【空のMaaS】航空会社が取り組むシームレスな移動体験とは

【空のMaaS】航空会社が取り組むシームレスな移動体験とは

今や国境も超え、あらゆるモビリティがシームレスに連携しサービスへと変貌するMaaSの流れが浸透しつつあります。

車両や鉄道の話題が多く取り上げられているMaaSですが、旅客の安全な移動を確保するため、ルールを厳守することを求められる規制産業であり、本来イノベーションと対極にある「航空業界」へも押し寄せ、国内外の航空会社は生き残りを図るべく、MaaSへの取り組みを進めています。

規制の垣根を越えろ!航空業界が目指すシームレスな移動体験

 

そもそも、陸上における「シームレスな移動」という発想は、数多くの国が陸続きであるヨーロッパや、州によって法律や規制が異なる米国で生まれたもので、小さな島国に過ぎない日本では長い間意識すらされていませんでした。国や州を越えることが日常茶飯事の欧米では、自動車や鉄道で長距離移動すると道路を管理する団体や鉄道会社が目まぐるしく変わるため、必然的に「継ぎ目のない移動」の確立が求められていたのです。

その一方で、日本は大型船舶や航空機による海外輸送が一般的になり、「継ぎ目の存在」がモビリティ発展の障害になることにようやく気づきます。近年では各交通インフラのIoTを活用した連携により、次の3つの環境が整いつつあります。

 

  • 物理的なシームレス・・・相互直通運行・バリアフリー・同一ホーム乗り換えなど
  • 運賃のシームレス・・・共通乗車券・決済方法の統一・乗継割引制度拡充など
  • 情報のシームレス・・・連絡ダイヤの設定・リアルタイムな運行情報の共有など

とはいえ、このシームレスな移動体験が実現まであと一歩なのは陸上、もしくは海上交通に限った話で、冒頭でも述べたように航空業界においてイノベーションに不可欠な「規制緩和」はタブーとされてきました。

なぜなら、新しい枠組みを生み出すには既存のルールや規制を打ち破る、失敗を恐れないチャレンジ精神が必要なものの、航空業界での失敗は尊い人命が失われることにもつながるため、「攻撃より守り安全第一が最優先」というマインドが根強いためです。

しかし、オンラインショッピングやリモート会議などが一般化し、移動ユーザーの絶対数が減少している今、このまま守りの姿勢を貫いていては、きたるMaaS時代に乗り遅れ、単なる「移動手段を提供する存在」になることを、航空業界も理解しています。そして、国内外の航空会社は「安全第一」を大前提にしつつも、シームレスな移動体験の実現に向けて、高いハードルを越えるチャレンジを始めているのです。

シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその1「ANA」

 

2019年7月、ANAは出発地から目的地へのシームレスな移動体験の創出を目指す専門部署、「MaaS推進部」の新設を発表しました。

IoTを活用し、航空輸送と地上交通との情報共有やサービス連携によって、ユニバーサルなエアラインを目指していく方針で、翌月には早速JR東日本とのタッグを組み、航空・鉄道の情報がシームレスに受け取れる仕組みや、航空券・キップ手配環境の構築する予定です。両社は2018年11月から、地方への誘客推進キャンペーンやインバウンド対応など、増加する訪日外国人や観光流動拡大に向けた取り組みを進めており、今後は他の陸上輸送サービスや決済会社など、多岐にわたる関連企業との連携も検討されています。

この取り組みが順調に進めば、航空機を含めたあらゆる交通インフラの予約・配車・決済が、モバイル端末1つで完結する「地球規模のシームレス移動」が可能となり、併せて輸送過程の効率化・最適化により、物流コストを大幅カットできると期待されています。

シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその2「JAL」

 

JALも同様に、2019年に入ってMaaS事業への参画を開始しています。4月には、国内最大級のタクシー配車アプリ運営会社「JapanTaxi」と協業し、ストレスフリーでお得な移動を提供すべく、JAL国内線に搭乗したユーザへJapanTaxiアプリで利用できる割引クーポンのプレゼントキャンペーンを展開しました(キャンペーンは2019年6月30日に終了しています)。

航空・タクシー配車業界で、強力なネットワークを持つ両社の強みを活かした、ドアtoドアのシームレスな移動体験実現が期待されるものの、双方の予約・決済は統一されていないため、当初は両者が連携を強化しサービス拡充が図られるとみられていました。そんな中、続けざまにJALは小田急電鉄がヴァル研究所の支援のもと開発・リリースした、MaaS用オープン・プラットホーム「MaaS Japan」に、前述したJapanTaxiのほかJR九州・遠鉄・DeNAと共に参画したことを発表。

先んじて協業をスタートしたJapanTaxiはもちろん、鉄道・バスを運営する事業者や電子決済サービスを提供している企業の情報共有基盤を労せず手に入れることにより、JALはシームレスな移動体験の実現を、急ピッチで進める目算のようです。さらに、自社独力でのイノベーションが潜在的に進めにくい体質であることを、誰よりも理解している同社は、今年1月、国内外のスタートアップ企業に投資するコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド(CVC)「Japan Airlines Innovation Fund」を設立。

外部企業と手を組んで判断スビードを早めることがエアモビリティのシームレス化の近道と考えたうえでの取り組みで、総額80億円が投じられる一大プロジェクトの推進により、事業領域の拡大とMaas時代への対応を図っていく姿勢を打ち出しています。

シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその3「ルフトハンザドイツ航空」

 

日本の航空会社による、シームレス移動への取り組みはまだスタートしたばかりですが、海外に目を向けるとヨーロッパでは「スカイレール・サービス」と呼ばれる、航空と高速鉄道を組み合わせた複合的輸送サービスがすでに実働しています。

ドイツ最大の航空会社「ルフトハンザドイツ航空(以下LHと表記)」は、フランクフルト空港の協力の元ユーザーにシームレスな列車・航空間の乗り継ぎを提供する、「LH・エアポート・エクスプレス」を運行しています。元々、採算の取れない200km程度の中距離国内航空路線の代替えとして運用されていた鉄道ですが、現在はドイツ主要都市の駅とフランクフルト空港を連絡する、スカイレール・サービスに姿を変え、今やドイツにおける交通インフラの中核を担っています。

運行開始当初は8路線でしたが、段階的に出発・到着駅も20カ所に拡充され、ドイツ全域とヨーロッパ有数のハブ空港間で数多くの旅客をピストン輸送しているほか、LHのフライト搭乗券を兼ねる列車チケットは、同社HPやスマホアプリで簡単に予約と決済が可能です。また、LH便で入国する場合は各国の空港で同鉄道の搭乗券が発行され、空港で預けた荷物も連絡先の駅ターミナルで受け取りができる継ぎ目のなさは、一歩出遅れている国内航空各社が参考にすべきモデルケースと言えるかもしれません。

実際に、ANAは物流分野でLHとパートナーシップを結び、輸出貨物搬入・輸入貨物引渡場所の一本化やアクセシビリティのスピードアップ、作業時間の短縮による貨物輸送の品質とフレキシビリティの向上を目指した動きを強めています。一方のJALは、LHのスカイレールを利用した同内容の乗り継ぎサービス、「レール&フライ」をスタートするなど、パイオニアとの関係性を深めることで、シームレス化を一気に進めたい考えのようです。

シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその4「パスポートのデジタル化」

 

ここまでは航空業界と、他の交通インフラとの「継ぎ目」を無くす国内外の動向を紹介しましたが、ここで解説するのは航空という移動媒体自体の「シームレス」に対する取り組みです。

海外渡航の経験がある方なら、時間がかかる出入国手続きが面倒に感じるはずですが、近年ではパスポートの情報をデジタル化してモバイル端末で管理・保存し、バイオメトリクス活用による「シームレスゲート」を備える空港が増えています。

仕掛けているのは、ポルトガルのデジタルID管理ソリューション開発企業「Vision-Box」で、同社が手掛けるソリューションは世界80の国際空港において、2,000以上の自動ボーダーコントロールとして運用、実に2億5,000万人もの旅客情報を処理しているのだとか。

アルバ国際空港・KLM・Schiphol Groupとともに同社が開発した、「Aruba Happy Flow」は、2年間の試験運用を経て実用化され、バイオメトリクスを使い旅客者の顔を識別、データベースと照合して許可された乗客のみ移動できる仕組みになっています。旅行書類はチェックイン時に1回のみ必要なシステムとなっており、チェックインの後は手荷物検査・国境通過・乗り継ぎなどが、顔認証のみのシームレスで手続き可能です。

同社でマーケティング・ディレクターを務めるPedro Torres氏は、「レジストレーションするときのクオリティと、マッチングするときの認識率の高さが強みだ」と述べており、2019年5月東京に日本オフィスを設立しました。海外旅客増加による市場の将来性を見据え、国内空港への参入に本腰を入れ始めたほか、ホテルでのID管理やインターネットバンキング、オフィスのセキュリティ強化などにも、同ソリューションは活用可能としています。

まとめ

スマホ操作だけでタクシーが乗りつけられ、歩くことなく到着した駅で航空券を兼ねたキップを受け取り、時間ぴったりに発車する鉄道で空港へ向かえば、あっという間に空の旅が楽しめる…シームレスな移動体験は自律運転より早く実現する可能性も考えられるでしょう。

もちろん安全が最優先ですが、国内企業との協業にしろ海外資本との提携にしろ、航空インフラが単なる移動手段からサービスに進化するのは利用者にとって非常にありがたいことですし、そうならなければ国内航空会社は、いずれ海外大手に飲み込まれるかもしれません。

TOP