JR東日本のCVCが取り組む新たな地方創生とモビリティサービス

JR東日本のCVCが取り組む新たな地方創生とモビリティサービス

JR東日本といえば、言わずと知れた国の交通を支える旅客鉄道会社のひとつです。私たちの普段の足を当たり前のように支えてくれている企業も、近年では地方創生やモビリティをテーマに掲げ、事業のあり方を変化させています。創設からまだ2年を迎えたばかりのJR東日本スタートアップ株式会社は、すでにCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)として、スタートアップ企業や地域社会と協同でさまざまな活動を試みています。

今回、JR東日本スタートアップ株式会社の山本裕典氏に、彼らの考えるオープンイノベーションや地域型MaaSといった、さまざま取り組みと未来へのビジョンについて話をうかがいました。

インタビュイー:
JR東日本スタートアップ株式会社
アソシエイト
山本裕典(やまもと ゆうすけ)さま

社会シミュレーションの研究を役立てたくてJRへ入社。現在はスタートアップへの投資や連携を手がける

山本さんの自己紹介・略歴を伺えますか?

JR東日本に新卒で入社しました。最初は現場研修として駅員を経験し、そのあとシステム系の子会社に出向して、社内経理ツールの開発を担当していました。それから新卒・中途の人事採用、本社でIT戦略を立てる仕事を経て、現職に至りました。

システム関係のお仕事が長いですが、もともとシステムやプログラミングなどを勉強されていたのですか?

大学院で情報工学を専攻していました。そこで「マルチエージェントシミュレーション」という、社会シミュレーションに近い研究をしていたんです。最近よく聞く「ダイナミックプライシング」などが流行る前に、社会でモノの価格変動が起きたときに人がどう動くか、といった研究をしていました。

また、こうした興味が動機となってJR東日本に入社しました。街づくりや駅の人の流れによって、「たとえばある個所の価格を安くしたら人の流れが実際に変わる」という予測や制御が実践できるのではと考えていました。

今はどういったお仕事をしていますか?

今は、JR東日本スタートアップ株式会社というCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)でスタートアップ企業への投資と、アクセラレータープログラムを通じたJR東日本とベンチャー企業の協業をサポートしています。当社は2年前の2018年2月からスタートしていて、まだ事業が始まったばかりの会社です。

モビリティ大変革の時代にあって、JR東日本がCVCを始めた動機とは?ーー求められるオープンイノベーション

なぜJR東日本はCVCを始めたのでしょうか?

自動車業界は100年に一度の大革命とも言われる変化の激しい時代を迎えていて、クルマだけでなく移動もまた変わろうとしています。しかし、鉄道業界はもともと自前主義でして、これまでは自分たちでシステムやサービスを作っていました。それはそれで良いとは思うのですが、とても時間がかかってしまうので、このままでは変化の早いの時代に対応できなくなってしまう。とはわかっていたものの、なかなか動けなかったのです。そんな中、特にスタートアップは非常に良い技術やアイデアを持っているのですが、それを実装する場がないという課題をかかえていました。

そのようなギャップを埋めるのと同時に、彼らのスピード感に合わせて動ける会社を作る必要があったため、当社が設立されました。

経営理念に「新しい未来を作ろう」というものを掲げていまして、お客様や地域の方々の暮らし方や働き方をより豊かにしたいと思っています。オープンイノベーションの実践や自前主義から脱却し、最終的には安心や信頼などに根差したワクワクした世界を実現したいと考えています。「地域を元気にしたい」「暮らしを豊かにしたい」「新しい未来を創りたい」という、私たちと志を一にするスタートアップ企業を応援しています。

なるほど。未来では、今よりもテレワークが進むと思います。そうすると、定期券などを購入する人が減り、売上も減ってしまうと思うのですがJR東日本としてどうとらえているのでしょうか?

我々はモビリティ企業でありながら、地域のお客様にとってのハブとなるような存在でありたいのです。たとえ定期券などの収入が減っても、それ以外の生活サービス事業などで収益を上げることに注力しています。

不動産事業では駅ビルだけでなく住居も手がけていますし、農業なども行っています。また、Suicaを基軸とした事業もまだまだ成長の余地はあります。将来的に地方の関係人口が増えていけば人の移動は発生しますし、時代の流れに合わせたビジネスをしていきたいと考えています。

鉄道会社であるJRならではの課題感と、「観光×MaaS」における二次交通利用といった地域・地方型MaaSの取り組み

CVCを通して時代の流れに合わせた投資をしつつ、MaaSやスマートシティへの取り組みにも注力されているそうですが、理由をお聞かせいただけますか?

今後、当社の活動テーマとしてはスマートシティやMaaS、地方創生といったところが中心になってくるかと思います。とはいえ、地方では人口減少が大きな課題となっています。少子高齢化で人口が減少し、街自体が小さくなり、将来消滅してしまう恐れがあります。そうすると、地方でしか味わえない体験やエンターテインメントも減ってきています。街がなければ駅も必要とされません。駅がなくなれば我々の営業範囲も狭くなってしまいます。これが鉄道会社にとって一番の課題かと思います。

また、地方の人口が減少すると長距離移動をする人がいなくなるため、鉄道会社としては近距離移動で稼ぐしかないので客単価は下がります。

これらの課題を解決するためMaaSに取り組まれているのでしょうか?

MaaSという観点から話をすると、人を移動させるためにはある程度、街に関係人口を増やす必要があると考えています。しかし、いきなり関係人口は増えないので、そのために地方創生やスマートシティといった形で、駅を中心とした街づくりをすることが我々にできる課題の解決策ととらえています。

バス、タクシーや自転車・シェアサイクルなど我々が持っていない二次交通と連携して、地域をうまくカバーしていきたいと思っていますし、1DayPassやデジタルフリーパスなども一緒に企画しています。

とはいえ、各地で行っているこれらの取り組みは、まだ本来のMaaSの最終形ではありません。JR東日本としてはそれぞれの地域でいろいろなプレイヤーとまず関わりを持ち、将来のMaaSにおいて鉄道が中長距離の大動脈を担うことが役割と考えます。そうなった時に地方型MaaSや観光型MaaSをつなげることがJRに求められる部分だと思っています。

多拠点居住サービスや航空会社とも連携。進む街づくりの形の多様化と移動のフレキシビリティ

地方人口の減少、ドライバーの減少などの問題に対してCVCとしてどのような取り組みをされていますか?

ADDressという多拠点居住ができるサービスをご存知でしょうか?月4万円で全国にある古民家をリノベーションして、そこに住めるというサービスで、利用者は多拠点居住に憧れる人や、フリーランスなど専門職の方が多いようです。ADDressは直接的にはMaaSに関係していないのですが「住宅×MaaS」のようなもので、多拠点居住で一時的に住人として住んでもらうことによって関係人口を増やします。ADDressと連携し、JR東日本が地方に持つ施設を住居にしたりして、往来を増やしていこうと思っています。また、ANAとも組んで月額制で飛行機に乗れる、ということもやっていまして、毎月定額で地方に人を移動できる仕組みにもできればと検討しています。ただし、鉄道は飛行機に比べ、鉄道法というものに守られ料金のフレキシビリティが少し低いので、どうしてもその部分の調整は今後必要になってきます。

地方創生をするにあたって何が一番難しいですか?

いろいろやってきたなかで感じるのは、地域に入り込むことですね。地方創生もMaaSも、地元の方、地域プレイヤーの方との調整がけっこう大変ですし、街ごとに状況は異なりますので、正解もなく、パッケージ化することができません。ある意味マンパワーで調整して、ルール化していく必要があります。

また、効果測定も難しいです。やはり街づくりや地方創生は時間がかかるもので、1年や2年での判定は難しいですね。

逆に、街づくりや地方創生をする中で楽しいことや、やりがいは何でしょうか?

地域のなかに入っていき、地域の人に認められ、一緒に様々な取り組みを行うことで、地域の人みんなが笑顔になることです。関係人口数や、乗降客数が増えたなど数字的な結果に表れるところも重要だと思いますが、やはり地元の方々に喜んでいただいてる姿を見れることは嬉しいですね。

都心に一極集中したほうがインフラの維持コストが安いし、効率的。という考えもあると思いますが、御社が地方創生に注力されている理由をお聞かせください。

JR東日本は鉄道という公共インフラを担っており、地域に密着し、連携してこれまで日本を作ってきた歴史があります。なので、地方が赤字だからそのエリアでの鉄道の運行を辞めますというわけにはいかなくて、民間企業として収益性を求められる会社でありながらインフラ企業でもあるという使命があります。

もちろん事業を東京近郊に一極集中すれば儲かるのですが、そこはインフラ企業として地域と連携して地域を支えていかなければいけないですよね。これは当社社長もよく言っていることです。

JR東日本にも赤字路線はたくさんありますが、だからといって簡単に廃止できません。民間企業であり、株主の方もいるので最適な決断をどこかでしなければなりませんが…。鉄道を廃止してBRTに置き換えるなど様々な方法はあるにせよ、行政や地元の方とじっくり話をしながら決めていかなければなりません。

ただ、地方も分散して広がり過ぎると、メンテナンスコストもかかるし、メンテナンスする人も高齢化して減少しています。我々もそういう意味では一つは「なくす」という判断が必要になってくるでしょうが、オープンイノベーションの取り組みを通じて解決策を模索しています。たとえば、すごく奥まった地域の線路にある踏切が壊れているとしましょう、遠いですしメンテナンスに駆けつけるだけで一苦労です。ですが、IoTのデバイスをつけて遠隔監視をするとか、ドローンでなかなか人が行けないところを定期的に見に行くけたらどうでしょうか?そうしたことを常に考えながら、スタートアップ企業の方と話をして実証実験的に取り組んでいます。

Smartdriveとのコラボレーションについて

Smartdriveと何かコラボレーションでできるとお考えのことはないでしょうか?

すぐにできることがあると思います。Maasという観点で考えたときに、鉄道事業者はファースト ワンマイルとラスト ワンマイルのコアのデータをあまり持っていないのですが、スマートドライブさんは、我々が持っていないデータを簡単に取得できますよね。弊社が持っている、中長距離の高速輸送のデータと車両の走行データを掛け合わせることで、様々な課題を解決していけると思っています。

 

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