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  • 鉄道の自動運転レベル「GoA0~4」の定義を解説

    鉄道の自動運転レベル「GoA0~4」の定義を解説

    技術開発とともに法改正や整備が不可欠な車の完全自動運転化は、まだ先の話になりそうですが、もう1つの重要な交通網である鉄道は、一部の路線ですでに自動運転システムが実用化されています。

    そして、車と同じように鉄道もGoA (Grades of Automation)と呼ばれる規格が存在し、路線ごと乗務員の人数や運行方法など細かい条件が設けられているのです。この記事では、鉄道の自動運転レベルを詳しく解説していきます。

    鉄道の自動運転レベル「GoA」とは何か

     

    GoAとは、UITP(国際公共交通連合)が定めた鉄道の自動運転水準を示すもので、一般的に0~4までの5段階で分類されています。車速・車線の変化が目まぐるしく、停車・発進や右左折を伴う自動車と比較して、線路という専用走行帯を有する鉄道の自動運転化は、かなり高レベルまで進んでいるようです。

    GoAレベルが高くなるほど、路線全体で必要な乗務員数を減らすことができるため、深刻化する人員不足の解消に寄与するほか、運転士・乗務員育成プロセスの省力化、人的ミスの減少による安全性向上、運転状況の集中管理によるダイア安定など、公共交通の要である鉄道事業を維持するうえで山積する問題の解決策として、国内外で研究・開発と実用化が進められているのが、GoAという概念なのです。

    GoAレベルの基準と実例について

     

    国内外の鉄道は、現状どの程度GoAが運用されているのでしょうか。ここからは、各レベルの基準と実例を解説していきましょう。

    鉄道事業黎明期からの伝統的スタイル「GoAレベル0」

    GoAレベル0は、列車に一切自動運転システムが搭載されていない状態、つまり運転手がすべての運転操作を行い、併せて「車掌(添乗員)」が車内の安全確保やドアの開閉、運行状況のアナウンスや切符販売・確認などを実施する段階を指します。

    しかし、運転士が目視で情報を把握しすべての操作を行うスタイルは、国内で言うならローカル線や都市部の路面電車などわずかに実例が残るのみで、現在運行されている鉄道のほとんどがGoAレベル0から脱却しているようです。

    自動車の安全運転サポートと同じ段階「GoAレベル1」

    発進・停止や速度変更などの操作は運転士が実施しますが、速度超過時の自動減速や事故発生時の自動停止といった、安全運転サポート機能を搭載している段階がGoAレベル1。現在、地上を走行する鉄道の多くに実装されています。

    鉄道はステアリング操作が不要ですので、車で言うところの「自動運転レベル1,5」程度と考えられるでしょうか。自動運転のキモと言えるEV化がほぼ完了している鉄道だからこそ、容易に普及が進んだと考えられます。ただし、運転操作の負担がそれほど軽減されていないため、省人化効果はほとんどないとも言われますが、1~2両編成で乗客数が少ない地方鉄道の場合、レベル1であっても「ワンマン」で運用されているケースも多々あるようです。

    踏切がなく人や車が侵入しない路線が主体「GoAレベル2」

    GoAレベル2から、一部の運転操作が自動化され、基本的に運転士はドアの開閉と発進のみ担当、発進後の速度調整や駅での停車をシステムが実施する段階へ進みます。しかし、トラブルが発生した時は手動運転に切り替わり、運転士が直接停止操作をすることになります。

    車に置き換えると、エンジンを始動すれば、目的地まで勝手に移動してくれると言うイメージですが、特定の場所(鉄道では線路と駅)はシステム、緊急時のみドライバーが操作する「レベル3」が、鉄道ではすでに運用されています。有人自動運転のGoAレベル2が導入されているのは、東京メトロや札幌・横浜・名古屋・大阪・福岡など各市営地下鉄が主ですが、つくばエキスプレス、埼玉高速鉄道、多摩都市モノレールなど、一部もしくは全線で地上を走行する鉄道にも採用されています。

    この段階になると運転業務の負担が大幅に軽減できるため、車掌業務の兼任が可能となり、新幹線や特急など路線範囲が広い一部鉄道を除けば、ほぼすべての路線でワンマン運行できるようになります。さらに、運転操作のほとんどが中央管理であるため、ヒューマンエラーの減少や定時運行体制の確立など、人材不足解消以上の効果を期待できるのです。

    添乗員のみで運行可能な「GoAレベル3」

    GoAレベル3は、列車の発進や緊急時の停車もシステムが自動で実施する段階となり、ドアの開閉と避難誘導を担当する添乗員のみでの運行が可能になります。このレベルは、千葉県のJR東日本舞浜駅と、東京ディズニーリゾートの各施設を連絡する環状モノレール、「舞浜リゾートライン」に導入されていますが、国内外を通してレベル3の段階で足踏みしている事例は特殊です。

    これは、GoAレベル3が実現するまで自動運転システムを構築しているなら、人員を乗車させるメリットがないと思われているためですが、前述した舞浜リゾートラインの場合は、添乗員が車内の安全確保だけでなく、施設を案内する役目も担っています。つまり、運営母体のTDLが接客向上のためレベル3に留めているだけで、一般的な鉄道事業者の場合、最終段階であるGoAレベル4に発展させた方が人員コスト削減をはじめ、ビジネス上で得られるメリットが大きくなってきます。

    完全無人運行の実現「GoAレベル4」

    鉄道従事者が一切乗車しない状態で、乗客を安全かつスムーズに輸送する段階−−つまり鉄道インフラにおける無人自動運転の完成形がGoAレベル4です。

    安全確認と乗務員の運転訓練のため、ごく限られた時間帯に人員が乗車するものの、国内では神戸ポートライナー&六甲ライナー、大阪ニュートラム、東京臨海線ゆりかもめ、金沢シーサイドライン、関西国際空港ウィングシャトル、札幌市営地下鉄東西線など、走行範囲や用途が限定的かつ、人や他の交通インフラに対する安全性を確保しやすい新交通システムや地下鉄6路線がレベル4を達成しています。

    海外でもGoAレベル4の導入は進んでおり、ドバイメトロやシンガポールのMRT、釜山のBGLなどがその代表格です。比較的、アジア諸国の方が積極的にGoAシステムを構築・採用しているようです。一方、鉄道の歴史が古い欧米諸国では、GoAの進捗がやや遅い傾向にあり、世界最速の130km/h運転を行う、米・サンフランシスコのバートでも、ドアの開閉や車内アナウンスをする添乗員が乗車しています。

    GoAが抱える現在の課題と今後の動向

     

    世界を見渡しても、かなり高いGoAレベルを達成している鉄道が多い日本ですが、その背景には列車のEV化と正確な運行ダイヤにより、鉄道の運行を集中管理しやすい土壌にあることが挙げられます。しかし、踏切がある一般的な鉄道では、安全性の面から運転手を必要としないGoAレベル3以上は導入されていません。今後も多くのユーザーが日常の足として利用する、JR在来線のような地上走行鉄道では、レベル3以上が導入されることはあるのでしょうか。

    GoAの課題と動向その1 「自動運転システムのセンシング能力向上」

    陸上走行の在来線に、GoAレベル3以上を導入できない理由は、なんといっても人・車などとの接点となる踏切が存在すること。公道と立体交差する高架化を進めて踏切を無くせば、無人自動運転の実現は難しくはないかもしれません。しかし、既存路線の高架化には莫大なコストが必要なうえ、工事の施行に伴い周辺交通インフラへ通行止めや迂回などといった影響を与えるほか、鉄道事業の運営にも支障が生じるため、全路線を短期間で高架化することは不可能とも言えるもの。

    そこで、この最大にして、最難関の課題をクリアすべく技術革新が進められているのが、カメラやセンサーで前方の情報を察知し、何かしらの障害物を発見した際は安全に停止する、センシング能力です。全方位的に障害物をセンシングして走行を制御する自動車と異なり、鉄道は基本的に前方を確認できれば安全走行ができますが、無人運転技術の開発を遅らせているポイントには圧倒的に長い制動距離が挙げられます。

    時速60kmで走行中の普通車の場合、センサーが障害物を発見・完全停車するまで、50mあれば十分ですが、車両重量が段違いである列車の場合は同じ時速であっても500mが必要となります。国内在来線の最高速度は、駅間隔が長くフラットな路線で時速100km程度のため、計算上18秒前には障害物を発見しないと、衝突を回避できないことになります。(※秒速約27,7mで計算、車は約1,8秒前のブレーキで回避可能。)

    しかし、車載センサーとカメラだけでは対処できないため、踏切並びに人や車が誤って侵入しそうな場所にセンシング機器を設置し、IoTで情報共有しつつ緊急停車するシステムを導入すれば、接触事故防止というGoAが抱える大きな課題も解決の目が出てくるでしょう。

    GoAの課題と動向その2 「完全無人化には法改正が必要?」

    日本では、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」において、自動運転のための装置が規定されており(第58条)、その中で「自動列車制御装置を設けた鉄道であること」と明記されています。

    制御装置さえ備わっていれば有人・無人に関して何ら法的規定は存在しないため、現状レベル2までしか認められていない車の自動運転と異なり、GoAの場合は法改正をしなくとも、在来線への最高レベル4運用に法的なハードルは存在しません。つまり、センシング能力を始めとする自動運転技術さえ搭載できれば、在来線のGoAレベル3以上の到達が可能になるのです。

    今年1月には、JR東日本がドライバーレスによる試験走行を山手線で数回実施されました。この試験走行では、定時運行のみならず、若干の遅延を想定して各駅間の時間を短縮、定時運行へと戻す回復運転パターンをテストしたほか、駒込駅~田端駅間にある山手線内の唯一の踏切では減速走行するように設定。そのすべてが正しく反映されるという成果を上げています。導入も間近かもしれませんね。

    GoAの課題と動向その3 「シーサイドライン事故を教訓にした安全性の徹底」

    JR東日本は、20年後を目処に在来線を無人化する目標を定めています。しかし、2019年6月1日、自動列車運転装置(ATO)で運行が制御されていた横浜の新交通システム「金沢シーサイドライン」において、乗客14名が負傷するという事故が発生しました。同路線の新杉田駅で乗客の乗降後、ドアが閉まると同時に、進行方向と逆に列車が急きょ始動し約25m先にあった車止めに衝突。神奈川県警の発表では負傷した乗客の中には、骨折などの重症者が6名出てしまう事態となりました。

    事故から5日後の6日、同路線を運営する横浜シーサイドラインは、当該車両の指令系装置と、モーターの制御に関する駆動系装置の配線に断線が見つかったと発表。司令系から駆動系への信号が正確に伝わらず、モーター進行方向の切替がうまくできなかった可能性があるほか、逆走時に作動するはずの緊急停止システムが、発見された箇所の断線により機能しなくなるという、システム上の欠陥も指摘されています。

    この事故を受け、石井啓一国土交通大臣は、運営が医者に原因究明と再発防止策の実施を指示、併せて全国の鉄道事業者にも事故の周知や注意喚起を行なったとしつつ、「省力化により生産性の向上に資する自動運転の導入は重要な課題である」とも述べています。

    とはいえ、国内鉄道のGoA進行にダメージを与えたのはたしかなことで、踏切が多数存在する在来線への導入には、高度なセンシング能力と共に非常事態発生時の危機回避能力を有する、さらに安全性の高いシステム構築が必要不可欠といえそうです。

    まとめ

     

    今回解説したGoAレベル分類には、運転士が不在でも緊急時の停車操作を添乗員が行う、レベル2以上3未満の「2,5」という段階が存在します。人や車とニアミスする機会が多い在来線の場合、まずレベル2,5を目指すところからGoAは進行していくとみられます。

    2025年には、車の完全自動運転化も視野に入れられていますが、鉄道と車の自動化を連携させることができれば、よりシームレスな乗り継ぎが可能となり、交通機関全体を最適化することができるでしょう。高レベルのGoA実現には課題もたくさんありますが、1つずつクリアしていけばスマホ操作での配車、駅到着時間と列車発車時間の自動調整、乗車券の手配と決済がワンクリックで完了という未来がやってくるかも

  • 自動車業界はどこまで変わる?「CASE」を解説

    自動車業界はどこまで変わる?「CASE」を解説

    2016年のパリモーターショーにおいて、ダイムラーAGのCEOを勤めていたディッター・ツェッチェ氏が、同社の世界戦略の柱として提唱した「CASE(ケース)」という造語を、みなさんはご存知でしょうか。

    今回は、自動車業界が進めていくべき4つの次世代トレンドを、分かりやすく示したキーワード「CASE」について、その意味や進められている具体的な取り組みなどを、詳しく解説していきます。

    なぜ今CASEに注目が集まっているのか

     

    CASEというワードを、公の場で始めて用いたダイムラーのツェッチェ氏は、今年5月CEOを勇退されましたが、生みの親が第一線を退いた今、100年ぶりの変革期に突入した言われる自動車業界は苦境を打開するために、こぞってCASE戦略を採用し始めています。

    なぜそこまでCASEに注目が集まるのか、それはこれまで移動手段でしかなかったクルマが、徐々に所有からシェアする時代へと移行しつつあり、自動車を製造・販売する旧態依然の経営戦略では多様化するユーザーニーズに応えられなくなってきたからです。そしてCASEという造語を構成する、それぞれの「アルファベット」が示す要素を絡み合わせ、安全で利便性の高い次世代型モビリティ・サービスを構築することこそ、自動車業界が生き残っていくための戦略であると考えられているのです。

    CASEのC=「Connected(コネクティッド)」

    CASEのCはコネクトを意味します。つまり、IoTを活用して車とドライバー/車とデバイス・サービス/自車と他車をネットワークで接続することを示します。

    そんなのは、GPSカーナビやアプリなど、ずいぶん前の段階で実現しているんじゃないの?と感じる方も多いかもしれませんが、CASEにおける接続とは、ユーザーの操作に依存する「一方通行の接続」ではありません。CASEは、車もしくは車載モバイルがセンサーなどで、ドライブに関するさまざまなデータを感知し、それを人工知能・AIが高次元で分析。ドライバーへ有益な情報をリアルタイムで提供する、「相互接続」の水準に達することを目指しています。

    具体例として、ダイムラー社はボッシュと共同で、車両に搭載したセンサーで運行ルート上の駐車場空き状況を把握し、車載ディスプレイや専用アプリへその情報を送信する、「コネクテッドベースドパーキング」という新サービスを開発しました。これは、現在ほぼすべてのモデルがスマート・ネットワークに接続しているメルセデス・ベンツに搭載される予定のシステムで、駐車の空きスペース探しが人と車の共同作業となり、時間・燃料の節約やストレス軽減に寄与するものと期待されています。

    国内メーカーに目を移すと、トヨタはすでにCASE戦略の一環として、コネクティッドサービスである「T‐Connect」をリリースしています。そして今後、国内で発売するほぼすべての自社生産者にDCMを搭載して、コネクテッド化を進める方針を打ち出しました。

    さらにスバルも、2022年までに8割以上の新車へ「STARLINK」を搭載し、コネクティッドカーにする目標を掲げたほか、日産は離れた場所にいてもスマホでドアロックできるなどといった機能を有する、「Nissan Connect」をマイクロソフトと連携してスタート。加えて、各メーカーは通信キャリアとの協業も進めており、ソフトバンクはホンダと、NTTおよびKDDIはトヨタと連携を強め、プラットフォームの開発促進やインフラの標準化など、自動車メーカーだけではなく、通信機器・半導体メーカーを巻き込む大きな動きが展開されているのです。

    現状はまだ、情報の自動収集とドライバーへの伝達が主体の「一方通行+α」という状態ですが、すべての車とITが完全につながり、汎用性の高いプラットフォームが構築されれば、車は単なる移動手段からサービスそのものへと進化する可能性を秘めています。たとえば、ドライバーの身体状態を感知して空調を調整したり、体調不良を察知した際には車載デバイスやスマホなどと連携・救急通報をしたりするなど、車が人の暮らしをサポートする「走るITデバイス」になるため重要な要素、それがCASEの「C」なのです。

    CASEのA=「Autonomous(自動運転)」

    自動車という呼び名は、英語の「Automobile(自動で動くもの)」に由来していますが、ご存知の通り今の自動車はドライバーの操作に頼ることなく動く乗り物ではありません。一方、CASEにおける「A」が示す「Autonomous」は、「自律型」。つまり、エンジンまたは電動モーターの力で動くハコから、真の意味での「Autonomous・Vehicle」を開発、普及させていこうという取り組みです。

    すでに国内外の自動車メーカーは、自動運転レベル2(部分的運転自動化)の機能の導入と運用を始めており、GMの新型モデル「Cadillac CT 6」やアウディのフラッグシップセダン「A8」などには、レベル3(条件付き運転自動化)相当が搭載されています。国内メーカーでも、トヨタ・日産・ホンダを筆頭にすでにレベル3もしくは、それを凌ぐ自動運転を実現可能な技術開発が進行しているものの、最大のネックである法整備が進まないため、現状レベル2の運用に留まっています。

    自動運転のターニングポイントになりそうなのは、東京オリンピックが開催される2020年です。トヨタ・日産・ホンダは揃ってこの年までに、高速道路を皮切りに自動運転レベル3に運用を始め、同年中に一般道路でも実現すると言っています。ただ、CASEを提唱したダイムラーが目指す「A」は一歩先を進むものであり、同社が開発・世界に向け発信したコンセプトカー「スマート(EQフォーツー)」には、ハンドルもアクセルもブレーキすら存在しません。

    このスマートは自律運転が可能なコネクテッドEVで、特定個人が所有するのではなくカーシェアリングで使用するものです。そして、同社のCASE戦略的柱として今後メルセデス・ベンツが発表する、さまざまな新型車の基本的枠組みとされています。

    さらにダイムラーは、どの位置から減速すればカーブを曲がれるかを人工知能が計算し、人の判断なしにスムーズな運転が可能となる、3Dデジタル地図「HERE」を用いた自動減速技術を開発中とのこと。スマートとこの技術が融合すれば、高度運転自動化であるレベル4を超え、「Autonomous・Vehicle」の完成形・完全運転自動化となるレベル5の実現も、夢物語ではないところまで来ているのです。CASEを高次元で融合させようと動きを強め、国内外の自動車メーカーで先手を取っているのは、やはりダイムラーであると言えるでしょう。

    CASEのS=「Shared&Service(シェアリング&サービス)」

    CASEの中でもっとも認知度と理解度が高く、世界各国で普及が進んでいるシェアリング&サービス。それらを意味する「S」ですが、自動車の共有を進めようとするこの取り組みの存在自体が、自動車業界にとって諸刃の剣となっているよう。理由は、「シェアリングの普及が自動車の販売台数減少に繋がってしまうからで、国内ではトヨタとソフトバンクが、米国のUBER、中国のDidi、シンガポールのGlab、インドのOLAといった、海外大手ライドシェア会社に出資・世界戦略を進めていますが、全体を通して国内自動車メーカーの動きは、「鈍い」と言わざるを得ません。

    別角度から、ライドシェアに期待を寄せているのはタクシー業界です。DidiやUBERが配車アプリを展開したり、DeNAもAIを活用したタクシー配車アプリをリリースしたりするなど、今後タクシー業界では顧客獲得競争が激化していくと予想されます。

    また、国内ロボットベンチャー企業であるZMPは、自社の次世代自動車プラットフォーム「RoboCar(R)」をもとに、ライドシェアと自動運転を組み合わせた「無人タクシー」を開発。2018年には、東京のタクシー事業者「日の丸交通」と共同で、都心部で世界初の自動運転タクシーを用いた公道サービス実証を行い、将来的にはスマホで予約・決裁が可能となる、スマートタクシーサービスの提供を目指しています。

    この分野でも一歩先を行っているのがダイムラーで、同社は必要な時にパソコンやスマホで最寄りに停車しているEVをネット検索、見つけたEVにそのまま乗りこめる画期的なサービス「car2go」を提供しており、すでに200万人以上の登録者がいます。国内経済を長年支え続けた自動車業界が、車の共有へとシフトチェンジしつつある今、ダイムラーが描いているシェアリングの延長線上にある自動運転の普及という、新ビジネスへの展開が期待されます。

    CASEのE=「Electric(電動化)」

    これからの自動車業界を語るうえで、もはやEVは欠かすことのできない存在になりつつありますが、CASEに実現にも自動車のElectric化は「絶対条件」ともいえる要素です。

    まず「C」との関連性、高度なコネクティッドカーを運用する時は多大な電力が必要ですが、ガソリン車の場合は発電・蓄電パーツを高性能・大型化しないと、すぐに電力不足が生じて車は走るITどころか、ただの「鉄の塊」と化します。

    一方EVはエンジンが不要なため、各種センサーやECUなどを置く余裕が生まれ、高精度な電子制御が可能で応答性を高めやすいことから、非常に自動運転と相性が良いのです。では、大きな電力を発生させるHVはどうかと言えば、電力は問題ないもののエンジンとモーターそれに大型バッテリーを積むスペースが必要なうえ、ガソリン車より制御が複雑なため自動運転との相性が悪いのです。さらに、ガソリン・EVはシェアカーとして運用するにあたり、燃料確保をガソリンスタンドに頼ることになりますが、EVの場合は乗り捨てステーションでの待機中に充電することが可能です。

    そして、EVともっとも関連性が強いのが自動運転です。ガソリン車やHVは、アクセルを踏んでから車が走り出すまでに数多くの過程があるため、メカニズム的に完全自動運転化が難しいのですが、EVは極端なたとえをすると「大きなラジコン」のようなもの。構造をシンプルに、サイズをコンパクトにすれば、センサーによる車速・位置・左右のバランスなどといった動態把握や、それをもとにした遠隔操作が容易になる…そう、前述したダイムラーのスマートこそ、「CASEを具現化するために誕生したEV」なのです。

    ただ、CASEの要となり得るEVを作り出すには、ガソリン・HVからの転用ではない、EV専用プラットフォームの構築が必要です。かくいうダイムラーのスマートも専用プラットフォームが採用されているのですが、それには膨大なコストがかかります。まだ発展途上といえるEV 界で専用プラットフォームを用意したダイムラーには、CASE推進に対する本気度の証が見えますが、ライドシェアに慎重な国内自動車メーカーが、追随する激しい動きを見せるか微妙なところです。

    日本版のCASEはトヨタが牽引

    国内のCASEを推進しているトヨタは、過去に小型EVである「e-com」を開発し、それを用いたEV共同使用システム「Crayon(クレヨン)」を展開しています。クレヨンは、駅などに充電スタンド付きe-com専用駐車場を設置し、車内にはVICS対応のカーナビが搭載され、利用者はカギの代わりにICカードを所持し予約や決済をネットで行うシステム。

    CASEそのままというべきシステムを、トヨタは1999年~2006年の7年間にもわたり、実証実験していましたが全国運用されることはありませんでした。今やe-comはトヨタの大型展示ショールームである、「MEGAWEB」でアトラクション的な扱いを受けています。

    トヨタはその後も、数台のEVコンセプトカーを発表。いずれも市販には至っていないようですが、2020年より「C-HR」のEVモデルを中国に、同年にインドにスズキと提携・開発新型EVを投入すると発表しています。

    ちなみに、現在トヨタが進行しているCASE戦略の要である、自動運転が可能なモビリティサービス(MaaS)用車両「e-Palette」もEVです。サイズ感は前述のスマートより大きい箱型バスのようなものですが、同様にハンドルやアクセルはありません。e-Paletteのすごいところは、ライドシェアリングとして利用されるだけではなく、低床・箱型デザインによるフラットで広い車内空間を活かし、時に移動販売、時にはオフィスといった具合に、まるでカラフルなパレットのように用途に応じて姿を変えられるところです。

    「中のビジネスモデルは自由自在」という、新発想をもとにしたBtoB向けサービスであり、車両コントロールや運行、カギの管理、稼働状況などはすべてクラウドサービスで統合管理されるため、利用者はビジネスだけに集中できる仕組みになっています。「International CES2018」において発表されたe-Palette、およびそれを活用したトヨタのCASE戦略は、同社の本気を感じさせる無限の可能性を秘めた、BtoB・EVビジネスモデル構想と言えるでしょう。

    まとめ

    現在市販されている国産EVの中で、最もCASEの推進にマッチしそうな車は、世界初の量産EVである三菱自動車の「i-MiEV」、コンパクトなサイズ感といい小回りの良さといい、日本の市街地でシェアカーとして運用するにはうってつけ。 i-MiEVを販売する三菱は現在、日産グループの一員ですが日産と言えば、高速道路におけるハンズオフ走行を世界で初めて可能にした、「プロパイロット2.0」搭載の新型スカイラインを、今年9月から販売すると発表したばかりです。

    現在国内でCAS推進似ているのは断然トヨタですが、将来もし進化したプロパイロット3,0・4,0が登場し、それが日本の道路事情とマッチするi-MiEVに搭載されたら、国内BtoC向けCASE の主役は、日産と三菱にものになるかも知れません。

  • 【対談シリーズ】 大手総合商社・住友商事が挑む「MaaS 領域の可能性」 前編

    【対談シリーズ】 大手総合商社・住友商事が挑む「MaaS 領域の可能性」 前編

    みなさんは、最近新聞やニュースで見かけるようになった「MaaS(マース)」という言葉をご存知でしょうか。「MaaS」とはMobility as a Serviceの略で、情報通信技術を活用して交通をクラウド化し、公共交通や運営主体に関係なく移動手段を最適化することをいいます。ライドシェアや自動運転、AI、オープンデータなどを掛け合わせ、あらゆる交通手段をひとつのサービスとして捉えることで、利用者はより快適でシームレスな移動が可能になります。今までとは違う次世代のサービスの台頭は、利用者とサービス提供者のどちらもが自動車業界の転換期に立っていることを示すものかもしれません。

    第2回目の対談シリーズでは、MaaS 領域に積極的に取り組まれている、住友商事株式会社の執行役員で自動車モビリティ事業本部長の加藤真一様をゲストとしてお出迎え。前編では、住友商事がMaaSに取り組む理由からスタートアップ企業とのシナジーについてお話しいただきました。

    ▶︎後編はこちら:大手総合商社・住友商事が挑む、「MaaS 領域の可能性」 後編

    住友商事がMaaS領域に積極的に取り組む理由

    北川:「加藤さんは住友商事に入社されてから現在に至るまで、一貫して車に関する事業に携わってこられたそうですね。

    加藤:「そうですね、住友商事に入社して今年で32年になりますが、そのうち29年間は自動車関係の仕事をしてきました。当初は完成車を中南米で輸出する仕事を担当していて、その延長線上で同地域での自動車工場の買収や販売代理店の設立、部品メーカー同士の技術提携の支援を担当していました。その後、マツダの北米子会社に出向して全米のマーケティングを担当、帰国後は自動車専門のコンサルティングファーム「住商アビーム自動車総合研究所」の立ち上げ、本社で経営企画、マツダ社のメキシコ工場の立ち上げ、ニューヨークオフィスに移って南北アメリカ大陸の自動車・建機・鉄道・船舶・航空機事業のトップをしておりました。」

    北川:「なるほど。近年の自動車業界ではMaaSを筆頭に新たなトレンドが次々と出てきていますが、約30年もの間、車関係に携わってきた加藤さんから見て、ここが大きく変わりつつある、または変わるだろうと感じていることはなんでしょうか。

    加藤:「そもそも、商社の役割とは何かを考えた時に、漢字四文字で例えるとすれば殖産興業ではないかと思っています。言い換えると、経済成長を表すS字カーブ(企業の投資と成長の関係性を表したもの)の中でちょうどカーブが曲がっている部分が私たちのお仕事、つまり企業や産業が生まれるところをお手伝いしています。その部分がさらに曲がり角に来て新たに変化したり、使命を終えて消えていったり、その部分を担うのが商社の仕事です。

    住友商事の事業精神の中に『弛張興廃(しちょうこうはい)』と言う言葉がありますが、これも同じ意味合いです。事業や産業は、弛ませる時もあれば張るべき時もある。それに興す時もあれば廃れる時もある。S字で順調な部分はメーカーさんや専業の会社が得意なのでお任せした方がいいのですが、変わり目の部分については私たちが強みとするところですのでカバーすべきだと考えています。

    MaaSというのは、自動車業界の憲法を改正しようという革命運動です。クルマは買って運転するものじゃなく必要な時に誰かに乗せてもらうものだよと。この革命によって前のインダストリーが終わろうとする節目の部分に差し掛かっているのかもしれません。社内では殖産興業という言葉を噛み砕き、『つくる・変える・やめる』ことが私たちの仕事であるという意識を持つように伝えていますが、MaaS はこの3つのどの部分にも関連しますので、私たちも本業として支えていきたいと思っています。」

    MaaS にはプラットフォーム&トランスフォーメーションで取り組む

    北川:「そういう意味でいうと、弊社(スマートドライブ)のようなスタートアップ企業のアプローチと、御社のようにアセットを持って事業を推進して来た企業のアプローチは、若干ではありますが、似て非なる部分があるのではないでしょうか。では、実際に住友商事が行っているMaaS 領域での取り組みをお伺いできますか?

    加藤:「前述した商社の役割にも関連することですが、私たちができることは新しいことを始めようとする社会に元気を与えたり、リソースを提供したりすることです。私たちは古くて伝統的で、尚且つアセットを持っていて、これを別の表現で言うと、ここまで築き上げてきた確固たるビジネスのプラットフォームを持っているということになります。

    そのため、スタートアップ企業がPoC(Proof of Concept:概念実証を意味し、試作作成後、効果や効用を検証する工程のこと)の場を求めている時に、私たちはn数(サンプル数)がたくさんあって、ダイバーシティな実験場を提供することができます。その実験場を提供しつつ、スタートアップ企業からはスピード感や危機感、テクノロジーなど、私たちが弱いと感じている部分に力を与えていただきたいのです。

    私たちはこれをプラットフォーム&トランスフォーメーションと呼んでいますが、プラットフォームを変えていくことは私たち自身の戦略であり、変えていくための力を与えていただくのがパートナーさんであると考えています。スタートアップ企業が持っているテクノロジーやパッションはトランスフォーメーションのドライビング・フォースになりますので、私どもの成長のためにも力をお借りしたいですし、そのためにも場をうまく活用いただきたいですね。」

    スタートアップ企業と大手企業のシナジー はどう生まれるか

    北川:「スタートアップ企業への投資だけでなく、御社のスタッフを出向いただくなど投資後のバリューアップも積極的にされていらっしゃいますが、スタートアップ企業と大手企業とのシナジーをどう見られていますか?

    加藤:「スタートアップ企業はアイデアやスピード感など、良いものをたくさん持ってらっしゃいますが、飛躍するためのきっかけがなかったり、誰かがリソースを割いたりリスクを取ったりしなくてはならなかったりします。日本国内だと必ずしもエンジェルがいるわけではありませんし、その役割を担うのが商社ではないかと思っているんです。力になれることがあればサポートしたいですし、何かのきっかけにしていただくこと、それが私たちのミッションでもあると考えます。それから私たちのプラットフォームを変えてもらう力を貸していただき、そのあとの三番目にシナジーが生まれればいいのかなと。

    スマートドライブさんには住友三井オートサービス(SMAS)というプラットフォームを変えるためのサポートをしていただいていますが、まったく新しい保険へのアイデアはスマートドライブ社がいなければ出てこなかったものです。是非とも実現させたいですね。
    その他の例を挙げると駐車場シェアサービスを展開しているakippaさんへの投資、業務提携があります。私たちの定義ではモビリティサービスというのはクルマが動いている時にだけお金をいただき停まっている時にはお金をいただかないサービスのことですが、昨日まで動いていても停まっていてもお金をいただいていたオートリース会社が今日からモビリティサービスに移行しようとすると、自動車の稼働率は平均4%だと言われますから96%の収入を失うことになり、ビジネスモデル転換をためらいがちです。一方、駐車場はクルマが停まっている時にだけお金をいただき動いている時にはお金をいただかないビジネスですから、両者を組み合わせると収入喪失に対する不安が解消します。その結果、住友商事が保有するプラットフォーム事業の転換に対する抵抗が減り、駐車場と組み合わせた新たな価値創出が進む。そういう意味では補い合える関係であり、シナジーを生んでいると言えるかもしれません。」

    北川:「スマートドライブが提供しているサービスは基礎的なデータを集めることで、保険やシェアリング、物流など幅広く活用いただくことができる技術です。そうした点でも住友商事のアセットと掛け合わせの相性は良いですし、今後さらに幅広いサービスを生み出せると考えています。

    後編に続く