MaaSの実証実験を成功するため必要なこととは

MaaSの実証実験を成功するため必要なこととは

移動をシームレスなサービスへと進化させる「MaaS」。メディアで取りざたされるようになって数年、日本各地で実証実験が行われるようになりましたが、いずれも身近なサービスとして運用されていると感じるものはわずかに感じるかもしれません。

MaaSの普及で社会的課題の解決と経済発展の両立を果たすには、前段階となるPoCを成功させ、MaaSという概念が実用可能であることを示す必要があります。しかし、そこには日本ならではの課題があり、問題を複雑化させているようです。

PoCとは

 

概念実証とも訳されるPoC(Proof of Concept)は、新しい概念やアイデアが実現可能かどうか、効果・効用・技術的な観点から検証する行程を指します。本格的な導入の前段階として投資判断のために検証を行うという意味では、PoCと実証実験は同義と言えるでしょう。

本来、PoCは医療業界における新薬の実効性や、映画界でストーリーがCGで再現可能かを検証する際に使われていた用語ですが、近年ではMaaSの中核を担うIT業界でも重視されています。PoCがIT業界で注目を集めた背景には、業務効率化などのコーポレートITから、経済発展と社会貢献に寄与するビジネスITへと領域を拡大したからなのだとか。

ビジネスITとは、先進ITテクノロジーを駆使して新ビジネスの創出を目指す動きで、実現のためには企業と消費者双方が「スクラップ&ビルド」を果敢に推し進めなくてはなりません。しかし、企業側からするとシステムの破壊と新構築には多大な損失や資本投資が必要ですし、消費者としても実益がなければ、すでに普及している商品やサービス、インフラなどを手放すことはないでしょう。

つまり、損失・資金投資に見合う利益を企業にもたらし、生み出したビジネスが消費者にとって魅力あるかを検証し、スクラップ&ビルドの判断材料となる明確な根拠を示すこと、それがMaaSという新概念におけるPoCです。

 

PoCを成功させるためには?

 

PoCでは「新システムが技術的に実現可能か」「ビジネスの根幹である費用対効果」「ユーザー目線に立った有益性」の3つを検証の軸とし、それぞれにおいて、十分に採算が合うと確信を持ち、消費者が有益性を実感できるだけのプロトタイプ提供にまで至れば、成功だと言えるでしょう。

PoCを成功に導くポイント1 目指すゴールを明確にする

PoCに取り組んでいる企業は数多くあるものの、ほとんどが延々と実証実験を繰り返す「PoCの無限ループ」にはまっていることが多く、MaaSの場合はその傾向が特に顕著です。

たとえば、トップが「山に登るぞ!」と宣言したとしましょう。ゴールである山が高尾山や御嶽山ならハイキング程度の準備と心構えで十分ですが、エベレストなどの世界最高峰クラスを目指す場合は万全な装備と厳しい訓練が必要です。残念ながら、国内企業の多くは目指すゴールがやや不明確なところが多いのか、PoCが目的化し、次第にプロジェクトメンバーのモチベーションが低下、プロジェクト自体が自然消滅することも…。

明確なゴール・アクションプランを定めるべきかもしれませんが、MaaSは広範におよぶ概念であるため、ジャンルを絞り込んでスモールスタートをした方が、ゴール・アクションプランの設定がスムーズになるかもしれません。スモールスタートから、一定の成果が確認できれば、新システムの実現度や費用対効果が明確になり成功へと近づけるでしょう。

PoCを成功に導くポイント2 全ての実証データを可視化・共有する

MaaSにおけるPoCのスモールスタートを提案したのは、スムーズなゴール・アクションプランの選定だけではなく、コスト・時間・労力の節約に加え、実証データの正確な分析や共有が容易なためです。

多くの企業がPoCに失敗しているのは、風呂敷を広げ過ぎたことで収集した実証データが膨大になり、扱い方がわからなくなってしまうことが原因です。IT専門部署内であれば分析・共有も容易かもしれませんが、そもそもPoCへの理解が浅い場合、単なる数字の羅列を提示されても、ゴールがどこで、到達するためには何が必要なのか、誰が何をすべきなのか、スムーズに理解することができません。

一方で、ある程度焦点を絞れば、取り扱う実証データを絞り込み、実務に即したアクションプランを策定し、PoC成功に不可欠なベクトルの統一を図ることができます。肝心なのは、可能な限り「現場と近い環境」で検証を実施することです。

PoCを成功に導くポイント3 ユーザーのメリットを追求し周知徹底する

PoCを成功させる最大のポイントは、利用者へのメリットをを明確にさせること。

たとえば、「1つのデバイスで多くの書籍を楽しみたい」と考える電子書籍愛用ユーザーに向けて家庭用ゲーム機の様なカートリッジ式のデバイスをリリースしても、購入してもらえるでしょうか。音楽・映像・ゲームなどの配信サービスが流行っているのはそのためです。

「なるべく1つのデバイスで完結させたい」という現在のトレンドは、モビリティをシームレスに繋ぎ、1つのサービスとして提供するMaaSの基本概念と合致するため、一見すると簡単にメリットが提供できるように感じられます。

しかし、交通網が発展し地方の自家用車保有率が高い日本では、MaaSの普及によって得られる、予約・配車・決済の一元化やラストワンマイルの確保など、利便性の向上に繋がるメリットを感じにくい環境にあります。また、交通渋滞の解消や排気ガスの減少など、社会的問題の解決をしきりに訴えてもユーザーの心を簡単に変えることは難しいですし、ドライバー不足や過疎地での交通弱者問題に終始しても、MaaSを爆発的に普及させる大きな原動力は得られないでしょう。

ユーザーの興味を引くためには、自家用車の維持コストを節約できるなど、メリットを前面に押し出すことが大切です。PoCを進める中でモデルサンプルを準備し、自家用車からMaaSサービス利用にスイッチした場合に維持コストを月額いくら節約できたかなど、可能な限り具体的で分かりやすい実証例を作成しましょう。それをユーザーに提示し、納得してもらうことができれば、成功は目前だと言えるかもしれません。

MaaSのPoCが進まない日本ならではの理由とは

 

前項でモビリティ社会が成熟している日本では、MaaSで得られるメリットを強く実感できないと述べましたが、MaaS先進国の一角であるドイツ、アメリカ、中国なども、同じように世界屈指の自動車大国です。にもかかわらず、国内でなかなかMaaSが普及しないのは、日本特有と言える2つのハードルが存在するからだと考えられます。

ハードル1「ビジネスとしての確立と継続的な成長」

MaaSには、中核を担うモビリィティサービス事業者、プラットフォーム開発に当たるIT・情報関連各社、システム運用を手掛けるオペレーター企業など、さまざまなポジショニングが挙げられます。

モビリィティサービス事業者であれば、ドライバー不足の解消や業務効率化による生産性の向上、稼働台数最適化でのコストカットといったメリットが期待される半面で、資本投資という大きなリスクを背負うことになります。そのため、自社がどのポジションを担いどの程度の配分で資本投資すべきなのか、判断・決定することが難しいのです。

加えて、従来から山積する問題やコロナ蔓延の影響から、経営地盤が疲弊状態にある企業も多いため、すでに参入もしくは近々参入を予定していた場合でも、資本の追加投資や新たなコスト発生に二の足を踏んでいるのが現状です。

MaaSは、どのポジションが欠けてもビジネスとしての確立が難しく、参入企業の増加と継続的な資本投資がなければ成長しませんが、ポジションニングが複雑でマネタイズのポイントが分かりにくいため、成果の逆算で参入の是非を決めるPoCがなかなか進まないのです。

これは世界共通の課題といえますが、特にMaaSの普及が数歩遅れた日本では、ドイツの「キクシット」のように模範となる成功事例が著しく乏しいため、成功を妨げる巨大なハードルとして立ちふさがっているのです。

ハードル2「官・民をまたぐ協力関係の弱さ」

こちらの方が日本特有のハードルと言えるかもしれません。日本国内では鉄道の相互乗り入れや交通系ICカード決済での協調は徐々に行われきたものの、船舶・航空・陸送などそれ以外の運輸・物流業者間では、長きにわたって競争関係が優先されてきました。

そのため、業務連携に不可欠な協力体制強化の下地がほぼなく、情報の統合であるレベル1実装が今の限界で、レベル2に挑んでいるのはごくわずか。ユーザーの利便性が大きく向上するであろう予約・決済を統合するレベル3は実現への糸口が見つかっていません。

MaaSの完成形であるレベル4・政策の統合においては、政策統合による法改正などが進まなければ、真の意味でMaaSの実効性を確かめることができません。今、実現可能なのはレベル2・3の実証実験により、根拠となるデータを政府関連機関に提示・規制緩和を働きかけることですが、協力体制構築の下地がない日本ではレベルに関わらず、業務統合に対する抵抗感が海外と比較し非常に強いのがネックだと言えます。

まとめ

 

統合規模を拡大し、官・民を巻き込んだ強固な協力関係を構築できるか否か、これが日本におけるMaaS最大の挑戦かつPoC成功へのラストワンマイルかもしれません。

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