.9%と高い水準を維持すると予想されています。

今後の課題~EVシフトとMaaSへのニーズに対応する~

交通渋滞の悪化による環境汚染を憂慮したASEAN諸国。「東洋のデトロイト」と称されるタイ政府が2017年3月、EV車生産促進を目的とする投資奨励策(TNGAP)を導入するなど、近年はエコカー普及を推進する政策を次々に実施しています。

また、同国はTNGAPへの参加を世界中のメーカーに呼び掛け、トヨタ・日産・ホンダ・マツダにはHV、Mercedes-Benz・BMW・SAIC Motor-CPにはPHV、FOMMにはEV生産投資プロジェクトをそれぞれ認可しました。加えて、ライドシェアリングをはじめとした「MaaS」の普及は日本より進んでおり、ASEAN最大の配車サービスである「Grab」は、2018年4月にUberの東南アジア事業を吸収・統合しています。これにはトヨタが10億ドル、現代自グループが2億7,500万ドルを出資しています。

さらに、同じく配車サービス大手でインドネシアに本拠を構える「GO-JEK」は、Google・Temasek・Tencentから出資を受け、ベトナムやシンガポールへ進出しているほか、高速バス大手「WILLER」はシンガポールで自動運転バスの商用サービスを始めました。

つまり、ASEANは今Connected(コネクテッド)・Autonomous(自動運転)・Shared & Services(シェアリングとサービス)・Electric(電気自動車)のニーズが年々高まり、「CASE先進地区」へ変貌しつつあるのです。そのため、日本の新車メーカーやサプライヤーは、AECの活動を通じ既存車両や部品の輸出に留まらず、ASEAN諸国へ自社が持つCASEに関する技術と資金を投入、国内より圧倒的に公共交通インフラが劣る現地でMaaS事業を展開し、まずは移動の地域格差を是正。

その上で、実証データ・運営ノウハウなどを積極的に収集しシステムの正確性・安全性を高め、公共交通インフラが不完全な地域や人材不足が深刻な物流・運送業界にサービス提供する、自動車産業の逆輸入が今後の課題・テーマになるのではないでしょうか。

まとめ

AECは、ASEAN各国の経済成長のカギを握っているだけではなく、世界的トレンドとなったMaaSの発展・普及にも寄与する、自動車産業にとって有益な組織・取り組みです。今後、東南アジア、ひいては世界経済の趨勢を左右しかねないとも言えるでしょう。

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