【対談】地方こそITの力が必要だ―社会問題解決のカギは“掛け合わせ”にあり 前編

【対談】地方こそITの力が必要だ―社会問題解決のカギは“掛け合わせ”にあり 前編

都心部と比較して、人口的にも経済的にも大きな差がひらいている地方の都市。地方の過疎化を防ぐために、国も大々的に地方創生という言葉を掲げ、各企業や地域も地方活性化に取り組んでいます。だからといって単純に地域を盛り上げたり、急成長を押し上げたりするのではなく、本来目指すべきはそこに暮らす人々が持続可能な生活環境を整えることです。それを実現するために、重要なカギを握るのが「IT」と「スタートアップ」。今回は大企業での華麗な経歴を持ちつつ、2019年にスタートアップ企業へ転身を遂げた、株式会社Cogent Labsの保科実さまをゲストに、ITを地方でどのように活用すべきか、スタートアップが地方活性に対してできることとは何かを対談させていただきました。

対談相手:株式会社Cogent Labs(以下、コージェントラボ)保科実(ほしな・みのる)さま

大手企業からスタートアップへの転身

北川:「この度はインタビューのお時間をくださり、誠にありがとうございます。まずは保科様とコージェントラボについて、簡単にご紹介いただけますか。」

保科:「現在、コージェントラボでCRO(チーフレベニューオフィサー)を務め、営業、アライアンス、インサイドセールスなどを統括しています。コージェントラボに参画するまでの経歴を簡単に述べますね。

1984年、日本ディジタルイクイップメント株式会社(DEC)に入社し、エンジニア職としてスタートしました。その後、日本オラクル株式会社で新規領域製品のビジネス開発を担当し、2008年に株式会社セールスフォースドットコムへ。アライアンス、セールスエンジニア、コンサルティング、サポートなど、専務執行役員として多岐に渡る部門を統括。都心部だけでなく地方のお客様も担当し、地方のビジネス拡大を推進してきました。2019年より、これまでに蓄積してきた知識と経験を生かし、次なるステップとして日本のスタートアップ企業で一緒に成長しようとコージェントラボにジョインしました。

コージェントラボでは、現在3つの事業を軸にサービスを展開しています。一つは、手書き書類をAIでデータ化する『Tegaki(テガキ)』。手書き文字の認識率99.22%*で、データ入力作業の効率化とコスト削減を実現するコージェントラボの主力製品です。二つ目が、自然言語理解エンジンの文書検索システムの『Kaidoku(カイドク)』です。

そして三つ目が、時系列データをもとに株式出来高などや為替を予測するTSF(Time Series Forecastingタイムシリーズフォーカス)。いずれも多様なエンジニアたちが最先端の技術を取り込みながら製品を開発しています。お客様の課題に対するソリューションを、最先端のAI技術を活用してエンドtoエンドで提供できる会社はなかなかないと思っていますので、その強みを活かして、幅広いお客様の課題解決に積極的に取り組んでいます。」
*Tegakiの認識率は常に99.22%を保証するものではありません。

効率化や生産性の向上…AIやIoTができること

 

北川:「まずは、読者の理解を深めるために、AIやIoTで実際にどんなことができるかを事例とともに教えていただけますか?」

保科:「今回のテーマにもなっていますが、地方にまつわる事例を2点ご紹介させてください。

まず一つ目が、手書き書類をAIでデータ化することができる『Tegaki』について。これは、人が今まで手作業で行ってきた労働集約型の作業をAIがサポートすることで、コストの削減や作業の効率化を実現するサービスです。

より高度な業務、そしてより重要な対面コミュニケーションに人々が注力できるよう、労働集約型でひたすらパソコンで書類上のデータを打ち込むような作業を効率化するソリューションとして提供させていただいております。現在、地方の自治体や製造、流通、サービス、地方銀行などで幅広くご利用いただいています。特に地方では人口の大幅な減少によって働き手が不足していますので、うまく活用いただくことで業務を効率化し、残業をなくして生産性を向上させたりといったことをサポートさせていただいています。

二つ目は、多量のテキストデータを分析して戦略構築に活かす、『Kaidoku(カイドク)』です。鎌倉市での事例では、市民に配布したアンケートの結果や、TwitterなどSNS上でつぶやかれている鎌倉市をキーワードとしたツイートデータを集め、分類・分析を行って市政に活用しています。SNSの投稿は膨大な量のデータになってしまうため、すべてを人手で分析することは困難であるため、今までは貴重な市民の意見を十分に吸い上げることができなかったそうです。しかし、『Kaidoku』の導入によって、従来では見落としがちだったリアルな声を吸い上げることができ、それによってさまざまな意見やニーズが見えてきました。

たとえば、鎌倉市への移住を考えている方が他のどの都市と比較をし、何を検討材料にしているのか。インバウンドを含めた観光客の方は、よく京都と鎌倉を比較されますが、両都市の何をどう比較しているのか。観光で鎌倉を訪れた人は、どこが良いと、またどこが悪いと感じたのか。SNSから拾った声とアンケート結果を重ね合わせて見ていくと、さらに深いインサイトが見えてくるのです。鎌倉市は歩道が狭くて歩きにくいなどの課題が浮き彫りになり、移住者を増やすためにはどのような改善を優先的に進めるべきなのかなど、具体的な施策へとつなげることができるようになります。」

北川:「私たちスマートドライブが提供している『SmartDriveFreet』も、一部の地方自治体で活用されていますが、データを蓄積して分析を行うことで住民の方たちがどこに行き・どこに集まりやすいのかといった情報が明確になっています。しかし、これらのデータは取得・分析するだけでなく、課題を抽出し施策へとつなげることが重要です。地方自治体でも、MaaSという文脈であっても、課題解決という軸で考えると、AIとの掛け合わせが今後は重要になってくると考えています。」

IoTのあるべき姿、テクノロジー本来の価値

保科:「そもそも、IoTで目を向けるべきは、デバイスを活用するユーザー自身を把握することです。IoTをユーザーと製品・サービスを提供する企業との架け橋として活用し、企業はユーザーに対するサービスや利便性をどう向上させていくかを考えなくてはなりません。

スマートドライブの場合、提供しているデバイスから移動にまつわるさまざまなデータが取得できますよね。そうすると、今後は移動を含めた行動パターンのデータを、さまざまなサービス開発に活用したり、ユーザーにとって有益な情報に変換して提供するなど、幅広いシーンで活かすことができると思います。

先日、とある自動車メーカーの方もおっしゃっていましたが、車を所有する時代から利用する時代に変わりつつある今、車を売って利益を得るというビジネスモデルは今後ますます減っていくでしょう。そしてこれからは、ユーザーが利用するサービスやサポートで対価を得るビジネスモデルへとシフトするだろうと。ならば、自動車メーカーはどのようにしてお客様へ価値を届けていくべきでしょうか…? それは、地域に関係なく移動に関するすべての情報を集め、それらのデータをベースにしたビジネスを展開することです。そうした動きが本格化していくと、スマートドライブが提供しているIoTデバイスから入ってくる情報とAIとの掛け合わせが非常に意味のあるサービスへと昇華していくのではないかと思います。」

北川:「整備されていない、または効率化されていない部分を、テクノロジーの力でフォローしたり解決したりできることはまだまだたくさんありますし、私たちもそこをもっと追求していきたいです。」

保科:「ただ、ユーザーとの距離が近くなれば、セキュリティ問題も合わせて考えなくてはなりません。インターネットの利便性の裏には常に情報漏えいなどの危険性が潜んでいますが、取得する情報が個人レベルになればなるほど、当然のごとくセキュリティの強化が必須です。一方で、セキュリティ問題については技術と運用の両面から解決していくべきですが、それがストッパーになって動きが止まってしまうと本末転倒です。常に新しい領域に踏み込み、挑戦して、メリットや利便性を追求すること。それが、スタートアップ企業の使命ですから。」

北川:「おっしゃる通りですね。ちなみに、都心と地方とで、そういうマインドの部分に違いはあるのでしょうか。」

保科:「今までの全国各地のお客様のところへ行き、会話をさせていただいたうえで述べますと多くの方々が、地方の活性化は日本経済におけるナショナルイシューだと認識しています。だからといって、地方の急激な成長は誰も望んでいませんし、期待もしていません。継続できる、持続可能な生活環境の維持こそが地方創生に重要なことなのです。

全国で広がる少子高齢化や都会への人口流出で地方の過疎化が進んでいますが、地方こそ、さまざまな新しい技術を取り込んでいかなければ、継続的に暮らしやすい環境を作ることは難しいでしょう。地方の経済やビジネスに貢献しようとしている地方の金融機関や自治体、企業も共通の認識を持っていらっしゃいます。ですので、今後ますます地方のIT化が加速していくはずです。」

 

さまざまな可能性を秘める地方とIT

北川:「私たちも地方に拠点を構えているお客様からそうした課題感を伺うことがありますが、みなさん新たなテクノロジーに対して非常に敏感ですし、情報感度が高い。都心部よりも勉強熱心と言いますか…。それはやはり地方の課題解決のカギがテクノロジーであると理解されているからだと思います。そのため、地方から出てくる事例も少なくありません。」

保科:「日本有数の大企業が、競合他社が大勢いる中で自社の優位性を維持するためにさまざまテクノロジーを活用する事例は増えていますが、社会的に役立ったという事例は地方の方が多い気がしますね。」

北川:「営業や配車など、地方のお客様にとっては、車両はなくてはならないツールの一つです。車両との密着性が高いため、同じスマートドライブのデバイスをご利用いただいていても、事故の削減や、業務の効率化についてより大きな効果が出ています。ちなみに、鎌倉市以外の地方で、コージェントラボ社の別事例がございましたら教えていただけますか。」

保科:「京都府の舞鶴市などでもTegakiをご利用いただいています。また、地方の場合、営業マンの外回りが多かったり、営業所が分散していたりするので、業務効率の向上を目的に『Tegaki』を導入される企業様も多くいらっしゃいますね。

手書き入力という労働集約型のアナログ作業から、AIを取り入れたデジタル作業に切り替えることで業務時間が大幅に短縮できるため、残業が減って従業員がワークライフバランスを保ちやすくなったなど、ポジティブな声を多く頂戴しております。」

北川:「地方ですと、営業に出向く際に車はマストです。ただ、会社を離れた後のスケジュール管理は自己申告だったりしますので、経営や管理側の視点で言うと『本当にこの時間に営業に行っているのかな』という心配が生まれやすいんです。

その小さな不信から従業員に直行直帰をさせず、わざわざ出社と帰社を命じ、手書きの日報を作成させる…それは営業マンにとっては大きな負担ですし、時間の無駄でしかありません。本来の仕事に集中するためには、業務プロセスそのものを変えるべきですが、『SmartDriveFreet』は、リアルタイムでドライバーの移動情報が取得できますし、コメントいれるだけで日報になりますので、一日のうち1時間ほど、時間の節約ができるようになります。ここに『Tegaki』を掛け合わせることで、さらなる業務効率化が叶うのではないでしょうか。」

保科:「私は、AIは生産性や効率化を推進するもので、IoTはデバイスとユーザーを繋ぐことで利便性の向上させるものだと思っています。AI × IoTの掛け合わせによって、地方に役立つポイントやアイデアがより多く生み出せるようになるのではないでしょうか。」

 

>>後編へ続く

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