自動車業界はどこまで変わる?「CASE」を解説

自動車業界はどこまで変わる?「CASE」を解説

2016年のパリモーターショーにおいて、ダイムラーAGのCEOを勤めていたディッター・ツェッチェ氏が、同社の世界戦略の柱として提唱した「CASE(ケース)」という造語を、みなさんはご存知でしょうか。

今回は、自動車業界が進めていくべき4つの次世代トレンドを、分かりやすく示したキーワード「CASE」について、その意味や進められている具体的な取り組みなどを、詳しく解説していきます。

なぜ今CASEに注目が集まっているのか

 

CASEというワードを、公の場で始めて用いたダイムラーのツェッチェ氏は、今年5月CEOを勇退されましたが、生みの親が第一線を退いた今、100年ぶりの変革期に突入した言われる自動車業界は苦境を打開するために、こぞってCASE戦略を採用し始めています。

なぜそこまでCASEに注目が集まるのか、それはこれまで移動手段でしかなかったクルマが、徐々に所有からシェアする時代へと移行しつつあり、自動車を製造・販売する旧態依然の経営戦略では多様化するユーザーニーズに応えられなくなってきたからです。そしてCASEという造語を構成する、それぞれの「アルファベット」が示す要素を絡み合わせ、安全で利便性の高い次世代型モビリティ・サービスを構築することこそ、自動車業界が生き残っていくための戦略であると考えられているのです。

CASEのC=「Connected(コネクティッド)」

CASEのCはコネクトを意味します。つまり、IoTを活用して車とドライバー/車とデバイス・サービス/自車と他車をネットワークで接続することを示します。

そんなのは、GPSカーナビやアプリなど、ずいぶん前の段階で実現しているんじゃないの?と感じる方も多いかもしれませんが、CASEにおける接続とは、ユーザーの操作に依存する「一方通行の接続」ではありません。CASEは、車もしくは車載モバイルがセンサーなどで、ドライブに関するさまざまなデータを感知し、それを人工知能・AIが高次元で分析。ドライバーへ有益な情報をリアルタイムで提供する、「相互接続」の水準に達することを目指しています。

具体例として、ダイムラー社はボッシュと共同で、車両に搭載したセンサーで運行ルート上の駐車場空き状況を把握し、車載ディスプレイや専用アプリへその情報を送信する、「コネクテッドベースドパーキング」という新サービスを開発しました。これは、現在ほぼすべてのモデルがスマート・ネットワークに接続しているメルセデス・ベンツに搭載される予定のシステムで、駐車の空きスペース探しが人と車の共同作業となり、時間・燃料の節約やストレス軽減に寄与するものと期待されています。

国内メーカーに目を移すと、トヨタはすでにCASE戦略の一環として、コネクティッドサービスである「T‐Connect」をリリースしています。そして今後、国内で発売するほぼすべての自社生産者にDCMを搭載して、コネクテッド化を進める方針を打ち出しました。

さらにスバルも、2022年までに8割以上の新車へ「STARLINK」を搭載し、コネクティッドカーにする目標を掲げたほか、日産は離れた場所にいてもスマホでドアロックできるなどといった機能を有する、「Nissan Connect」をマイクロソフトと連携してスタート。加えて、各メーカーは通信キャリアとの協業も進めており、ソフトバンクはホンダと、NTTおよびKDDIはトヨタと連携を強め、プラットフォームの開発促進やインフラの標準化など、自動車メーカーだけではなく、通信機器・半導体メーカーを巻き込む大きな動きが展開されているのです。

現状はまだ、情報の自動収集とドライバーへの伝達が主体の「一方通行+α」という状態ですが、すべての車とITが完全につながり、汎用性の高いプラットフォームが構築されれば、車は単なる移動手段からサービスそのものへと進化する可能性を秘めています。たとえば、ドライバーの身体状態を感知して空調を調整したり、体調不良を察知した際には車載デバイスやスマホなどと連携・救急通報をしたりするなど、車が人の暮らしをサポートする「走るITデバイス」になるため重要な要素、それがCASEの「C」なのです。

CASEのA=「Autonomous(自動運転)」

自動車という呼び名は、英語の「Automobile(自動で動くもの)」に由来していますが、ご存知の通り今の自動車はドライバーの操作に頼ることなく動く乗り物ではありません。一方、CASEにおける「A」が示す「Autonomous」は、「自律型」。つまり、エンジンまたは電動モーターの力で動くハコから、真の意味での「Autonomous・Vehicle」を開発、普及させていこうという取り組みです。

すでに国内外の自動車メーカーは、自動運転レベル2(部分的運転自動化)の機能の導入と運用を始めており、GMの新型モデル「Cadillac CT 6」やアウディのフラッグシップセダン「A8」などには、レベル3(条件付き運転自動化)相当が搭載されています。国内メーカーでも、トヨタ・日産・ホンダを筆頭にすでにレベル3もしくは、それを凌ぐ自動運転を実現可能な技術開発が進行しているものの、最大のネックである法整備が進まないため、現状レベル2の運用に留まっています。

自動運転のターニングポイントになりそうなのは、東京オリンピックが開催される2020年です。トヨタ・日産・ホンダは揃ってこの年までに、高速道路を皮切りに自動運転レベル3に運用を始め、同年中に一般道路でも実現すると言っています。ただ、CASEを提唱したダイムラーが目指す「A」は一歩先を進むものであり、同社が開発・世界に向け発信したコンセプトカー「スマート(EQフォーツー)」には、ハンドルもアクセルもブレーキすら存在しません。

このスマートは自律運転が可能なコネクテッドEVで、特定個人が所有するのではなくカーシェアリングで使用するものです。そして、同社のCASE戦略的柱として今後メルセデス・ベンツが発表する、さまざまな新型車の基本的枠組みとされています。

さらにダイムラーは、どの位置から減速すればカーブを曲がれるかを人工知能が計算し、人の判断なしにスムーズな運転が可能となる、3Dデジタル地図「HERE」を用いた自動減速技術を開発中とのこと。スマートとこの技術が融合すれば、高度運転自動化であるレベル4を超え、「Autonomous・Vehicle」の完成形・完全運転自動化となるレベル5の実現も、夢物語ではないところまで来ているのです。CASEを高次元で融合させようと動きを強め、国内外の自動車メーカーで先手を取っているのは、やはりダイムラーであると言えるでしょう。

CASEのS=「Shared&Service(シェアリング&サービス)」

CASEの中でもっとも認知度と理解度が高く、世界各国で普及が進んでいるシェアリング&サービス。それらを意味する「S」ですが、自動車の共有を進めようとするこの取り組みの存在自体が、自動車業界にとって諸刃の剣となっているよう。理由は、「シェアリングの普及が自動車の販売台数減少に繋がってしまうからで、国内ではトヨタとソフトバンクが、米国のUBER、中国のDidi、シンガポールのGlab、インドのOLAといった、海外大手ライドシェア会社に出資・世界戦略を進めていますが、全体を通して国内自動車メーカーの動きは、「鈍い」と言わざるを得ません。

別角度から、ライドシェアに期待を寄せているのはタクシー業界です。DidiやUBERが配車アプリを展開したり、DeNAもAIを活用したタクシー配車アプリをリリースしたりするなど、今後タクシー業界では顧客獲得競争が激化していくと予想されます。

また、国内ロボットベンチャー企業であるZMPは、自社の次世代自動車プラットフォーム「RoboCar(R)」をもとに、ライドシェアと自動運転を組み合わせた「無人タクシー」を開発。2018年には、東京のタクシー事業者「日の丸交通」と共同で、都心部で世界初の自動運転タクシーを用いた公道サービス実証を行い、将来的にはスマホで予約・決裁が可能となる、スマートタクシーサービスの提供を目指しています。

この分野でも一歩先を行っているのがダイムラーで、同社は必要な時にパソコンやスマホで最寄りに停車しているEVをネット検索、見つけたEVにそのまま乗りこめる画期的なサービス「car2go」を提供しており、すでに200万人以上の登録者がいます。国内経済を長年支え続けた自動車業界が、車の共有へとシフトチェンジしつつある今、ダイムラーが描いているシェアリングの延長線上にある自動運転の普及という、新ビジネスへの展開が期待されます。

CASEのE=「Electric(電動化)」

これからの自動車業界を語るうえで、もはやEVは欠かすことのできない存在になりつつありますが、CASEに実現にも自動車のElectric化は「絶対条件」ともいえる要素です。

まず「C」との関連性、高度なコネクティッドカーを運用する時は多大な電力が必要ですが、ガソリン車の場合は発電・蓄電パーツを高性能・大型化しないと、すぐに電力不足が生じて車は走るITどころか、ただの「鉄の塊」と化します。

一方EVはエンジンが不要なため、各種センサーやECUなどを置く余裕が生まれ、高精度な電子制御が可能で応答性を高めやすいことから、非常に自動運転と相性が良いのです。では、大きな電力を発生させるHVはどうかと言えば、電力は問題ないもののエンジンとモーターそれに大型バッテリーを積むスペースが必要なうえ、ガソリン車より制御が複雑なため自動運転との相性が悪いのです。さらに、ガソリン・EVはシェアカーとして運用するにあたり、燃料確保をガソリンスタンドに頼ることになりますが、EVの場合は乗り捨てステーションでの待機中に充電することが可能です。

そして、EVともっとも関連性が強いのが自動運転です。ガソリン車やHVは、アクセルを踏んでから車が走り出すまでに数多くの過程があるため、メカニズム的に完全自動運転化が難しいのですが、EVは極端なたとえをすると「大きなラジコン」のようなもの。構造をシンプルに、サイズをコンパクトにすれば、センサーによる車速・位置・左右のバランスなどといった動態把握や、それをもとにした遠隔操作が容易になる…そう、前述したダイムラーのスマートこそ、「CASEを具現化するために誕生したEV」なのです。

ただ、CASEの要となり得るEVを作り出すには、ガソリン・HVからの転用ではない、EV専用プラットフォームの構築が必要です。かくいうダイムラーのスマートも専用プラットフォームが採用されているのですが、それには膨大なコストがかかります。まだ発展途上といえるEV 界で専用プラットフォームを用意したダイムラーには、CASE推進に対する本気度の証が見えますが、ライドシェアに慎重な国内自動車メーカーが、追随する激しい動きを見せるか微妙なところです。

日本版のCASEはトヨタが牽引

国内のCASEを推進しているトヨタは、過去に小型EVである「e-com」を開発し、それを用いたEV共同使用システム「Crayon(クレヨン)」を展開しています。クレヨンは、駅などに充電スタンド付きe-com専用駐車場を設置し、車内にはVICS対応のカーナビが搭載され、利用者はカギの代わりにICカードを所持し予約や決済をネットで行うシステム。

CASEそのままというべきシステムを、トヨタは1999年~2006年の7年間にもわたり、実証実験していましたが全国運用されることはありませんでした。今やe-comはトヨタの大型展示ショールームである、「MEGAWEB」でアトラクション的な扱いを受けています。

トヨタはその後も、数台のEVコンセプトカーを発表。いずれも市販には至っていないようですが、2020年より「C-HR」のEVモデルを中国に、同年にインドにスズキと提携・開発新型EVを投入すると発表しています。

ちなみに、現在トヨタが進行しているCASE戦略の要である、自動運転が可能なモビリティサービス(MaaS)用車両「e-Palette」もEVです。サイズ感は前述のスマートより大きい箱型バスのようなものですが、同様にハンドルやアクセルはありません。e-Paletteのすごいところは、ライドシェアリングとして利用されるだけではなく、低床・箱型デザインによるフラットで広い車内空間を活かし、時に移動販売、時にはオフィスといった具合に、まるでカラフルなパレットのように用途に応じて姿を変えられるところです。

「中のビジネスモデルは自由自在」という、新発想をもとにしたBtoB向けサービスであり、車両コントロールや運行、カギの管理、稼働状況などはすべてクラウドサービスで統合管理されるため、利用者はビジネスだけに集中できる仕組みになっています。「International CES2018」において発表されたe-Palette、およびそれを活用したトヨタのCASE戦略は、同社の本気を感じさせる無限の可能性を秘めた、BtoB・EVビジネスモデル構想と言えるでしょう。

まとめ

現在市販されている国産EVの中で、最もCASEの推進にマッチしそうな車は、世界初の量産EVである三菱自動車の「i-MiEV」、コンパクトなサイズ感といい小回りの良さといい、日本の市街地でシェアカーとして運用するにはうってつけ。 i-MiEVを販売する三菱は現在、日産グループの一員ですが日産と言えば、高速道路におけるハンズオフ走行を世界で初めて可能にした、「プロパイロット2.0」搭載の新型スカイラインを、今年9月から販売すると発表したばかりです。

現在国内でCAS推進似ているのは断然トヨタですが、将来もし進化したプロパイロット3,0・4,0が登場し、それが日本の道路事情とマッチするi-MiEVに搭載されたら、国内BtoC向けCASE の主役は、日産と三菱にものになるかも知れません。

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