鉄道の自動運転レベル「GoA0~4」の定義を解説

鉄道の自動運転レベル「GoA0~4」の定義を解説

技術開発とともに法改正や整備が不可欠な車の完全自動運転化は、まだ先の話になりそうですが、もう1つの重要な交通網である鉄道は、一部の路線ですでに自動運転システムが実用化されています。

そして、車と同じように鉄道もGoA (Grades of Automation)と呼ばれる規格が存在し、路線ごと乗務員の人数や運行方法など細かい条件が設けられているのです。この記事では、鉄道の自動運転レベルを詳しく解説していきます。

鉄道の自動運転レベル「GoA」とは何か

GoAとは、UITP(国際公共交通連合)が定めた鉄道の自動運転水準を示すもので、一般的に0~4までの5段階で分類されています。車速・車線の変化が目まぐるしく、停車・発進や右左折を伴う自動車と比較して、線路という専用走行帯を有する鉄道の自動運転化は、かなり高レベルまで進んでいるようです。

GoAレベルが高くなるほど、路線全体で必要な乗務員数を減らすことができるため、深刻化する人員不足の解消に寄与するほか、運転士・乗務員育成プロセスの省力化、人的ミスの減少による安全性向上、運転状況の集中管理によるダイア安定など、公共交通の要である鉄道事業を維持するうえで山積する問題の解決策として、国内外で研究・開発と実用化が進められているのが、GoAという概念なのです。

GoAレベルの基準と実例について

国内外の鉄道は、現状どの程度GoAが運用されているのでしょうか。ここからは、各レベルの基準と実例を解説していきましょう。

鉄道事業黎明期からの伝統的スタイル「GoAレベル0」

GoAレベル0は、列車に一切自動運転システムが搭載されていない状態、つまり運転手がすべての運転操作を行い、併せて「車掌(添乗員)」が車内の安全確保やドアの開閉、運行状況のアナウンスや切符販売・確認などを実施する段階を指します。

しかし、運転士が目視で情報を把握しすべての操作を行うスタイルは、国内で言うならローカル線や都市部の路面電車などわずかに実例が残るのみで、現在運行されている鉄道のほとんどがGoAレベル0から脱却しているようです。

自動車の安全運転サポートと同じ段階「GoAレベル1」

発進・停止や速度変更などの操作は運転士が実施しますが、速度超過時の自動減速や事故発生時の自動停止といった、安全運転サポート機能を搭載している段階がGoAレベル1。現在、地上を走行する鉄道の多くに実装されています。

鉄道はステアリング操作が不要ですので、車で言うところの「自動運転レベル1,5」程度と考えられるでしょうか。自動運転のキモと言えるEV化がほぼ完了している鉄道だからこそ、容易に普及が進んだと考えられます。ただし、運転操作の負担がそれほど軽減されていないため、省人化効果はほとんどないとも言われますが、1~2両編成で乗客数が少ない地方鉄道の場合、レベル1であっても「ワンマン」で運用されているケースも多々あるようです。

踏切がなく人や車が侵入しない路線が主体「GoAレベル2」

GoAレベル2から、一部の運転操作が自動化され、基本的に運転士はドアの開閉と発進のみ担当、発進後の速度調整や駅での停車をシステムが実施する段階へ進みます。しかし、トラブルが発生した時は手動運転に切り替わり、運転士が直接停止操作をすることになります。

車に置き換えると、エンジンを始動すれば、目的地まで勝手に移動してくれると言うイメージですが、特定の場所(鉄道では線路と駅)はシステム、緊急時のみドライバーが操作する「レベル3」が、鉄道ではすでに運用されています。有人自動運転のGoAレベル2が導入されているのは、東京メトロや札幌・横浜・名古屋・大阪・福岡など各市営地下鉄が主ですが、つくばエキスプレス、埼玉高速鉄道、多摩都市モノレールなど、一部もしくは全線で地上を走行する鉄道にも採用されています。

この段階になると運転業務の負担が大幅に軽減できるため、車掌業務の兼任が可能となり、新幹線や特急など路線範囲が広い一部鉄道を除けば、ほぼすべての路線でワンマン運行できるようになります。さらに、運転操作のほとんどが中央管理であるため、ヒューマンエラーの減少や定時運行体制の確立など、人材不足解消以上の効果を期待できるのです。

添乗員のみで運行可能な「GoAレベル3」

GoAレベル3は、列車の発進や緊急時の停車もシステムが自動で実施する段階となり、ドアの開閉と避難誘導を担当する添乗員のみでの運行が可能になります。このレベルは、千葉県のJR東日本舞浜駅と、東京ディズニーリゾートの各施設を連絡する環状モノレール、「舞浜リゾートライン」に導入されていますが、国内外を通してレベル3の段階で足踏みしている事例は特殊です。

これは、GoAレベル3が実現するまで自動運転システムを構築しているなら、人員を乗車させるメリットがないと思われているためですが、前述した舞浜リゾートラインの場合は、添乗員が車内の安全確保だけでなく、施設を案内する役目も担っています。つまり、運営母体のTDLが接客向上のためレベル3に留めているだけで、一般的な鉄道事業者の場合、最終段階であるGoAレベル4に発展させた方が人員コスト削減をはじめ、ビジネス上で得られるメリットが大きくなってきます。

完全無人運行の実現「GoAレベル4」

鉄道従事者が一切乗車しない状態で、乗客を安全かつスムーズに輸送する段階−−つまり鉄道インフラにおける無人自動運転の完成形がGoAレベル4です。

安全確認と乗務員の運転訓練のため、ごく限られた時間帯に人員が乗車するものの、国内では神戸ポートライナー&六甲ライナー、大阪ニュートラム、東京臨海線ゆりかもめ、金沢シーサイドライン、関西国際空港ウィングシャトル、札幌市営地下鉄東西線など、走行範囲や用途が限定的かつ、人や他の交通インフラに対する安全性を確保しやすい新交通システムや地下鉄6路線がレベル4を達成しています。

海外でもGoAレベル4の導入は進んでおり、ドバイメトロやシンガポールのMRT、釜山のBGLなどがその代表格です。比較的、アジア諸国の方が積極的にGoAシステムを構築・採用しているようです。一方、鉄道の歴史が古い欧米諸国では、GoAの進捗がやや遅い傾向にあり、世界最速の130km/h運転を行う、米・サンフランシスコのバートでも、ドアの開閉や車内アナウンスをする添乗員が乗車しています。

GoAが抱える現在の課題と今後の動向

世界を見渡しても、かなり高いGoAレベルを達成している鉄道が多い日本ですが、その背景には列車のEV化と正確な運行ダイヤにより、鉄道の運行を集中管理しやすい土壌にあることが挙げられます。しかし、踏切がある一般的な鉄道では、安全性の面から運転手を必要としないGoAレベル3以上は導入されていません。今後も多くのユーザーが日常の足として利用する、JR在来線のような地上走行鉄道では、レベル3以上が導入されることはあるのでしょうか。

GoAの課題と動向その1 「自動運転システムのセンシング能力向上」

陸上走行の在来線に、GoAレベル3以上を導入できない理由は、なんといっても人・車などとの接点となる踏切が存在すること。公道と立体交差する高架化を進めて踏切を無くせば、無人自動運転の実現は難しくはないかもしれません。しかし、既存路線の高架化には莫大なコストが必要なうえ、工事の施行に伴い周辺交通インフラへ通行止めや迂回などといった影響を与えるほか、鉄道事業の運営にも支障が生じるため、全路線を短期間で高架化することは不可能とも言えるもの。

そこで、この最大にして、最難関の課題をクリアすべく技術革新が進められているのが、カメラやセンサーで前方の情報を察知し、何かしらの障害物を発見した際は安全に停止する、センシング能力です。全方位的に障害物をセンシングして走行を制御する自動車と異なり、鉄道は基本的に前方を確認できれば安全走行ができますが、無人運転技術の開発を遅らせているポイントには圧倒的に長い制動距離が挙げられます。

時速60kmで走行中の普通車の場合、センサーが障害物を発見・完全停車するまで、50mあれば十分ですが、車両重量が段違いである列車の場合は同じ時速であっても500mが必要となります。国内在来線の最高速度は、駅間隔が長くフラットな路線で時速100km程度のため、計算上18秒前には障害物を発見しないと、衝突を回避できないことになります。(※秒速約27,7mで計算、車は約1,8秒前のブレーキで回避可能。)

しかし、車載センサーとカメラだけでは対処できないため、踏切並びに人や車が誤って侵入しそうな場所にセンシング機器を設置し、IoTで情報共有しつつ緊急停車するシステムを導入すれば、接触事故防止というGoAが抱える大きな課題も解決の目が出てくるでしょう。

GoAの課題と動向その2 「完全無人化には法改正が必要?」

日本では、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」において、自動運転のための装置が規定されており(第58条)、その中で「自動列車制御装置を設けた鉄道であること」と明記されています。

制御装置さえ備わっていれば有人・無人に関して何ら法的規定は存在しないため、現状レベル2までしか認められていない車の自動運転と異なり、GoAの場合は法改正をしなくとも、在来線への最高レベル4運用に法的なハードルは存在しません。つまり、センシング能力を始めとする自動運転技術さえ搭載できれば、在来線のGoAレベル3以上の到達が可能になるのです。

今年1月には、JR東日本がドライバーレスによる試験走行を山手線で数回実施されました。この試験走行では、定時運行のみならず、若干の遅延を想定して各駅間の時間を短縮、定時運行へと戻す回復運転パターンをテストしたほか、駒込駅~田端駅間にある山手線内の唯一の踏切では減速走行するように設定。そのすべてが正しく反映されるという成果を上げています。導入も間近かもしれませんね。

GoAの課題と動向その3 「シーサイドライン事故を教訓にした安全性の徹底」

JR東日本は、20年後を目処に在来線を無人化する目標を定めています。しかし、2019年6月1日、自動列車運転装置(ATO)で運行が制御されていた横浜の新交通システム「金沢シーサイドライン」において、乗客14名が負傷するという事故が発生しました。同路線の新杉田駅で乗客の乗降後、ドアが閉まると同時に、進行方向と逆に列車が急きょ始動し約25m先にあった車止めに衝突。神奈川県警の発表では負傷した乗客の中には、骨折などの重症者が6名出てしまう事態となりました。

事故から5日後の6日、同路線を運営する横浜シーサイドラインは、当該車両の指令系装置と、モーターの制御に関する駆動系装置の配線に断線が見つかったと発表。司令系から駆動系への信号が正確に伝わらず、モーター進行方向の切替がうまくできなかった可能性があるほか、逆走時に作動するはずの緊急停止システムが、発見された箇所の断線により機能しなくなるという、システム上の欠陥も指摘されています。

この事故を受け、石井啓一国土交通大臣は、運営が医者に原因究明と再発防止策の実施を指示、併せて全国の鉄道事業者にも事故の周知や注意喚起を行なったとしつつ、「省力化により生産性の向上に資する自動運転の導入は重要な課題である」とも述べています。

とはいえ、国内鉄道のGoA進行にダメージを与えたのはたしかなことで、踏切が多数存在する在来線への導入には、高度なセンシング能力と共に非常事態発生時の危機回避能力を有する、さらに安全性の高いシステム構築が必要不可欠といえそうです。

まとめ

今回解説したGoAレベル分類には、運転士が不在でも緊急時の停車操作を添乗員が行う、レベル2以上3未満の「2,5」という段階が存在します。人や車とニアミスする機会が多い在来線の場合、まずレベル2,5を目指すところからGoAは進行していくとみられます。

2025年には、車の完全自動運転化も視野に入れられていますが、鉄道と車の自動化を連携させることができれば、よりシームレスな乗り継ぎが可能となり、交通機関全体を最適化することができるでしょう。高レベルのGoA実現には課題もたくさんありますが、1つずつクリアしていけばスマホ操作での配車、駅到着時間と列車発車時間の自動調整、乗車券の手配と決済がワンクリックで完了という未来がやってくるかも。

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