投稿者: sasaki

  • 移動の進化を振り返るその6 ~MaaSとその先へ~

    移動の進化を振り返るその6 ~MaaSとその先へ~

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機

     

    有史以前より、人類は速く・遠くへ移動する手段を求め続け、産業革命によるモータリゼーションの全盛を経て大空を翔る力まで手に入れましたが、現代においては、地方と都心との交通格差や大気汚染、物流業界における人材不足などモビリティが抱える問題が深刻化しています。

    モビリティが進化・発展により発生した問題を、AIやIoTなどの最新テクノロジーで一気に解決し、単なる移動手段ではなく次世代型交通サービスに昇華させようという動きが、世界的に拡大しつつある「MaaS」です。今回は、移動の進化を「振り返る」のではなく、MaaSによって巻き起こるモビリティ革命の未来について、現在進行中の動向はもちろんその先の未来も見据えて考察します。

    移動はさらに進化する〜「MaaS」の始まり

     

    国交省によれば、MaaSとはICTを活用して交通をクラウド化、公共交通か否かまたその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つサービスと捉え統合し、シームレスにつなぐ新たな概念と定義されています。

    MaaSは北欧・フィンランドで始まり、現在では世界中にその流れが波及して日本にも導入されつつありますが、国交省の定義通り、国内ではマイカーではなく、公共交通機関から進展しています。世界有数の自動車大国である日本の場合、カー・バイクシェアリングやカープール(相乗り)などといったサービスを提供する企業を育て、IoT技術を活用し誰しもがシームレスかつ気軽にいつでも利用できる環境を整えることこそ、MaaSを推進する本質と言えるでしょう。

    しかし、他人と狭い空間に長くいることが苦手な国民性や法の壁などによって、「Uber」を始めとする海外資本はもちろん、国産カーシェア・カープールサービスも苦戦を強いられ、全国的な普及にまで至っていません。そこで国や地方自治体、各交通インフラ運営・IT関連企業は、まず公共性の高いモビリティからMaaSを導入し、シームレスな移動サービスの利便性を国内ユーザーに植え付けることで障壁を打破する、「日本版MaaS」の展開にまず着手したのです。

     

    MaaSによって日本における移動はどのように進化していくのか

     

    前述したとおり、現在国内で盛んなのは公共交通インフラや物流分野でのMaaSですが、実際にはどんな取り組みがなされ実現により我々の移動はどう進化するのか、この項では代表的な事例を紹介していきましょう。

    NTTドコモ 「AI運行バス」の実証実験第2弾を横浜で実施

    NTTドコモは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)および横浜市と共同で、横浜MaaS「AI運行バス」実証実験を2019年10月10日~20日まで、横浜都心臨海部にて実施すると発表しました。AI運行バスは、路線と運行ダイヤが存在する路線バスと異なり、直径5km程度の運行区域内を縦横無尽に走る小型車両で、アプリやWebサービスを操作して乗車を予約すると、AIによって最適な配車が決定され、時刻表に縛られず乗車・移動ができるというもの。

    同実験は2018年度にも行われており、10月5日から12月10日の期間中、定員4~6人の車両が最大15台も走行し、国内外からの来街者・居住者・通勤者など、約3万4,000人を輸送したという実績をあげています。いわゆる、オンデマンド乗合交通であるこのサービスは、高性能AIによる最適配車・最短ルート選定での待ち時間短縮や、都市部における観光スポットやオフィスなどへの回遊性を高める、新たな都市移動サービスになると期待されています。

    ジョルダン 大分市で観光MaaSサービスを展開

    全国の電車・飛行機・バス・フェリーの時刻表や運賃・路線情報とともに、チケット予約やお得クーポンも入手できる乗換案内サービスを提供しているジョルダンは、大分バスが紙のチケットで運用してきた「1日バス乗車券ワイド」をモバイルチケット化しました。

    2019年10月1日から、同社スマホアプリ上で販売を開始したほか、地元の飲食店や観光施設を優待で利用できる「おおいた1DAYパス」も同時に提供し、ラグビーW杯の開催で沸く大分市のインバウンド消費をバックアップする、「観光型MaaS」に取り組んでいます。同サービスには、Masabi社のモバイルチケッティングサービス、「Justride」(ジャストライド)が採用されており、利用者はキャッシュレス決済でチケットを購入したり、下車時に乗務員にアプリのチケット画面を提示したりして利用する仕組みになっています。

    ジョルダン・アプリでの検索から、大分市内での移動を一括サポートするこのサービスは、10月末までの期間限定ながら利用ユーザーからの要望が高まれば、期間延長も予定されているとのことです。

    JR西日本 MaaS推進部を新設し本格始動

    JR西日本は今年9月20日、総合企画本部に「MaaS推進部」を設置したと発表し、同時に今秋「せとうちエリア」での実証実験が予定されている、観光型MaaS「setowa」を後押ししていく姿勢を示しました。関東圏の鉄道インフラを管理するJR東日本は、約半年前にMaaS推進部を設置しましたが、JR西日本は「大阪万博の開催」や「広島駅南口広場の再整備」が予定されている、2025年を同エリアにおける大変換期と予想したのか、やや遅れて本格始動に踏み切った形です。

    今後の同社は、推進部を中心に「狭義の交通MaaS」に留まらず、交通インフラ以外の事業者と連携しながら、観光型・都市型・地方型など顧客ニーズを捉えたMaaSを構築するとのこと。都市間輸送手段でこれらを結ぶことにより、西日本エリアをシームレスに繋ぐことを目指しています。

    東京海上HD 次世代パーソナル・モビリティ企業「WHILL」と提携

    国内三大損保の一角を担う東京海上HDは、MaaSの進展を見据えた保険商品・サービス開発や、超高齢化社会での移動手段の確保・普及を目的に、次世代型電動車いす・カート開発・販売を手掛ける、WHILL(株)と資本業務提携したことを発表しました。

    WHILLは、障害の有無に関係なく既存の交通手段を降りた後のわずかな距離「ラストワンマイル」をつなぎ、だれもが安全に乗れるインフラの提供を目指す企業で、東京海上HDの「空飛ぶクルマ」開発企業への保険提供や、ドローン専用保険を展開するといった、MaaSを推進する方針が一致したことでパートナーシップを結ぶことに。

    WHILLは自動運転技術開発にも積極的であるため、同社が現在提供している電動モビィティ用保険のリリースや、自動運転実験データ共有による次世代型自動車保険の開発を、今後東京海上HDは進めていくものとみられています。

    「エリアごとの課題」に考慮した取り組みを進めないと意味をなさない

    ここまで紹介したように、関連企業と地方自治体は提携を深め、各所でMaaS導入への取り組みを始めていますが、どれも「推進していく方針」の発表や都市部を中心とした「実証試験」の域を出ておらず、運用範囲も限定的で国内すべてを巻き込んだ動きはまだ見られません。

    欧州版MaaSは、行政主導で公共交通の利便性を向上させ、いかに利用率を高めるかという視点で取り組まれ一定の効果を上げていますが、一方の「日本版MaaS」は次のような「エリアごとの課題」に配慮した取り組みを進めなければ、スムーズに普及・機能しないかもしれません。

     

    • 郊外&山間部・・・自動車に代わる交通手段の確保や、利用者数低下に伴う地方公共交通の採算性・利便性向上が課題。
    • 地方都市・・・欧州版MaaSのように利便性と収益性のバランスを取りつつ、消費行動の拡大に伴う地域創生や、スマートシティなど次世代のまちづくりを含め、取り組みを進めることが必要。
    • 大都市圏・・・移動先アクティビティ(ショッピング・食事・レジャー)との連動など、「+α」の付加価値を付与したMaaS実装が求められるが、決済情報などといった個人情報の提供に対する、ユーザーの抵抗感をどう払拭していくかが課題。

    MaaSの先にあるものとは~無限の可能性を秘めるMaaS×自動運転~

     

    MaaSの実現においては、各交通インフラのサービス統合が注目されがちですが、並行して進められている「自動運転」を始めとするモビリティの進化により、これまで想像すらできなかった未来型交通の姿が少ずつ見え始めてきました。

    都市と地方の交通格差を打破!「自動運転バス」

    移動距離に限らず、現在都市・地方共に住民の重要な足として活躍しているバスは、基本的に定められた運行ダイヤに則って一定の路線を走行するため、自動運転技術との相性が非常に良いモビリティです。

    鉄道を始めとする他の交通インフラとの連絡システムも、かなりの高水準で備わっているため、大型商業施設や空港内を低速走行する「シャトルバス」など、安全を確保しやすい分野から自動運転バスは普及が進み、徐々に公道へと拡大していくとみられます。

    9月30日には、埼玉工業大学が交通量もあり店舗の駐車場への車両出入りも多い本庄早稲田駅前の公道で、最高40kmの試験走行に成功するなど、官・学・民がこぞって実績を上げており、技術的には「実現前夜」に差し掛かっていると言えるかもしれません。また商業的には、ソフトバンク傘下で自動運転開発を行うSBドライブが2019年6月、仏・Navya「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」使用したバス車両のナンバーを取得、公道実証をスタートさせることを発表しています。

    ドライバー不足を一気に解消!「ロボットタクシー」

    アーノルド・シュワルツェネッガーが主演したSF映画「トータル・リコール」の中で、人間ではなくロボットが運転する自動運転タクシーが登場した姿を覚えている方もいると思いますが、そんなロボットタクシーがすでに実用化されています。

    米グーグル系の自動運転開発企業であるウェイモは、2018年12月5日からロボットタクシーの有料商用サービス「ウェイモワン」を開始しており、無人運転ではないもののAIを活用した次世代型交通イノベーションの開発・実用化競争が、米国では激化しています。

    国内でも、自動運転ベンチャーのZMPが日の丸交通と実証実験を行うなど、空想上の乗り物に過ぎなかったロボットタクシーがリアルなモビリティとして利用できる日は間近に迫っていると言えるでしょう。

    クルマを所有する時代は終焉へ?「自動運転ライドシェア」

    無人での自動運転技術が実現すれば、現在ライドシェア普及を妨げる大きな要因となっている、「ドライバーの質」を気にする必要がなくなります。

    2019年4月、投資家を対象にした技術説明会の中でテスラ社のイーロン・マスクCEOは、「2020年の半ばまでに完全な自動運転車を100万台以上生産する」と豪語し、これまでにない新ビジネス「TESLA NETWORK」を展開する考えを示しました。

    同ビジネスは、テスラ社製の自律運転車両を一般ユーザーにリースし、マイカー利用していない時間をタクシー配車サービスに充てることで、オーナー自ら運賃を稼ぐことができ、テスラにも手数料が支払われるという仕組み。マスク氏お得意の「ビッグマウス」という指摘もありますが、完全自動運転車の活路を個人所有に広げるアイデアは画期的で、実現すれば完成度の高いMaaS社会の主役として、自動車が存在感を大きく高めると考えられています。

    ラストワンマイルでの大活躍に期待!「超小型自動運転モビリティ」

    車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能にも優れた超小型モビリティの自動運転化も開発が着々と進んでおり、ZNPはトヨタの超小型EV「コムス」をベースに、自動運転機能を搭載した「RoboCar MV2」を次世代モビリティ用プラットフォームとして提供。また、ヤマハは燃料電池を搭載した「YG-M FC」の走行実証試験を、石川県輪島市の公道上で2019年4月18日から実施しており、同社はこのゴルフカートを改造した電動カートを自動運転化し、ラストワンマイルを補完するMaaSサービスに活用したいと考えています。

     

    これからの移動はどのように進化していくのか?

     

    「MaaS」や「CASE」など、モビリティの未来を表す新たなワードが次々と生まれ、生活における移動は新たな進化を遂げようとしています。自動運転、ライドシェア、ドローン、VR、AIなどのテクノロジーは、モビリティとどのように関わっていくのでしょうか?移動はどのような体験へと変化していくのでしょうか?

    来たる2019年11月15日、移動の進化を後押しするスマートドライブが、移動の進化を体感できる共創型カンファレンス「Mobility Transformation   移動の進化への挑戦」を開催します。ぜひ次世代の移動を、そして現在起きている移動の進化を体感しにいらしてください。

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
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    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

  • JAGUARが見据えるフューチャーモビリティとは

    JAGUARが見据えるフューチャーモビリティとは

    インタビュイー:
    ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社
    代表取締役社長 マグナス・ハンソン様

    マグナス・ハンソンさまのご略歴とミッション

    北川:まずは、マグナス・ハンソンさまのご略歴についてお教えいただけますか?

    マグナス・ハンソン(以下、マグナス):私は、父がスウェーデン人で母が日本人という親の間で生まれ、スウェーデンで育ちました。大学を卒業後、サーブというスウェーデンの自動車メーカーに就職して12年間働いていましたが、6年前の2013年に今の仕事とめぐり合い移籍しました。現職に就くまでは日本で暮らしたことがありませんでしたが、今は第二の故郷である日本で楽しく仕事をしています。

    北川:ありがとうございます。CEOとしてのマグナスさんのミッションを伺えますか?

    マグナス:CEOとしてのメインミッションは、長期的には健全で安定的なビジネスを作ること、従業員のために良い職場環境を作ること、そして販売店を含むパートナーやステークホルダーのために株主価値を創出すること。日本は難しいマーケットですが、JAGUARとLAND ROVER、2つのブランドをしっかりと確立させたいですね。

    ストーリーによってブランドは構築される

    北川:ブランドとして重視されていることを教えていただけますか?

    マグナス:JAGUARは1922年に、LAND ROVERは1947年に創業されました。両ブランドとも、何十年もの歴史とともに受け継がれてきた伝統を持つ、非常に素晴らしいブランドです。ですので、責任を持って今まで築き上げてきた歴史と伝統を守りつつ、次世代へと引き継いでいかなくてはならないと思っています。

    JAGUARはイギリス発のエレガントでスポーティなブランド。デザインやキャラクターにはそうしたDNAを反映していますし、フルバッテリーを採用したエレクトリック・パフォーマンスSUVの「I-PACE」のインテリアとエクステリアにもその真髄が凝縮されています。

    一方、創業時から一貫して四輪駆動のクルマを展開してきたLAND ROVERは、第二次世界大戦後の道が荒れ果て、鉄も不足していたイギリスの土地から生まれました。どんな悪路の中でも走破できる、アルミニウム製の剛健なクルマを—そうしたコンセプトから誕生し、現在でも当時のアイデアやコアとなる部分は変わっていません。ドイツ車をはじめ、今ではさまざまなSUVが販売されていますが、LAND ROVERは必要性の中から生まれた、本物かつオーセンティックなSUVです。つまり、ストーリーによって本物のブランドが構築されている。背景にあるストーリーが、ブランドに深みを持たせているのです。

    北川:ストーリーによって本物のブランドが作られる。非常に素晴らしい言葉で感銘を受けました。いくつもの切り口があると思いますが、ドライビング性能の向上やハードウェア・ソフトウェアなど、技術面についてもさまざまな観点から重視していることを伺えればと。

    マグナス:今日の技術の進歩によって、自動車メーカーはこれまで以上にさまざまな選択肢を持つことができるようになりました。つまり、クルマをより魅力的にし、エキサイティングなドライビング体験を生み出すことが可能になったということです。

    何十年も前から、自動車の根本的な機能は変わっていませんが、近年はバッテリー技術の進化によって、環境に優しいクルマの生産が実現できるようになりました。電気自動車の台頭でエンジンを筆頭に多くの部品が不要になると、クルマの中に物理的なスペースが生まれます。そこに今後新たなテクノロジーを搭載すれば、今までとは違う価値を提供できるようになる。これは社会や環境にとっても、お客様にとっても良いことですし、モビリティ業界には、まだまだ多くの機会が眠っているということでもあります。

    現代の消費者は、コネクティビティも重視していますし、今後10-20年で過去100年間と比較できないほど、クルマは大きな変化を遂げることでしょう。

    自動車メーカーは、ソフトウェアの開発が自分たちの得意領域ではないことを素直に認める必要があります。それと同時に、GoogleやTeslaにとって、自動車の開発とは容易ではないことを知っておいてください。変革期にあるモビリティ業界で新たな価値を創出するには、異なる技術を持ったさまざまな企業、協力者とのコラボレーションが必要です。自動車メーカーは独自の確固たる技術力を武器に、行政や消費者を含め、シームレスな協力関係を築いていかねばなりません。

    ジャガー・ランドローバーでは、自律走行で先頭に立つWaymo(ウェイモ)と協業し、同社の自動運転技術を搭載した「I-PACE」の開発をしています。スマートドライブ社はソフトウェア企業ですから、ハードウェア企業とのコラボレーションが必要になるでしょう。

    マーケティング戦略と課題

    北川JAGUARでは、JapanTaxiやテニスプレイヤーの錦織選手など、多様なコラボレーションを展開していますね。

    マグナス:本社にはグローバルなマーケティング・プラットフォームがあり、各リージョンはマーケットに合わせてローカライズしています。そのため、日本国内では日本に根ざしたマーケティングを実施するようにしています。

    錦織選手とのケースはユニークなもので、彼から直接、ジャガー・ランドローバーにオファーをいただきました。エージェントは別の自動車メーカーを提案していたようですが、錦織さん自身がJAGUARを好きということで、本人の希望によりこのコラボレーションが実現したのです。

    JAGUARのマーケティングにおける課題は、オーナーやファン層が高齢化し、若い世代から親しまれていないこと。若い世代からすると、JAGUAR=お父さん世代のクルマというイメージが強く、認知はされていても自分が乗りたいとは思われない状況が生まれていました。しかし、未来のJAGUARファンを増やしていくには、若年層の獲得が必須。錦織氏の起用はまさにその名に値するもので、彼のアスレティックでエネルギーに満ち溢れるイメージは、JAGUARのブランドを若返らせるという課題ともうまくマッチしました。

    LAND ROVERは正反対の課題を抱えていて、世代を超えてファンがいるものの、認知度は高くない。今年度行われたラグビーW杯のキャンペーンなどを通じて認知度を高める努力をしています。

    私たちは重視しているのは“本物”であること。マーケティングも、偽りがなく本物であることが大事です。

    変わりゆくモビリティ業界の中で、唯一無二のブランドを築く

    北川:非常に貴重なお話を聞かせていただくことができたと思います。最後の質問になりますが、モビリティの未来についてはどのようにお考えでしょうか?

    マグナス:自動運転が一般化すれば、消費者は性能より快適性という、今までとは異なる価値観を求めるようになるでしょう。メーカーはそうしたモビリティの未来を避けることはできません。今日はまだ、技術がインフラや法制度のかなり先を歩いていますが、新しい技術はやがて都市や制度の在り方を変えていくでしょう。唯一、答えがないのは、どのくらいの速さでそこにたどり着くか(変化した未来が訪れるか)ということ。そして、いつの日か、人が公共の場で運転することが認められなくなり、サーキットのみで運転するようになるかもしれません。なぜなら、ほとんどの交通事故が人による運転操作ミスによって引き起こされているからです。

    そんな100年に一度の大変革の渦中で、自動車メーカーとしてはどのように生き残るべきか。技術に投資し、すぐにでもソフトウェア企業と協力することです。そして、従来重視されてきた性能ではなく、人々が求める快適性、コネクティビティ、シームレスなインテグレーション、本物であること、歴史などがより重要になってくるでしょう。

    わかりやすい例が時計です。今では、時間を知るための時計は必要とされなくなりましたが、それでも人はストーリー、イメージ、職人技、デザインなどを求めて、何百万、何千万もする高級な時計を手に入れようとしますよね。

    かつて、移動のために利用していた馬は自動車に取って代わりました。これから、自動車が自動運転システムに取って代わる時代がくる。自動車メーカーは消費者に訴求できるアピールポイントを増やしていかなくてはなりません。他社よりも早く動き、現実を受け入れること。いまの投資は、単純に利益を上げるという意味では、過大な投資かもしれない。しかし長期的に生き残るために必要な投資です。

    思い描いてください。どこかのホテルへあなたが泊まるとしましょう。ただ眠るだけの目的ならどこでも同じですが、サービスの質やベッドの質によって心地良さや体験の質は大きく変わるはずです。そうしたクオリティの高さを体現していきたいのです。私は、ジャガー・ランドローバーが将来、素晴らしいポジションとブランドを築いていると信じています。

  • 【空のMaaS】航空会社が取り組むシームレスな移動体験とは

    【空のMaaS】航空会社が取り組むシームレスな移動体験とは

    今や国境も超え、あらゆるモビリティがシームレスに連携しサービスへと変貌するMaaSの流れが浸透しつつあります。

    車両や鉄道の話題が多く取り上げられているMaaSですが、旅客の安全な移動を確保するため、ルールを厳守することを求められる規制産業であり、本来イノベーションと対極にある「航空業界」へも押し寄せ、国内外の航空会社は生き残りを図るべく、MaaSへの取り組みを進めています。

    規制の垣根を越えろ!航空業界が目指すシームレスな移動体験

     

    そもそも、陸上における「シームレスな移動」という発想は、数多くの国が陸続きであるヨーロッパや、州によって法律や規制が異なる米国で生まれたもので、小さな島国に過ぎない日本では長い間意識すらされていませんでした。国や州を越えることが日常茶飯事の欧米では、自動車や鉄道で長距離移動すると道路を管理する団体や鉄道会社が目まぐるしく変わるため、必然的に「継ぎ目のない移動」の確立が求められていたのです。

    その一方で、日本は大型船舶や航空機による海外輸送が一般的になり、「継ぎ目の存在」がモビリティ発展の障害になることにようやく気づきます。近年では各交通インフラのIoTを活用した連携により、次の3つの環境が整いつつあります。

     

    • 物理的なシームレス・・・相互直通運行・バリアフリー・同一ホーム乗り換えなど
    • 運賃のシームレス・・・共通乗車券・決済方法の統一・乗継割引制度拡充など
    • 情報のシームレス・・・連絡ダイヤの設定・リアルタイムな運行情報の共有など

    とはいえ、このシームレスな移動体験が実現まであと一歩なのは陸上、もしくは海上交通に限った話で、冒頭でも述べたように航空業界においてイノベーションに不可欠な「規制緩和」はタブーとされてきました。

    なぜなら、新しい枠組みを生み出すには既存のルールや規制を打ち破る、失敗を恐れないチャレンジ精神が必要なものの、航空業界での失敗は尊い人命が失われることにもつながるため、「攻撃より守り安全第一が最優先」というマインドが根強いためです。

    しかし、オンラインショッピングやリモート会議などが一般化し、移動ユーザーの絶対数が減少している今、このまま守りの姿勢を貫いていては、きたるMaaS時代に乗り遅れ、単なる「移動手段を提供する存在」になることを、航空業界も理解しています。そして、国内外の航空会社は「安全第一」を大前提にしつつも、シームレスな移動体験の実現に向けて、高いハードルを越えるチャレンジを始めているのです。

    シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその1「ANA」

     

    2019年7月、ANAは出発地から目的地へのシームレスな移動体験の創出を目指す専門部署、「MaaS推進部」の新設を発表しました。

    IoTを活用し、航空輸送と地上交通との情報共有やサービス連携によって、ユニバーサルなエアラインを目指していく方針で、翌月には早速JR東日本とのタッグを組み、航空・鉄道の情報がシームレスに受け取れる仕組みや、航空券・キップ手配環境の構築する予定です。両社は2018年11月から、地方への誘客推進キャンペーンやインバウンド対応など、増加する訪日外国人や観光流動拡大に向けた取り組みを進めており、今後は他の陸上輸送サービスや決済会社など、多岐にわたる関連企業との連携も検討されています。

    この取り組みが順調に進めば、航空機を含めたあらゆる交通インフラの予約・配車・決済が、モバイル端末1つで完結する「地球規模のシームレス移動」が可能となり、併せて輸送過程の効率化・最適化により、物流コストを大幅カットできると期待されています。

    シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその2「JAL」

     

    JALも同様に、2019年に入ってMaaS事業への参画を開始しています。4月には、国内最大級のタクシー配車アプリ運営会社「JapanTaxi」と協業し、ストレスフリーでお得な移動を提供すべく、JAL国内線に搭乗したユーザへJapanTaxiアプリで利用できる割引クーポンのプレゼントキャンペーンを展開しました(キャンペーンは2019年6月30日に終了しています)。

    航空・タクシー配車業界で、強力なネットワークを持つ両社の強みを活かした、ドアtoドアのシームレスな移動体験実現が期待されるものの、双方の予約・決済は統一されていないため、当初は両者が連携を強化しサービス拡充が図られるとみられていました。そんな中、続けざまにJALは小田急電鉄がヴァル研究所の支援のもと開発・リリースした、MaaS用オープン・プラットホーム「MaaS Japan」に、前述したJapanTaxiのほかJR九州・遠鉄・DeNAと共に参画したことを発表。

    先んじて協業をスタートしたJapanTaxiはもちろん、鉄道・バスを運営する事業者や電子決済サービスを提供している企業の情報共有基盤を労せず手に入れることにより、JALはシームレスな移動体験の実現を、急ピッチで進める目算のようです。さらに、自社独力でのイノベーションが潜在的に進めにくい体質であることを、誰よりも理解している同社は、今年1月、国内外のスタートアップ企業に投資するコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド(CVC)「Japan Airlines Innovation Fund」を設立。

    外部企業と手を組んで判断スビードを早めることがエアモビリティのシームレス化の近道と考えたうえでの取り組みで、総額80億円が投じられる一大プロジェクトの推進により、事業領域の拡大とMaas時代への対応を図っていく姿勢を打ち出しています。

    シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその3「ルフトハンザドイツ航空」

     

    日本の航空会社による、シームレス移動への取り組みはまだスタートしたばかりですが、海外に目を向けるとヨーロッパでは「スカイレール・サービス」と呼ばれる、航空と高速鉄道を組み合わせた複合的輸送サービスがすでに実働しています。

    ドイツ最大の航空会社「ルフトハンザドイツ航空(以下LHと表記)」は、フランクフルト空港の協力の元ユーザーにシームレスな列車・航空間の乗り継ぎを提供する、「LH・エアポート・エクスプレス」を運行しています。元々、採算の取れない200km程度の中距離国内航空路線の代替えとして運用されていた鉄道ですが、現在はドイツ主要都市の駅とフランクフルト空港を連絡する、スカイレール・サービスに姿を変え、今やドイツにおける交通インフラの中核を担っています。

    運行開始当初は8路線でしたが、段階的に出発・到着駅も20カ所に拡充され、ドイツ全域とヨーロッパ有数のハブ空港間で数多くの旅客をピストン輸送しているほか、LHのフライト搭乗券を兼ねる列車チケットは、同社HPやスマホアプリで簡単に予約と決済が可能です。また、LH便で入国する場合は各国の空港で同鉄道の搭乗券が発行され、空港で預けた荷物も連絡先の駅ターミナルで受け取りができる継ぎ目のなさは、一歩出遅れている国内航空各社が参考にすべきモデルケースと言えるかもしれません。

    実際に、ANAは物流分野でLHとパートナーシップを結び、輸出貨物搬入・輸入貨物引渡場所の一本化やアクセシビリティのスピードアップ、作業時間の短縮による貨物輸送の品質とフレキシビリティの向上を目指した動きを強めています。一方のJALは、LHのスカイレールを利用した同内容の乗り継ぎサービス、「レール&フライ」をスタートするなど、パイオニアとの関係性を深めることで、シームレス化を一気に進めたい考えのようです。

    シームレスな移動体験の実現に向けた取り組みその4「パスポートのデジタル化」

     

    ここまでは航空業界と、他の交通インフラとの「継ぎ目」を無くす国内外の動向を紹介しましたが、ここで解説するのは航空という移動媒体自体の「シームレス」に対する取り組みです。

    海外渡航の経験がある方なら、時間がかかる出入国手続きが面倒に感じるはずですが、近年ではパスポートの情報をデジタル化してモバイル端末で管理・保存し、バイオメトリクス活用による「シームレスゲート」を備える空港が増えています。

    仕掛けているのは、ポルトガルのデジタルID管理ソリューション開発企業「Vision-Box」で、同社が手掛けるソリューションは世界80の国際空港において、2,000以上の自動ボーダーコントロールとして運用、実に2億5,000万人もの旅客情報を処理しているのだとか。

    アルバ国際空港・KLM・Schiphol Groupとともに同社が開発した、「Aruba Happy Flow」は、2年間の試験運用を経て実用化され、バイオメトリクスを使い旅客者の顔を識別、データベースと照合して許可された乗客のみ移動できる仕組みになっています。旅行書類はチェックイン時に1回のみ必要なシステムとなっており、チェックインの後は手荷物検査・国境通過・乗り継ぎなどが、顔認証のみのシームレスで手続き可能です。

    同社でマーケティング・ディレクターを務めるPedro Torres氏は、「レジストレーションするときのクオリティと、マッチングするときの認識率の高さが強みだ」と述べており、2019年5月東京に日本オフィスを設立しました。海外旅客増加による市場の将来性を見据え、国内空港への参入に本腰を入れ始めたほか、ホテルでのID管理やインターネットバンキング、オフィスのセキュリティ強化などにも、同ソリューションは活用可能としています。

    まとめ

    スマホ操作だけでタクシーが乗りつけられ、歩くことなく到着した駅で航空券を兼ねたキップを受け取り、時間ぴったりに発車する鉄道で空港へ向かえば、あっという間に空の旅が楽しめる…シームレスな移動体験は自律運転より早く実現する可能性も考えられるでしょう。

    もちろん安全が最優先ですが、国内企業との協業にしろ海外資本との提携にしろ、航空インフラが単なる移動手段からサービスに進化するのは利用者にとって非常にありがたいことですし、そうならなければ国内航空会社は、いずれ海外大手に飲み込まれるかもしれません。

  • モビリティを活用した地方創生と活性化

    モビリティを活用した地方創生と活性化

     インタビュイー:

    • 谷本敦彦さま (以下:谷本)
      ダイハツ工業株式会社 コーポレート本部副本部長
    • 高橋啓介さま (以下:高橋)
      株式会社ローランド・ベルガー パートナー  みんなでうごこう!総括責任者

    地方が持つアセットにモビリティを掛け合わせる

    高橋ローランド・ベルガーは、地方-地域、地域内での2次交通を含めた移動のしやすさを追求し、移動が増えることが人の健康や幸せにつながり、地方-地域と経済を元気にするという考えのもと、2018年10月から初の社内ベンチャー組織として「みんなでうごこう!」プロジェクトを発足しました。

    このプロジェクトでは、一つの都市だけでなく、さまざまな地域でそこに暮らす方々との対話を通じながら、生活スタイルに基づいた形でモビリティサービスの社会実験や都市交通機能の強化を進め、街そのものを魅力的に変えていこうと取り組んでいます。私たちとしては、このプロジェクトでただ単純に移動の課題を解決するだけではなく、みなさんが“移動したくなる”きっかけも一緒に作りたいなと思っていまして。「用事がないから車に乗らない」から、「今日は車で出かけてみようかな」というように意識が変われば、人やモノとの出会いが増えて視野が広がり、心も豊かになるでしょうし、それによって経済もまわる。手段としてではない移動の価値を、「みんなでうごこう!」を通じて伝えていきたいですね。

    わたしたちは同じ志を持つ「和ノベーションチーム」10社と共同で、遠隔操縦付きの小型EVミニマムモビリティ「バトラー(執事)カー」を「2019 東京モーターショー」に出展します。慶應義塾大学SFC大前研究室よりもアドバイスを得ました。

    この車は、特に地方でのちょっとした移動に使う新しい車で、対話や出会いを活性化する触媒やプラットフォームだと位置づけています。地方自治体や企業と提携し、地域における移動総量を増やすことで、地域経済を活性化させることを目指しています。

    「バトラーカー」の最大の特徴はゆっくり走ること。昨今、高齢者による交通事故が増えていますが、あえて時速10キロしか出せないように設計したことにより、運転が容易となり、街の景色をゆったり眺めながら、新しい発見をできたり、同乗者との会話も弾んだりするはずです。また、遠隔操縦ができるので、乗り捨てと回収が可能で、次の利用者のところに配車できる機能も装備しています。スタイリッシュな外観にもこだわりました。軽自動車を手放した高齢者の中には、代替の移動手段として電動カートを検討するものの、見栄えが悪い、老人というレッテルを貼られているようで嫌だと敬遠する方もいらっしゃいます。こうした声を踏まえて、高齢者だけでなく、乳幼児を抱えるファミリー層も含めた移動困難者が、誇りを持って楽しく乗れるものを目指しました。

    また、開発にあたっては、最先端の技術を駆使することではなく、今ある技術を組み合わせて、安価にすぐに実現できることにフォーカスしました。2019年の東京モーターショーに出展し、最先端の自動運転車の隣にこの‟いつでも、だれでも、何でも運ぶ”ミニマムモビリティを並べて、ありものの組み合わせというイノベーションのアプローチを提案したいと思っています。

    谷本:私のミッションは、地方や都市部の生活を豊かにすること、暮らしを支えていくこと。そのために、地域の経済を私たちのようなモビリティで活性化させたいと考えています。
    人口が減るとサービスの数も減少していきますが、モビリティ側が協力することで、どこに住んでいても同等の、あるいはより高いサービスを受けることができる環境を提供していきたいのです。地方が持っているアセットと直面している課題をモビリティで解決し、地方の良さを引き立てるというように。

    さまざまな観点でフォローをしていきたいと思っていますが、中でも今、注力しているのが福祉介護と農業です。地方には非常に多くの高齢者が住んでいますが、それとともに介護や福祉に関する需要も右肩上がりに増えています。私たちに何ができるだろうかと、5年ほど前から福祉介護の事業者を回り、全国の約2万5,000件の施設を訪問しました。これは自動車メーカー本来の仕事ではないかもしれませんが、そこでは介護や福祉関係で稼働する車が増えたことで、どの事業所も車両の管理が煩雑になっているという問題に気づいたのです。そこで車両管理のサポートをするために、運行管理の仕組みを作り1年前から提供を始めました。

    介護の現場では移動や送迎など車での移動が欠かせませんが、車を所有することと運行管理すること自体が大きな負担になっています。それを改善するにはまず、必要以上に車を持たず、車を“使い切る”こと。ただ、送迎計画の作成は簡単ではありませんし、適切な配車をすべて人で対応するには限界がありますので、私たちが仕組みを提供することで福祉介護業界に貢献したいと思っています。

    個別介護事業者に対して、送迎計画をはじめとした運行管理を提案してきましたが、個別の事業者だけでは解決できない大きな課題にも目を向けたいと思っています。地域の送迎を共同で実現することにより、個別事業者だけでは解決できない効率的な送迎が出来ないかということです。共同での送迎はハードルが高いですが、実現すれば様々なメリットも見えてきます。

    月曜から土曜日まで、日によって利用者数の増減はあるでしょうが、一番大きな需要に合わせて車の台数とスタッフを揃えていては非常に不経済です。だから全体で連携し、カバーをする。そうすればコストも大幅に下げることができます。

    現場の最大の困り事は人材不足です。今、大きな問題になっているのが、採用が困難なことや介護離職への対応です。地方ではギリギリの事業者、施設で福祉介護サービスを提供していることもあり、撤退する事業者がでると行政も大きな痛手を受けます。

    門外漢ですが、我々自動車メーカーが果たせる役割があるのではと考えています。これまで2万5千の事業者の皆様の声を聞いてきましたが、事業者の皆様の困りごとをまとめ、行政とつなぎ、クルマに関わる仕組みと併せて貢献できればと思っています。

    将来の夢

    谷本:法律の問題も含めて課題は大きいですが、福祉介護サービスを受けている高齢者を介護サービス終了後にスーパー等へ立ち寄ってもらえるサービスも、粘り強く関係の皆様で調整して将来は実現に貢献できればと思っています。 

    弊社の運行管理の仕組みを使ってダイヤを調整し、いろんな施設から出発した車の時間を合わせれば、同じ時間に同じスーパーの一角に集まることができるようになる。そうするだけで、普段、会えない人に会えたり、人と触れ合ったりする機会ができますよね。それって、病院の待合室で会うよりよっぽど健康的じゃないですか?

    高齢の単身世帯が増えていますし、人に会って楽しくお話しして、買い物をする。その楽しい時間が脳の活性化につながります。このように、移動の目的そのものを作っていきたいですね。その次のステップが、施設に通わない人が参加できる仕組みを作ること。 

    農業の輸出大国を目指す 

    谷本:農業は、地方で大事な産業ですが、その担い手が非常に高齢化しています。新たに企業や若い人も参入するようになりましたが、作業効率の良い田畑だけを選んでいる人がおられるのも現状です。私達としては、効率の良し悪しに関係なく、日本の田んぼや畑をこれ以上減らしたくないという思いがあります。農業とダイハツは運命共同体だと思っていますし、農家さんを元気にするためには、農業を支援するのが私たちの使命なんじゃないかって。 

    解決のカギとしてドローンの活用を考えています。現在、ドローンを開発しているナイルワークス様と協力して車を作っています。航空母艦のように車が大きなドローンを積んで移動し、どこへ行っても車からドローンが出てくるようにして、そのドローンが自動飛行をして農薬や肥料の散布を行うのです。

    農業は労働集約型で一人あたりの負担が大きいですが、技術を取り入れ、モビリティと掛け合わせることで、将来的に一人でも農業ができるような状態にしていきたいと思っています。

    肥料や農薬を減らし、生育監視を行うことで品質を向上させること。そして、生育した農作物にエビデンスをつけていけば、農作物一つひとつの品質を証明できますし、消費者に結びつけることでより大きな価値が見えてくる。ある飲食店で定食を食べるときに、口に運んだお米の産地はどこで、どのような育ち方をしたか、誰が作ったのか、全ての情報が可視化される。食べる人も安心ですし、より美味しさが伝わることでしょう。そんな世界を実現できればいいなと思っています。 

    今ある資産を掛け合わせて価値の種類を増やす 

    高橋:地方創生と言うと、地方自治体や地方の組長さんは「自動運転車を導入したい」など、先進技術への希望を出されがちですが、今そこにあるもので解決すべきなんじゃないかと思うんです。

     

    谷本:私も同じ意見です。「自動運転ができるようになったら嬉しいよね」というようなことを議論しても、導入にはコストもかかりますし法整備なども含めて考えると実現できるのはまだまだ先。だからこそ、今そこにある資産で、今できることをやるべきです。アセットというカードは全部そろっていますので、それらを組み合わせるだけで新しい価値が生み出せるはず。

    そこで何よりも大事なのは“人”です。つまり、人の気持ちを引き出す仕組みが必要になりますので、そこが最重要ポイントになってくる。 

    どこかでスイッチが変わると、ゴールドラッシュのように地方が優位になるでしょう。地方には蓄積してきたアセットがあります。今ある資産をどう組み合わせるか。増やすのではなく、効率的に使い切ることを考えるべきです。

    総量を変えず、アセットを掛け合わせて効用の種類を増やしていけば、自ずと価値の種類も増えてくるじゃないですか。 

    たとえば、地方の大規模な夏祭りや花火大会は県外からも大勢の人が訪れますが、宿泊場所も少ないですし、みなさん一斉に帰り出すのでいつも大渋滞になってしまうでしょう。私達が貢献できる部分も大きいと考えています。車を地域のアセットのエクステンションにするだけで世界は変わります。どの地方もピークに合わせてホールや施設を作るわけにはいきませんから、需要のピークに合わせてモビリティを活用するべきです。

    アイデアを生むには先入観を捨てること

    車に限らず、「これは、こう使うべきだ」という固定観念に囚われる必要はありませんよね。

    谷本:「車=移動するための手段」と思い込んでしまうと、新しいアイデアが出なくなります。都内のカーシェアでは、終電を逃した人が朝まで仮眠するために車内で寝たり、都心のカーシェアでは大きなコインロッカー代わりとして物の受け渡しに使ったりしている。要は、アイデア次第で車は動かなくても価値があると示すことができるのです。

    高橋:実際に、タイムズで借りられた車の1~2割は動いていないそうです。その中で何をしているかと言うと、電話会議したりとか、お弁当を食べたり、仮眠したり。

    谷本: それに地方には風土や地方の特性、文化を大事にした催しがいくつかありますが、それらを年間のイベントカレンダーの中で分散させて、メリハリをつけ、人が集まりやすいようにしてもいいわけですよね。収穫を感謝する秋祭りは神輿や山車で賑わい、ダイナミックかつ本当に素晴らしいのですが、全国的にはあまり知られていないものも少なくありません。

    高橋:残念ながら、国内の祭りや花火の数はどんどん減っていますよね。警備や高齢化など、多くの問題があるからでしょうか。

    谷本:ガードマンを雇うとお金がかかりますしね。ならば、みんなでやればいいんです。そうした気持ちに対して、ちょっとした知恵とちょっとした外からの支援があれば、地方も変わるのではないでしょうか。地方にはまだまだ多くの宝が眠っています。なのに、地方に住む方たちは、もったいないことに自分たちが住んでいる場所の素晴らしさに気付いていないようですから、うまく伝えてあげるべきでしょう。

    地方と都市との違いは、人と人との距離感。見ず知らずの人が多いのが都市で、見ず知らずの人が少ないのが地方。ご近所さんと会うと必ず声をかけてくれるとか、気を使ってくれるとか、人の温かさを感じることができる。目に見えるアセットではありませんが、地方が持っている独自のカルチャーってあると思うんですよ。人間関係があまりにも濃密すぎると時に鬱陶しく感じることもあるでしょうが、適度な距離の知り合い感っていいですよね。そういう温かさや魅力をもっと引き出し伝えていければと思います。

    未来の移動を変えるのは「共存」 

    スマートドライブは「移動の進化を後押しする」という会社のビジョンを持っています。移動の進化が起きて、新しい世の中が訪れるのは30年後かもしれない。どんな世界になっているかはまだ想像もつきませんが…。何かの技術を開発するのではなく、そうした世界を5年でも短縮できたらいいねというのが私たちの考え方です。

    先ほど、資産をカードに例えた話が出ましたが、それぞれが持つカードを有効に使っていけるような場所を提供したいと思っています。

    谷本:その世界を実現するには、共存が重要になってきます。リソースが足りないならば、工夫をすればいいだけです。ただ、共同送迎の話と一緒で、一番問題になるのはコスト面。「その果実をどう分配するか」で喧々囂々となるでしょう。しかし、カードをプラスしていけばネガティブではなくポジティブな方向に進んでいくのだから、その中でルール決めをするだけの話なのです。

    小さくなる果実をわけるのではなく、果実を大きくし分配する。そう考えればみんなが納得して回っていくはず。もちろん、お金以外の面も価値として評価しながら回していくことが必要です。わかりやすい評価はやはりお金になりますが、現物で提供するもの、市民にサービスとして提供するものなど、有形無形の複数の通貨がその場所で回っていく仕組みを作らなければ、理想とする絵柄を描くことはできないでしょう。

    そこで大事になるのがタウンミーティング。つまり、一緒に食を共にすることです。気を許せる時間の中でそれぞれに本音を語り合う、それが心を一つにしていくことになるのではないでしょうか。今までは敵対して、シェア競争をやっていたかもしれませんが、シェア競争をするとデフレになります。今はみんなで拡大していく方向へ向かうよう、足並みを揃えるべき。その中で、ダイハツとしては、どうやって嬉しさを最大化して維持するのかを追求していきたいですね。

     

  • エレベーターの進化から見えてくる「モビリティ改革」

    エレベーターの進化から見えてくる「モビリティ改革」

    江戸時代、武士階級や大規模商家を除く多くの町民・職人たちは、長屋と呼ばれる集合住宅で生活を営み、それが近世に入ると縦方向に複数階を有する団地やマンションへと急激な変化を遂げていきました。そして、第二次世界大戦後の高度経済成長期に突入すると、二ケタ以上の階層を持つ高層マンションやオフィスビルが都市部に乱立、それと同時に階段での徒歩移動が困難になったため、ボタンを押すだけで上下移動可能な箱型の空間、「エレベーター」が普及しました。

    今や、大都市圏における重要なモビリティの一つとなっていますが、そんなエレベーターが縦移動だけではなく、「横移動できるツール」になったらどんな変化が訪れるのでしょうか。

    未来エレベーターコンテストは「想像」ではなく「リアル」になるか

     

    東京の霞が関ビルやサンシャイン60など、誰もが知る高層ビルに自社製エレベーターを供給しているビル内モビリティのパイオニア・東芝エレベーター(株)は、2007年から10回にわたって未来のエレベーターの形を学生から募る、「未来エレベーターコンテスト」を実施しています。2016年に行われた第10回では、「IoTが変える!IoTで変わる!10年後の建築とエレベーター」をテーマに、2026年のエレベーターの姿を若い世代に問いかけ、驚くほどクリエイティブな作品たちが集まりました。

    建築家である今村創平氏や、筑波大学教授の谷口守氏を始めとする5人の審査員が、特別賞・審査員賞・優秀賞を選出した中、栄えある最優秀賞に輝いたのは村松佑紀さんら、8名の和歌山大学・大学院生が出品した「ひすとりっぷ」でした。あなたと歴史をつなぐモビリティと銘打たれた同作品は、京都の町を舞台に歴史的アイコンである手まりをモチーフとした都市型エレベーターを配し、初めて京都を訪れる人でも快適に利用できる、観光の「足」にしようという構想を描いたものです。

     

    出典:東芝エレベーター(株)「第10回未来エレベーターコンテスト」

    「歴史+旅行」を意味するその名が示す通り、京都の街にあるさまざまな歴史や出来事といったコンテンツをIoTで感知し、リアルタイムで当時の建築物、人物を表示するAR表示装置を内部に実装することで、魅力的な観光体験を演出するのだとか。

    移動原理は、従来型のワイヤーに頼るエレベーターというよりEVに近く、ユニット下部にはモーターと連動したタイヤを設置。モーターの回転がタイヤを通して外部に伝わることで全方向に転がりながら進みますが、座席部分にはジンバル構造が作用されているため回転しません。注目すべきはその操作方法。行きたい場所や到着時間などの入力手段として、モーションキャプチャーが採用されているのです。

    内部には有機ELディスプレイが設置されており、乗客は提示された数種類の条件を対話的に絞り込みます。そしてクラウドを介してそれを受け取ったAIが、現在の交通状況から最適ルートをユニットに送信しつつ、史跡についての案内・解説もこなすというのです。

    あたかも、専用ガイド付きの個人ツアーに参加しているように、乗客が京都内を自由かつ快適に楽しめる観光エレベーターというアイデア。現在のIoTやEV技術を活用すれば、10年後といわず、すぐにでも実現可能かもしれません。また、同ユニットはハンズフリーで移動でき、IT接続によるナビゲーションや写真・動画撮影及び試聴も可能なので、問題視されているながらスマホの減少につながります。

    ただし、不特定多数と乗り合わせる従来のエレベーターと異なり、家族や友人・知人レベルでの利用となるため、大観光地でサービス提供する場合は膨大な数のユニットが必要となり、コスト面だけでみると簡単に導入ができるものではないでしょう。現実的な問題点を突き詰めればきりはありませんが、エレベーターを単なる建造物内モビリティから、優秀なMaaSツールへと進化させた、画期的かつ斬新なアイデアと言えるのではないでしょうか。

    海外ではすでに起きていた「エレベーター革命」

    前述した「ひすとりっぷ」はまだ想像の域を出ないものの、海外ではすでにエレベーター革命が始まっています。その最たる例が、独ティッセンクルップが開発した「MULTI」という新型エレベーターの本格導入です。

    「MULTI」最大のポイントはワイヤレスであること、つまりキャビンを吊り上げるワイヤーが存在しないことです。壁に取り付けられたガイドに沿って、リニアモーターを動力源として移動する仕組みになっています。それだけなら、さしたるイノベーションに繋がらないように感じられますが、「MULTI」は垂直方向のシャフトと直行する形で横方向にもガイド付きシャフトが設置されているので、一般的な上下移動だけではなく、左右へも縦横無尽に移動ができるのです。

    ユ―ザーが行きたい場所を指定すると、ITが他キャビンの混雑状況から最短移動ルートを計算するシステムで、たとえば、超高層マンションで自室を示すボタンを押せば、歩行することなく玄関前へ到着というイメージです。

    また、人やモノの効率的な輸送や待ち時間の短縮など、モビリティとしてのメリットだけではなく、従来型より占有面積が少ない、ビル設計の自由度が向上する、導入するビルの高さに制限がなくなる、ビル外壁への設置&隣接ビルとの連絡が可能になる、約60%のピーク電力削減できるなど、省スペース・省エネに寄与する多くの利点が見込まれています。

    「MULTI」の導入により、もっとも恩恵を受けると考えられるのは高層ビル。最大で全体の40%に達するとされる従来型エレベーターのように、設計段階で占有スペースを気にすることなく、建築家はより自由な発想で革新的なビルを設計できるようになると言います。

    同社が「エレベーター発明以来最大のレボリューション」と、胸を張るこの新型エレベーターは、欧州有数の不動産デベロッパー「OVGリアルエステート」がベルリンに建設した高層ビル、イーストサイドタワー・ベルリンで導入されています。

    構造やシステムを見ても、ホームが入り組んで難解な地下鉄などの都市交通アクセスへ応用は可能で、車椅子やベビーカーを押す人の移動をサポートするエレベーターとして、少子・高齢化が進む日本にもマッチするかも知れません。

    ただ一点、従来のエレベーターと比較すると約5倍もかかる設置コストの高さだけが、今後の普及を左右する最大のネックと言えるでしょう。

    日本ではどんな新エレベーターの登場が考えられるか

    国内に目を移すと、100階までわずか1分足らずで到達する「超高速エレベーター」や、昇降機・制御盤を回路内に設置することで機械室レスを実現した「省スペースエレベーター」などの技術開発がアジアを主戦場とした受注競争を繰り広げています。

    しかし、あくまでそれは移動体としての機能向上にすぎず、「MULTI」のような未来型エレベーターの開発は進んでおらず、旧態依然のモデルしか普及していないのが現状です。
    そんな中、三井不動産がプロジェクトマネージャーとなって建設を進めていた次世代のオフィスビル「新橋M-SQUARE Bright」が2018年9月に完成し、日立ビルサービス製の「ハンズフリー機能付きエレベーター」が国内初導入されたことが話題を集めています。

    このエレベーターは、設置されたカメラから顔認証で来館者を検知し、自動でエレベーターのボタン操作を行うことができます。また、事前に顔データ登録をすることで行先階ボタン操作も自動で行うことが可能。

    加えて、キャビン内の人数を従来の重量による算出法と、カメラによる画像解析技術の双方で把握し、満員時の無駄な停止を防ぐとともに無人時には速やかに閉扉する機能も。乗車可能な際は状況にあった誘導アナウンスでスムーズな乗り込みを促します。また、今までキャビンがどこにいるか示すにすぎなかった表示パネルに、AGC製サイネージモニターの「infoverreMIRROR」を採用し、天気予報などと一緒にエレベーターの到着時間を表示。

    このモニターによって、利用者はさまざまな情報を入手できるようになり、他の機能と合わせて時間の有効活用ができるようになります。同社は新橋M-SQUARE Brightでの実証データにもとづき、さらなるエレベーターの効率化を目指すとしてします。

    しかし、ひいき目に見ても「MULTI」が巻き起こした革命的変化を生み出す「驚異の新エレベーター」とは言いがたいかもしれません。ただ、ドイツ・ベルリンの巨大水槽型エレベーター、「アクアドーム」のエンターテインメント性や、船を巨大な回転式エレベータで運ぶスコットランドの「ファルカーク・ホイール」のようなスケール感を、既存ビルが乱立する日本で求めるのはなかなか酷なものです。

    では、国内エレベーター産業の活路はどこにあるのでしょうか。そのカギを握るものこそIoTとの高度な融合であり、若く柔軟な頭脳が生み出した未来エレベーター「ひすとぴっぷ」には、国内メーカーが取り組むべき、次世代エレベーター開発の「ヒント」が詰まっていると言えるのです。

    IoTで未来のエレベーターが変わる

     

    スマホに音声で目的階を告げると、もっとも早く到着する乗車可能なエレベーターへ誘導してくれる。エレベーター内のモニターには開催イベントやセールなど情報が映し出され、タッチするだけでチケット予約や商品購入、電子マネーによる決済可能な、「多機能エレベーター」。さらには、体の不自由な方や高齢者、妊娠中の方や小さな子供を自動認識し、最優先かつ安全に目的地まで送り届ける「福祉型エレベーター」など、IoT技術をフル活用すればスモール&スマートな、日本ならではの次世代エレベーターを生み出すことができるはずです。

    ダイナミックな開発ではなく、国内メーカーはエレベ―ターにサービスとしての魅力を追加し、都市計画の中核を担うモビリティへと進化させていくべきかもしれません。さらに、足腰に不安を抱く高齢者が貴重な移動手段として利用している電動シニアカーや、盲導犬を始めとする介助犬のエレベーターへの乗り入れ可否は、現在ビルを運営する管理会社の一存に委ねられています。機能を進化させる前に、健康なユーザーより移動困難な方がいつでもどこでも、気兼ねなくエレベーターを利用できる体制を業界と政府主導で整えることこそ、最優先で推し進めるべき「共通課題」なのではないでしょうか。

  • 移動の進化を振り返るその5~いよいよ自動車・飛行機が登場~

    移動の進化を振り返るその5~いよいよ自動車・飛行機が登場~

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

    今回で5回目を迎えるこのシリーズもいよいよ佳境。この回では現在でも進化し続ける自動車・飛行機が登場します。そして、鉄道と自動車の中間に登場するのが、誰もが一度は運転したことがあるであろう自転車です。構造が極めてシンプルで操作も容易な自転車ですが、実はその発明と進化・普及がなければモビリティは進化しなかったとさえ言われている、重要な存在なのです。

    庶民の便利なモビリティ「自転車」が果たした役割とは

     

    二輪自転車の祖先は、1812年ドイツ人発明家によって製作された「ドライジーネ」という乗り物。ドライジーネには、前後同径の車輪と走行方向を変えられるハンドルが備わっていましたが、ペダルやチェーンなどの駆動装置はなく、足で地面をけることで走る仕組みでした。商品として初めて量産された自転車は、1861年にフランスで販売されたミショー型ですが、今の三輪車のように前輪についたペダルを漕ぐことで前進する仕組みだったため、「ペダルを踏む力=速さ」にしか過ぎず、それほど普及しませんでした。

    その後、スピードを追求するために前輪を巨大化させた、「ペニー・ファージング型」の自転車が1870年頃から英国で販売され、おもにレースシーンで好評を博すも高重心で安定性に欠け、高所座席からの転落事故が相次いだことで、こちらも爆発的な普及には至らなかったのです。

    それから1880年代に入ってようやく後輪がチェーンで駆動し、サドルが低位置で安定性に優れた自転車が発明されます。 Bicycleの語源である「ビシクレット」と名付けられたこの自転車の原型に改良が繰り返され、1885年には現在の自転車にほど近い「ローバー安全型自転車」が登場します。このローバー自転車は爆発的に売れ、スピードは出るものの危険なペニー・ファ―ジング型を「あっ」という間に駆逐。ついに自転車は限られた用途ではなく、手軽な移動手段として市民権を得ることになるのです。

    ただ、この頃の自転車の車輪は木製か、せいぜい空気ナシのゴムが装着されている程度だったため、ボーンシェーカー(骨ゆすり)と揶揄されるほど乗り心地が悪く、当時の道路舗装状況もあって今のように長時間乗りつけられる代物ではありませんでした。

    しかし1888年、スコットランドの獣医師・ジョン・ボイド・ダンロップの大発明により、自転車の乗り心地と速度が大幅に向上し、ひいては以降のモビリティ発展にも絶大な影響を与えることになります。それが、「チューブ式空気入りタイヤ」の実用化でした。

    ダンロップは10年近く獣医として働いたエジンバラから、約300km離れたベルファストへ馬車で転居した際、総ゴム車輪だった馬車の乗り心地の悪さに心底辟易し、乗り心地の良い空気入りのタイヤの発明を決意します。彼は、デコボコ道で転びやすい息子の三輪車のために、車輪に病気でパンパンに膨れ上がった「牛の腸」からヒントを得た、空気入りのゴム袋を巻きつけます。それが世界初のチューブの誕生であり、現在でもほとんどの自転車がチューブ式ゴムタイヤを採用しています。

    そして、自転車より格段に重いうえ速く走行する、自動車や飛行機に装着されるタイヤも、技術革新による性能・耐久性・寿命などの向上はあるにせよ、ダンロップ自身の体験と息子への愛情で誕生した、チューブ式タイヤが進化したものに他ならないのです。

    自転車+原動機=自動車という発想~モータリゼーション時代の幕開け~

     

    決まった路線を走行する鉄道より、自分の意思で好きな場所へ移動できるうえ、馬や船より自在に方向転換がしやすい。空気入りタイヤによって乗り心地も優れた自転車に、何かしらの原動機を組み込もうという発想が生まれるのは当然の流れかもしれません。

    真っ先に搭載が進んだのは蒸気機関でした。実は蒸気機関車が誕生する30年以上前の1769年、フランスのエンジニアである二コラ・ジョゼフ・キニューの手で、世界初となる「蒸気式自動車」が開発されています。軍隊の大砲運搬を目的に開発された3輪構造の車体は、非常に重く頑丈だったため車速が10km程度しか出なかったそうですが、操舵機能が備わっていることで性能や馬力が向上し、従来まで依存していた馬牽引車両を淘汰することになります。

    また、電気自動車の歴史もガソリン車より古く、1873年にイギリスで電気式四輪トラックが実用化されたほか、世界で初めて時速100km越えを果たしたのも実は電気自動車です。しかし、前者は衝撃による爆発事故の発生などにより、100年以上開発が続けられたものの実用化に至らず、後者は開発・製造コストが高額だったためどちらかと言えば、技術力をアピールするモーターショーで披露される存在に留まります。

    自動車がモビリティとして、「主役」の座に登り詰めたのは19世紀末期になってからで、ドイツ人エンジニアの「ゴットリープ・ダイムラー」が、現在主流である4サイクル式ガソリンエンジンを開発して1885年に木製二輪車へ搭載し、試走に成功します。翌年、ダイムラーは4輪ガソリン自動車を、同じドイツ人である「カール・ベンツ」も3輪ガソリン自動車を完成させ、実際に販売を開始しています。その後、ダイムラー製エンジンの製造ライセンスを持っていた、フランスのパナール・ルヴァソール社が、車体前方に積んだエンジンの後方にクラッチ・トランスミッションを縦一列に並べ、デフ機構を介し後輪を駆動させるいわゆる「FR方式」を考案します。

    1900年代に入ると前述した空気入りタイヤと、円盤状のステアリング・ハンドルが採用され、乗り心地や操作性が格段に向上した車は、富裕層を中心に新たな「ステータス・シンボル」としての地位を固めていきます。誕生の地である欧州では長く「貴族の乗り物」に過ぎなかった自動車ですが、国土が広大で馬車に代わる移動手段を求めていた米国では、自動車の量産・大衆化への機運が強く、1908年に登場した累計生産台数1500万台超を誇る、「T型フォード」がその象徴とも言えるでしょう。

    大衆化に出遅れた欧州でも、第二次世界大戦でのガソリン車運用をきっかけに、独・フォルクス車の「ワーゲン・ビートル」が欧州全土だけでなく戦後、世界中に普及していきました。

    国内に目を移すと、本格的な国産自動車開発が進んだのは第二次世界大戦後からです。昭和7年に設立されたダットサン商会(日産の前身)や、翌年誕生したトヨタ自動車が中心となり、海外に負けない大衆車の開発と大量生産を目指して邁進します。

    高度成長期に入ると、通産省が「国民車構想」を打ち出したことや、国民生活水準の向上も手伝って、欧米から数年後れで自動車産業の黄金時代が到来、「カローラVSサニー」「コロナVSブルーバード」など、トヨタと日産の販売競争が激化します。併せて、クラウンやスカイラインなどの上級クラス車種が登場し始めたほか、1960年代になるとトヨタ・2000GTや、日産・フェアレディ‐Zなどといった国産スポーツカーも颯爽と登場。

    伝説を作った「スカイラインGT-R」を始めとする国産スポーツが国内外のレースで華々しい成績を収めた80年中盤~90年代は、バブル景気も相まって国産スポーツは国内のみならず、欧米市場も席巻する全盛期を迎えることになります。その後、バブル崩壊で経営が悪化した国内メーカーは不採算車種の整理を進め、多くの高級車やスポーツカーが姿を消し、燃料高騰の影響によってプリウスやアクアなどのHV車やコンパクトトカー、それに軽自動車が主役の座に就きます。

    加えて、リーフを始めとする電気自動車も徐々に普及が進み、自動運転技術との相性の良さから今後さらに伸びていく分野だと考えられますが、その一方でトヨタ・スープラやホンダ・NSXといった、往年の名スポーツ車が近年復活を果たしています。とはいえ、やはりエコカーを中心に自動車は進化していくでしょうが、誕生から約130年を経た現在でもガソリン車の存在は大きく、先進技術を採用した数多くの新型モデルが今後も登場すると考えられます。

    翼を得た人類はついに大空へ~空を制する日~

     

    1902年12月、ライト兄弟が自作のガソリンエンジンを搭載した飛行機で、有人飛行に初成功したことは有名ですが、「ライトフライヤー号」と名付けられた同機はただ飛んだだけではなく、目的地へ確実に到達できる移動手段としての性能を有していました。

    飛行機は方向転換するため、左右の揚力バランスを変え機体を傾ける「バンク機構」が不可欠ですが、ライトフライヤー号は主翼を逆方向にねじることによりそれを実装した、画期的かつアイデアに富んだ飛行機だったのがポイントです。

    現在の飛行機は「主翼ねじり」ではなく、エルロンという補助翼の操作でバンクが実施されるものの、パイロットに意思で自由に方向転換可能な装置を導入したことこそ、ライト兄弟最大の偉業であると言えるでしょう。以降、飛行機は「より速く・高く・長く」飛行できるように改良が続けられます。そして陸上だけではなく海面や軍艦の甲板での離着陸が可能になると、欧米各国はこぞって開発に資金と人員を投入し、戦闘機や雷撃機など軍事的用途から普及が進んでいくことになります。

    第一次世界大戦中は、プロペラを採用した「レシプロ機」が主力として最新機種が戦線に投入されましたが、型落ち機種は民間にも払い下げられ、小型機は郵便運送に利用されたほか、大型機は一部富裕層の旅客機としても活躍していたようです。第二次世界大戦に突入したころには飛行機が戦闘の主役となり、陸・海問わず制空権を握ることが勝利に直結したため開発競争はさらに激化し、世界中で敵機を震え上がらせた日本の「ゼロ戦」やドイツの「メッサーシュミット」など、名レシプロ戦闘機が誕生。

    対する米・英国陣営は、豊富な資源を背景に「ボーイング・B‐29」などといった重爆撃機による空襲や、併せてスピットファイヤやP-51などゼロ戦を凌駕する性能を持つ戦闘機を次々に投入し、瞬く間に制空権を奪取して戦局を優位に進めました。大戦末期には、現在大型旅客機や輸送機に採用されている「ジェットエンジン」が完成し、朝鮮戦争やベトナム戦争での運用と改良を経て、ついに飛行機は音速・マッハを超えるスピードを手にします。

    飛行機が旅客機や輸送機として本格的に民間利用され始めたのは、冷戦が終結に向かい始めた1970年代に入ってからです。長距離弾道ミサイルの登場で爆撃機の受注が無くなったため、欧米の航空機メーカーは時代に併せ、民間への航空機提供へ主軸を置くようになります。日本でも、ジャンボジェットの愛称で親しまれている、ボーイング・747を始めとする大型旅客機が同時期に導入され、長距離のリーズナブルな渡航が可能となりこれまで高根の花だった空の旅、特に「海外旅行」が一気に大衆化しました。

    また、機体の大型化と導入機数の増加に伴い、貨物船より数段スピードで勝る飛行機は物流の分野でも当然のように大活躍、今や大量の人とモノを世界中でピストン輸送する、モビリティの「中核的存在」に成長しています。

    まとめ

    有史以降長きに渡り、陸上と海上だけを移動してきた人類は、航空機によって空を旅する力を得ましたが、現状モビリティの主力は自動車です。自動車が船舶や鉄道と密に連携することで今の交通システムがスムーズに機能し、自転車も手軽に移動できるツールとしてシェア化が進んでいるほか、ラストワンマイルの物流にドローンが導入されるなど、今まさにモビリティは大変革の時期を迎えています。

    自動車業界がモビリティの中核を担い続けるためには、燃費や安全性能の向上はもとより、IoTを活用した高度な自動運転導入を急ピッチで進めて自動車を単なる移動手段から「サービス」へ進化させ、間近に迫ったMaaS時代に備える必要があるのではないでしょうか。

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

  • IVI(In-Vehicle Infotainment)とは何か

    IVI(In-Vehicle Infotainment)とは何か

    車両の状態や周囲の道路状況など、車にまつわるデータを取得し、ネットワークを介して集積・分析することにより新たな価値を生み出す。そんな次世代の車、「コネクティッドカー」。自動運転技術が高レベル化するうえで、コネクティッドカーの普及は前提条件の1つとなりますが、市場が成長していく過程で重要視され始めた「IVI」というワードをみなさんはご存知でしょうか。この記事では、IVIとは何かを徹底解説します。

    コネクティッドカー市場を牽引するIVIとは?

    In-Vehicleを直訳すると「車載」、そして、Infotainment(インフォテインメント)は「情報(インフォメーション)+娯楽(エンターテインメント)」を意味する造語です。つまり、IVIとは車載したIT機器により、情報と娯楽の双方を提供するシステムのことを指します。

    既存システムとの相違点

    従来のデバイスからドライブ中に得られる情報と言えば、カーナビゲーションによる経路案内や、ラジオから流れてくる渋滞や事故などの道路交通状況に関するものが一般的です。また、娯楽要素としては、カーオーディオや車載DVD、TVチューナーなどが挙がりますが、最近ではタブレットを持ち込むなど、別のデバイスで情報を入手したり、音楽・映像などを楽しんだりしている方も多いでしょう。

    一方、IVIシステムの利用範囲は車内だけにとどまらず、家庭・オフィスといった車外環境からのシームレスな接続や、他の外部機器との連携よって情報・娯楽を高度に融合させた、多岐にわたるサービスの提供が想定されています。ハンズフリー・ドライブが実用化され、自動車が単なる移動手段から「走るモバイル」へと進化を求められている今、各自動車メーカーは早期開発・市場投入を目指し、力を注いでいます。

    IVIで何がどう変わっていく?~IVIの仕組みと搭載により実現する主な機能~

    IVIシステムは、心臓部と言えるユーザーインターフェイスを軸に、ネットや他機器との接続で得た情報・娯楽コンテンツの「入力」と、適切なタイミングでの「出力」を複合的に行う仕組みで成り立っています。従来のシステムは入・出力操作をすべて人が担っていましたが、IVIシステムはデバイス自身の判断で行うことを目指し、開発が進められているのです。

    ボタン・スイッチ・マイクなどを用いた、人によるインプット機能も従来通り利用しますが、将来的には、車載カメラや各センサで収集したデータをIVIシステムが分析し、車載装備から「自動出力する機能」を有するようになるのです。

    たとえば、車内カメラがドライバーと乗客の身体的特徴を把握・分析し、もっとも適切な姿勢になるよう座席を自動調整したり、自動運転技術や安全運転支援システムと連動してハンドルや車速のセルフチェックをしたり、制御を行ったりすることも可能になるのです。

    さらに、USB・Bluetooth・Wi-Fiで入手したユーザーの閲覧履歴データをもとに、IPTV・IPRADIO・VOD(ビデオオンデマンド)などをIVIシステムが自動でストリーミング・提供する機能も技術的に実現可能な段階に入っています。

    また、既存のナビゲーションでは経路案内で「300m先○○(交差点名)を右折」とアナウンスされますが、交差点名がない交差点もありますし、小さな看板表記を確認するため走行中に視線を逸らすのは危険な行為です。一方、IVIシステムを搭載したカーナビでは、「300メートル先にある△銀行側へ左折」など、具体的な案内も可能になるほか、受信したメールの音声読み上げによる確認もできるようになります。

    これらの機能は、ドライブを快適で楽しいものにするだけではなく、車載デバイスおよびスマホなどを操作しながらの運転、いわゆる「ながら運転」を起因とする交通事故の減少に、大きく寄与すると考えられるでしょう。

    これからのコネクティッドカー市場はどうなる?

     

    マーケティング調査会社大手(株)富士経済が、今年7月発表したプレスリリースによると、「ネットとつながる車」の新車販売台数は、2018年見込みで30%を超え2022年時点で50%弱、2035年には90%ほどに達すると予測されています。

    そんな中、同社は現在主流であるスマホやタブレットなど、持ち運び可能なITモバイルを介した「連動型IVI」ではなく、車自身のデバイス化により常時接続可能な、「エンベデッド型IVI」を搭載するコネクティッドカーが、市場において大きく伸長すると分析。

    さらにエリア別の進捗状況では、自動車メーカーがテレマティクス事業に積極的な動きを見せる、欧米・北米が一歩リードしており、近年市場が膨張傾向にある中国について、「2022年には世界最大の需要地になる」と指摘しています。

    ただし、少子化や若者の車離れを起因とする、新車販売台数の低迷が顕著な日本については、国内メーカーが揃って自動運転レベル3の実現を目指している、「2020年初頭」にはピークを超えるとの見解を示しています。つまり、トヨタをはじめとする国内自動車メーカーは、レベル3相当の自動運転車をリリースする時点で、エンベデッド型IVIを搭載したコネクティッドカーの販売にこぎつけないと、世界市場で大きく後れを取ってしまう可能性が大きいということです。

    反対に、多機能かつ高精度なIVIシステムが2020年までに完成し、搭載コネクティッドカーが公道を多く走行する状況を生み出すことができれば、日本は世界をリードするスマート・ドライブ先進国になる可能性も考えられるでしょう。

    国内外・IVIの最新動向をまとめてみた

    車内エンターテインメントである、ICE(In-Car Entertainment)システムに関しては、

    • フォード・・・「Ford Sync&My Ford Touch」
    • トヨタ・・・「Entune」
    • キャデラック・・・「CUE」
    • FCA・・・「Uconnect」

    など、国内外のメーカーが独自システムを開発しています。しかし、これらの車内エンターテインメントシステムに対する法規制が、運転中のスマホや携帯電話使用ほど行われておらず、「ながら運転」を助長するという問題が新たに浮上しているのです。

    この問題を解決するのも、IVIシステムに課せられた大きな使命であり、国内外では開発への動きがさらに強まっています。

    ダイムラーAG IVIシステムにQt技術を採用

    信頼性が高く、応答性に富んだユーザーインターフェースUIの開発で定評がある、The Qt Companyは2018年5月、同社のQt技術がダイムラーAG・メルセデスベンツのIVIシステム、「MBUX」に採用されたことを発表しました。

    MBUXとは、自然言語対話型オンライン音声認識であり、「ハイ、メルセデス!」の呼びかけで起動し、通常会話のように話しかけるだけでエアコンや室内照明の操作などを自動に行える機能。Aクラスを皮切りに、順次搭載モデルがリリースされています。

    安全運転への寄与や機能性だけではなく、エンターテインメント性も充実。たとえば「ピザが美味しいレストランを探して!」と言えば、AIがYelp!(海外の食べログ的なサービス)のレーティングにもとづき、候補となるレストランを数件リストアップ。続いて、「どこへ行きますか?」と反応が返ってくるので、「3番目のお店に案内して」と応答すれば自動的にカーナビが起動し、ガイダンスが始まるというような使い方も。このMBUXの中核を担う基盤として、Qt技術に白羽の矢が立ったのです。

    同社で、エグゼクティブバイスプレジデントを務めているジュハペッカ・ニエミ氏は、

    「多くの大手自動車メーカーや一次サプライヤーが、簡単なローエンドのソリューションからハイエンドモデルまで、自社IVIにQt技術を選んでいることを、心から嬉しく思います。」と感謝の意を示すとともに、ユーザーが期待する品質の最高水準を満たしたうえで、さらに一歩先を超えていくようなUIの開発に、自動車メーカーと取り組んでいきたい考えを表明しました。

    ゲストOSに仮想動作環境を提供・管理する「Qualcomm」の次世代商品

    半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)は、毎年米国・ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジイベント「CES 2019」に先立って実施した記者会見の席で、「Snapdragon Automotive Cockpit Platform」と名付けられた、最新の自動車向けIT製品を発表しました。

    前年度の同イベントではデモカー展示で話題をさらい、既に多くの自動車メーカーからIVI向けに採用されている、「Snapdragon 820A」の次世代型商品にあたり、以下の3グレードを展開していくと明らかにしました。

    • Paramount・・・高い処理能力を必要とする「ハイエンドモデル向け」
    • Premiere・・・スタンダードな機能を有する「メインモデル向け」
    • Performance・・・リーズナブルな価格帯で提供される「エントリーモデル向け」

    また、従来世代では対応していなかった仮想化アクセラレータ機能に対応しており、1つのSoCで複数OSのメモリ空間を分離して管理・運用する、「Hypervisor機能」の利用も可能となっています。

    これにより娯楽要素はAndroidで、運転に関わる情報はRTOSやQNXなどのセキュアOSで運用といった具合に、1つのハードウェアで異なるユースケースを並列処理したり、複数機能の実装できたりする「高次元IVIシステム」の実現が近づいたのです。

    サムスン製SoCがアウディの次世代IVIシステムに採用

    2019年1月、韓国最大の家電・電子機器メーカーであるサムスンは、同社初の自動車向けプロセッサ「Exynos Auto V9」が、2021年以降販売予定のアウディ新型モデルに搭載される次世代IVIシステムに採用されたと発表しました。

    これは、同社がこれまで提供してきたスマホ向けプロセッサーSoC「Exynos」をベースに、複数のディスプレイにコンテンツを表示する、高度なIVIシステム向けへと再設計されており、ドライバーや乗客を支援し、安全で楽しい車内体験を提供できるとしています。アウディのアーキテクチャ・プラットフォーム開発責任者のアルフォンス・ポンペラー氏は、「Exynos Auto V9が(搭載されれば)、将来の車載インフォテインメントを形成する、次世代プラットフォームを強化できる」と喜びをあらわにしました。

    「没入型運転体験を提供する」と銘打たれた同商品には、強力なオクタコアCPUとトライクラスターGPUを組み込まれ、複数ディスプレイで複数のOSとデジタルコックピット機能を、同時かつシームレスにサポート可能であるとされています。

    まとめ

     

    今回紹介した事例の他にも、トヨタはすでにコネクティッドサービスの「T-Connect」を本格スタートしていますし、日産・三菱・ルノーアライアンスグループはMicrosoftと、ホンダはソフトバンクと提携し、IVIシステムの研究・開発体制を強化しています。

    技術的にも法的にも、「完全自律運転」の実用化はまだ先の話になりますが、ドライバーが一切操作しなくとも運転に関わるあらゆる情報の入手と活用、映像・音楽コンテンツを楽しむことができる「スマートドライブ社会」は、遠からず到来すると考えています。

  • 5Gで大きく変わる「クルマの未来」

    5Gで大きく変わる「クルマの未来」

    2019年9月からプレサービスが始まり、東京オリンピック・パラリンピックまでには本格導入が予定されている、次世代移動通信システム「5G」。4G・LTEでは2時間映画のダウンロードに約5分かかっていましたが、5Gはわずか3秒でダウンロード可能になるというスピード感に注目が集まっています。導入によって、今よりもっとネット環境が快適になることを期待している方も多いと思いますが、実はこの5Gこそ「クルマの未来」を大きく変える存在でもあるのです。

    今回は5Gとは何か解説したのち、その普及によって自動車を含めたモビリティ業界がどう変化するのか、国内外で進行中の事例を交えて考察します。

    5Gは何がすごい?

     

    5Gとは「5th Generation」の略称で、IoT機器やデバイスの普及と進化、送受信データの大型化により通信トラフィックが年々急増している現在において、通信速度の低下や遅延を防ぐべく、韓国・米国ではすでに一部運用がスタートしている次世代通信システムです。日本が理事国として運営・管理に携わり、国連加盟国のほぼすべてが参加している「国際電気通信連合(ITU)」によれば、以下の3要素を満たすことが5Gであると定義されており、それぞれ4Gからの進化に対する「目標値」も示されています。

     

    • eMBB(高速大容量)・・・1Gbps→20Gbps(20倍)
    • URLLC(高信頼低遅延)・・・:10ms→1ms(1/10)
    • mMTC(同時多接続)・・・10万→100万(1㎢辺り・10倍)

     

    また、5Gでは従来使われてきた6GHz以下(サブシックス)の周波数帯に加え、28GHz帯といった周波数リソースに余裕がある高周波帯(ミリ波)の使用が予定され、現在基地局の整備や対応デバイスの低価格など、普及に向けた動きが急ピッチで進んでいます。

    モビリティー業界における5Gは何を意味するのか

     

    通信には下り・上りの2方向が存在します。現在移動モバイルに採用されている「4GLTE」では、サイト閲覧や動画・音楽試聴といった「下り通信」の速度が満足できても、YouTubeへの動画アップロードなど「上り通信」の速度に、不満を持っている方も多いはずです。

    上りにしろ、下りにしろ、インターネット利用の場合はカクカク動画や、なかなかアップされない時間ロスにイライラする程度で済みますが、レベル4以上の自律運転車の場合はそんな悠長なことを言っていられません。

    人が一切の運転タスクを行わない自律運転車は、搭載されたセンサーが周囲の状況を検知し、アクセル・ブレーキ・ハンドルなどをAIの判断で制御することで、安全かつスムーズに走行します。しかし、イレギュラーな事態発生時への安全性を高めるためには、周囲を走行する他の交通や信号、さまざまな情報が蓄積されたサーバーなどと常時通信し、相互にデータをやり取りしなければならないのです。

    この時、サーバーがパンクして通信が途絶えたり遅延したりしたら…?交通事故を減らすため生み出された自律運転車が、制御不能の「走る凶器」となることは想像に難くありませんし、レベル4以上の自動運転に対する法整備が困難なのも、ここに大きな理由があります。

    米インテルの試算によると、高レベルの自動運転車が1日に取り扱うデータ量はなんと4TB。搭載ユニット内で処理されるデータもあるため、すべてが通信されるわけではありませんが、秒単位で変化する交通状況を鑑みると、相当量の情報を素早く送受信できる環境が必要です。加えて、渋滞時は5Gの低遅延性や同時多接続能力が重要になりますし、2018年4月にはNTTドコモが時速305kmで走行する車に搭載した5G移動局と、コースに設置した基地局間でのデータ伝送に成功しているため、高速道路での運用も十分可能と言えるでしょう。

    ただし、増加しているとはいえ従来の移動通信モバイル数はすでに飽和状態で、よほどのヘビーユーザーでない限り現行の4G・LTEで、十分快適なネット環境を得られているでしょうが、ここに「走るスマホ」へ進化した未来のクルマが加われば話は別です。もしかすると、5Gという次世代通信は、不便ささえ我慢すれば事足りるスマホやタブレットではなく、自動運転技術のレベルアップと普及、安全性の向上に熱心なモビリティ業界にこそ必要不可欠なシステムなのかもしれません。

    5Gが普及したらモビリティはどうなる?~実証実験から見えること~

     

    5Gは高精細な4K・8K映像のデータ伝送や、製造プロセス全体を最適化するスマートファクトリー、ロボットアームを使った遠隔手術など、少し前なら夢物語とも思えた世界を実現する新たな社会インフラとしても期待されています。予定通りに導入が進めば、私たちの生活にさまざまな影響を与えると考えられますが、企業や行政は5Gをどのようにモビリティへ組み込もうとしているのでしょうか。国内外で実施されている取り組みをリサーチしてみました。

    KDDI:公道での5G自動運転車実験走行に成功

    2019年2月9日、KDDIはソフトウェア開発会社・アイサンテクノロジーなど5つの企業と名古屋大学とともに、愛知県一宮市で「ある自動運転」の実証実験を行い、公道での安全なテスト走行に成功し話題を集めました。

    片道一車線の対面通行の道路で、場所によってはギリギリすれ違いが可能といった比較的難易度が高い環境の下を、ドライバー不在の自動運転車が実用にほど近い「時速30km」で走行するのは国内初のことです。

    そして、本来は時速20kmまでしか認められていない、公道での自動運転実験が許可され、成功に終わったのは、5Gの特徴である「高速性&低遅延性」が発揮されたからに他なりません。実は、公道を使って無人の自動運転車で走行実験を行う場合、不測の事態に備えて遠隔操作できる管制室を設け、最低1人遠隔操作オペレーターを常駐させること、そして有人運転時ドライバーが見ている映像を超高画質でオペレーターも見ることができるようにしなくてはならないのです。

    つまり、無人自動運転車にシステムエラーが発生した際、管制室のオペレーターが送信されてきた映像をもとに、危険を「手動」で回避できる遠隔監視・操作システムが実装されていなければ、現行法では実験許可すら下りないように定められています。そして、最も重要視される必要がある危険察知から停止するまでの「距離」に関し、警視庁は下表で示すガイドラインを定め、厳しく規制しているのです。

    人が運転している場合、危険を感じて急ブレーキが必要と判断しペダルを踏み込んでブレーキが効き始めるまでの「空走距離」に、車が完全停止するまでの滑走距離である「制動距離」を足したものが「停止距離」です。一方、無人自動運転車の場合は、次の流れで停止します。

    1. 搭載されたカメラから映像が管制室に送信
    2.オペレーターがブレーキを踏みこむ
    3.「止まれ」という司令が実験車両に到達

    2は有人車両と同じですが、1と3は遠隔操作だからこそのタイムロスとなり、必然的に停止距離が伸びてしまいます。

    性別や年齢、運転歴などで異なりますが、一般ドライバーの反応速度は約0,75秒で、時速20kmを秒速換算して空走距離をはじき出すと約4,125m進む計算になります。さらに、同車速で道路とタイヤコンディションが良好な場合、制動距離は約2mになりますから、ガイドラインに記載された停止距離の6,42mをクリアするには1と3に要する時間をコンマ単位に縮める必要があるのです。

    KDDIは昨年5月、福岡で今回と同じような自動運転の実証実験を行いましたが、この時は現行の4G・LTEが採用されていたため通信速度に制限があり、結果として時速15kmまでしか許可されていませんでした。しかし、今回の実験では4Gから5Gに変えることで、数値上で10倍もの大容量・高精度映像をより短時間で送ることができ、前述した1に要する時間が大幅に短縮されたほか、低遅延性が功を奏し3についても、ほぼリアルタイムと言える操作反応性を実現しました。

    今実験に先駆けて実施された「テスト前テスト」では、時速40kmでの走行に成功していたものの、今回は安全面を考慮してひとまず時速30kmでの認可となったのだとか。時速15kmと言えばちょっと早めの自転車程度、オリンピッククラスのランナーならフルマラソンを時速20kmで駆け抜けていきますが、時速30・40kmになれば人の力だけで到達することがほぼ不可能なレベルです。

    無人自律走行車が現在の車同様の速さを有し、便利で安全なモビリティであり続けるため、ひいてはMaaS社会の中心的存在として「コネクティッドカー」へ進化するためには、5Gの活用が必要不可欠であることを如実に示す実証実験となりました。

    国も民間も一挙両得?全国の信号機か5G基地局化!

    5Gが切り開く未来の社会の可能性に国も着目しており、政府は全国にある信号機を5Gの基地局向けに開放する方針を「IT戦略(世界最先端デジタル国家創造宣言)」へ盛り込み、2019年6月14日に閣議決定しました。

    全国に約21万基ある信号機の空きスペースを有効活用し、安価かつ迅速にインフラを整備することで、5Gを巡る国際競争力の向上を目指すことが主たる目的です。5G電波を割り当てられた携帯4社は、4G基地局を設置する場所に5G基地局を併設していく計画ですが、都市部ではビルの屋上など設置に適した場所は飽和状態であるため、信号機を活用できるのは願ったり叶ったりのはず。

    また、通信機能のある信号機は現在30%程度に留まっていますが、5G基地局はそのまま信頼できる通信網として活用できるため、この施策が全国に広がれば災害時の被害・避難・安否情報などの広範囲にわたる伝達がスムーズで確実なものになります。そして、すべての信号機が通信機能を有するようになれば、周辺の交通情報を収集・送信することで自動運転の早期実現にも弾みをつけられるため、政府・自治体・通信業界・自動車業界のみならず、私たち国民にも恩恵をもたらす有益な施策と評価できるでしょう。

    今後は総務省や警察庁が中心となり、携帯キャリアや自治体などと具体策について協議を進め、サービス提供が始まる来年度春から順次実証実験を開始、2025年度には全国展開を完了させるとしています。

    可能性は無限大!「5G×自動運転」で創造される未来とは

     

    運転免許を持っていない。免許を返納して運転ができない。自動車を保有していない。そうした方でも、スマホを操作すればすぐに自律運転モビリティが自宅までやってきて、離れた場所にある病院やスーパーへ送り届けてくれる。また、災害時に交通手段を失った被災者の方々を、5G通信で得た道路・被害状況をもとに、安全かつ迅速に無人シャトルバスが避難場所へ導いてくれる。高速大容量・低遅延・多接続が持ち味である5G通信をフル活用することで、自動運転の安全性と公益性は向上し、このような未来が実現します。

    法整備や事故発生時の責任の所在など、クリアすべき課題はまだ多く、自動運転車が公道を走り回るのはまだ先の話になりそうですが、KDDIの実証実験成功でもわかる通り、技術的に路線を限定したレベル4相当の自律運転導入はかなりの現実味を帯びてきました。そして、車にモビリティとしてだけではなく通信モバイルとしてのスピードを与え、無限の可能性を秘めるシームレスな「サービス」に進化させる、絶大なパワーを持つのが「5G」なのです。

  • カーナビ界に激震が走る!? カーナビに参入LINEの影

    カーナビ界に激震が走る!? カーナビに参入LINEの影

    LINEといえば、手軽な無料チャットツールとして若い世代のみならず、40代以上の世代でも利用者が増え続けています。全世界の月間アクティブ・ユーザー数は「Facebook」に遠く及びませんが、国内ではもっとも多くのユーザーから利用されているSNSです。

    スタンプや顔文字などを交えた、個人間コミュニケーションとしての利用だけではなく、音楽・アニメ・ゲームなどをリリースするほか、モバイル決済・送金サービスである「LINEPay」や、タクシー配車アプリ「LINETaxi」なども展開。そんなLINEが、今年6月27日スマホ向けカーナビアプリを発表し、9月5日からリリースが始まっていますが、遅すぎるとも言えるカーナビ業界への参入には、どんな機能が搭載されているのかと、だれもが大きな期待を寄せているはず。

    そこで今回は、LINEのカーナビアプリの基本機能や使い方、搭載された新テクノロジーを明らかし、同アプリが私たちのカーライフにどんな未来を見せてくれるのかを検証します。

    LINEが開発した「LINEカーナビ」

    出典:LINEカーナビ

    今回、LINEが開発とリリースを発表した「LINEカーナビ」は、スマホやタブレットなどへダウンロードし利用する点では、先行するGoogleマップやYahoo!マップのナビ機能と大差ありません。

    しかし、そこは常に時代の先端を行くLINEのこと、LINEカーナビは走行中も声で操作できる新しいカーナビアプリとなっており、操作中の事故減少や12月より予定されている、「ながら運転」の罰則強化も踏まえた機能であると考えられます。既存のナビアプリにも音声認識機能はあるでしょうが、Googleマップ・ナビの場合、音声認識による目的地までの経路案内はできても、提供された目的地及び候補ルートの選択は画面を見てタッチ操作をしなければなりません。

    一方のLINEカーナビは、「レストランに案内して」と話しかけると、画面にいくつかの候補地が表示されるところまでは同じですが、目的地への決定操作も音声で行えるほか、「一番近いコンビニ」など目的地がはっきりしている場合は、自動的に案内が開始されます。また、目的地への所要時間を質問すれば、走行中の車両から取得した交通状況をもとに即座に音声で回答してくれますし、主要道路は最短で即日、平均1週間程度で更新するなど、最速・最高頻度の地図アップデート機能を有すると言います。さらに、同アプリは車載機とスマホを連動する「Smart Device Link(SDL)」対応で、車載ディスプレイにアプリの情報を表示できるため、音声認識によってスマホ操作から解放されるだけではなく、小さな画面を注視するリスクを無くすことも可能になっています。

    何が違うの?LINEカーナビに搭載された技術

    前述したハンズフリーによる目的地検索とナビ操作、及び道路状況や所要時間の音声ガイダンスこそ、このLINEカーナビ一番の持ち味といえますが、LINEは自社が持つ先進のテクノロジーをさらに詰め込み、カーナビ業界に革命を巻き起こそうとしているようです。

    LINEカーナビの新技術!AIアシスタントの「Clova」

    LINEカーナビの中核を担うテクノロジーが、高精度の日本語認識・分析と音声合成能力を併せ持つ、LINE自慢のAIアシスタント「Clova」です。搭載によってAI化したLINEカーナビでは、通常の経路案内機能のほか、音楽再生や家電操作も可能です。

    「ねぇClova、ドライブデートにぴったりの曲かけて?」

    「ねぇClova、炊飯器のスイッチを入れて?」

    使い方は運転中、上記のように話しかけるだけ。また、音量操作や楽曲のスキップなども音声操作で可能ですし、選曲もユーザーの好みや季節感・天候をもとに、うまくチョイスしてくれるというおまけつき。さながら人気DJのラジオを聞いているかのような気分を味わえるのです。ただし、LINEカーナビで自由に音声操作可能なのは、同社が有料で提供している「LINE MUSIC」だけで、他の音楽サービス(Spotify、Apple Musicなど)は現状対象外となっています。

    一方、ラジオアプリ「ラジコ」をインストールしている場合は、

    「ねぇClova、(ラジオ局名)をかけて」

    「ねぇClova、ラジオを止めて」

    などラジオに関するコントロールも音声だけで行えます。その点は他の音楽系アプリでは提供されていない、唯一の機能とも言えるでしょう。特筆すべきは本家LINEチャットとの連携で、運転中ハンズフリーで着信したLINEメッセージを音声で確認できるほか、「ねぇClova、○○さんにLINE送信して」と話しかけメッセージを伝えれば、その内容を文字化して相手に送信できるところです。

    この機能は、音声ナビアプリとして以上に「ながら運転」を減らすことに寄与するうえ、渋滞に巻き込まれて待ち合わせに遅れそうなときでも、スマホを操作することなく連絡をスムーズに取り合うことができます。

    さらに、テキストメッセージのやり取りだけでなく、「ねぇClova、現在地を送って」と伝えれば現在の位置情報を送信できるため、近年踏み間違い事故の増加が懸念されている高齢ドライバーの見守りなど、安全運転の推進に役立てることも出来そうです。

    なお、運転中の車内は多くのノイズが発生しますが、LINEカーナビの音声認識インターフェイスの性能は、「Clova Desk」や「Clova Friends」などの家庭用スマートスピーカーと、同等レベルを実現しているとされています。

    LINEカーナビの新技術 「トヨタハイブリットナビエンジンの採用」

    LINEがナビ業界に参入するにあたって協業相手にトヨタ自動車を選び、同社の最新ハイブリットナビエンジンを使用することによって、Clovaの性能を最大限発揮できるアプリを生み出しました。

    ハイブリットナビとは、トヨタスマートセンターで収集した走行情報やVICS等の外部情報を組み合わせた膨大なデータを用い、センター内に保有する地図データで最適なルートを探索し、リアルタイムでナビに配信する機能です。また、案内ルートを外れた時の「リルート」など、素早い応答が必要な場合はルートの再探索を車載器による処理へハイブリッドに切り替えられるため、ドライバー・車・スマホ及び車載ナビがハンズフリーでコネクトする、LINEカーナビと非常に相性が良いのです。

    従来型の純正車載ナビは地図データを更新するにあたり、ディーラーやカーショップに車を持ち込む必要があり、トヨタを例に挙げると販売店によって異なるものの、約2万円のデータ料金と別途工賃がかかります。スマホのカーナビアプリは、GoogleやYahoo!などの他のサービスも同様に、最新地図データが無料で更新される点が魅力ですが、LINEカーナビではそれに加えトヨタが有する、ビッグデータ(最新のプローブ情報、交通統計など)も利用されます。

    そのため、通常5ルート提供される経路案内が拡張され、細街路も含めた目的地までの「最速ルート」と、関東エリアですでに始まっている圏央道のETC2.0料金割引サービスを優先した「関東ETC2.0料金割引優先ルート」を選択することもできるのです。

    アナタはどう?LINEカーナビを使ってみたいという方は○%以上

    正確な目的地への到着時間がわかるうえ、リアルな道路交通情報に基づく臨機応変な経路探索機能を有する、非常に高スペックなトヨタのハイブリットナビエンジンですが、現在車載ナビに採用されているのは最上位セダンである、クラウンとセンチュリーのみ。その点LINEカーナビは何と言っても無料で利用できるのが一番の魅力とも言えますし、実際にリリース発表後の7月にLINEが実施した、「LINEカーナビに関するアンケート(有効回答者数2,840人)」によれば、

    • 利用してみたい・・・7%
    • どちらかといえば利用したい・・・43,4%

    という回答が寄せられ、両者を合わせると「約92%以上」が試してみたいと考えている結果になっています。また、同アンケートでは「LINEカーナビの機能で期待が大きいもの」についての質問については

    • 話しかけるだけのカンタン目的地設定
    • 最新地図の無料自動更新
    • 正確な到着予想時間の伝達
    • こまめな音声案内での画面注視機会減少

    など音声操作による利便性・安全性の向上や、トヨタナビの採用による精度の高い情報のスピーディな更新・反映に、大きな期待が集まっているようです。

    LINEカーナビが目指す未来と課題

     

    LINEとトヨタは、同アプリを随時アップデートしていくと述べており、今後はユーザーの利用傾向からルート案内をパーソナライズする機能や、駐車場との情報連携機能などが追加される予定です。将来的にはLINE上で店の検索から「予約・移動・決済」、といった移動の流れを最適化させる「MaaS」への取り組みにも、LINEカーナビを活用していくようです。

    また、近い未来実現するであろう自動運転と高度に連動すれば、スマホに目的地を伝えるだけで自動運転シェアカーがスケジュールに併せ自宅に自動配車することも実現できるでしょう。目的地付近の駐車場検索、行きつけの飲食店への予約、有料道路利用料や燃料代の支払いは「LINE Pay」。そんなスマートライフも可能になるはず。

    国内最大のSNSを運営し、国民生活の根深いところまで浸透したLINEと、国内コネクティッドカー事業を牽引する、トヨタの協力タッグで誕生したLINEカーナビは、業界に大きなイノベーションを巻き起こす存在になる可能性があります。後発組として、使い慣れたGoogleやYahoo!のカーナビアプリを切り崩し普及するためには、機能拡充はもとより個人データの管理体制の強化・徹底を進め、安全性をユーザーにアピールすることが、目下の最重要課題であると言えるでしょう。

  • テクノロジーで物流のミライを切り開くために必要なこととは

    テクノロジーで物流のミライを切り開くために必要なこととは

    インタビュイー:
    株式会社モノフル 代表取締役社長 藤岡洋介(ふじおか・ようすけ)さま

    業界の外から物流業界を革新する

    まずは藤岡様のご経歴と株式会社モノフルについて、簡単にご紹介いただけますでしょうか。

    新卒で2002年に日本総合研究所に入社し、6年間SE(システムエンジニア)をしていましたが、2008年に、不動産投資というSEとは異なるスケールを個人が扱えるビジネスに興味を持ち、日本GLPの前身となる株式会社プロロジスに転職。入社して間もなくプロロジスから、売却される形で誕生したGLPに移籍し、シンガポールオフィスでの4年間の期間を含め、現在も日本GLPに在籍しております。現在は、日本GLPで投資運用部門の責任者、広報部長と株式会社モノフルで代表取締役を務めております。

    モノフルはテクノロジーを活用した物流ソリューションを提供する会社で、セールス、プロダクトマネージャー、エンジニアなど10名程が在籍し、物流業界の課題をあらゆる方向から解決へと導くサービスを開発しています。そして、もう一つの事業が投資です。スマートドライブへの出資を皮切りに、現在、複数の企業に投資をしております。投資先のパートナー企業と連携し、物流・サプライチェーンに関わるすべての人たちが共通の機能で業務を効率化する、ロジスティクス・エコシステムを作るのが私たちのミッションです。

    日本GLPは物流施設デベロッパーとしてマーケットリーダーですが、物流施設の外に目を向けると、私たちのようにソリューションを提供している企業はほとんどいませんので、トラックの配送ルート、労働力、庫内の作業効率化、さまざまな物流の課題解決を目指し、モノフルを通じて物流ソリューションを提供しています。

    サービスの開発には外部の協力パートナーの手も借りていますが、組織内が少人数であっても、基本的なエッセンス、重要な部分はすべて内製化するというこだわりだけは外せません。トラック簿の類似サービスはすでにいくつも提供されていますが、より精度の高いものを作るには、自分たちのプロダクト、そして何よりもお客様の課題やニーズをしっかり理解したうえで開発すべきだと思うのです。私どもは日本で最も多くの物流施設を展開していますので、お客様との接点も多く現場を把握しやすいのが一番の強み。顧客のネットワークや距離の近さがアドバンテージになっていると思っています。

    レガシーな業界をテクノロジーで変えるには

    物流業界はまだ、ITやテクノロジーによる効率化が遅れている印象を受けます。モノフルとして、今後どのようにテクノロジーを使って物流業界を変えていきたいとお考えでしょうか。

    日本の物流はかなり細分化されていて、ステークホルダーが非常に多い。トラックの運送業者が6万社以上いるなど、業界を横断してIT化が進まない理由は、業界構造に原因があるのではないかと考えています。

    荷物は何名も人の手を渡って運ばれていくもの。そのため、業務の適正化や最適化をはかるために一社だけがシステム化を推進しても、他の企業も同じように取り入れなければ意味をなしません。それに、物流業界では、ある企業が自社でシステムを作っても、競合他社のサービスを使おうとしませんので、結果、同じシステムを使うことがない。今まで部分最適は行ってきたものの、全体最適が行われていなかったは、このような理由が折り重なっているためです。

    弊社には物流関連のお客様が多くいらっしゃいますが、私たち自身は物流会社ではありません。入居しているお客様の大多数が物流会社様というだけで、GLPはあくまで不動産会社であり、不動産を提供しているプレイヤーでしかないのです。そうすると、物流不動産という立場から、物流会社様を後押しするプラットフォームをスムーズに提供することができる、つまり、同業者ではないので、業界外にいる私たちが開発したシステムはどの物流会社さまにも取り入れていただきやすくなります。

    そのシステムによって業務が効率化されたり、労働時間や残業代を圧縮することができたりすれば、システム化によるメリットを実感いただけるでしょう。そういう点では、業界外の人間として物流業界にディスラプトしていく動きをかけることができるのが、私たちの強みだと思います。

    ただ、一般的には、ディスラプト=壊していくというイメージが強くありますが、私はどちらかというと共存や寄り添うといった言葉のほうが近いと考えていて。Amazonは実際に書店も手がけていますし、現実的にも小売業界を“ディスラプト”しました。しかし、GLPやモノフルは物流会社ではありませんし、目指しているのは物流業界のビジネスをサポートするインフラを提供し、業界の成長を促すこと。業界外で物流業界のために資するサービスを提供できるプレイヤーであることが、Amazonとは大きく違う点です。

    私たちは3PL(サードパーティロジティクス)や物流を生業とするつもりはありません。ならば、物流業界の業界構造を理解し、中立的な立場としてどのように変えていくべきなのか。そう考えた時に、あらゆる技術を活用するには、データが必要だという考えにたどり着く。自動運転にしても、地図をはじめ道路工事や渋滞情報に関するデータなど、あらゆる情報を集積することではじめて、安全な走行が成り立つのではないでしょうか。しかし残念ながら、今のB to Bの物流においてはデータ化されている情報は少なく、これが技術浸透の大きな足かせになっています。

    Amazonやアスクル、Yahoo、楽天など、みなさんが日常的に利用しているB to Cの物流は、各々のプラットフォーマーが決済から物流、UIまで、すべてをバーティカルに提供しています。プラットフォーム上には顧客データが蓄積され、その顧客に向けて質の高いサービスを提供できるような仕組みになっていますので、普段からネットショッピングを利用されている方であれば、日々、アップデートし続けていることにお気づきになるでしょう。

    さらに購買データはどんどん蓄積されていきますので、5年前よりも今のほうが進化のスピードが格段と上がっていますし、新しい施策が打てるようになります。B to Cの物流ではそのような土壌がすでに出来上がっていますが、B to Bの物流に目を向けると、そうした大きなプラットフォーマーがいません。とある大手物流企業では、荷物のデータを所有していますがそれはあくまで社内管理するために使うもので、ユーザーのUX向上や業界の改善に活用する動きもないようです。

    ラストワンマイル問題を含め、バーティカルな動きをしている会社さまは結構いらっしゃいます。しかし、これからは企業間物流に注意を向け、横断的に使えるものを開発していかなくては課題が解決に向かいませんし、IT化も広がっていかないでしょう。

    業界構造的にそういうプレイヤーが誕生しづらかったのは、データがないという根本的な理由があったから。本来であれば、A社のデータをB社が分析することによって、効率的な配送ルートや配送方法、倉庫内のオペレーションの型など、互いに相乗効果を発揮できるはずなのです。しかし現実ではデータが自社内で眠ったままですし、そもそもITリテラシーが高くない業界でもありますので、デバイスやシステムが普及していません。

    そうした物流業界において、IoTやICT以前に求められているのがシンプルなITです。AIを駆使して需要予測をするにはそれだけの情報、つまりデータが必要となりますが、その段階には到達するべく、まずはデータの取得に注力しています。取得したデータは、業界全体に寄与する形で提供したいので、モノの移動、トラックの移動、庫内の作業のデータ、サプライチェーンにおけるあらゆる局面のデータを集めることに今後も心血を注いでいきたいと思っています。

    それを実現する入り口がトラック簿。トラック簿は、バース運用を最適化するためのシステムですが、トラックと倉庫の接点を可視化することで、トラックの配送時間や庫内のオペレーションを見直すことができ、改善に向けた次のアクションにつなげることができます。トラック簿でより多くのデータを集めることができれば、将来的にはマーケットのベストプラクティスという形で還元できますので、業務効率の大幅な向上が見込めるのです。

    今の物流業界に必要なのはデータである

    物流業界における技術やテクノロジーで注目している分野はございますか。

    物流という観点では、自動運転やドローン、無人配送への期待がありますが、私としてはデータがつながる未来のほうが重要だと思っています。スマートドライブさんもよく使われている「コネクテッド」という言葉がありますが、荷物の情報と配送の情報が分断されていたり、関西にいる人と東京にいる人の情報が分断されていたり、今はまだ何もコネクトしていません。それを製造から流通、保管、それぞれの段階、それぞれのステージにいる人たちが、それぞれの情報を連携させることができれば、物流業界が大きく前進します。

    連携できれば全情報が可視化されることになりますので、製造、配送、調達、外注、すべてのリードタイムを最短にすることができますし、配送のコストもかわっていくでしょう。ですので、AIや自動運転などの単体の技術に注目するより、業界をまたいで情報を相互にやり取りできる世の中になることを期待していますし、実現するためにGLPやモノフルがその一部を担うことができればと思っています。

    移動の進化とは●●だ

    藤岡様が思う「移動の進化」とはどのようなものでしょうか。

    そうですね、私が考える移動の進化とは、移動そのものを意識しなくなることでしょうか。たとえば、会議をしたいと思った瞬間、そこに会議室ができればいいっていう。

    今までは、買い物に行きたいと思ったら自分の足で店舗に行かなくてはならないし、空港に行く場合は成田エクスプレスを利用して自分で向かうなど、すべての行動が能動的で、主語が常に“自分発”でした。しかしこれからは、あらゆる技術によって常時、自分の位置情報やスケジューラーなどが共有されるようになっていて、「この時間はジムでワークアウトをしたい」「この日のこの時間に会議をやりたい」と言うだけで、そこにジムが来る、もしくは近くのジムを利用できるようになるかもしれない。つまり、自分が受動態に、受け身の状態になるということです。

    もっと噛み砕いて説明すると、空港に行きたいと思わずとも空港に行く手段が手配されるとか、いま自分がいる場所が空港になるとか。そんな夢のような世界が現実になるのは30年後、200年後だろうと思われるかもしれませんが、それこそ空飛ぶクルマができたら、そこにいながら自分が欲しいものが届くし、アベイラブルになる世界が実現できれば、「移動しなくてもいいね」が当たり前になるかもしれません。

    移動って、そもそもどういうことを言うのか。突き詰めすぎると分からないですよね。しかし、いつになるかはまだ分かりませんが、何もしなくても欲しいものがその場で手に入る世の中になるんじゃないかなと思っています。

  • 移動の進化を振り返るその4~鉄道の登場とその歴史~

    移動の進化を振り返るその4~鉄道の登場とその歴史~

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

    人は馬の乗ることで遠方まで移動できるようになり、大型船を生み出してからというもの欧米列強はこぞって大海を超え、新大陸や未開の地へ進出し自国の旗を掲げ巨大な経済圏を築いていきました。その結果、米国・ヨーロッパ諸国は空前の経済成長期を迎え人口も激増しますが、それに伴い従来の馬車や小型船では溢れかえる物資や人員の運搬が賄いきれなくなったのです。

    困ったときに新たな文明を発明するのが人類のすごいところで、この頃から陸上における物流シーンで、鉄道が大躍進をはじめます。

    産業革命の申し子「鉄道」の誕生と世界への爆発的普及

     

    黎明期の鉄道動力である「蒸気機関」は、1769年に英国のエンジニア・ジェームス・ワットが発明したものが原型ですが、当時他の技術者が発明した蒸気機関のボイラー爆発事故が発生していたため、特許を取得していたワットは極端な高圧化に懸念を示していました。そのため、中小規模の工場機械の定置動力としてしか採用されませんでしたが、1800年に同特許が失効すると情勢が変わり、2年後にはリチャード・トレビシックが高圧蒸気機関の開発に成功します。

    そして1804年2月、トレビシックの蒸気機関を搭載した世界初の蒸気機関車が、10トンの鉄と5両の客車、それに乗った70人の乗客を4時間かけ、約14km運搬することに成功したのです。その時速はわずか3,5km、ゆっくり徒歩移動するのと大差ないノロノロとした運転ですが、高圧化によって用途が格段に広がった蒸気機関は改良が繰り返され、1830年代には蒸気機関車と走る鉄製レールという組み合わせが確立、文字通り産業革命の原動力となりました。

    また、1840年代にスクリュー・プロペラが登場すると全盛期だった大型帆船は駆逐され日本にも来航した「プロペラ式蒸気船」が、外洋交通・物流手段の主役に躍り出ます。なお、蒸気機関の燃料である石炭がもてはやされ始めたのもこの頃からで、鉱山が自国領土内に存在するもしくは、植民地で発掘・輸送可能な国は繁栄を約束されていたため、黒いダイヤと称された石炭鉱山の利権を巡る争いが各所で勃発しました。

    文明開化の象徴「明治5年日本に蒸気機関車が登場」

     

    日本では、1854年に開国を求めるため来航したマシュー・ペリーが、幕府役人に模型蒸気機関車の走行を実演して見せたり、各般の有識者が海外の文献を頼りに小型蒸気機関車のひな型を制作したりしたという記録がありますが、実物が登場するのはもう少し後のこと。

    明治維新の余韻冷めやらぬ明治5年、イギリス人技術者エドモンド・モレルを開発主任に雇用し、その指導下で大隈重信や伊藤博文らを中心に日本初の蒸気機関車が完成し、新橋駅〜横浜駅間で開通しました。

    ただ、鉄道の輸送力を決定付けるレール幅は世界基準より約37cm短く設定され、これが当時イギリスの植民地だった南アフリカやニュージーランドの鉄道と同じだったため、同国が「日本を格下に見て導入した」という説もありますがそれは誤解です。たしかに、イギリスや米国で導入されている広いレール幅は日本の鉄道よりスピードを出すことができますが、敷設スペースが広くカーブも大きく取らなければなりませんし、何より建設コストが跳ね上がるため、当時の国内情勢では妥当な選択だったのです。

    ちなみに、日本での鉄道開通では米国が資金を出して主導するという約束が幕府との間で取り交わされていたものの、米国に日本植民地化の野心があると判断した明治政府は交渉を重ね、その約束を反故にすることに成功します。そして、すでに広大な植民地を有し資源に乏しい日本への領地的野心が薄いイギリスに白羽の矢を立て、技術提供と100万ポンドの資金を借り受けました。その代わりとして、わが国初の国債をロンドンの証券取引所で発行し、毎年膨大な利子を付けて返済することにしたのです。

    日本へ技術資金を提供し鉄道を敷設・経営権を握ることで影響力を高め、最終的に植民地化を狙っていた米国は“はしごを外された”状態になったため抵抗しそうですが、当時同国は南北戦争がやっと集結したばかりで政治が安定しておらず経済も火の車。「日本に鉄道を…」なんて言っている余裕はなく、英国と争わずあっさり引き下がったと考えられています。

    大規模私鉄の誕生と日清・日露戦争への貢献

     

    明治5年に開業した日本初の鉄道は儲かったのかと言えば、翌年の営業状況は乗客が1日平均4,300人で、年間の旅客収入42万円と貨物収入2万円、そこから直接経費の23万円を引くと「21万円」の利益が出たと言います。なんだ、たったそれだけと思うかもしれませんが、現在の物価指数は当時の約4,800倍に相当しますので、単純計算しても約10億円の利益が出たことになります。そこで瞬く間に「鉄道は儲かる」というイメージが経済界に広がりました。

    事実その後鉄道は延伸され続け、明治10年には日本初の鉄道トンネルとトラス式鉄橋を備えた鉄道が「大阪~京都間」で開通し、北海道ではアメリカ人技師の指導で「小樽~札幌間」で営業を開始するなど、官主導で全国へ普及していくかに見えました。しかし、西郷隆盛による西南戦争の影響で財政難に陥った明治政府は、一部を除き新規路線の建設をストップしてしまうのです。

    このままでは、全国への鉄道普及が進まないことを危惧した伊藤博文は、岩倉具視らと協力して民間資本の参入を模索します。鉄道は儲かることをよく理解していた財界は渡りに船とばかりに便乗し、明治14年半官半民ながら日本初の私鉄「日本鉄道」が発足しました。

    その後、全国各地に「北海道炭礦鉄道・関西鉄道・山陽鉄道・九州鉄道」といった私鉄がぞくぞくと誕生し、明治末期にはほぼ全国への鉄道敷設が完了、重要な国民の移動手段に成長したほか、日清・日露戦争時には人員・軍事物資など輸送に鉄道が威力を発揮しました。

    しかし、この軍事的有用性があだとなり、徐々に力を持ち始めた軍部は鉄道網の国有化を強く訴えたことで明治39年、ついに「鉄道国有法」が成立し、前述した4社と日本鉄道を含む大手私鉄17社がすべて国有化されることとなったのです。

    鉄道国有化以降は盛んだった新規私鉄の敷設がめっきり減少しますが、全国的な一括管理によって各地方の利用状況に応じた運用が可能になったほか、「東京~下関(山口県)間」といった長距離列車を設定することもできるようになります。また、現在世界有数の正確性を誇る「運行ダイヤ」といった規格の標準化、海外資本に頼りきりだった車両やレールの国産化が進んだのもこの頃からで、明治44年に完成した国産初の蒸気機関車を皮切りに、大正中期にはいわゆる「SL」が主力を担いました。

    一方、当時の政府が国家予算の多くを割いて整備・改良したのは基幹路線に限られていたため、地方では鉄道インフラの整備が大幅に遅れる弊害が発生します。要するに明治政府は国有化に伴う買収と維持・管理で資金が枯渇し、地方にまで手が回らなくなったのです。

    そこで政府は、車体・レール・設備が簡易なものでも良いなど、参入条件を大幅に緩和しつつ、開業から5年間は5%の収益を政府が補償することを定めた、「軽便鉄道補助法」を公布する一手を打ちます。

    その効果は抜群で、参入ハードルが高くコストもかかる鉄道事業へ二の足を踏んでいた地方資本がすぐに反応し、しばらくの間日本中で軽便鉄道の敷設ブームが巻き起こり、路線バスが登場するまで地方交通インフラの中核を担うことになるのです。

    蒸気機関から電気へ…民営化と交通ネットワークとしての発展

     

    大量の人と物資を長距離で輸送するのに適していた蒸気機関車ですが、常に激しい噴煙と火の粉を周辺にまき散らしながら走行するため、開業当初から建物が密集する都市部への乗り入れに反対する声も多く出ていました。その点、電気を動力とする汽車(以下電車と表記)は、環境への被害も少なく短編成の運用も容易であるため、明治末期から大正にかけ都市部に敷設された鉄道では初めから電車を採用するなど、蒸気機関から電化する事例が多数みられるようになります。

    とくに、地方の簡便鉄道での電車採用は顕著で、現在「○○電鉄」という社名で営業している私鉄やローカル線はこの流れで誕生したものですし、山手線や東京メトロなどが都民の足として定着したのも、蒸気機関から電気への移行ありきと言えるでしょう。

    以降、都市交通は私鉄電車が主力となり、長距離移動と物資輸送は大型蒸気機関車を大量保有する「国有鉄道(以下国鉄と表記)」スタイルが長く続き、共に黄金期を迎えることになりますが、第二次世界大戦が勃発すると状況が一変します。

    戦局が悪化するにつれ、戦時体制に組み込まれ軍部の支配下にあった鉄道施設への空襲は激しさを増し、完全に破壊される所も出るなど日本の鉄道網は甚大な被害を受けながら、終戦を迎えることになります。

    ですが、当時の鉄道マンの復旧への思いは強く、なんと終戦日当日も一部の国鉄路線は平常運行していたとか。進駐軍は日本の鉄道が運行不能であると考え、大量の列車を持ち込む予定でしたが、通常通りに運行している姿を見て中止したといわれています。

    その後、高度成長期に入り石炭から石油へのエネルギー革命を経て、蒸気機関車は内燃機関を有するディーゼル車や高性能化した電車にとって変わり、姿を消していきます。そして昭和39年の東海道線開通に始まる新幹線の路線拡充によって、人の長距離移動時間は大幅に短縮されました。

    ただ、この新幹線の路線拡充に伴い膨大な投資と、昭和50年頃から始まったモータリゼーションの発展により、貨物輸送に占める鉄道の比率が著しく低下したことで国鉄は一気に赤字が拡大。政府も国鉄運営の再建に尽力しましたが、もはや立ち直るには分割と民政化しかないと判断され、ついに昭和62年4月国鉄は分割民営化され、現在の「JR」として再出発を切ったのです。

     

    まとめ

    自動車の普及はまだ先の話となりますが、電車の無人自動運転はすでに採用されていますし、2027年には東京・品川と名古屋市を最速40分で結ぶ夢の超特急、リニア中央新幹線の開業が予定されています。

    一方、採算の取れない地方私鉄が廃業を余儀なくされたり、交通インフラの多様化と分散によって、以前ほど新幹線や特急も込み合わなくなったりしてきましたが、今後も鉄道は形を変え、絶えず進化しながら、長年にわたり国内交通の中核を担い続けていくでしょう。

     

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

  • 訪問医療における車両管理システムの活用事例-後編

    訪問医療における車両管理システムの活用事例-後編

    導入してから生まれた効果

    導入後はどのような効果がございましたか?

    田中:「SmartDrive Fleet」の画面を見れば、移動中の車両がリアルタイムですぐわかりますので、「先生と看護師さんが後ろの席にいるから、今なら直接電話で連絡できるだろう」と瞬時に判断ができます。それが、導入してから一番ありがたいと思っていることです。

    基本的には、車両一台につき、医師と看護師さん、事務スタッフ、サービススタッフが乗車します。オンコールの電話はすべて事務所で取りますが、その後、医師と看護師との連携をとる必要がある。しかし、診察中や患者さん宅にいるタイミングで電話をかけてしまうと、手を止めさせることになります。だからこそ、位置情報の見える化は、訪問診療に取っては非常に重要だと考えています。

    黒永:スタッフがこのような認識を持っているのには、できる限り一日あたりの診療数を増やしたいという理由があってのことです。これは診療の効率化にもつながることですし、先ほどの最適な人員体制にもつながることです。

    診療中に電話が鳴って医師が取らざると得なくなると、診察が中断されてしまいます。そうなると一件あたりの診察時間が余計にかかってしまいますし、医師が診察に集中できない状態を招いてしまう。医師が治療に専念できなければ治療の質を落とすことになりますので、タイミングを見計らうことが重要になるのです。

    内勤のオペレーターは昼夜問わず、緊急性があるか、重要性があるか、人命が関わっているコールに多大な注意を払いながら対応しています。そのため、「SmartDrive Fleet」のようなツールを活用し、迅速かつ最適なシーンで連絡ができると、一日の限られた時間の中でより多くの患者さんを診療できるようになる。そのうえ、過剰な人員体制をとる必要もありません。「SmartDrive Fleet」がシームレスな連絡調整を可能とし、診療そのものの質も上がっている。この両輪が言えるんじゃないでしょうか。

    田中:また、緊急時のオンコールと連動して、今・どこにいるのか、現在地を確認するときにも活用しています。クリニックに近づいていることがわかった場合、今のタイミングで緊急コールをお願いしたら、そのまま折り返して向かってもらえるかもしれないという判断が迅速にできますし。1分1秒が大事な医療業界において、非常に重宝しています。

    患者さま、先生、スタッフ、すべての訪問医療に関わるみなさまのためにも、効率の良く運営するにはテクノロジーをどんどん活用していくべきだと思っています。自動化できる部分は自動化し、みなさんが本来の業務に注力すべきではないでしょうか。

    黒永:そのためにも、「SmartDrive Fleet」は非常に有効です。もっと活用ができるよう、私たちもスキルを蓄えている最中ですが、現在の効果としては、スタッフを適正に配置し、効率的な運用ができていると感じています。医療という人命を担う職務において、最適な連携を図ることは何よりも重要なこと。どんなシーンでも、スピーディーかつシームレスな連携できる。それを実現できるのが「SmartDrive Fleet」です。

    「SmartDrive Fleet」を利用する中で、「この機能は便利」というものについて教えてください。

    田中:機能としては、リアルタイムでの現在地が正確に分かることが本当にありがたくて。
    これは、以前起きた事例です。伊勢原市の隣にある秦野市でお看取りがあり、医師が派遣されましたが、そのお看取りが終わるか終わらないかぐらいの時間にもう1件、同市内でお看取りの連絡をいただいたのです。

    急いで「SmartDrive Fleet」を起動させたら、まだその医師が秦野方面にいると分かったため、連絡をしてそのまま向かっていただきました。お看取りはご家族にとって非常に大事な時間でもありますので、簡単に電話を鳴らすことはできません。そうした場合にも、無駄な動きをすることなく2件目のお看取りに向かってもらうことができ、非常に感謝しました。

    営業車であれば、「効率良く回れたことで、いつもより案件が1つ多く獲得できた」と評価されますが、訪問医療は人命に関わりますので、考え方が大きく異なりますね。

    黒永:連絡を調整するタイミングに加え、スピーディーかつシームレスに連絡を取るべきだということは、全スタッフが重視していることです。

    SmartDrive Fleet」は現在、伊勢原と名古屋で導入しています。CUCが受け持っている114拠点への横展開するにあたり、すでに十分な効果が出ていますので、内部に留めず広げていきたいと思っています。これが診療の標準化として当たり前になれば、患者さんのためにもなりますので、CUCの外部の訪問診療の先生たちにもお伝えしたいですね。

     

    SmartDrive Fleet」の活用で今後目指していきたいこと

    「こんな機能がほしいな」とか「ここが使いづらい」など、「SmartDrive Fleet」に希望すること、期待することを教えていただけますか。

    田中:訪問医療はその日その日によって、今日は誰が乗車し、どこへ訪問するのかが変わります。当日、A車には●●と▲▲が、B車には■■と★★が、というように誰がどの車両に乗っているか情報を可視化させることはできますか?

    車両予約機能がありますので、誰がどの車両に乗るかを事前に登録することができます。

    黒永:ここにドライバーという項目がありますが、今は未設定ですね。ここに、誰が乗っているかを登録できればいいのですが。

    ドライバーの設定が完了しましたら、車両予約のボタンから「新規予約」を選んでください。 ここでは、Googleカレンダーに登録するようなイメージで、時間の登録ができます。

    黒永:今後、ぜひ活用したいのが安全運転診断の機能。訪問診療の車両にとって、安全運転は大事なことです。事故が起きると、診療が止まる。診療が止まると、患者さんの命に影響を及ぼすことになる。だからこそ安全運転を徹底する必要性がありますし、意識を高めていきたいです。

  • ライドシェアサービスの日本参入・普及を阻害している障壁とは?

    ライドシェアサービスの日本参入・普及を阻害している障壁とは?

    電子マネー決済や仮想通貨などが良い例ですが、どんな商品やサービスも、いずれかの地域で爆発的に流行すると世界的なトレンドとしてその波が日本にも押し寄せてきます。しかし、Uberに代表される配車サービスに限っては、日本に参入しているものの本格的に普及するところまで至らず、類似する国内外のするライドシェアサービスも、例外なく苦戦を強いられているようです。この記事では、そうしたライドシェアサービスはなぜ日本での成長が難しいのか、普及を妨げている障壁を整理したうえで、現在の動向や今後の展望について考察します。

    ライドシェアサービスは海外では普及しているのになぜ日本では広がらないのか

     

    配車サービスとは、電話やアプリを通じてタクシー・ハイヤー・運転代行の手配をいつ・どこででも簡単に行えるサービス全体を指します。一方、世界で急速に普及が進んでいるライドシェアサービスは、タクシー会社や運転代行業者に所属しているプロドライバーではなく、国内で言えば2種免許を取得していない一般ドライバーが運転する車で目的地まで移動するサービスです。

    前者はご存知の通り、国内でも利用者が大勢いる既存サービスですが、後者に関しては海外と比較して一向に普及が進んでいません。Uberは2014年から、Uber TAXI、UberTAXILUX、Uber BLACKなど、東京を皮切りに複数の都市でサービス提供してきましたが、いずれも一般的なタクシー・ハイヤーの予約・配車にしかすぎません。スマホのGPS機能を利用した最適な合流場所への経路案内、電子マネーによるスピーディーで安全な決済など、非常に利便性に優れる同アプリですが、一般ドライバーと乗客をマッチングするサービスは、現時点では国内で展開されていないのです。

    本格的なライドシェアが普及すれば、車保有に伴うさまざまなコストを削減できるだけではなく、排気ガス問題の解決や交通渋滞の緩和、スマートシティ構想などの都市計画の推進につながるため、日本にとって得られるメリットは多岐にわたります。しかし、UBERや同国で激しいシェア争いを繰り広げている「Lift」、さらに現在4億人を超えるユーザーが利用している、中国の「滴滴出行」クラスまでライドシェアサービスが普及するには、越えなければならない3つの大きな壁があるようです。

    ライドシェアが直面している障壁その1「有償ライドシェアに対する法規制問題」

    2015年、Uberは営業許可を受けていない自家用車と乗客とのマッチング・アプリ、「みんなのUBER」の実験運用を福岡で試みましたが、国土交通省の行政指導により、わずか1カ月で中止に追い込まれました。なぜ、国交省はみんなのUBERに中止を言い渡したのでしょうか。それは、同サービスが許可を持つ事業者の車両以外での有償乗客輸送を禁ずる、「道路運送法」に抵触すると判断したからです。

    この判断に対してUberおよび、タッグを組んで実験を進めていた産学連携機構九州は、「みんなのUBERに属するドライバーは、乗客から対価を得るのではなく運営から報酬を得るので、法律違反に当たらない」と主張しています。また、無許可車で乗客を有償運送することを、ナンバーの色から「白タク行為」と呼ばれていますが、Uber側も「白タク=法律違反」と理解しており、ドライバーが運営から得る報酬は「運送」ではなく、乗客データおよび走行ログ入手への対価とも説明していました。

    つまり、Uberとしては白タクではないから法的規制をかけるのはおかしい、と訴えているわけですが、限りなく黒に近いグレーな主張でもあるため、ドライバーとUber側との雇用関係や、後述する安全確保を考慮した場合、国交省がすんなりとGOサインを出すのは難しいことかもしれません。

    ライドシェアが直面している障壁その2「タクシー業界の強い抵抗」

    2013年12月、米国・サンフランシスコでUberの契約ドライバーが交通事故を起こし、わずか6歳の少女が命を失うという痛ましい事件が発生しました。

    亡くなった少女はタクシーに乗車していたのではなく、横断歩道を歩行中にはねられてしまったのですが、事故発生時に当該ドライバーが警察の取り調べに対し、「Uberにログインし客待ちをしていた」と証言したため、被害者側はUberの管理責任を追及しました。しかし、Uber側は悲劇的事件として哀悼の意を示しつつも、「車やプロバイダーがUberシステムで移動すること(有償運転)をこの事故では伴わなかった」と主張し、本質的な責任を否定したのです。

    この事件を受けて世論は紛糾、とくに地元タクシー業界はUberタクシーに対して強い反発を示し、ロスの大手タクシー会社GMのBill Rouse氏は、「Uberの車に乗ることは、通常のタクシーに比べて危険。ドライバーが犯罪者である可能性もある」と強い口調で発言。

    教習所の専門教習や社内研修などを受けるプロのタクシードライバーと異なり、Uberタクシーのドライバーは基本的には素人ドライバーです。そのため、運転技術の未熟さによる交通事故発生を危惧する、同氏の発言は頷けますが「犯罪者」とは、少々過激な言葉にも聞こえます。

    ただ、過去にさかのぼると米国やインドなどで、Uberの乗客が犯罪被害に遭遇したり、契約ドライバーが多数の犠牲者を出す銃乱射事件を起こした事例も。これらはショッキングな事件として大々的に報道されたため、不安視する声が各国で高まっているのは事実です。

    日本のタクシー業界も2019年6月、ライドシェアに力を注いでいるソフトバンク株式総会会場の前で、タクシー運転手らで構成される労働組合がライドシェア解禁に、『反対』を表明するビラを配布するなど反発する姿勢を強めています。

    同団体はシュプレヒコール(デモなどで参加者が一斉にスローガンを唱えること)の中で、2018年に発生した滴滴出行の契約ドライバーによる「女性客刺殺事件」を挙げ、「(ライドシェアは)タクシーで義務付けられている労働時間管理や飲酒チェックもなく、運転手の身元もわからない」と危険性の高さを主張しました。加えて、ライドシェアドライバーは会社員ではなく個人事業主となるため、劣悪な労働環境を生み出すとも指摘しましたが、同時に既存ドライバーの雇用機会減少や、ユーザーの奪い合いと価格破壊による賃金低下も、反発が強まる背景として横たわっているのです。

    ライドシェアが直面している障壁その3「日本ならではの“内なる壁”」

    タクシー業界による、「ライドシェア解禁反対」は全世界共通の動きになっていますが、ライドシェアが国内で一向に普及しない原因の一つとして、国民性に由来する障壁の存在を忘れてはいけません。

    ライドシェアは文字通り「相乗りする」ことですが、相乗り文化が古くから浸透している海外と異なり、日本では事業者や地方自治体が運営する公共交通機関を除けば、一台の車に見ず知らずの他人と一緒に乗るという根本的な行為自体に、強い抵抗感を持っています。治安的に見れば、ライドシェア先進国である米国や中国より、よっぽど犯罪に遭遇するリスクは低いと考えられますが、それは既存のタクシーや運転代行サービスにも言えること。

    そして日本人は、低コストで利用できるライドシェアサービスではなく、多少高いお金を払ってでも「既存サービスを利用したい」と考える傾向が強く、政府の調査によると20代の若いユーザーですら、ライドシェアの利用意向が約40%程度にとどまっているのだとか。ライドシェア市場でシェア9割を占める、大手4社すべてと資本提携しているソフトバンクの孫正義氏は、「(ライドシェアを受け入れない)馬鹿な国がいまだにあることが信じられない」と怒りをあらわにしたそうですが、国民性に合わせたサービスにしなければ、今後も普及は難しいかもしれません。

    知らない人と相乗り、しかも素人が運転するライドシェアは怖いという、日本人の心に根強く居座る「内なる壁」こそ、同サービスが日本で一向に発達しない最大の要因とも言えるでしょう。仮に政府が法改正を行い、海外ライドシェアが大っぴらに普及を進めても、大成功を収めるのはなかなか簡単なことではありません。

    そんなライドシェアが日本で成功するためのカギを握っているのが自動運転です。日本人は警戒心や遠慮によって、「他人と狭い空間にいる」ことを嫌悪する傾向にありますが、それがIT世界という仮想空間であれば、世界中の誰とでも関係性を持つことができます。FacebookやTwitterなどがわかりやすい例で、近年ではシルバー層も積極的に利用しています。そのため、AIによる自律運転と高次元で融合したライドシェアを生み出すことができれば、ユーザーは他人の存在を意識することなく、安心して利用することができるでしょう。

    ところで、海外での法整備はどうなっているの?

     

    海外におけるライドシェアの法整備状況については、日本を含むG7に中国・韓国・オーストラリアを加えた主要10カ国のうち、国内普通免許および自家用車での参入をどちらも法的に認めているのは米国とカナダの2カ国だけです。

    一方、イギリス・中国・オーストラリアは、自家用車での参入は認めているものの、ドライバーにはシェアリング専用の免許取得を求めており、残る5ヵ国については現在法整備を議論中もしくは、一切議論が進んでいない状況です。ドイツ・韓国・フランスに至っては法整備どころか、Uberが法令違反に当たるとして罰金命令や営業停止命令を発令するなど、ライドシェアビジネスの普及に批判的な立場を示しています。

    あくまで大局的な動向ですが、広大な国土を有し、山間部や荒野地帯などを中心に公共交通が隅々まで行き届いていない国が比較的ライドシェビジネスに理解を見せ、道路交通網や移動インフラが整っている国ほど難色を示す傾向にあるようです。

    ライドシェアサービスの国内動向と今後の展望

     

    ライドシェアを巡る国内動向に目を移すと、政府や経済界は揃って同サービスを経済成長を促す1つの柱と位置付けており、海外からの渡航客増加が見込まれる2020年のオリンピック開催を視野に、規制緩和とサービス解禁に向けた動きを見せ始めています。

    しかし法整備が一向に進まず、タクシー・ハイヤー業界が徹底抗戦の構えを見せている現在、Uber のようにドライバーへ報酬を支払う「TNCサービス型」がここ数年で日本において大幅に飛躍するとは考えにくいでしょう。

    一方、ヨーロッパで普及が進んでいる「Bla Bla Car」のように、ドライバーとユーザーの目的地をマッチングし、ガソリン代などの実費をシェアするカープール型については、報酬が発生せず現行法に抵触しないため、長距離ライドシェアサービス「notteco(のってこ!)」などが展開されています。

    ただしカープール型ライドシェアは、どこも仲介料無料でサービス提供しているため、収益性が低くビジネスモデルとしては不完全です。日本人がライドシェアに慣れる役目を果たしてはくれるでしょうが、爆発的に広がるのはやや難しいかもしれません。そうなるとやはり、「AIによる自律運転ライドシェア」というビジネスモデルが理想形であり、技術革新に沿った関連法の整備を進める一方で、メリットだけではなくデメリットや注意点の周知と啓もう活動を、政府や関係機関は推進していく必要があるのではないでしょうか。

    まとめ

    もし自律運転が実現する前の段階で、TNCサービス型カーシェアの合法化を進めるのであれば、専用免許の所有を義務付けるとともに、安全運転支援装備を備えた車限定で参入を許可するなど、国民の不安を和らげる配慮が必要となるでしょう。

    ユーザーや歩行者などの安全を確実に確保し、今回解説したすべての障壁に共通する課題さえクリアすれば、ライドシェアビジネスはMaaSの大黒柱として、車を単なる「移動手段」から利便性と汎用性に優れる「サービス」へ、引き上げてくれる存在になるでしょう。

  • 人材教育から業務効率までを変える『Teachme Biz』による働き方改革 -後編

    人材教育から業務効率までを変える『Teachme Biz』による働き方改革 -後編

    企業が成長するために必要な“変化”

    大里:「庄司さまがおっしゃる通り、企業が成長するためには、柔軟に変化に対応すべきです。その他にはどのような効果が期待できるでしょうか?」

    庄司:「教育部分の効率化が一番、わかりやすく効果を実感いただいているところですね。人材教育は、トレーナー(教える側)とトレーニー(教わる側)、両者の時間を必要としますが、『Teachme Biz』の活用で教育の時間をコンパクトにしつつも、品質を安定させることができます。

    教える立場の方は、同じことを繰り返し伝えていると、少しずつ大雑把になってしまうことがあります。教わる立場の方でも、一度教えてもらったことをついつい忘れてしまうことがあるでしょう。わかりやすいマニュアルがあると、個々に予習復習ができますし、教育の効率化とか品質向上が叶えられるのです。

    さらなる上位概念でいうと、手順が可視化されることで、時間がかかっている部分や無駄なプロセスがわかるようになり、業務改善が行いやすくなることが挙げられます。日本では丁寧すぎるサービスが一般化していますが、場合によっては効率化からかけ離れたものになってしまう。

    そこで一つ、スーパーマーケットで試したことがあります。それは商品を補充する回数の適正化です。コンビニでもスーパーでも、棚に陳列された商品がたった2、3個売れただけなのに、すぐスタッフが補充作業をする様子をよく見かけませんか? 補充作業には一日二回で良いという説と、一日三回は行わないと商品が減って見えてしまうという説がありますが、実際に実験してみると、いずれの場合も売上はさほど変わらないとわかりました。ならば、回数を減らして、接客など別の作業に集中した方が良い、という判断ができますよね。」

    大里:「商品の補充には時間も体力も必要ですしね。」

    庄司:「そうですね、補充専任のスタッフがいるお店もありますが、全店舗にそうしたスタッフを置いた場合、何十人、何百人という数に膨れ上がってしまいます。」

    大里「人件費や人員の定着率はどう変わるでしょうか?」

    庄司:「人材教育の副次的効果として、離職率を低下させることができます。新しく入社した人からすると、やるべきことが明確に示されているし、わからなくなってもスマホを見れば答えが書いてあるので、ストレスフリーで非常に働きやすい環境です。そのため、退職リスクが減ったという声をよく聞きますね。従業員が定着すれば、採用コストも減りますし、企業にとっては今まで無駄にかかっていたコストを削減できるのです。

    ある飲食関連の企業では、常にアルバイトが10万人いても、1年間で半分ほど入れ替わってしまうことに頭を抱えていました。辞める理由を聞くと、覚えることが多すぎる、教わってないのにやってという理不尽なことを言われたなど、業務に関することが多い。そこで離職率低下をはかるために、『Teachme Biz』を導入いただき、活用いただいている例もあります。」

    今後の採用は、「働き手のニーズに合わせる」こと

    大里:「人材教育の効率化と高品質化、業務の効率化と人の定着、どれも企業の成長には欠かせないものばかりです。現在、息もつかせぬ速さで人口が減少しつつありますが、各業界で人材難が深刻化していくと、業務を回すことができず、企業は泣く泣く事業を畳まなくてはならないとうケースが増えていきます。」

    庄司:「そうですね。教育効率化の先にあるのはマルチタスク化です。今は多くの企業で業務が縦割り状態になっています。適正な人材配置を行い、業務を円滑に回すためには、人の流動性を高めなくてはなりません。しかしある程度、仕事の型が決まっていないと、従業員の身動きが取れなくなります。ですので、飲食店では細切れ採用を取り入れるところも多いのです。」

    大里:「“細切れ採用”とは、なんでしょうか?」

    庄司:「お店としては、本来8時間フルタイムで働ける人材が欲しい。でも、なかなかそうした人材を集めることができないので、4時間だけ働ける人を複数名採用してシフトを埋めていく。それが細切れ採用です。」

    大里:「そうしないと、採用ができないのですね。」

    庄司:「さらに、そこへ専門性を紐付けないとことが大事。『Aさんがいないとオペレーションが回らない』という状態になってしまうと、人材を多く採用しても意味がありません。ですので、今後のさらなる人手不足を補うためには、誰でもできる状態を作ることが重要です。」

    庄司:「『Teachme Biz』は、仕事を細分化して人から切り離すことができますので、小さく切り分けて隙間に入れ込むこともできます。ただし、隙間時間の1時間だけでも働きたいというニーズがあっても、企業側がフルタイム以外は採用しないと言っていては、人材確保を困難にするだけです。」

    大里:「『Teachme Biz』はシェアリングサービスにもマッチしそうですね。」

    庄司:「ドライバーだけでなく、流動的に数時間だけ働きたいというニーズは今後も増えていくと思います。そういう時にこそ、簡単に仕事を覚えることができるしくみを作らなくてはなりませんので、『Teachme Biz』が生きてくるかと思います。」

    コラボレーションで業務効率をさらにアップ!

    大里:「スマートドライブが提供する『SmartDrive Fleet』も、労働時間の削減や業務効率化に寄与できるサービスですが、『Teachme Biz』とコラボレーションはできるでしょうか?

    庄司:「たとえば、フリーランスのBさんが短時間だけ働きたいと、配達員に登録したとします。所属した事業所は『SmartDrive Fleet』を使って業務を効率化していますが、荷物の運び方や会社のルールなど、細かい規則や手順が記載されたマニュアルがないと、すぐには仕事に着手することができませんよね。

    仕事に取りかかる前に『Teachme Biz』で業務について理解してもらう。その中には『SmartDrive Fleet』の使い方も明記されている。そういう流れができるといいですよね。」

    大里:「『Teachme Biz』は運輸・物流系の企業にも使いやすいサービスだと思います。」

    庄司:「運輸・物流系の企業は、人がサービスの根幹にいる労働集約型産業ですが、それぞれの人が各々に行動しているので、集まって教えることが物理的に難しい。業務も多様化していますし、情報の共有が一番難しい業界なのではないでしょうか。いままでは人を動かしたり、大量の紙で管理していたりしていたかもしれませんが、人や車両、伝票など、管理すべきものが多いので、何らかのツールを使って共有と効率化を同時に行うべきでしょう。」

    大里:「話を聞いていると、まだまだ短縮できる時間も多いですよね。」

    庄司:「ドライバーは本業が移動すること。中には意味のある移動と、意味のない移動の区別をつけていない方もいるでしょうが、ご自身の負担を減らすためにも見極めていくべきだと思います。」

    大里:「作業は分散型なのに、情報は集約して共有すべきというのは、難易度が高く思えますね。」

    庄司:「数ある業態の中で、もっとも情報の集約が難しいと思います。一般的なオフィスワーカーなら、100人集めて朝礼をするのも難しくありませんが、遠距離だと時間もズレますし、ドライバーを100人集めることがそもそも困難。人の入れ替わりも多いので、余計に情報集約と共有が困難を極めるのです。」

    業界を変えるのは情報集約と情報の共有

    大里:「情報共有という点では、チャットツールやLINEでもいいような気もしますが…。」

    庄司:「日々のちょっとした業務連絡など、流れてもいい情報はメールやLINEでも良いのですが、車両の管理情報や企業としてのオフィシャルルール、業務手順は正しい伝え方をすべきところですので、別軸で考えた方が良いでしょう。

    分散されていた情報を集めるという点では、『SmartDrive Fleet』と『Teachme Biz』は近いかもしれません。」

    大里:「『SmartDrive Fleet』は分散していた車両に関する情報を集めて可視化していますが、『Teachme Biz』は分散しているノウハウや手順を集約し、オフィシャルの手順として共有していますので、似ている部分はありますよね。」

    庄司:「RPAやAI、ビックデータなど、デジタルをもっと浸透させることはできますが、デジタルを使いこなすのは、アナログな人です。スタディストでは、そこに重きを置いています。どれだけ車両からデータを取得しても、最終的に運転するのはドライバーですし、飲食店で高機能な調理器具を導入しても、サービスするのは店舗のスタッフです。つまり、アナログな世界を置き去りにしてはいけないと思うんです。

    大事なのは、デジタルで補う部分とアナログで対応する部分、それぞれの強みを生かして足りない部分を補って、バランスを取ること。ただ、将来的に完全自動配送システムが生まれたら、マニュアルは必要なくなるかもしれませんが。」

    大里:「完全自動配送システムをサポートするスタッフにはマニュアルが必要ではないでしょうか?」

    庄司:「確かに、運送物流が完全に無人化するという究極の未来が来るまでは、マニュアルは無くならないでしょう。たとえば、ミシンのように。手縫いからミシンに変わって、手縫いの職人さんは減りましたが、ミシンを作る人やメンテナンス、ミシンを教える人という形で仕事が変わっただけだと受け取ることもできます。」

    大里:「業界を前向きに変革していくためにも、基礎となる部分、つまりマニュアルや手順書は働く人にとって必要不可欠です。そこから少しずつ無駄を省き、デジタルを活用して効率化できるしくみを整え、人は人でしか行えないような仕事に集中できるようになれば、生産性が向上し、働き方が大きく変わっていくかもしれません。そんな未来への土台を築けるよう、私たちも頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。」

     


    『Teachme Biz』について詳しく知りたい方はこちらから
    https://pages.teachme.jp/doc_ringi.html

  • AIによる自動運転時代に向けてーー対応が迫られる法整備

    AIによる自動運転時代に向けてーー対応が迫られる法整備

    あくまで運転支援に過ぎない自動運転レベル1・2は、すでに多くの市販車へ搭載され、メーカー各社がしのぎを削る開発競争の焦点は、条件付き自動運転の「レベル3」へと移行しつつあります。海外では2017年ドイツのアウディが、自動運転レベル3に該当するシステムを量産車に搭載、国内では今年秋のお目見えする日産の新型スカイラインに、世界初のレベル2,5と呼べるハンズフリー走行が可能な「プロパイロット2,0」が採用されます。

    国内外のメーカーは、2020年をめどにレベル3の実現を目指しており、政府も先ごろ道路交通法の改正案を国会で可決しましたが、緊急時の対応までシステムが行うレベル4以上搭載車が公道を走行するには、法整備をはじめ、クリアすべき課題が多く残されているようです。

    自動運転レベル3の実用化に向け改正された道路交通法

    2019年5月28日、衆議院において、自動運転レベル3(条件付き運転自動化)搭載車が公道を走行する際のルールを定めた道路交通法の一部改正案が、賛成多数で可決されました。

    道路交通法は、ドライバーが守るべきルールを定めた法律ですが、自動運転レベル3になるとレベル2以下でドライバーが行っていた、「認知・判断・操作」というすべての運転操作を自動運転システムが行うため、改正が不可欠だったのです。

    改正ポイント1. 「運転」の概念を修正・自動運転使用時の義務を明確化

    レベル3では、運転の主体が「人」ではなくなるため、運転という行為の概念が大きく変化することになります。今回の改正では、自動運行装置を使う行為を運転という概念に含め、「自動運行装置を使って自動車を運行する人」に道路交通法上の「運転者」に対する義務規定を適用することにしたのです。

    この改正により道路交通法で運転者の義務と定められている、「安全運転義務・制限速度遵守義務・信号等遵守義務・車間距離保持義務」を違反した場合は、それが自動運転システム作動時であっても適用されることになります。とはいえ、レベル3に相当する自動運転システムが正常に作動している場合、先述した義務の履行が容易になるため、義務不履行を起因とする事故発生リスクは大きく減少すると期待されています。

    一方、自動運転システムに依存しないその他の義務―たとえば、事故発生時の救援義務や運転免許証の提示義務などは順守を強く意識しなくてはなりませんし、飲酒・無車検・無保険運転は当然ながら禁止とされています。ただ、レベル3システムを適切に使用することで運転者自身による常時監視や運転操作は不要となるため、今まで禁止されていたスマホの保持通話やカーナビ画像注視については、人がいつでもシステムと運転を交代できることを条件に解除されます。

    一方、レベル3以下を運転している際の携帯・スマホ使用については、今回の改正に合わせて刑事罰・行政罰ともに大幅に厳罰化されたほか、事故を起こしたり交通の危険を生じさせたりした場合は、無免許・無車検・飲酒運転と同等の「非反則行為」となります。そして、非反則行為で摘発されると、赤切符が切られ刑事罰が確定し、1年以下の懲役または30万円以下の罰金(従来は3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金)が、課せられることになりました。

    また、いつでも自動運転システムと交代できることに違いはないものの、読書や飲食などについては改正法で一切許可が明記されていないため、安全運転義務違反として違反点数2点及び、9,000円(普通車)の反則金が課せられる可能性があります。

    改正ポイント2. データ記録装置の搭載等を義務付け

    運転の主体が人ではなく自動運転車の交通事故の場合、これまでの交通事故と異なり運転者が交通事故時の状況をしっかり把握できなくなると予測されています。そこで今回の改正では、事故発生時の状況が把握できる、「作動状態記録装置」の搭載に関して以下の条文が設けられました。

    【道路交通法第63条】​

    • 第1項・・・自動車の使用者、その他自動車の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、(中略)作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものを運転させ、又は運転してはならない。​
    • 第2項 自動運行装置を備えている自動車の使用者は、作動状態記録装置により記録された記録を、内閣府令で定めるところにより保存しなければならない。

     

    簡単に言えば、航空機に搭載されている「フライトレコーダー」のように、事故発生時の作動状態を確認するために必要な情報、つまり車速の変化やハンドル操作などを正確に記録・保存できる装置を有さない、レベル3相当の車の運転は禁じているということです。なお、この作動状態記録装置がドライブレコーダーでも良いのかという点については、ドライブレコーダーでは外部や内部の映像は記録できても、システムの作動状況までは記録できないため、「該当しない」と考えられています。

    また、整備不良車両に該当する車両が運転されている場合、警察官は当該車両の運転者に対して、作動状態記録装置の記録提示を求めることができる旨が追加事項として明記されています。

    レベル3以上の実用化で生じる問題

     

    前述した道路交通法の改正案成立により、予定通りことが進めば、2020年中にレベル3搭載車が高速道路を走行できるようになるかもしれません。しかし、実用化によって生じる数多くの問題を解決しないことには、レベル3以上の爆発的な普及は望めないでしょう。

    この項では、予想される主な問題点を整理しつつ、打開策としてどのような課題をクリアしていくべきなのか、法整備・技術革新はもちろん社会受容面など、多方面から考察していきます。

    国際的な法整備の必要性~ジュネーブ条約改正の遅れ~

    自動車は日本にとって非常に重要な輸出商品。グローバルなトレンドが自動運転である以上、海外マーケットでイニシアチブを握るには、レベル3以上を搭載した新型モデルの投入が絶対条件です。しかし、統一規則を定めることにより、国際道路交通の発達および、安全を促進する目的で制定された国際条約の1つで、尚且つ日本や米国が批准している「ジュネーブ道路交通条約」では、レベル4・5に当たる完全自動運転が認められていません。

    また同条約第10条では、以下のように定められているため、解釈によってはレベル3搭載車の輸出も、条例違反に該当する可能性もあるのです。

    • 車両の運転者は、常に車両の速度を制御していなければならず、また適切かつ慎重な方法で運転しなければならない。
    • 運転者は、状況により必要とされる時、特に見通しがきかない時は徐行し、または停止しなければならない。

    一方、ヨーロッパ諸国が加盟しているもう1つの国際条約「ウィーン道路交通条約」は改正がスムーズに進み、条件付きながらレベル4の完全自動運転が認められています。国内法は、政府主導ならいくらでも整備のスピードアップが図れるものの、国連での議論と決議が必要な国際条例の改正は簡単ではなく、日本・米国・インド・韓国などが改正に向けて働きかけを強めているものの、なかなか進行していないようです。

    なお、開発の最前線ではレベル4を搭載する車両も完成し、日本でも数年前から公道における実証実験が行われています。ただ、この条約を守るために、レベル4の公道試験をするときは必ず遠隔操作で人が緊急停止できるようになっています。

    完璧な安全技術の確立~十中八九では許されない~

    ドライバーの監視なく、安全な走行を確実に行うには、技術のさらなる熟成が必要であり、「たまに失敗する」ような自動運転技術では、どんな大惨事が発生するか計り知れません。

    それは人が運転しても同じことが言えるものの、ヒューマンエラーとシステムエラーの双方に対応しなくてはならない、レベル3という段階を踏まなければ先に進めないのがネック。高精度のセンシングとAIにおける判断能力アップ、それに車両制御の正確性向上やマップの作り込み・標準化など、システムの技術革新に集中できるレベル4に一足飛びで進化したほうが、もしかしたら早いのかもしれません。

    法整備にしても、人間と機械の間を運転の権限が行ったり来たりする、レベル3対応の法改正はやや中途半端な印象です。しかし、国際条例および準拠する国内法がそれを認めていない以上、事故や交通違反減少の実績データを積み上げ、コツコツと前に進んでいくしかないと言えるでしょう。

    AIに運転を任せる安全性~トロッコ問題について~

    AIの判断に依存する、完全自律運転車の安全性についてよく議題に上がるのが、「トロッコ問題」と呼ばれる「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という、倫理学における思考実験です。問題の概略を説明すると、

     

    • 制御不能となったトロッコが暴走
    • そのまま走行した場合は前方で作業している5人が死亡
    • この時線路の分岐ポイントにAさんがいる
    • 分岐ポイントをすぐに操作すればトロッコは脇道へ
    • しかし脇道に進むと1人で作業しているBさんが死亡する

    これらを前提条件とし、「あなたがAさんならどうしますか?」という、非常に酷な質問を投げかけるもの。おそらく、ほとんどの方が犠牲者の数から、分岐ポイントの操作、つまり5人の方を救うべきだと判断することでしょう。自律運転車の場合、直進だけではなく方向転換も可能で、歩行者や自転車など、他の交通と絡むため、より状況が複雑化します。

    たとえば、ブレーキが効かなくなった自律運転車(乗員1人)が暴走し、歩行者3人と自転車2台がいる横断歩道へ、今まさに突っ込もうとしているところだとしましょう。この時、手前にある障害物にぶつかって止まることができれば、歩行者と自転車は助かります。しかし、ドライバーは危険な目に…という状況下で、「AIはどういう判断を下すか」という問題が持ち上がっているのです。

    自動車の場合、「犠牲者の数」以外にも

    1.走行車両のスピード
    2.障害物の形状と強度
    3.車両が有する安全装備
    4.周囲の交通状況
    5.歩行者および自転車が信号無視
    6.妊婦や乳幼児がいる
    7.性別・年齢層・体格などがバラバラ

    など、レール上を走るにすぎないトロッコとは比べものにならない、数多くの条件下にさらされます。

    運転操作を人が行う場合、エンジンブレーキを作動させたり、ガードレールに少しずつ接触しスピードを落としたり、植え込みなどに突っ込んで被害を最小限に食い止めるたりするなど、危機回避行動も熟練ドライバーなら可能でしょう。しかし、AIに熟練ドライバー並みのファジーな判断ができるとは思えず、1~4を把握して車両を制御することは可能でしょうが、5に関しては「青信号だから通行して問題なし」と判断し、そのまま横断歩道に突っ込んでしまうかもしれないのです。

    また、人は「モラル」によって高齢者より若年層を優先したり、衝突時のダメージが重篤になりかねない、妊婦や乳幼児を無意識に避けようとしたりする可能性が高いですが、AIにそんな細かいモラル感を学習させるのは、現段階では無理難題なことです。一方、「ドライバー1人を犠牲にした方が被害が少ない」と判断する、モラル満点のAIが搭載された自律運転車に、「乗りたい!」と望む方が世の中にどれほどいるでしょうか。ほとんどと言ってもいいほどいないはずです。

    このトロッコ問題を解決しない限り、人・自転車などが原則侵入しない高速道路や、自動車専用道での走行に限定されているレベル3・4はともかく、一般道を走行可能なレベル5の自律運転車が走行する時代が訪れるのはもっと先のことになるでしょう。

    最重要課題~事故を起こした際の責任はどうなる?

    トロッコ問題を解決しないと実用化が難しいレベル5ではなく、特定の場所に限られつつも、緊急時でもシステムが運転タスクをすべて行うレベル4の実現においても、まだクリアすべき大きなハードルが残されています。

    それが、自動運転システム作動時に起きた事故の「責任の所在」です。レベル2とレベル3の場合、国土交通省を中心とした調査委員会は現行法(自賠法・民法)にもとづく損害賠償責任の考え方が「適用可能」という見解を示しています。また、対人事故については現行の自賠法で定められている次の3要件を証明できた場合、対物事故は加害者に故意・過失がない場合、損害賠償責任が発生しない点も一般車両と同じです。

    • 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
    • 被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
    • 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

    一方、システムの欠陥によって発生した事故の場合、メーカーに責任がおよぶ可能性も考えられますが、これは自動運転システムを有さない車両でも同じことですし、外部からのハッキングで発生した事故については、政府が補償することになりました。

    この動きにより、メーカーが過大な責任を負う懸念が薄れ、レベル3の実用化が加速したほか、任意保険を提供している民間損保各社も実用化に併せた商品開発や定款等の整備を進めていますし、刑事責任についても、記録装置がないレベル3以上の運行を禁止する道路交通法の改正により、責任の所在を明確にできるよう手が打たれています。

    しかし、レベル4以上の自動運転については、「従来の自動車とは別のものと捉える」という考えを同委員会は示しており、民事・刑事責任の在り方を引き続き議論する方針を固めています。レベル4を超えると運転が人の手から離れるわけですから、運転免許制度を改正する必要もありますし、公道走行を許可する「車検」の検査項目についても、法的に見直しを図っていかなくてはならないでしょう。

    まとめ

    ユーザーからすれば、自分が操作していない車が起こした事故の責任をすべて取るというのは、納得できないことかもしれません。しかし、メーカーに責任を問う法整備が進んでしまうと、自動運転ビジネスが止まってしまう、または無くなってしまう可能性もあるでしょう。

    今後いかに優秀なAIが搭載されたとしても、自動車は法的に「所有物」と解釈されるため、他人に損害を与えた場合は所有者が責任を負う形で、今後も法整備が進んでいくと考えられます。そのため、AIや技術の革新だけではなく、事故の加害者や被害者になってしまった時に備え、自動運転レベルに対応した法整備がなされているかどうか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。

     

  • 人材教育から業務効率までを変える『Teachme Biz』による働き方改革 -前編

    人材教育から業務効率までを変える『Teachme Biz』による働き方改革 -前編

    インタビュイー:
    株式会社スタディスト 取締役COO 庄司啓太郎(しょうじ・けいたろう)さま

    誰もが簡単にマニュアルを作り、共有できるサービス

    大里:「まずは庄司さまとスタディストの事業についてご紹介をお願いします。」

    庄司:「株式会社スタディストで取締役COOをしている庄司啓太郎です。立ち上げからスタディストに参画しています。

    スタディストでは、ビジュアルSOPマネジメントプラットフォームの『Teachme Biz』を開発し、提供しています。SOPとはスタンダード・オペレーティング・プロシージャー(標準作業手順書)のことで、一般的には、マニュアルや手順書と呼ばれています。そして、ビジュアルSOPとは、視覚化された標準作業手順書を意味する言葉です。『Teachme Biz』は、マニュアルや手順書をよりわかりやすく、伝わりやすくするために、画像・動画・テキストなどビジュアルベースで簡単に作成し、共有できるシステムです。」

    大里「『Teachme Biz』の開発に至ったきっかけはなんだったのでしょうか?」

    庄司:「代表の鈴木と私は、前職で業務改善のコンサルティングをしていました。コンサルタントとしてクライアント企業の業務プロセスを改善する中で、新たなシステムを導入する時には新しいマニュアルや手順書を作成して、納品する必要があったんですね。当時はワードやエクセル、パワーポイントで作成し印刷したものを、ファイルにまとめた状態で納品していましたが、この納品方法が本当に正しいのか、納品後は誰がどのように更新していくのか、という課題感を抱えていました。そのモヤモヤした思いが開発へとつながっていきます。」

    大里:「担当されていたのはどのような業界が多かったですか?」

    庄司:「当時は製造業が多かったですね。とくに設計部門。自動車の新車開発は、4年ほどかけて設計やシミュレーションを行い、試作を繰り返し、それから工場の生産工程を組んでいくのですが、それぞれの部門では熟練の方たちが持つ秘伝のノウハウで進められる仕事が多いので、その人に頼りっぱなしになってしまうのです。

    そんな日本の自動車産業が世界の中で勝ち上がるために持っていた強みが、“擦り合わせ”です。たとえば、車体は頑丈にしたいけど重さは軽くしたい、エンジンは早くしたいけど安くしたいなど、相反するニーズを最終的にはうまく調整する。それが擦り合わせであり、日本の自動車産業のキモだったのです。しかし、擦り合わせにはルールや決まりがなく、知見やノウハウの大半が「暗黙知」のままです。逆に、そんな状態で擦り合わせができるのはすごいことかもしれませんが…。みんなでワイワイガヤガヤ話しあうことを重んじる『ワイガヤ文化』という言葉もありますし。」

    大里:「なるほど。それだと、同じ技術はいつも同じ人が担当することにもなりますし、文化が合わない人には少しツライ環境かもしれませんね。誰もが共通のゴールに向かいやすくするためにも、マニュアルは重要な役割を担っていると思います。」

    庄司:「クライアントには大手企業が多くいましたが、街の飲食店さんや小売店など、小規模な企業でもマニュアルを作るシーンは少なくないはずだと思ったのです。雑談の中でよく『みんな、どうやって手順を伝えているのだろう』と話題にあげていましたが、実はそこに見えない大きな社会課題があるんじゃないかと。

    産業の中核を担う大企業には、ヒト・モノ・カネが揃っているので高額なコンサルティングサービスを受けることができますが、それ以外の企業や人には何も手立てがなく、自力でなんとかしなくてはなりません。『Teachme Biz』はそこに手を差し伸べられるサービスだと思っています。」

    『Teachme Biz』の軸となるスタンス

    大里:「開発はエンジニアが何名で対応されていたのでしょうか?」

    庄司:「立ち上げ時にエンジニアはいませんでした。前職のコンサル部隊の人たちが集まり、最初はマクロを組むのが得意なメンバーが技術本を購入して独学で開発を進めていったんです。アウトソーシングするという選択肢もありましたが、そもそも仕様が決まっていませんでしたし、結局自分たちで手を動かした方が早いと判断したためです。立ち上げから3〜4年はそんな感じでした。」

    大里:「長い期間をかけて洗練させていったのですね。」

    庄司:「スタッフはその間、昼はコンサルタントとして資金を稼ぎ、その傍らで開発をしていました。今はエンジニアもいますし、社員数も80名を超えています。」

    大里:「競合企業はいらっしゃいますか?」

    庄司「マニュアルビジネスの土壌ができて新規で参入される企業様も増えてきましたが、スタディストはSOPとして「手順型」であることを重視しています。なぜならば、手順書は「再現性」が命。誰が読んでも同じ作業が再現できるようになるためには、ビジュアルかつ手順型であることが重要と考えていますし、単なる動画共有、ファイル共有との明確な違いと位置づけています。

    大里:「マニュアルビジネスといってもいろんなタイプがあるんですね。」

    庄司:「1ページいくらというように、マニュアルのライティングを専門にしている企業もありますね。『Teachme Biz』は、基本的には中身のマニュアルをエンドユーザー様ご自身で作っていただくスタンスですので、そうしたビジネスとも異なります。もともと、マニュアル作成は高額を支払って外部に依頼するか、自分たちで作るかの2択でしたが、自分たちで簡単に作成するというゾーンを狙っています。」

    教育と会社の文化を変えた『Teachme Biz』

    大里:「『Teachme Biz』の機能について教えていただけますか?」

    庄司:「まず、『Teachme Biz』はマルチプラットフォームですので、スマートフォン、iPhone、Android 、タブレット、PCすべての端末で使うことができます。物流系企業の多くは、スマートフォンからご利用いただいているようです。

    スタディストのオフィス移転時にも、引越しの手順を伝えるために『Teachme Biz』を利用しましたが、写真を使って段階的に手順を伝えることができるので、わかりやすいと好評でした。また、使い慣れた端末から簡単にマニュアルを作ることができるのも大きな特徴。現場で撮影した写真を取り込んで、そのままマニュアルを作成することもできますので、多くのモノを取り扱う物流や運送、倉庫関連の企業さまにはとくに喜ばれています。最近、物流系企業さまの事例集も作ったんです。

    事例のダウンロードはこちらから
    https://pages.teachme.jp/doc_logistics.html

     

    本日は株式会社インテンツの事例をご紹介させていただきますね。同社は軽貨物の配送支援を行う企業で、200名ほどの配送スタッフが在籍しています。あるスーパーのネットショップ配送業務をすべて請け負っており、年間100万件の発送件数を処理されていました。

    配送内容は各スーパーによって細かく変わってしまうため、それを200名のスタッフに伝えるのは難しいと、紙のマニュアルに限界を感じているタイミングでお声がけいただき、『Teachme Biz』を導入。現在では、『Teachme Biz』で配送手順等をすべて共有していると言います。」

    大里:「紙のマニュアルですと、更新するたびに200名全員に配布や通達をしなくてはなりませんし、管理も大変そうですね。」

    庄司:「そうですね。『Teachme Biz』だと、スーパーからの要請で明日から受取方法を変える場合も、『受取方法が変更になりました』という通知を全スタッフに素早く送信できます。スタッフ数が多く、流動的な環境だからこそ、迅速に対応でき、リアルタイムで業務に落とし込めるというところが役立っているようです。

    手順書の内容を変更するたびに、全員集めて説明会を実施したり、資料を配ったりしていると、それだけで多大な時間を費やすことになりますからね。」

    大里:「小口配送だと傭車もありますので、周知徹底がより重要になってきます。」

    庄司:「ドライバーの入れ替わりも多いですし、荷物を運ぶという行為自体が似通った作業のように思われてしまいがちですので、テキストだけでなく写真でや動画で伝わらないと明確に伝らないとおっしゃっていました。」

    大里:「ただ単にモノを運べばいいというわけではありませんしね。ちなみに、導入後の具体的な成果についても伺えますか?」

    庄司:「新たなスタッフが入ると、以前は研修に10日間をかけていたそうです。導入後は7日減らして研修期間を3日に、尚且つ1日を振り返りの時間に当てることができたので、時間を短縮しつつ密度の濃い研修ができるようになったと伺っています。

    また、日々のアップデートのサイクルが早くなる中、スタッフ全員が『Teachme Biz』を見れば正解がわかるという共通認識を持ち、ノウハウの一元化ができるようになりました。そして、企業カルチャー面でも、ルールは変わらないものだという考えから、ルールは変わるものだという考え方にシフトできたことで、全体的にフレキシブルに動けるようになったと社長がおっしゃっていました。企業は日々、成長と変革を起こしていくべきものです。しかし、『先日決定したことが、なぜ今日には変わっているのですか』というようなハレーションが生まれてしまうと、身動きが取れなくなり、成長が鈍化してしまいます。」

     

    >>>後編へつづく

  • 移動の進化を振り返る その3〜 陸上から水上へ…船舶の登場による劇的な変化とは

    移動の進化を振り返る その3〜 陸上から水上へ…船舶の登場による劇的な変化とは

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

    諸説あるものの、陸続きだった約2億年前ごろまでの地球では、鳥類以外の生物も陸上移動することが可能でした。しかし、人類の祖先が登場する頃にはほぼ現在と変わらない、7つの海によって各大陸は隔てられていたのです。同じ大陸内でも、到底人間では泳いで渡れない大河はもちろん、中小限りない数の河川が存在しますが、道具を操る人類は「船」という新たな移動手段を生み出し、文明を大きく発展させました。

    移動の進化を振り返るシリーズ第3弾は、船が誕生した経緯と進化・普及によってもたらされた人類史の劇的な変化について詳しく解説します。

    移動手段が船に~人類は登場と同時に船を操っていた~

     

    どこから“船”と呼べるのかは、見解に相違がありますが、人類は火や石器を使用し始めたころから、すでに水に浮く丸太にまたがって河川を渡ったり、濡れると腐敗スピードが早まる穀物などを、浮草を編み込んだ「船のようなモノ」に載せたりして、水上移動していたと言います。明らかに乗り物だといえる船が登場したのは先史時代。丸太をくりぬき、先をとがらせたカヌーがその先駆けで、当時の遺跡から多数のカヌーが発見されています。そして、その中には獣皮を張り、防水性に優れた現在のシーカヤックに似たものも存在したとされています。

    一方、カヌーの材料となる大木が少ない古代エジプトでは、パピルスを編み込んだ「いかだ」でナイル川を水上移動していたらしく、紀元前4000年頃には早くも原始的な帆が用いられ、紀元前3000年頃には古代エジプト人が地中海を航海していたそうです。

    また、オール(人力)と帆(風力)を組み合わせたり、舵を備え始めたりしたのもこの頃から。同時期に発展していたメソポタミア・インダス・黄河文明でも、同様の帆船が普及しており、国内では縄文後期の遺跡から外洋航海に耐えうる大型船が発見されています。なお、1945年にクフ王のピラミッドから出土した「太陽の船」は、推定全長43mとされている世界最古の木造大型船。クフ王のピラミッドが建設されたのは紀元前2500年とされており、大きな木が育たない環境にあった当時のエジプトで、これほどの大型木造船をどうやって作ることができたかについては、いまだ謎のままです。

    より安全に遠くへ速く移動するために~中・大型船の登場~

     

    紀元前1500年ごろになると、船体の両側に多数のオールを備えたガレー船が登場し、風が弱く安定しない地中海を中心に、猛烈なスピードで普及していきます。エネルギー効率に優れ、乗員も少なくて済むため、交易や物流など商船に適している帆船とは違う使われ方をしていました。ガレー船は多くの船員が乗船し機動力に優れることから軍船利用され、弓や投石機などの兵器を備えながら大型化し、16世紀まで同地方の主要戦力を担うことになります。

    一方、帆船も時代が進むにつれ大型化し、1世紀に入ってインド洋の季節風を利用した遠洋航路をローマ人の航海家・ヒッパロスが開いて以降、大陸を超えた海上交易に活用され始めます。

    地中海以外の地方に目を向けると、古代中国では3世紀頃から宋代にかけ、木造帆船のジャンクが普及し、日本史で学ぶ遣隋使・遣唐使などを乗せ中国大陸へ渡った船も、このジャンクを元に製造されたものです。また、8~10世紀の北欧ではヴァイキングと呼ばれていたノルマン人たちが、独自開発した頑丈で攻撃力のある軍用帆船を駆り、西ヨーロッパ海の沿岸部を支配していました。

    まだ見ぬ新大陸への進出~大航海時代の到来~

    15世紀に入り、戦争による領土分割が終結を迎えたことで、ヨーロッパ列強諸国は自国の勢力を伸ばすためさらなる遠洋に打って出るべく、熾烈な船舶開発と技術向上競争を始めます。それを先んじたのはスペインとポルトガル。大量の食糧や交易品を搭載可能な大型帆船「キャラック」を生み出し、王室の援助を受けた両国の航海家たちは、アフリカ西部へ次々に植民地を意味する自国の旗を掲げていきます。

    これはいわゆる「大航海時代」の幕開けで、コロンブスやバスコ・ダ・ガマ、マゼランなどが活躍したのもこの頃です。キャラックを発展させた「ガレオン」は、軍艦としても利用され、インド・東南アジア・新大陸における欧米諸国の覇権を左右する存在に。この時点で、キャラックおよび大型ガレーは地中海及び西アフリカでの交易・海戦に、ガレオンは大陸間交易・海戦と未開の地への探検航海に、それぞれ役割を持って利用されます。

    この時代、日常的な物流や交通は人力や馬車などによる陸上輸送が主力であり、河川や近海で中・小型船が用いられる程度でした。また、この頃日本は室町から江戸初期にあたります。1549年の鉄砲伝来をもって大航海時代の余波が訪れたとするなら、現在の戦艦・タンカーにあたる「安宅船」や、巡洋艦・フェリー相当の「関船」、船速に優れる「小早」が軍事・商用双方で運用されていました。

    本来であれば、東南アジアや東アジアを経てやってきたヨーロッパ勢力に、アフリカやインド同様、あっという間に植民地化されそうなものですが、オランダ以外の国との貿易及び国民の海外往来を禁止する鎖国政策、長期間・長距離航海になるためガレオン級の大量派遣が困難、アフリカの鉱石や東南アジアの香辛料など有力な交易品が存在しないことなどが功を奏し、独立を維持することができたのです。

    ただ、このことによって船舶製造・航海技術が立ち遅れたことも事実。鎖国によって外洋船が必要なくなった日本では、1635年、幕府によって「大船製造禁止令」が施行され大型の安宅船が消滅、関船以下の中・小型船が主に普及することとなります。

    ちなみに、大航海時代に種子島へ伝来した鉄砲ですが、関ケ原の合戦当時国内には6万丁存在していたらしく、これはヨーロッパ全体の保有数数全てに匹敵するうえ、性能的にもまったく引けを取らない水準だったのだとか。このことは日本人の優れた模倣能力と応用力を如実に示すエピソードといえますし、巨大帝国を築いていた列強が日本の植民地化を断行しなかったのは、多大なリスクを冒し艦隊を派遣しても勝算が低いと判断したからといわれています。

    人力・風力から蒸気機関へ進化~黒船来航と日本への影響~

     

    大航海時代の荒波を乗り切った日本は、「太平の世」と称される江戸時代を迎えます。「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん)、たった四杯で夜も眠れず」という、幕末に流行した狂歌をご存知の方も多いでしょう。「上喜撰」とは高級宇治抹茶のことで、浦和に現れた「蒸気船」、つまりペリー率いる黒船艦隊とお茶の覚醒効果をひっかけ、たった4隻(うち2隻が蒸気船)の来航で夜も眠れないほど慌てふためく幕府を皮肉ったもの。

    ボイラーで発生した蒸気の熱エネルギーにより、スクリュー・プロペラを稼働させ推進力にする蒸気船は汽船とも呼ばれ、1783年にフランスのクロード・ジョフロワ・ダバンが制作・実験航海した蒸気船が世界第一号とされています。人やモノを運搬する実用的な乗り物となるのは、1809年に米国の発明家であるロバート・フルトンがハドソン川で乗客の載せた試運転に成功して以降です。

    ただ、初期の蒸気船は浦賀に来航した黒船と異なり、船体の両側に取り付けた巨大な水車を蒸気機関で回し推進する外輪船で、もっぱら国内の河川や沿岸を運行するのみでした。外洋航海については大型帆船に頼っていたのです。そのため、露出した強度に劣る外輪を砲撃などによって破壊されるとたちまち運行不能に陥るため、文明の進歩に図らずも寄与する「軍事目的」での普及がなかなか進みませんでした。

    その後、1830年代に「スクリュー・プロペラ」が発明され、スクリュー式蒸気船が数隻イギリスで製作・実証実験が行われます。中でもスウェーデン人であるジョン・エリクソンが製作した船舶は、100トンの石炭運搬用はしけ4隻を5ノットで曳く実力を示しました。

    しかし、当時の英国海軍高官たちはスクリュー推進軸用の穴が、水面下の船体に空くことへ嫌悪感を抱き、直進性能の欠如や風に対する不安定さなどの理由から英国軍艦への採用を見送ったのです。

    スクリュー式蒸気船が、軍用として台頭を始めるのは1840年代後半に差し掛かってからで、まず既存軍艦の改装から着手され、1952年には生粋のスクリュー式蒸気軍艦である「アガメムノン号」が英国海軍で就役することになります。

    ここで再び黒船来航に話を戻すと、1853年に浦賀へ入港した米国艦隊の旗艦・「サスケハナ号」及び、もう一隻の蒸気軍艦「ミシシッピー号」はどちらも、帆走と外輪型蒸気機関を併用したフリゲート級の軍艦です。これらは耐並性に乏しい外輪船で、はるかアメリカ大陸から極東の日本までよく辿り着けたというべきですし、戦列艦級のアガメムノン号より戦力も劣るため、そんなにビビらなくとも当時の幕府海軍なら、砲撃や奇襲によって撃退することも可能だったはず。

    しかし、2度の来航に恐れを抱いた江戸幕府は1854年、日米和親条約を締結し下田と函館が同国に開港され、200年以上続いた鎖国は終焉を迎えることになります。同条約は極めて米国側有利であるため歴史的評価が分かれるものの、後に暗殺される大老・井伊直弼や、最後の将軍となる一橋慶喜らが中心となった開国政策により、尊王・攘夷派が急速に動きを強めた結果、日本は一気に明治維新へと進んでいくのです。

    高度経済成長と船との関連性~第二次世界大戦後から現在~

    19世紀末に英国のエンジニア、チャールズ・A・パーソンズによって、振動や騒音が少なく、熱効率の高い「蒸気タービン」が発明され、同時に燃料が石炭から重油へ移行します。

    国内交通や物流分野では、中規模船ならば根強く今日まで生き抜いていますが、大型の帆船及び外輪型蒸気船は商用・軍用共に外洋から姿を消し、第一次大戦後はタービン式が主流になっていきます。

    また、軽量かつ大きな推進力を発生するディーゼルエンジンの誕生と普及で、船体の素材も木造から鉄製へと変化し、1890年には日本初の全鋼鉄船「筑後川丸」が、三菱造船所で建造されました。この頃には、国内外問わず大型蒸気船が海運の要を担うようになってきますが、第二次世界大戦により日本は、「大和」を始めとする大型軍艦や多くの軍用船と、約80%の商船を戦火で消失することになります。

    終戦後は、GHQによってわずかに残った100トン以上の船舶が、すべて管理下に置かれたうえ、国内における総造船能力も制限されましたが、1950年代に勃発した朝鮮戦争や中東動乱を機に規制が緩和されると、高度経済成長を牽引する造船ブームが到来。1万トンを超える外航客船や大型タンカーやコンテナ船、自動車を搭載する大型フェリーなどが次々に製造され、1956年には我が国の造船量は英国を抜いて世界一となり、70年代中盤には世界へ送り出される船舶の約50%が日本製に。

    その一方で、1960年代後半からは航空機による海外渡航が一般化したため、旅客輸送手段としてのニーズは年を追うごとに激減の一途をたどります。一部のクルーズ船を除き、外航航路の客船は消滅。これは世界共通の傾向といえますが、国をまたぐ規模の大河が存在する海外と比較すると、小規模規模の連絡船やカーフェリーなど以外に旅客を目的にとして採用される国内船舶はほぼ存在しません。

    しかし、以前として物流業界における船の利用価値は高く、近年は舵を自動保針する「オートパイロット機能」を備えた大型輸送船が多数海を往来しているほか、遠洋・近海・淡水問わず漁業を営むうえでは必要不可欠な存在です。また、他の交通インフラが整っていない地方では、いまだに船は貴重な移動手段であることに変わりなく、アマゾン・ナイル・黄河などの流域や、多くの小島で構成されている東南アジアやミクロネシアなどにおいては、小型帆船やカヌーも活躍しています。

    まとめ

     

    遠い昔、陸上動物に過ぎない人類は持てる知恵と道具を駆使して、「文明の利器」である船という画期的な移動手段を発明して、改良に改良を重ねることで大陸を飛び出し、世界史を大きく動かしてきました。今後もモータリゼーションの普及や動力・燃料の進化に伴い、求められる「役割」が変化していくでしょうが、人類は船という海上移動手段を観光、移動手段など、多様な形で利用し続けるのでしょう。

    = 移動の進化を振り返るシリーズ =
    1:徒歩
    2:
    3:船舶
    4:鉄道
    5:飛行機
    6:MaaS

     

  • 社会問題を上空で解決する—福岡発ドローンスタートアップの挑戦 (後編)

    社会問題を上空で解決する—福岡発ドローンスタートアップの挑戦 (後編)

    地価の基準と異なる空の価値

    僻地ですと、掲載をしても買い手がつかないこともあるのでしょうか?

    土地には地価があるように、空にもそのうち空価ができるんじゃないかと。地価と違って、電波や気象の状況で空の価格が変わる。それが市場原理によって、どう動いていくのかが、面白いところだったりしますね。

    都心部の駅は便利ですが人が多すぎて、ドローンを垂直に飛ばしてもごちゃごちゃして映るだけ。逆に少し僻地であった方が、自然が多く緑も豊かで撮影スポットとしては優れているので、金額的には都心より高いということもある?

    あり得ますね。どれだけ人が少なく小さな街でも、ドローンを上げるだけで、段違いに綺麗な絵を撮ることができますし。

     

    土地と値段が比例しないというのは、なかなかおもしろいですね。森林の次はどの空の道を広げていきたいですか?

    昨年10月、佐賀県小城市に登録いただきました。小城市に登録いただいたエリアは過疎地域でして、観光客でもあまり行かないようダムや山など自然が豊富な場所です。登録後、プラットフォームを介してこの場所を知ったドローンユーザーが、足を運ぶようになったと言うのです。今まで誰も訪れなかったダムが、一つの観光資源に変わった。このようなモデルを各自治体などで展開できないかと考えております。

    練習であってもドローンを飛ばす場所に困っているユーザーは多くいます。トルビズオンが空の道やドローンポートを日本各地に作っていって、空の土地が整備されていけば、ユーザーにとってもメリットが大きい。
    空の土地が広がっていった先のターゲットはどのような方々を想定していますか?

    直近で言うと、インフラ点検を行っている事業者さま、個人では、空撮やクリエイターの方々です。この先ソラシェアに登録されている土地が増えていけば、物流関係の企業さまに向けて配送ドローン専用の道路を作っていきたいですね。

     

    もし、高速道路の上空をすべていただくことができれば、高速道路と同じルートに沿って二台の車が同時に走行することができますよね。

    ぜひ実現したいですが、物流でもっともニーズが高いと予想されるのがラストワンマイルの配送ですので、高速道路があるところは車で行けば良いと思われてしまうのです。ドローンを飛ばしてもほとんどリスクがない過疎地域や限界集落は、高齢者が多く住んでいます。将来的に自動運転が普及すれば、自動運転トラックが高速道路を利用して荷物を運ぶようになるでしょうが、僻地に住む買い物弱者の方や山間部で暮らす方に届けるためのラストワンマイルでは、空の道、ドローンの道が必要になってくるでしょう。

     

    限界集落は、交通インフラが整っておらず、私たちのようなモビリティ業界でも大きな課題となっています。昔はもっと多くの人が暮らしていたから毎日フル稼働していたバス停も、今では1日の利用者が1人や2人程度。そうなると、ビジネス的な観点では無くした方がいいんじゃないかと思われますが、代替策もないし、困る人も出てきます。

    そうですよね。人やモノの移動における“最後の一区画”の課題は、かなり根強い。物流業者からは、ラストワンマイルの配送に最も輸送コストがかかっていると言うのをよく耳にしますが、その部分のフォローをドローンならできる。だからこそ、空の道が必要だと考えているのです。

    ドローン社会を築くために必要な規制

    もう一つ、気になるのが国の規制です。ソラシェアは規制と密接にかかわるビジネスですが、現在の規制で、どこがネックになっているのか、どこを強化すべきかを伺えますか?

    日本は、まだまだ整備途中ですが、物流を実現するために大きなハードルになっているのが、目視外飛行における規制です。目視外とは目に見えないところを指しますが、今ですと国土交通省から許可を取得していない者は、見える範囲内でしかドローンを飛ばすことができません。ただ、この規制が厳しすぎるとドローン物流が実現できないんですよね。

    トルビズオンでも実証実験を重ねており、今年の5月に、福岡市で日本初となる目視外の実証実験を行いました。都市部での目視外飛行は日本で初めてでしたが、AEDを積んだドローンは無事、目的地に到着しました。このように、地道に実証実験を重ね、安全性を証明できれば目視外のハードルがクリアされていくのではないでしょうか。

    強化すべきは、誰でも飛ばせるという現状を変えるべきところでしょうか。ライセンス制度もありますが、あくまで民間のものであり、発行団体によるレベルのばらつきがあると言われています。自動車には、国の免許制度がありますし、車両識別のために全てナンバープレートが付いていますよね。これからドローン社会を目指すうえでは、これと似たような制度が必要であり、2022年までに国はこのような仕組みを整備する方向で動いています。

     

    海外は日本より整備が進んでいるのでしょうか?

    国によって法整備が大きく違いますが、どの国も未だ確立しているとは言えません。アメリカの場合、Amazonがドローンの事業者としてFAA(アメリカ連邦航空局)から許可をもらい、やっと飛ばすことができていますし。

     

    車は直接的に人命に関わりますが、ドローンが墜落した場合も人に危険がおよびます。

    ドローンそのものが墜落するということは、何十キロという重さのモノが凶器へと変わり、落下することになります。その点では車と変わりません。車と同じように人命に関わるものですので、その辺りの規制はしっかり敷いていくべきでしょう。

     

    万が一、ドローンが墜落して重大な事故が起きたり、車のガラスにぶつかって多重事故を引き起こしたりしてしまったら…。そうなる前に早く規制は敷くべきですね。

    少しずつ規制はできていますが…。今の時点でそうした重大事故が発生してしまうと、日本としてのドローン産業自体がストップしてしまいかねません。そういう最悪の事態も考慮して、トルビズオンでは海外展開の可能性も考えているところです。

    海外でドローンの可能性を探る

    ここからは今後の事業展開について伺いたいと思います。先日、タイに行かれたそうですが、なぜ、タイを選ばれたのでしょうか?

    タイは日本と比べて規制があまりなく、比較的ドローンが飛ばしやすい国です。日本だと実証実験ベースでしかドローンの運用ができないので、ビジネスとして確立するには、最低でもあと2年はかかるだろうと言われています。

    一方で、タイでは広大な土地を自由に使えますし、ドローンポートを配備するというビジネスモデルで実際に実用化ができる場所です。訪れた際もNIA(タイ国家イノベーション庁)の方がその場でパパッと空を登録してくれました。

    地理的にもメコン川中心に位置しており、ASEAN地域の物流の核となる場所です。

    日本では規制の動きを見ながらじっくりと実証実験を重ねていきつつ、ASEAN地域やインドではビジネスとして今から動き始めようと考えています。そのため、現在、海外と日本の二軸で動いているんです。

     

    海外の方が規制が緩いからビジネスを回せるということですね。

    先述した「空の道」を作っていくには、越えなければならない様々なハードルがあります。ですので、私たちは空の道に依存しない「ドローンポート型ビジネスモデルも確立していく必要がある。そしてそれが実際にできるのは、タイをはじめアジアの地域。現段階の日本だとその都度、許可取りしなくては道が作れませんので…。

    「陸のスマートドライブ、空のトルビズオン」

    スマートドライブと「こんなことが一緒に実現できそうだな」という構想はございますか?

    トルビズオンではドローンの飛行データを蓄積し、リアルタイムの空の利用状況を把握することができます。今は管理画面がありませんが、「Smartdrive Fleet」のように、位置情報をリアルタイムに追えるようにしたいのです。車のアイコンをドローンのアイコンに変えて。

     

    「Smartdrive Fleet」は物流業者や配送業者でも使われていますので、そういう使い方もできますね。

    ソラシェアのプラットフォームでは、ドローンがどこを通っているのかが完全に可視化できていませんので、今、どのドローンがどこの土地を通っていて、どのような動きをしているかという情報が取得できると、より安心・安全な飛行が可能になります。

    スマートドライブさんは移動データをお持ちですが、それはどのように人が動くのか、どのような道で、どこに配置すればもっとも効率良く配送できるのか、物流で私たちがドローンポートを配置するときに非常に役立つものです。

    トルビズオンが提供できるのは空の価格や利用状況に関するデータですので、空のデータと陸のデータを相互に結びつけて、なにか面白いことができるんじゃないかなと思います。

     

    今は物流企業がトラックのみを所有して配送業務を行っていますが、数年後にドローンの時代が訪れたら、「私たちはトラック4台とドローン10台でラストワンマイルの配送を行っています」という企業が出てきてもおかしくありません。そうなってくると、陸路ではスマートドライブのデータから居場所を特定でき、空路の移動時はソラシェアがデータを取得し、いずれも同画面で管理ができる世界になるかもしれない。車もドローンも同じ立ち位置で物流を支える−−10年以内にはそんな時代が来そうな気がします。

    おそらく、すべてが自動化されるようになるでしょう。先述した福岡市の実証実験では、陸空のモーダルシフトを行いました。陸路は輸送車が自動運転で移動し、ドローンが積んである目的地を目指す。目的地に到着したら、ドローンで荷物を運ぶ。こうしたモデルはこの先実装化されていきますので、車両とドローンがよりシームレスに連携できるようになるんじゃないでしょうか。

    トルビズオンは空のデータベースをこれから集めていくところですが、スマートドライブさんは先んじて、陸のデータを集められておられます。陸はスマートドライブさん、空はソラシェアが担っていく。その中で、陸空で一緒に世界を目指していく動きができるといいですよね。